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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-4. アニスとシズアは魔双剣を改良したい

アニスにはマーシャが双剣を売るのを渋る理由が分からない。

もしかして、支払えるだけのお金を持っていないと思われているのか。


「お金ならある、と思う」


本当は言い切りたかったアニスだが、魔法付与がなくても十分高価そうな双剣なので、少し気弱になってしまう。


「いや、(かね)の話ではなくてな。不完全な物を売るのは、アタシらの工房としての沽券(こけん)に関わる問題なのさ」

「ん?つまり、完全に仕上がってれば売って貰えるってこと?」


「あぁ。そしたらたんまりと金をいただくことはなるがな」


アニスが理解を示したことで、少し元気が出たらしいマーシャはニヤリと微笑んだ。


「だったら、完璧な物にしてから買うよ」

「は?」


相手の発言の意図が汲み取れず、口を開けたままになるマーシャ。


「ねぇマーシャ。この魔双剣のこともう少し調べたいから、私達に部屋を貸してくれないかな?」

「え、あぁ、それは構わんが。ただ、この街の職人達の手には負えなかった代物だぞ。少し調べたところで、何とかなるとは思えんぞ」


「それは調べてみないと分からないって、ね」


アニスが微笑みながら片目を(つぶ)ってみせると、マーシャは諦めたように頷いた。


「分かった分かった。二人共、こっちに来ると良い」


マーシャは二人を店の奥にある通路に面した小部屋に案内してくれた。

部屋の中にはソファとローテーブルが置かれ、壁には絵が飾ってある。商談に使う応接室のようだ。


「ここで良いか?」

「うん、十分。ありがとう、マーシャ」


「あぁ。アタシは店の方にいるから、何かあったらそっちまで来とくれ」

「はーい」


アニスの少し(はしゃ)いだような返事に、軽く手を振って答えながら、マーシャは部屋を出て行った。


「それでアニー、何とかなると思う?」

「多分、問題ないとは思うけど、ともかく調べてみよ」


収納サックから工具箱を取り出し、アニスはさっさと作業に取り掛かる。

双剣の柄頭と、腕輪と、それぞれの取付金具を傷付けないように外し、魔石を摘まみ取って無くならないように小鉢の中に置く。

そうして取り出した魔石は全部で四つ。どれも半球状の形をしている。


「一つの魔具に一つの魔石ってことね。あら?魔石の中に紋様が二つ?」

「そそ、二つずつ紋様が刻まれてる。一つは魔法の糸の紋様で、もう一つは物を動かしたり動かされるための紋様だね。動かす方の紋様は魔具に直接付与したって良い筈なんだけど、魔石に刻んだのは工房の拘りかな?でも、そのために魔法の糸が弱くなっちゃったように思う」


「そうなの?」


目は魔石に向けたままシズアが問う。



「ほら、この魔石って半球状だよね。そして平らな方を魔具に当てて固定してる。で、平らな方に双剣を動かすための紋様があって、その上に魔法の糸の紋様。二つの紋様はある程度離さなくちゃいけなくて、けどそうすると半球の先の方になっちゃって紋様は小さくするしかなくなるよね。魔法の糸の強さには紋様の大きさが関係するから、もっと大きくしたかっただろうけど――」


「二つの紋様の位置を入れ替えられなかったのね。動かす紋様が魔具の近くに無いといけないのか、魔法の糸がもう一つの紋様に支障してしまうからか」

「そそ、そんなとこだと思う」


シズアが正しく理解してくれたことを嬉しく思いながら、アニスは頷いてみせた。


「それで、どうするの?」


それでもドライエフ魔具工房の職人達は最善を追求した筈だ。そう簡単に解決できるか疑問はあるが、アニスなら何か思い付いているのかもとシズアは姉に目を向ける。


「んー、そだね。やっぱり魔法の糸の紋様はなるべく大きくしたいし、二つの紋様の結びつきを強くするためにも平らな部分に刻みたいよね。そうなると、もう一つの紋様をどうするかだけど、まぁ、邪魔にならない場所に刻んでおけば良いかな?」

「え、邪魔にならないって、そんなことできるの?」


「だいじょぶ、だいじょぶ。で、方針は決まったけど、まず一回、今の状態でどんな感じか試して貰おうっかな」


アニスは片方の双剣と腕輪に魔石を元に戻し、シズアに差し出す。

シズアは腕輪を()め、魔力を腕輪の魔石に流し込む。

と、腕輪から魔法の糸が伸びて剣に繋がった。


「なるほど、こうすれば剣を動かせるのね。でも、動かせる範囲が狭いような」


魔法の糸に繋がった剣は、シズアの思う通りに動きはする。

しかし、腕輪から伸びる魔法の糸は、手首から肘くらいの長さが限界のようだった。

いくらシズアが念じても、それより遠くには動いていかない。


「そだね、魔法の糸が短いね。それに細い。二つの紋様の繋がりが弱いからだろうね。マーシャが不完全だと言いたくなるのも分かるよ」

「アニーのやり方でどこまで良くなるかな?」


「それはやってみてのお楽しみってことで」


ふんふんと楽しそうにアニスが収納サックから小さな袋を二つ取り出す。


「アニー、それってもしかして、あれ?」

「そだよ。共鳴石を作った時の余りと言うか予備の奴」


袋に入っているのは一組の魔石。

一つ一つが半球状であることは魔双剣に取り付けられていた魔石と良く似ているものの、性質は大きく異なるものだ。


その違いは作り方にある。

魔双剣の物は、一つの魔石を二つに割った後、削って形を整えているのに対し、アニスが持っていたのは魔石を綺麗に二つに割っただけ。

半球の平面が本当の意味で真っ平なので、希少で貴重なものだったりする。


実はこれは南の公都パルナムで、アニスがキョーカに頼んで作って貰ったものだ。

魔石を綺麗に二つに割ることは普通にはできない。魔石は割ろうとすると、どうやっても一部が(くだ)けてしまう。

唯一、魔女の力の(やいば)でだけ、綺麗に割ることができる。


それもアニスのような見習い魔女ではなく、熟練者でなければならない。

なので、アニスはキョーカに多めに割っておいて貰った。

そして今回、それらの魔石の中でも小さめの二組を魔双剣のために選び出している。


「魔法の糸は、共鳴石に似てるように見えるから、同じ方法が使えると思うんだよね」

「同じ方法って、あー、えーと、かい――何だっけ?怪盗(かいとう)紳士?」


「いや、シズ、違うって。それじゃ泥棒になっちゃうよ。界面かいめん鏡像」

「そうだった、界面鏡像。どうも覚え難いのよね」


「馴染みのない言葉だから仕方が無いけどね。まぁ、ともかくやるよ」


アニスは新しく用意した半球状の魔石を一組、平面を合わせた状態にして左手で押さえながら、右手で魔双剣に付けられていた魔石の一つを取り上げた。


「まずは魔法の糸の紋様だけど、うん、綺麗だよ、これ。作った人の腕がいい」

「そうなの?」


「うん。三層だけど、キチンと真ん中の層を基準にした対称形になってる。やっぱり、魔法の紋様は対称形が綺麗だからね。それに、そうしてあれば加工し易くて助かるんだ。えーと、複製して、大きくしてから五層にして複雑度を六にして、で良いかな?」


アニスは魔石の中の紋様と同じ物を空中に作り出し、独り言のように話しながらその形を変えていく。


「で、相変わらず対称になっているのを確認したら、新しい魔石の中に移動する」


左手で押さえていた一組の魔石を自分の真ん前に持ってくると、切断面を真横から見る形に向きを変え、両手で両脇から押さえつけた。

そして、空中で作っていた紋様をその中へと下ろしていく。


「少し魔力を流し込みながら、一番良い位置と向きを探して、と」


ここが一番難しいところだ。

紋様の真ん中の層が魔石の切断面に合わさるようにするのだが、少しでもずれると性能が極端に落ちてしまう。

目安は魔力を流した時の紋様の光り具合。正しい位置になれば強く光るので直ぐに分かる。


「ごめん、シズ。お願いなんだけど」

「何?」


「私の眼鏡を外してくれない?眼鏡越しだと位置合わせがし(づら)くて」

「分かった。ジッとしてて」


シズアはアニスの横に立ち、そっと眼鏡を引き抜いた。


「ありがと、シズ。見易くなったよ」


アニスはそこで口を閉じ、目の前の紋様に集中する。

その光り具合を確認しながら、慎重に位置と向きを変えていき、紋様が一番光るように持っていく。

シズアの目にも一番輝いていると思えるところでアニスは紋様の動きを止めた。


「よし。これで焼き付け」


魔石の中の最良の位置で紋様を定着させると、アニスは姿勢を楽にして肩を下ろす。


「できた。さて、どんな感じになったかな?」


アニスは一つに合わせていた魔石を分け、片方に魔力を籠める。

すると、二つの魔石の間に太い魔法の糸が現れた。


「やっぱりアニーは凄いわね。でもこれ、最早(もはや)糸と言うよりも紐?それとも縄?」

「太さは調整できそうだよ。と言うか、消すこともできるね」


魔力を籠めながら、魔法の糸がどう変えられるのかを試してみるアニス。

思い付くことを一通りやり終えると、満足そうに微笑んだ。


「これはこれで良いや。後は剣を動かす紋様の付与だね。さっと終わらせちゃおう」

「でも、どうするの?魔法の糸の通り道に紋様を刻んでも大丈夫?」


「いや、魔法の糸を避けるようにするよ」

「え?避けるにも場所が無いわよね?」


半球の平面の部分に魔法の糸の紋様が焼き付けてあり、その紋様から垂直に半球を貫くように魔法の糸が伸びている。だからシズアには、もう一つ紋様を焼き付ける場所など無さそうに見えていた。


「あのね。もう一つの紋様は少し形を変えれば良いんだよ。まず、紋様を複製する。その上に無の魔法の紋様を繋げて、で、紋様を丸めて無の魔法の上に元の紋様の下を繋げて筒のようにする。筒状の紋様を魔法の糸の紋様に垂直の位置に置いて、筒の真ん中に魔法の糸を通すようにすれば、ね、これで問題なし」


シズアに解説しながら、魔石の一つを作り終える。

もう一方の魔石にも同じように二つ目の紋様を焼き付けると、アニスは二つの魔石を双剣と腕輪に取り付けて片手分を完成させた。


「はい、シズ。まずは片方だけだけど、試してくれる?」

「ええ」


早速、腕輪を装着し、剣を握るシズア。

腕輪に魔力を通し、魔法の糸が見えたところで剣を前へと投げる。


「凄いっ、さっきよりずっと遠くまで飛ばせる。と言うか、この部屋の中では狭すぎるわ」


シズアは部屋の隅まで移動するが、そこからでも対角の隅まで余裕で魔法の糸を伸ばして剣を動かせる。


「うん、成功みたいだね。じゃあ、もう片方も作っちゃうよ」

「えぇアニー、お願い。何だか私、強くなれそうな気がしてきた」


シズアの(はしゃ)ぐ様子を見て嬉しくなるアニス。


「シズはきっと強くなれるよ」


アニスの言葉にシズアはますます高揚する。


「もしかしたら私、アニーを越えちゃうかも。そう、アニーに勝てる武器を手に入れたと言っても過言ではないと思うわ」


いやー、流石にそれは過言じゃないかなー、とアニスは思うのだった。


シズアは良い武器を手に入れられたようですね。


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