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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-2. アニスとシズアは時間を有効活用したい

「うーむ、どうしたものかな」


ドワーフ族の男性が困惑した表情で呟く。


アニスとシズアはドワランデの役所に来ていた。


ドワランデとその周辺は昔からドワーフ族の土地であり、ドワーフ族の族長が王国の辺境伯としてこの地を治めている。

その辺境伯の館はドワランデの北北西の高台の上に建てられていて、そこから下りてきた道の脇に役所の建物があった。ドワランデの街の広場からは北西の方角になる。


役所では住民登録をしたり、税金を納めたりするのだが、それらはこれまで両親がしてきたことで、アニス達は役所を訪れたことがない。

地元ですらそんな状況だったので、見知らぬ土地の役所がどんな所か見当もついておらず、建物に入った先のことも分かっていなかった。


でも、そこは問題なかった。

建物に入ったところに案内カウンターがあり、そこで尋ねればどうすれば良いのかを教えて貰えたからだ。


二人の行くべきところは、二階の相談窓口だと分かった。

階段を上ると、相談窓口は直ぐに見付かった。と、そこまでは順調だった。


問題はそこからで、受付窓口に案内状を渡しながら話をしたところ、その女性は二人に待つように言って、カウンターの後に広がるオフィスエリアに下がってしまった。そしてそこで机に向かっていた男性に声を掛け、何やら相談を始めた。


その後、その男性と一緒にカウンターまで戻って来たのだが、二人揃って悩ましげな表情のまま、アニス達の前で顔を見合わせている。


「二人は爵位を持っていないし、C級以上に冒険者でもない。せめて成人していればなぁ」


どうやら資格のところで引っ掛かってしまっているように聞こえる。


男性はそれからもウンウン唸っていたが、遂には諦めた様子でアニス達に向き合った。


「すまないが、我々では判断できないんだ。上に相談するから二三日待って貰えないだろうか?」


できないと言われたことを無理矢理押し通すだけの理由もなく、アニスとシズアは一瞬、視線を合わせると揃って頷いた。


「分かりました。よろしくお願いします」


二人は二日後にまた訪れることにして、役所から出た。


「どうしよか?暇になったけど」


アニスはあっけらかんとした表情でシズアに話し掛ける。


「私がC級の昇格要件を満たしていればなぁ」

「シズが気にする必要はないよ。別に駄目って言われた訳でもないし、なるようにしかならないから。それよりこれから何するかを考えようよ。私さぁ、折角ドワーフの街に来たんだから、職人街に行ってみたいんだよね」


アニスはシズアに気を使うような素振りを見せずに、ごく自然に話し掛けてくる。

そんなアニスの言葉がシズアには心地良く感じられた。


「そうね。私は武器を探してみたいかな?」


シズアも素直に自分の気持ちを伝える。


「ん?剣以外の武器を使ってみたいってこと?」

「ええ。アニーのお蔭で一応剣は使えるようにはなってはいるけど、もっと自分に合う武器があるかも知れないかなって。やっぱり剣が一番ってことになるかも知れないにしても、他の武器も試してみたいと思うのよね」


「うんうん、良いと思うよ。そだ、せっかくだから魔剣にしてみようよ。シズに魔剣、似合いそう」


どんな想像をしているのか分からないが、アニスの楽しそうな姿にシズアも嬉しくなる。


「確かに悪女と魔剣って、良い組み合わせに思えるわね。でも魔剣は高いわよ」

「問題ないよ。値切れば安くなるって。て、私が交渉するより、シズが交渉した方が安くなるかな?」


首を捻るアニスを見て、シズアが笑う。


「何にしても値切る前提なのね」

「それはそだよ。私達、商人だからね。凄腕の商人は、良い物を見定められて、それを安く手に入れられる奴だって、モーリスも言ってたじゃない」


アニスはザイナッハに商店を構える自分達の母親の弟を引き合いに出したが、シズアにはその言葉の記憶がない。シズアが幼い頃のことなのだろうか。

だが、言っていることはその通りだ。


「だったらまずは良い物を見付けないとね。どうやって探す?」

「そだねぇ」


頬に手を当てて仕草をするアニス。

だがすぐシズアに笑顔を向けた。


「知らないところのことは、そこ人に聞くのが一番だよ。だからともかく、職人街に行こう」


アニスは意気揚々と手を振って歩き出す。が、職人街ってどこだったっけと立ち止まる。

ドワランデに来てからそれらしい場所を通った記憶も見掛けた記憶もない。


結局、通りすがりの街人に教えて貰い、改めて職人街を目指す二人。


職人街は中央広場の東から北東にかけての地区にあった。


「おおっ、工房が一杯並んでる」

「そうね。それに商人っぽい人も大勢いるわ」


アニスとシズアは職人街の通りの入口で感嘆の声を上げた。


眼の前の道の両脇に工房がずらりと並んでいる。

ザイアスの街にも似たような場所はあったが、そこよりもずっと沢山の工房が並び、大勢の人が行き交っている。


行き交う人はドワーフ族ではない人が多く、他所の地から来た商人達だろうか。

冒険者らしき姿もちらほら見える。


「ねぇアニー、この中からどうやってお店を選ぶ?魔具工房だけでもかなりありそう」


困惑気味のシズアにアニスは、ふふんと鼻を上げる。


「私達には便利な物があるからね。まあ、私はなくても良いんだけど」


と、アニスは収納サックから、眼鏡を取り出した。

魔法の紋様が見える魔具だ。


「これをして店の中を覗いていくよ。綺麗な紋様が付与された魔具を置いているお店が狙い目だからね。取り敢えず職人街を一回りして、一番良さそうなお店がどれだったか、後でシズの意見を聞かせてね」

「分かったけど、綺麗かどうかだけで判断して良いの?」


「うん、それで問題ないよ。魔法の紋様は、高度なものほど複雑になるし、複雑な紋様は綺麗に見えるから。だからシズは綺麗かどうかだけを見てれば良いよ」

「ええ、それなら話が単純で助かるわ」


二人はそれから職人街の店を巡り始める。

まずは通りの右側の店を順番に。職人街には魔具以外の店もあるので、そうした店は飛ばし、魔具があれば店の中を一通り覗いて出て行く。

店からすれば、ただの冷やかしに見えているかも知れないが、良い物を買おうとする人なら当然する行為なのでアニス達は気にしない。


職人街の店は、中心となる通りから脇に入ったところにまで広がっていて、すべてを見て回るのに小一時間は掛かっただろうか。


「シズ、どうだった?」


最初の入口に戻ってくると、アニスがシズアに感想を求めた。


「真ん中のあたりにあったラダナン商会の魔具が綺麗だったかな?」


シズアは見て回った店を思い返しながら、答えを口にする。


「そだね。ラダナン商会には、お客も沢山いたし賑わっていたよね。だけど、多分、あそこは自分のところでは作ってないと思うんだよね」

「そうなの?」


「技術力のある工房は、魔法の紋様に自分の工房の印を入れるんだけど、ラダナン商会の魔具に付与されていた魔法の紋様にあった印はラダナン商会の印じゃなかった。それに一種類でもなかったし。幾つかの魔具工房から仕入れているんだと思う」


アニスの説明は理解できたが、心なしか否定的な色合いが混じっているように感じた。


「それだと何か問題があるの?」


「あの店にあった魔具は良い物だとは思うけど、とびぬけた感じがしなくてさぁ。それに仕入れてるとなると、展示してある以上の物があるとも思えないよね?もし、もっと凄い工房を知っているのだとしたら、そこの物を売っていないとおかしいよね?」

「あー、確かにね」


シズアには(ようや)くアニスの言いたいことが理解できた気がした。


「でも、他に良さそうなお店ってあった?あのお店以上の物があった気がしないのよね」

「うん。シズの言いたいことは分かるけど、一つだけ気になるお店があったんだ。そこに行ってみようと思う」


「あら、どのお店?気になるわね」

「行けば分かるから」


そう言いつつ、アニスは歩き出し、シズアもその後を付いていく。


そしてアニスが立ち止まったのは、ラダナン商会よりも少し奥へ進んだところにある、こじんまりとした店の前だった。


「ドライエフ魔具工房販売所?」

「うん、そう。入るよ」


シズアはアニスと共に店の中へと足を踏み入れる。

何となく見覚えがある店内は、質素な内装だった。

置いてある魔具に付与された紋様も、これといった派手さを感じられない。


「ねぇアニーは、どうしてこのお店に目を付けたの?」

「これ」


アニスはとある棚の前に立って指差した。

その示した先には、小さな灯りの魔具がある。


「それは普通の灯りの魔具よね?それがどうして?あら、これ、魔法の紋様が随分と小さいわね」

「そう。普通の灯りの魔具は硝子(がらす)玉に魔法付与するんだけど、この魔具は硝子玉じゃなくて魔石を使ってる。その魔石の中に小さく紋様を刻んで付与にしているから、普通の灯りの魔具より魔法の紋様が小さく見えるんだよ。そしてこれを作る方が、硝子玉に魔法付与するよりもずっと難しいんだよね」

「ふーん」


アニスは嬉々として説明してくれるが、シズアには相槌くらいしか打てなかった。


「若いのに、良く分かってるじゃないか」


二人の後ろから声がした。


アニス達が咄嗟に声のした方へと振り向くと、ドワーフ族の女性店員が二人に向けてニヤリと微笑んでいた。


これまですんなり来ていたので、役所で引っ掛かってアレってな感じがアニス達にはあったかも知れませんが、そう言うことってありますよね?


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