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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-22. アニスとシズアは資料を探したい

「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうか?」


カウンターに座る受付嬢がにこやかに話し掛けて来た。


「資料室に入りたいのですけど」


応じるアニス。


「資料室のご利用はギルド会員様だけになります。ギルド証はお持ちですか?」

「はい、これで」


受付嬢にギルド証を差し出す。

冒険者証ではない、ここは商業ギルドなので必要なのは商業ギルドのギルド証だ。


「あ、お持ちなのでしたら、そのまま資料室に行かれてください。そちらの受付でそのギルド証を提示すれば中に入れますので」

「分かりました。けど、資料室はどこです?」


「あちら、お客様の左手方向にある廊下の右側に資料室と書かれた扉があります」

「そですか。ありがとうございます」


形式的な応対ではあるものの、親切な人だったなとアニスは思う。

ザイアスの街の冒険者ギルドのナンシーや、商業ギルドの受付嬢に比べてどことなく距離感を覚えるのは、ここが見知らぬ土地だからか。

まあ、アニスとシズアの組合せだと下手をすれば子供扱いされ兼ねないのだ。それを考えれば、きちんとしたところだ。


ともあれ、アニスはシズアを伴い受付嬢に教えて貰った通りに廊下に入り、資料室の扉を求めて奥へと進んだ。

目指す扉は簡単に見付かった。右側の扉の三番目に大きく「資料室」と書かれていたからだ。これなら間違えようもない。


扉を開けて資料室に入る。

入って右側にカウンターがあり、女性が一人座っていた。短く切られた金髪の巻き毛が見えている。しかし、顔が見えない。

アニス達が部屋に入っても、女性は顔を下に向けたままでいる。何をしているのかとアニスがカウンターに近付いて覗き込むと、広げた本に見入っていた。かなり熱心に読んでいる様子だ。


「あの、すみません」


アニスは女性に声を掛けた。

これだけ本に集中していれば、何も言わずに資料室の中を歩き回っても気付かれなさそうにも思えたものの、黙っていて後で面倒なことになるよりも先に話を付けておいた方が賢明だろうとの判断による。


呼ばれた女性は流石に人が来たのに気付き、本から顔を上げてアニスを見た。


「おおっ。誰かと思えば可愛らしいお嬢さんではないですか。ふむ、その格好は冒険者、しかも見掛けによらず結構上級者?そしてこの部屋に来たと言うことは、商業ギルドの会員でもあるから商会も開いている。そんな冒険者の用事と言えば、素材の情報集めかな?」


女性はアニスを見るなり、勝手に憶測を並べ立てていく。


「凄い、割りと当たってる」

「ふっふっふ。観察の勝利だよ、(きみ)。ボクの脳細胞の(うず)きも、あながち馬鹿にしたものではないだろう?」


アニスの反応に気を良くした女性は誇らしげに微笑む。


「はい、あの、それで調べ物をしたいんですけど、ギルド証を見せるようにと言われていて」


女性に任せておくと話が進みそうもないので、アニスは自らギルド証を女性に差し出した。


「ああ、悪い悪い。何々、コッペル姉妹商会のアニス?んー、どこかで聞いたような」


宙を睨むことしばし。女性は「あっ」と閃いた顔になる。


「そうだボクの推理によれば、君は一昨日公爵様のお城を訪ねているね?」

「ええっ、どうして分かったんです?」


驚くアニス。


「まあ、ボクの脳細胞に掛かれば大したことじゃないさ。観察と考察を重ねれば直ぐに分かるのさ」


女性は相変わらず自慢げだ。


「それ、もしかして、単なる知識って言いません?」


アニスの後ろからシズアが声を出した。


「どうしてそう思うんだい?」


女性が問うと、シズアは眼鏡を取り出して顔に掛けた。


「私達が公爵様のお城に伺ったのは、関係者なら誰でも知っていることで、推測するほどの話ではないからです。貴女はその関係者を知っているのではないですか?」

「その証拠はあるのかい?」


肘をつきながら、女性は楽しそうにシズアに微笑みかける。


「さっきから小説の言葉を引用していますよね。『脳細胞が疼く』と言うのはアーサー・ミーツが良く使う表現です。それに、熱心に読まれているその本は、今日発売のアーサー・ミーツの最新作でしょう?」

「正にその通り。それで?」


「私が一昨日公爵様とお話した時にもアーサー・ミーツが好きな人がいましたけれど、そういうことではないのでしょうか?」

「そうそう、そう言うことだ。そして、姫様の名前を出さないところも懸命だね、君」


女性は腕を下に降ろすと身体を起こして姿勢を正し、満足そうな表情をシズアに向けた。


そう言えば、先日ラウラや公爵様と食事をした時、アーサー・ミーツの話題で盛り上がっていたなとアニスは今更ながら思い出す。

シズアはイラから本を借りて読んでいたのでその話題に付いていっていたが、読んでいなかったアニスは取り残されてしまい、どんな話をしていたのか殆ど記憶に残っていない。


もっとも、それは大した話ではない。

今回の件で、アーサー・ミーツが好きならラウラの関係者かも知れないことは頭に入ったし、それで十分だ。

しかし、この女性はどういう関係者なのだろうかと、アニスは疑問に思う。


と、女性が立ち上がり、二人に会釈する。


「アニスとシズア、お初にお目に掛かる。私はマイラ、レーネの姉だ。君達のことは聞いている」

「ああ、レーネのお姉さんだったんですね。でも、マイラは何故ここに?」


「妹は姫様に付いて回ることを選んだが、私は動き回るのは趣味ではないからね。この職場が私には丁度向いているんだ。それで君達こそ、どうしてここに?そう言えば、君達の商会では面白い魔具を扱っていると聞いたことがあるが、もしかして魔具の情報でも探しに来たのかな?」


今度こそ当たりだ。

アニスは肯定の意味で一度頷いてから、口を開いた。


「あの、通信の魔具について調べたくて」

「通信の魔具?ふむ、それは分類上は時空魔法付与の魔具だから、分類番号は536番だな。そちらの通路の右奥の棚だと思うが。付いて来たまえ」


マイラはカウンターから出て来て二人より先にずんずんと通路を進んでく。

後を追うアニスとシズア。

通路の両脇には棚が並んでおり、それぞれの棚の脇には収納されている資料の分類番号を記した紙が貼ってある。


「アニー、ここの資料室は随分と広いわね」

「うん、流石に公都の中央にある商業ギルドだけあって資料が沢山ある。ここならありそうな気がする」


「当たり前だ、ここは王都の商業ギルドの次に大きいのだぞ。余程の古い資料でない限りは見付かる筈だ。おっと、ここだ」


マイラが足を止める。

目の前には、脇に分類番号520番から539番と書かれている棚があった。


「君達の探している資料は、この棚の向こう側の中段にあるだろう。背表紙に536と書かれている奴がそうだ。確か、十冊くらいはあったと思うな」

「よく知ってるんですね」


マイラは一瞬アニスに目を向けるが、直ぐに棚の方に目を戻す。


「以前、興味があって調べたことがあるんだよ。通信の魔具は何故高価なのかと。遠写具もそれなりの額だが、対話の鏡に至っては上位貴族か豪商くらいにしか手に入れられない価格になってしまっている理由が何かと言うことを」

「どうしてか分かったの?」


アニスが興味津々に尋ねた。


「第一には、通信の魔具の共通の核となる共鳴石の作成が難しく、中々品質の高い物ができない。つまり、歩留まりが悪い。それに、単純に共鳴石の素材として大きな魔石が必要で等級が上の物になるから、必然的に材料費が高くつく。理由としては大体そんなところのようだったな」

「やっぱり共鳴石が問題なんだね。そんなような話は前に聞いたことがあったから、何が難しいのか調べようと思って来たんだけど」


「それならここの資料を調べればある程度のことは分かると思うが、直接魔具工房に聞きに行った方が早いんじゃないか?」

「まぁそうとは思うけど、顔も知らない私達がいきなり教えてくださいって言って直ぐに教えて貰えるとは思えなくて」


「ふむ」


顎に手を当て考えるマイラ。


「だったら情報屋に相談したらどうだ?話の通じる魔具工房を紹介してくれるかも知れないぞ」

「情報屋だって、色々だよね?」


「うむ、確かにな。とは言え一つ当てになる情報屋を知っているから紹介しようか?情報屋イルージオと言うんだが」


おっと、まさかここでイルージオの名前が出てくるとは。


そうか、あの人達は結構ちゃんとした情報屋だったのかと、認識を新たにするアニスだった。


アニスも失礼ですね。まあ、キョーカとスイが真面目に情報屋をやっているのを想像せよと言うのにも無理がありそうな気も...。


シズアは推理をする時は、相変わらずシズア先生モードに入る様です。


------------

と言うことで、あけましておめでとうございます。


書初めは一月二日と言われておりますが、もう三日やん、と突っ込まれそうですが、ご容赦を。


今年もリアルタイム投稿を頑張りますので、お付き合いいただければと思います。


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