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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-25. アニスは改善案を示したい

「今のを見ただけで共鳴石を良くする方法を思い付いたってぇ言うのか?」


アニス達には、今、共鳴石の作り方を一通りやってみせながら説明しただけだ。

それなのにアニスは改善策を思い付いたようなことを言って来た。


ガダルフの顔には「そんなことがあるのか?」と書かれている。


「単なる思い付きでしかないんだけど、見てて思ったんだよね。共鳴石の品質を上げるには紋様の形をできるだけ揃えることが必要で、だったら二つの魔石の紋様をもっと近くすれば良いんじゃないかなって。でさ、ガダルフは付与魔法の紋様を魔石の真ん中に焼き付けたけど、真ん中である必要はあるのかな?」

「いや、そんなことはねぇと思うが、真ん中が一番紋様を大きくできるからな」


「それは使っている魔石を球のように丸くしているからだよね。筒のように円筒形にして、円筒の平らなところのギリギリ内側に紋様を焼き付ければ、紋様を小さくせずに二つの紋様の距離が短くなると思ったんだけど」

「あー、確かにそうだな」


ガダルフは顎髭(あごひげ)をしごく仕草をしながら考える素振りをみせた。


「直ぐに試してみたいんだが、使えそうな魔石があったかなぁ。悪りぃが探してみるから少し待ってて貰えるか?」

「いーよ」


アニス達の了解を得たガダルフは、急いで部屋を出て行く。

残された実験室の中で静かに待つアニス、シズア、キョーカ、スイの四人。


「ねぇアニス、ちょっと良いのです?」

「何?」


スイがアニスに声を掛けた。


「貴女、見返りもなしに教えてしまうのですか?」

「んー、だってさぁ。これだけして貰っているのに何のお返しもしないのは、礼儀に反してるって気がしちゃうんだよね。けどまぁ、私が言った通りにやっても、中級の良い方の奴が、上級の悪い方の奴になるくらいで、そこまで良くなるものでもないと思うよ。だからお礼代わりには丁度良いんじゃないかな?」


「それはまぁ、そうなのかも知れないのですけど」


まだ言い足りてなさそうな表情をしていたものの、スイはそれ以上は言わずに黙った。


「ねぇアニー、対話の鏡って共鳴石の他の部分はどうなっているの?」


今度はシズアが口を開いた。


「えーと、映像と音声を記録再生する魔法を鏡に付与するのと、呼び出し用の(ぼたん)と呼び出しを受けた時に光る部分にもそれぞれ付与がしてあって、それらが全部共鳴石に繋がってるんだよ」


「通話先は一つってこと?」

「そだね。共鳴石は対になってる共鳴石としか繋がらないから。二つ以上の相手と繋げる対話の鏡には、共鳴石が相手の数だけ必要になるよ。実際、昨日の夜見せて貰った物はそうなってた」

「ふーん」


キョーカ達の前なこともあって、アニスは名前を持ち出さなかったが、それがラウラと言うか、第一王女の持ち物であることはシズアには伝わっている。


「ねぇ、アニー。一つの魔石から切り出した幾つもの小さい魔石に同じ共鳴の紋様を焼き付けたらどうなるか知ってる?」

「えっ?聞いたことないよ。どうなるかなぁ?今度、試してみようかな」


アニスは両手を頭の後ろで組み、椅子によりかかりながら思考を巡らせる。


「それ、聞いたことがあるのです」

「どうなのか知ってる?」


スイの言葉に体を起こして、視線を向けるアニス。


「三つ以上でも共鳴はするのです。でも、紋様の違いが大きいほど通信品質が下がっていくのです。三つの共鳴石を作ろうとすると、まず一つを作ってから、そこから複写する形で二つ目と三つ目を作ることになるのですが、一つ目と残り二つとは通信できても、複写した二つの間での通信はできないことがあるのです」

「でも、最初の一つは、すべてに共鳴するから、同時に通信できるのよね?」


「はい。なので、一箇所からの放送には向いているのです。もっとも、一つの魔石を沢山の魔石に分けようとすると、一つ一つが小さくなってしまうので、パルナムくらいの街中での一斉放送くらいにしか使えないようなのです」

「あー、そうか、魔石の大きさも問題になるのね」


シズアはスイの説明に納得したようだった。


「ねぇ、シズアは共鳴石で何か作ろうと考えているのですか?」

「そうね。連絡手段として便利そうだし。実際に何を作るかはアニーとの相談になるけど」


「作るのは良いのですけれど――あ、ガダルフが帰って来たのです」


閉まった扉の向こうは風魔法(ウィンドサーチ)では分からないが、魔女の力の眼なら分かる。

なので、スイが気付いたのと同じように、アニスもガダルフが廊下を戻って来たのは視えていた。とは言え、シズアの風魔法では捉えられていないのも分かっていたので、余計なことは言わずに沈黙を守る。


「待たせちまって(わり)ぃな。だが、実験に使える魔石を見付けて来た。切り出したばかりの奴だ。隣り合わせにした時の面積が大きくなるように一箇所平らに削って貰ってみたぞ」


心なしか、部屋を出て行く前よりガダルフの表情が明るい気がする。もしかして、アニスの提案に期待を持っているのか、皆を待たせている中で目的のものが見付けられてホッとしているのか。

何にしても、これで実験の結果を目の前で見られると、アニスは喜んだ。


ガダルフは先程と同じ場所に座ると、持って来た二つの魔石を両手の掌の上に乗せて、アニス達に見せる。


「ほらな。切り出したばかりだからゴツゴツしているが、そいつは問題にはならねぇ。それで、ここを平らに削っておいた。これなら紋様も大きくできるからな」


言いながら、ガダルフは削った面をアニス達に分かるように上にしてみせた。

魔石は断面が楕円状になっており、その楕円の円弧の緩い側の一面が平らに削られている。

確かにこれなら紋様を大きく出来そうだ。


ガダルフは、その平らな面を合わせて二つの魔石を密着させ、接合面が垂直になるように作業台の上に置く。


「それじゃあ、先ずは片側の紋様を焼き付ける」

「魔石の表面じゃ駄目だからね。少し内側にしないと」

「ああ、分かってる」


ガダルフは共鳴の付与魔法の紋様を左手側の魔石の平らな面ギリギリのところに焼き付けた。


「次に行くぞ。この魔石の大きさなら普通は中級だが、どうなるか」


それだけ言うとガダルフは真剣な表情で魔石に集中する。


少しして、焼き付けた紋様の横に同じ紋様が現れたのがアニスには見えた。

その位置は、焼き付けた魔石の中だが、隣の魔石と接している面は直ぐ(そば)だ。

なのでガダルフはその紋様をほんの少しずらすだけで、もう一つの魔石の中へと移動できた。


そしてその状態でガダルフが両方の魔石に魔力を注ぐと、紋様がほのかに青白く輝きを放つ。


「おぉ」


ガダルフの口から呻きのような音が漏れた。

だが当人は真剣な表情で、口から音が出たのに気付いていなさそうだ。

そのままもう一つの紋様を焼き付けると、魔石から手を離して椅子に寄り掛かり、肩を下ろした。


「はぁ、できた。俺は鑑定眼を持ってねぇが、この感触は上級だと思うぞ」


実際その通りで、アニスが鑑定眼を起動すると「共鳴石・上級」であるのが見える。


「役に立ったようで良かったよ」


アニスが微笑みかけると、ガダルフも顔を(ほころ)ばせた。


「いや、ありがとうな、本当に。お前には大きな借りができちまった。何か困ったことがあったら言ってくれ。俺達でできることなら手伝うからよ」

「うん、分かった。その時には相談する」


それからアニス達は工房の中を見学し、そして工房を後にした。

見学中、行く先々でガダルフがアニスの提案を試した結果を職人達に触れ回ってくれたので、アニスは少しこそばゆかったが、皆好意的に対応してくれたのは嬉しかったことだ。


工房を出て街中を歩き始めると、いつもならキョーカの隣に並んで行くスイがシズアの隣に移動して話し掛けた。


「ねぇシズア、少しお話して良いのです?」

「何?」

「共鳴石を使った魔具を作るお話なのですけれど――」


どうやら先程、スイはガダルフが戻って来る前の話の続きをしたいらしい。

アニスには何となくスイが言おうとしていることが分かる気がした。


なのでその会話には参加せず、キョーカの隣に移動する。


「キョーカ、ちょっと相談なんだけど」

「改まってどうかしたのにゃ?」


「私、聞いたことがあるんだよね。魔石を綺麗に二つに割る方法があるって。それは学究の楽園で編み出された方法らしいんだけど、キョーカは知ってる?」

「それを知ってどうするにゃ?」


「勿論、共鳴石にするんだよ。それができれば、元の魔石が小さくても特上級が作れると思うから」


想像通りの答えを聞いたキョーカは溜息を吐いた。


「お前がそうしたい気持ちは分かるし、教えてやらんでもないが、実際に魔石を割るところはシズアには見せられないにゃ。つまり、後でお前が説明できなくなって困ることになるが、それでも良いにゃ?」


あー、つまり魔女の力を使うのかと察したアニス。


「言い訳も一緒に考えてくれると嬉しいな」

「そんな都合の良い言い訳があれば、ワシらも苦労しないにゃ」

「だよねー」


さて、どうしたものかとアニスは物思いに(ふけ)った。


アニスはシズアに対してどうやって誤魔化すのでしょうね。


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