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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-24. アニスとシズアは共鳴石の作成法を学びたい

「ガズ、急に押し掛けて済まないにゃ」

「いや、構わんさ。俺たちの仕事に興味を持ってくれるなんたぁ嬉しいことだ」


アニスとシズアは、キョーカ達とパルナムのハルスレー魔具工房に来ていた。今、案内してくれているドワーフのガダルフは、ここの工房長だ。

アニスがキョーカ達に共鳴石が得意な工房を尋ねたら、この工房しかないだろう連れてきてくれたのだ。


ガダルフのことをガズと渾名(あだな)で呼んでいるところから、キョーカとは親しい間柄なのだろうと推察される。


「キョーカが共鳴石ならここだって言ってましたけど」

「ああ、共鳴石は沢山作らねぇと良い物ができねぇからな。あちこちで作るよりも纏めて作った方がいぃんだ。パルナムで使われている共鳴石の大体はここで作ったもんだぞ」


ガダルフが嬉しそうに話してくれる。

一行は工房内の通路を歩いていたが、そこからガダルフは一つの部屋に皆を引き入れた。


その部屋は、中央に作業台が置いてあり、周りの壁に据え付けられた棚には、箱や袋や瓶など様々なものが置かれている。


「この部屋は実験室の一つだ。ここで共鳴石を見せるから、机の周りに座って貰えるか?」


ガダルフの声に促されるまま、アニス達はそれぞれ椅子を引き寄せて作業台を取り囲むように席に着く。

その作業台の上に、ガダルフは鍵の付いた箱から取り出した袋を置き、袋の中から二つの透明な魔石を取り出した。


「これが共鳴石だ。手に取ってみてもいぃぞ」

「では早速」


と、アニスは手を出そうとするが、シズアに肘で横から小突かれ、ハッと動作を止める。

そうだった。そのまま共鳴石を手にしても、何も見えないことになっているのだ。

アニスはそそくさと収納サックから眼鏡を取り出して顔に掛ける。


そうしてアニスが準備に手間取っている間に、キョーカが共鳴石を手にして観察を始めていた。


「なぁカズ。ワシらが自由に触って良いってことは、これらの等級は低いってことかにゃ?」


キョーカは石から目を上げてガダルフを見る。


「あぁ、そいつは初級だ。近場で使う遠写具にどうにか使える程度の物だぁな」


「中級以上を作るのは難しいのかにゃ?」

「いや、そいつは昔作っていた時の失敗作だよ。最近は手順通りにやれば中級は作れる。金に糸目を付けずに魔石を大きくすれば上級もな。難しいのはその上だな」


肩を(すく)めてみせるガダルフ。


「特級と言うことかにゃ?」

「そうだ。それに加えて特上級もな。特上級は本当に滅多にしか拝めねぇよ」


前の晩、アニスはラウラに対話の鏡を見せて貰ったが、それに使われていた共鳴石を鑑定眼で確認したら特上級だった。

流石に王家ともなれば最上級品を所持しているものだろうし、特上級とはそう言うものなのだと思われる。


「何がそんなに難しいにゃ?」

「共鳴石に使う一対の魔石は、一つの大きな魔石から切り出さなければならねぇ。その上、二つ共にまったく同じ魔法の紋様を刻まないといけねぇんだが、これが中々難しいのさ。何せ人がやることだから、どうしてもズレが生じてしまう」


「確かにそれは避け難いことだにゃ。何か上手い手立てはないのかにゃ?」

「まったく無いでもないぞ。昔は魔石に紋様を刻んでから共鳴度を確認していたんだが、魔石の中で紋様を展開するだけでも共鳴度が確認できることが分かったんだ。それによって随分と品質が上がったもんだ。もうあとひと工夫できれば、安定して特級を作れるようになるだろう」


どうやら、少しずつは改善されているようだ。

だが、脇で話を聞いていても、自分が目指すべきところまで、あとどの程度なのかが分からない。


「ねぇ、上級だとどんなことに使えるの?対話の鏡に使うのは無理なのかな?」


なのでアニスは疑問を口にした。

欲しいのは実用に耐える品質の物であり、最高級品ではない。

上級で十分なら、それで良いのだ。


そんなアニスの問いに、ガダルフは腕を組んで考えた。


「そうさなぁ。上級でも対話の鏡は作れなくも無いが、そんなに遠くまでは届かねぇと思うぞ」

「サリエラ村なら届く?」


「サリエラ村?あぁ、オーバンブル米の産地のか。あそこならギリギリ届くかどうかぁだな」

「だったら、ここから領都ザイナッハまで届かせようとしたら、どれくらいの共鳴石が必要?」


「特級のがあれば行けるんじゃないか?」


なるほど、目指すは特級らしい。

できれば魔石は大きくないもので作れた方が嬉しい。

そうなると、中級なら問題なく、上級には後ひと工夫、特級には少なくとも二工夫が必要だろうか。


「ねぇガダルフ。お願いがあるんだけど」

「何だぁ?」


「共鳴石を作ってみせて貰えないかな?」


ここまで教えて貰っておいて図々しいように思わないでもなかったが、目的のためには行けるところまで行くしかないとアニスは腹を括って願い事をする。

勿論、なるべく子供らしく、しおらしくして、相手に好印象を与えることを忘れずに。


「あの、私も見てみたいです」


アニスに重ねるように、シズアもお願いを口にする。

ガダルフは、参ったなぁと後ろ頭に手を回していたが、折角来て貰ったからと実演の準備を始めてくれた。


用意したのは、一組の魔石と付与魔法の紋様を描いた紙。魔石の大きさはE級魔石くらいで丸い。それら二つの魔石は元は同じ大きな魔石から切り出した物、紙は紋様の設計図だとガダルフは説明した。


「共鳴石の片側の魔法付与は簡単なんだ。設計図通りに紋様を描いて、そのまま魔石の中に焼き付ければいぃからな」


ガダルフは、言った通りにやってみせる。

その手際はよく慣れた物で、直ぐに作業が終わってしまう。


アニスにもこの工程には悩む部分は無さそうに思えた。


「いぃか、ここからが厄介なんだ。集中してやらないと失敗するから、作業中に説明はしねぇぞ」


そう言いながら、二つの魔石を作業台の上に隣合せに並べ、それぞれを右手と左手で押さえる。


「俺の左手の側にあるのが今紋様を焼き付けた物だ。その紋様を写し取って右手の側の魔石に焼き付ける。普通、紋様は少しくらい歪んでも魔法は発動するんだが、共鳴石は二つの紋様のズレが大きくなるほど品質が落ちる。だから紋様の形が変わらないように慎重にやらないといけねぇ。

紋様の歪み具合は、写し取った紋様を反対側に入れて両方の魔石に軽く魔力を流した時の紋様の光り具合で分かるんだ。鈍い光なら失敗だから、やり直しになる」


「失敗の時って、例えばどんな感じか見せて貰える?」

「え?まあ、それは構わんが」


まさか失敗例を見たいと言われるとは予想していなかったガダルフ。戸惑った表情になりながらも、アニスの要望に応じて手を動かす。


ガダルフは両手で双方の魔石を押さえつつ、右手から放出した魔力で左側の魔石内の紋様に合わせる形でもう一つ付与魔法の紋様を描く。

そして後から描いた紋様をゆっくりと右手の側の魔石内へと移動させる。


「いぃか、ここで紋様への注意を切らさないようにして両側の魔石に軽く魔力を入れてみるぞ」


その言葉通り、ガダルフは両手から魔力を注ぎこんだ。

と、二つの紋様が光を放ち始める。


「ほら光ったのが分かるよな?これくらい明るければ成功だ。この状態から右手の側の紋様の形を少し変えていくぞ」


すると、光の色が段々と赤みがかっていく。

そうして赤暗くなったところでガダルフは紋様を変化させるのを止めた。


「この状態でも形を変えた側の紋様は消えちまわないから、付与魔法としては有効だし機能はする。が、共鳴石としては失敗だ。この色では初級の中でも品質が最低のものにしかならない。俺たちは少しでも色が鈍くなったら失敗としてやり直している」

「上級だとどんな色になるの?」


「品質が上がれば上がる程、青白い光になっていくんだ。偶に特上ができた時には真っ青な光になるから直ぐに分かる」

「ふーん。光の波長みたいね」


「何だって?」


シズアの呟きにガダルフが反応した。


「あ、いえ、何でもなくて」


呟きが漏れていたとは思っていなかったようで、シズアは慌てて誤魔化そうとする。


片やアニスはそんなやり取りには気付かず、腕を組んでウーンと唸り声を上げていた。


「ねぇガダルフ。一つ聞きたいんだけど」

「何だ?」


真剣そうな声色に何かを感じ取ったか、片方の眉を上げてアニスを見る。


「共鳴石の品質を上げられそうなことを思い付いたって言ったら、試してみたいと思う?」

「はぁ?」


その突飛な発言に、ガダルフは目を丸くした。

シズアが色について口走ったのは、光の波長が長い、つまり赤の側だと品質が悪く、光の波長が短い青の側だと品質が良いという、共鳴した時の光の波長と品質の関係性に気付いたからです。


でも、光の波長なんて概念はこの世界にはまだないので、誤魔化したんですね。


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