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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第一章 アニスとシズア、決心する
12/303

1-12. アニスとシズアは後始末する

バウッ、ワウッ。

アニス達がホーンタイガーの亡骸に向けて歩いていると、グレイウルフの子供が尻尾を振りながら駆け寄って来た。

そのまま自分に向かって飛びついて来たグレイウルフの子供をアニスは抱き留めようとするが、意外に重くて尻餅をついてしまう。


「前に見た時はひ弱に見えてたけど、(たくま)しくなったねぇ。それに少し大きくなった?」


バウッ。

嬉しそうに吠える。

そんなグレイウルフの子供をアニスは両手でひしと抱きしめる。


「助けてくれて本当にありがとう。いやもう危機一髪だったよね。お前が来てくれて助かったよ」


アニスが頭をなでると、グレイウルフの子供はアニスの顔を舐めて来た。


「その子、アニーに凄く懐いているよね」


シズアが感心したように言う。


「このまま家に連れて帰りたいところなんだけど」

「まだテイムできていないものね」

「そうなんだよね」


シズアの指摘にアニスが残念そうに応じる。

グレイウルフの子供は可愛いし賢そうだしアニスとしては申し分がないのだが、ライアスの心配も分かるだけに悩ましいのだ。


「テイムの方法が分かればなぁ」


相変わらずグレイウルフの子供を抱きながら頭を撫でるアニス。


バウッ。

尻尾を振りながらアニスに向かっておねだりするように吠えるグレイウルフの子供。


「ん?」


アニスが眉間に皺を寄せた。


「アニー、どうかした?」


シズアが問うと、アニスは顔を上げてシズアを見た。


「何となくだけど、この子が名前を付けて欲しがっている気がする」


バウッ。

アニスの言葉を肯定するかのように、グレイウルフの子供が吠える。


「お前、名前が欲しいの?」


バウッ。


アニスは再びシズアを見る。


「どうやら本当に名前が欲しいらしい」

「アニーが付けてあげれば?」

「うーん」


どうしようかとアニスは考える。この流れは、今この場で名前を付けてあげないといけない流れだ。しかし、何も思い付かない。


グレイウルフだからと言って、グレイやウルフではあまりに芸が無さ過ぎる。いくら何でも、もう少し気の利いた名前を付けてあげたい。

改めてグレイウルフの子供を撫でながら、良く観察する。話に聞いているグレイウルフは、全身雨雲色(グレイ)と言うか鼠色なのだが、この子は背中が少し白っぽい(まだら)模様になっている。その様は、背中に灰が降ったような感じだ。


(アシュレ)?アシュレ?アシュ?アッシュ?

ふむ、アッシュは良いかも知れない。


「ねえ、シズ。アッシュってどうかな?」

「アッシュ?ああ、背中に(アシュレ)が降っているっぽいから?良いと思うけど。と言うか、それ、その子に聞いた方が良いんじゃないの?」


「そりゃ、最後には聞くけど、シズの意見も聞きたかったの」


アニスは少し頬を膨らませるが、シズアが賛同してくれたので内心ではホッとしていた。

そして、グレイウルフの子供を脇の下から両手で抱え上げて正面から顔を見る。


「お前の名前、アッシュで良い?」


バウッ。


どこまで話が分かっているのかは不明だが、嬉しそう様子なのでそれで決めることにする。


「よし、お前は今からアッシュね」


バウッ。

アッシュが元気よく返事をする。

すると、アニスの右手の甲に魔法の紋様が現れた。


「ウーム」


アニスは右手を手前に持って来て、その甲に現れた紋様をじっと眺める。どう考えても見たことの無い紋様だ。自分で描いたものではない。

紋様は現れた当初は輝いていたが、段々と輝きを失い最後には薄暗くなってしまった。しかし、消えてはいない。

試しに魔力を通してみると、再び輝きを取り戻した。


「アニーの手の甲に現れたのって何?」

「え?シズ見えるの?」


これまで魔法の紋様がシズに見えたことはなかったので、アニスは驚いた。


「輝いている時だけね」


なるほど、輝きが失われると他の人には見えないのか。


「これって、もしかしたら、テイムの証なのかな?」

「そうなんじゃない?父さんに聞いてみようよ。父さんはテイムの証を見たことがあるって言ってたよね」

「そうか。そうだね」


アニスは紋様の問題を棚上げすることにした。それは家に帰ってからゆっくり確認すれば良い。


それより、家に帰る前に解決しなければならない問題が一つあるのだ。

アニスはアッシュを膝から下ろすと立ち上がり、問題の物を眺めた。

目の前にあるのは、ホーンタイガーとフォレストボアの亡骸だ。


「アニー、これどうする?両方は入らないよね」

「うん、無理だと思う」


アニス達が持っている収納サックの容量では、どちらか片方しか入らない。それでも一応とアニスは自分の収納サックで試してみるが、既にフォレストボアが入っているアニスの収納サックには、どちらも入らない。


「やっぱり駄目だね」

「勿体ないけど、どっちか置いていく?」


シズアの提案は一番単純で簡単ではある。そうするとした場合、置いていくのはフォレストボアの方だろう。あれだけ苦労して倒したC級魔獣を置いていく選択はない。

でも、とアニスは自分の傍らを見る。


バウッ。

アッシュが嬉しそうに吠える。いや、実際には嬉しいのではなくて、食事をくれと主張しているのだが。

アニスは仕方なく、フォレストボアの一部を解体して肩の肉を切り出し、アッシュの目の前にぶら下げる。


「アッシュ、これは私を助けてくれたご褒美だからね。いつもは自分で森まで餌を取りに行ってよ。家のだけじゃなくて村の人達の飼っている家畜も絶対に食べちゃ駄目だから」


バウッ。

分かったらしい。

ならばと、アニスはアッシュの前に肉を放る。アッシュはすぐさま肉に喰らい付いた。


アニスはアッシュを甘やかすつもりはなかった。と言うより甘やかす余裕がなかった。家では必ずしも毎日肉が食卓に上る訳ではない。

それでも、たまにはアッシュに肉をやりたいし、また、自分達も食べたい。

その貴重な肉の供給源であるフォレストボアも置いていくには忍びなかった。


ここで見張って貰っておいて、一人で家まで一往復して自分で狩ったフォレストボアを置いて来られないこともない。

でも、それは面倒なことだし、それにアニスは別の方法を既に思い付いていた。

踏ん切りが付かなかっただけで。


「よし、シズ、決めた」

「どちらを置いていくか?」


アニスは大きく首を横に振る。


「両方とも持って帰る」

「でも、どうやって?」


尋ねるシズアにアニスは右手を差し出す。


「シズの収納サックを貸して」


シズアは言われるがままに背中から収納サックを下ろしてアニスに渡す。

受け取ったアニスは収納サックに手を入れて、中を確認する。


「余計なものは入れて無いね。丁度良かった。一回、中身を全部出すよ」

「うん、良いけど」


全部と言っても、シズアの収納サックに入っていたのは、本当に少しのものだけだった。

アニスは地面に座り、収納サックに入っている物を取り出していく。

解体用のナイフに包帯など応急手当用具一式を入れた巾着袋、タオル、お腹が空いたとき用の堅パンにチーズの塊。それですべて。

だが、アニスはそれらに興味があった訳ではなく、空になった収納サックを裏返し始めた。


「ねえ、アッシュ、見張ってて貰えるかな?誰か来たら教えて欲しいんだけど」


バウッ。

アッシュは、アニス達から南の方に少し離れてから、腰を下ろしてジッとする。


「あれで見張りになっているの?」

「なってるよ。心配ないって」


「それでアニーは何をしようとしているのよ」


(いぶか)しむシズアにアニスは微笑んでみせる。


「シズの収納サックの容量を増やしちゃおうと思って。どうせ冒険者になったら必要だし」

「え、アニー、そんなこともできるの?誰から教わったの?」


「ゼペック爺って覚えてる?引退した魔具師の」

「ええ、家の近くに住んでた人ね」


ゼペックは、元は王都の魔具師だった男だ。何年か前に年老いて引退し故郷の村に帰って来て、それからはずっと村で暮らしていたのだが二年前に帰らぬ人となってしまった。


「そのゼペック爺にやり方は教えて貰ったんだけど、一人じゃ無理。あ、しまった魔石を取らなくちゃ」


アニスは収納サックを地面に置いて、ホーンタイガーのところへ行く。そして解体ナイフを器用に使い、魔石を取り出した。


「これで準備はできたよ。それじゃあ、やるから、シズ、手伝って」

「何をすれば良い?」


収納サックの前に再び座ったアニスは、シズアを見ながら自分の肩を手で叩く。


「私の両肩に手を当てて、魔力を流し込んで欲しいんだ」

「アニーの魔力量では足りないと言うこと?」

「そそ」


仕方が無いと言った体で、シズアはアニスの後ろで立膝になり、両手をアニスの両肩に乗せて魔力を流し込む。


「おおっ」


アニスは魔力が流れ込んでくる感覚に、一瞬身悶えしそうになる。


落ち着け、落ち着け。作業に集中しないと。

魔石は、アニスの握り(こぶし)より一回り大きかった。流石はC級の魔石だけあって大きい。色は透き通っているが茶色味がかっている。

アニスはその魔石を両手の掌で挟むように持つと、右から左へと魔力を流し始めた。


「何してるの?」

「魔石を魔力で洗ってる。そうすれば、魔石が透明になるから」


「アニーの魔力の色で染まったりしてしまわないの?」

「誰でも意識すれば色の無い魔力は出せるんだよ」


「私でも?」

「できるようになると思うけど、シズは魔力の色が見えないから相当な訓練が必要かも」

「あー、なるほど」


話をしている間に魔石の色が随分と薄れて来た。

もう一息とばかりにアニスは流す魔力の量を増やす。自分一人だとこうはできないが、シズアの魔力があるお蔭で問題ない。


「できた」


少しして無色透明の魔石が完成した。

出来栄えに満足したアニスは、次の行程へと進む。


「シズ、ありがとう。魔力はもう足りるから肩から手を離してくれる?」

「はーい」


シズアはアニスの要望に応じて手を離すと膝に置き、そのままの位置で相変わらずアニスの手元を後ろから覗き込む。


アニスは一回深呼吸すると、再び魔石を両手で挟んで持つ。

ここからは繊細な作業なので、集中力が必要だ。

体内の魔力を馴染ませるように魔石へと注ぎこんでいく。最初は一度に沢山でも構わないのだが、限界近くなったと思ったら注ぎ込む量を減らさないといけない。


慣れてしまえば何てことも無いとゼペックは言っていたが、アニスはまだ不慣れなので最初からゆっくりとだ。それで時間が掛かってしまっても仕方が無い。魔力を入れ過ぎると魔石が割れてしまって使えなくなる。そうなるのは避けたいので慎重にならざるを得ない。


魔石にギリギリまで魔力を籠めた状態は、ゼペックによれば平衡状態と言うらしい。その平衡状態の魔石は、魔力の操作者の意志で様々に形を変えられるという特性がある。

アニスはその特性を生かして、魔石を収納サックに付与されている魔法の紋様と同じ形に変化させる。


そして最後の工程が定着だ。

定着とは、魔法付与の紋様の形にした魔石を、剣や盾や収納サックの(サック)に染み込ませ固定する作業を指す。

今回の場合は、既に収納魔法が付与されたサックが相手なので、既に定着させてある紋様にピッタリ同じ形の魔石を重ね合わせなければならない。


アニスは収納サックの紋様に魔石で作った紋様を当て、ズレがないことを確認する。その上で、定着させてあった紋様に魔力を流し込み、紋様の形にした魔石と同様に平衡状態にした。

双方が平衡状態になれば、二つの重なった紋様は一体化する。後は形を崩さないように徐々に魔力を抜いていけば良い。魔力を一定量抜けば平衡状態ではなくなるので型崩れを心配することなく魔力を抜けるようになる。


「完成っ」


アニスは魔力を完全に抜き終えると、剥き出しにしてあった紋様がサックの内側になるように裏返して元通りにした。

そして、倒したままになっていたホーンタイガーとフォレストボアの亡骸を収納サックに納めた。


「ほら、余裕で入ったでしょ?C級の魔石で作った収納サックは結構容量あるから便利だよ」


シズアに向けて自慢げに微笑むアニス。


「便利なのは良いけど、父さん達にどんな言い訳をするつもりなの?」

「んー、ゼペック爺に改造して貰ったって言おっか」


「私が収納サックをプレゼントして貰った時には、もうゼペック爺は亡くなっていたんじゃない?」

「そしたら私の収納サックと間違えてたことにしようよ」


「いや、収納サックには名前が刺繍してあるから、間違えようがないって」


シズアはアニスの雑な言い訳に眩暈がしてきたが、諦めることにした。


「ともかく、できるだけ内緒ってことよね。取り敢えず、この収納サックにはホーンタイガーしか入ってないってことにするわ」

「シズ、ありがとう。それじゃ、家に帰ろう。アッシュもお疲れ、帰るよ」


バウッ。

アニスとシズアと一頭は、家に向かって歩き始めた。


いつか火魔法を会得したいシズアと、そんなシズアが大好きなアニス。それぞれの秘密を共有した二人の冒険の旅は、これから始まるのだ。


アニスは戦えるだけでなく付与魔法も扱える訳ですが、そういう人は結構珍しかったりします。


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ここまでお読み下さりありがとうございました。

まずは一区切りですが、いかがでしたでしょうか。


続きが読みたいなぁと思われた方は、ブックマークや評価をポチッとしていただけますと幸いです。




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