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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-3. アニスとシズアは魔剣を見付けたい

「こ、こんにちは」


やや気圧され気味にアニスが挨拶する。


目の前の女性店員の顔には幾つもの(しわ)が刻まれていた。

ドワーフ族は人族よりよほど長寿であり、それだけ老化も遅い。それを考え合わせると、この店員は相当な年齢に思われる。


しかし、その佇まいには衰えを感じさせるものがまったくない。

目はギラギラとしており、表情は気迫に満ちている。

そして、何と言うか、貫禄がある。


「あぁ、いらっしゃい。アタシはこの店の店長のマーシャだ。お前さん達はまだ若いようだが、冒険者かい?」


マーシャがアニスに応じて言葉を放つ。


「冒険者だけど、コッペル姉妹商会って言う商会もやってるよ。私はアニス」

「同じく妹のシズアです」


「姉妹で揃って冒険者兼商人なのかい。ふむ、二人共そこそこの装備だね。それなりに魔法付与もされている」


二人の品定めをしているマーシャが魔力眼持ちであることは、マーシャの魔力の色が見えるアニスには説明の必要がない。

魔具工房の出店の店長だけあって、アニス達の装備に魔法付与されていることは、パッと見て分かったようだ。

だが、一部の付与は何か分からない筈。


マーシャが顔を曇らせたのを見て、アニスは見知らぬ付与魔法について問われるのかと覚悟する。


「うん?お前さん達の属性は水と風じゃないか。それでそいつの魔法の紋様が見えているのなら――あぁその眼鏡にも付与があるね」


目を細め、シズアの眼鏡を右手で指差すマーシャ。

どうやら魔法の紋様が見えたことの方に疑問を持たれたらしい。


「はい、この眼鏡で魔法の紋様が見えます。魔法の紋様って綺麗ですよね」


シズアは外した眼鏡をマーシャに差し出すが、マーシャは掌で押し留めた。


「大丈夫だ。そいつの効果は知っている。それで?お前さん達には何か目当ての物があるのかい?」

「魔剣をね、探してる」


「魔剣?お前さんの腰にある奴だって――うん?」


マーシャはズイッと顔を前に出し、(あご)に手を当てアニスの剣を見詰める。


「これは付与魔法じゃないね。炎魔法か?」

「うん、そう。ヘルフレイムの紋様を焼き付けただけだよ」


「どうしてそんなことを?お前さんの得意属性は水魔法――いや、聞くのはやめておこうかね」

「えっ、聞かないの?」


てっきり答えが求められるのかと思い、身構えていたアニスが目を丸くする。


「聞かないさ。どう考えても秘密の匂いしかしやしない。『好奇心はヒュドラを殺す』ってね。他人(ひと)様の秘密には近寄らないのが長生きのコツなんだよ」

「あー、まぁ、確かにね」


マーシャの言いたいことは分かる。

しかし、無理矢理にでも教えろと迫られると言いたくなくなるが、教えなくて良いと言われると教えたくなるのはどうしてだろう。

この際だから自分から告白してしまおうか。


だがアニスが口を開くより早く、マーシャはアニス達に背を向けてしまった。


「さぁて行くよ。二人共、私についておいで」


後ろ向きに手招きしながらマーシャは店の扉へと向かう。


「行くって何処(どこ)へ?」


戸惑うアニスに、後ろを振り返ってニヤリとするマーシャ。


「そんなの決まってるじゃないか、アタシらの工房だよ。ここには大した物は置いてないからね」


マーシャはアニス達を先に店の外へと出すと自分もそれに続き、閉めた扉に魔法で鍵を掛けた。


「お店を閉めてしまって良いのですか?」


扉の内側に臨時休業の札が掛かっているを見たシズアが、心配そうに尋ねる。


「ここには滅多に客は来ないから構わんさ。取り引きしている連中は皆、工房の方へ行くからな」

「だったら、出張所にいても暇じゃない?マーシャはいつもあそこで何してるの?」


「客が少ないと言う意味では暇だが、商業ギルドとやり取りしたり、工房で必要な素材の手配を掛けたり、帳簿を付けたりとかな。結構、やることはあるのさ。それに、(たま)に有望そうな客が来れば工房に連れていく。工房の方は一見の客はお断りなんだ」

「だったら、私達は有望そうな客なんだね」


アニスが嬉しそうな声を上げる。


「まあ、そうだな。本当に有望かは知らんが、面白そうだと思ったからな」


そう言うと、マーシャは楽しそうにニヒヒと笑った。


「ねぇアニー、この人に付いて行っても大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。何かあってもシズは私が守るから」


「このアタシが怪しい訳ないだろう?アタシからすれば、そっちの姉ちゃんの方が余程怪しい気がするさね」


いやまったくその通りだとアニスは心の中で同意する。

だがそれはともかく、若干(すさ)んだ空気を変えなければ。


「ごめん、マーシャ。シズが心配症で」

「まぁ構わんよ。少しくらい慎重な方が長生きできるってもんさね」


良かった。そこまで気を悪くしたようでもない。


マーシャは職人街から出て、北の街外れへと二人を連れていった。

そこは低い柵で囲われた敷地で、その中には幾つかの建物が並んでいる。

その一番手前にある建物にマーシャは二人を引き入れた。


「ここが工房の本店だ。さて、お前さん達のお気に召す物があるかな?」


建物のその一角は店舗になっていた。職人街にあった出張所よりずっと広い。入った左半分には魔具が並び、右半分には魔剣などの装備品が置いてある。


「わぁ、凄い沢山の装備がある」


先程までの警戒心は何処(どこ)へやら、シズアは早速装備品を見て回り始めた。

そんなシズアの様子を、アニスはほっこりとした気分で眺める。

マーシャは他の店員と話をしていた。アニス達を指差してたりしていることから、二人のことを話してくれているのだろう。


ならば自分も客として目ぼしい魔具があるかどうか見定めてみるかと、陳列台に目を向けてみる。


魔具はともかく種類があった。

生活用品から、職人が仕事で使うための道具や、さらには旅に出た時に役立つ物など。

目に見えるところに魔法が付与してある物については、その付与魔法の紋様が見える。

見覚えがある紋様もあれば、初めて目にした物もあった。


初見の紋様についてはマーシャか誰かに尋ねてみたいところだが、それよりも目に付く物がある。値札だ。

どれも万ガル(約10万円台)以上の価格が書いてある。


「高い」


思わず口にしてしまう。


「うちのは高品質で長持ちが売りだからな。必然的に高くなる」


いつの間にかアニスの隣にマーシャが来ていた。


「なら、安い模造品が出回りそうだけど」

「そうした物で構わない奴は、アタシらが相手をする客ではないと言うことさ。それにうちの工房の印が付いた魔法の紋様は複雑度を上げてあるからそう易々と複製なぞできん。複製できるとしたら、普通に知られている付与魔法を使った物だが、それは最初から織り込み済みで価格は抑え目にしてあるのさ」

「なるほど」


まあ、アニスならどれだけ複雑な魔法の紋様でも複製はできる。が、それは魔女の力を使ってのことなので、マーシャに伝える訳にはいかない。

それに魔具職人が苦労して作り上げた物を複製して商売にするつもりはアニスにはさらさら無かった。


「ねぇねぇアニー」


そんなところにシズアが声を掛けて来た。

何かを手にしながら近付いて来ようとしている。

アニスもマーシャから離れ、シズアの(そば)へと向かう。


「どうした、シズ?それは何?」

「素敵な双剣を見付けたんだけど、どう使うかが分からなくて。アニーに分かる?」


シズアは両手で掴んで持って来た双剣を、そのままアニスに向けて差し出した。

その内の一つを受け取り、アニスはそれをつぶさに観察する。


黒革が巻いてある握りに、黒革の(さや)(つば)や所々に付いている金具類はすべて金色。

飾りはなく、その点では質素とも言えるが、造りとしては明らかに高級なもののそれだ。


「渋いね」


アニスがそう言うと、シズアの表情がぱぁーっと明るくなる。


「そうでしょう?どう考えても悪女の私向けよね。私のために用意されたと言っても過言ではないと思うの」

「そだね」


自分のことを悪女と言っている時点で過言な気がしないでもないが、そこは突っ込まない。


「だけどこれの魔剣としての使い方が分からないの。柄頭(つかがしら)に魔石が()めてあって、そこに紋様が刻まれているみたいなんだけど」

「あー、これね。ん?」


シズアの言葉通り、柄頭に嵌められた魔石には紋様が刻まれていた。

魔力眼で視えるのはそれだけだったが、魔術眼では魔石から伸びているものが視える。

試しに魔力を少し魔石へと流し込んでみると、魔力の糸のような物が現れた。


「シズ、これ、何かと繋がっているみたいだよ」

「あら、本当」


その糸は、双剣の置いてあった陳列台へと伸びている。

アニス達は糸を辿り、陳列台の上から糸の先に繋がっていた物を取り上げた。

留め具の付いた黒革製のそれは、手首に嵌める物のように見える。


「これって腕輪?でも、何で剣と繋がってるんだろう?」

「分からないわね」


二人が首を傾げているところにマーシャがやってきた。


「それは腕輪で動きを制御できる双剣なのさ。ただし、試作品だ」

「試作品?」


「ああ。本来は腕輪から指示して自由自在に操れる筈だったんだが、魔石を小さくしたら思った以上に繋がりが悪くてな。だから手直しせんと使い物にならない試作品という訳さ」

「ふーん」


確かに腕輪の方にも魔石が嵌め込まれている。

魔石を小さくしたのは、邪魔にならないようにするためだと容易に想像がつく。

なので、手直しするにしても、魔石は小さいままにする必要がある。


アニスは短剣の柄頭(つかがしら)と腕輪と、両方の魔石とその中の魔法の紋様を見比べると、覚悟を決めたかのように頷いた。


「ねぇマーシャ。これ買いたいんだけど、幾ら?」


決意の籠った眼差しをマーシャに向けるアニス。


「買いたいと言われても、どうしたものかなぁ」


それまでとは違い、弱腰な態度を見せるマーシャだった。


アニスは何を考えて買おうと決めたのでしょうね。


ところで、マーシャの言葉に『好奇心はヒュドラを殺す』の言い回しがありました。勿論、私達の諺ではヒュドラではないのですが、偶には物語世界の側の言い回しのまま書いても良いかなと思いまして。


ブックマーク、いいねに評価をありがとうございます。皆さんのご期待の証と捉え、これからもこのお話を書いて参りますので、よろしくお願いいたします。

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