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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第一章 アニスとシズア、決心する
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1-11. アニスとシズアはホーンタイガーと戦う

「ファイア」


取り敢えず状況維持のためにファイアを使う。

しかし、これもいつまで通用するのか分からない。

早いところ次の行動を決めないと。


初手で高いダメージを与えようとするならば魔法と剣を併用すれば良い。ただ、それでどれだけ相手の体力を奪えるだろうか。シズアには魔法を準備して貰っているので、隙があれば魔法で攻撃してくれるだろう。問題なのはシズアの攻撃の方が強いとなると、攻撃した瞬間にシズアの方がホーンタイガーに標的認定されてしまう可能性があると言うことだ。

その標的認定を自分の側に戻そうとすると、その後にシズアより強い攻撃をしなければならない。その時に魔法が使えないと困る、となると初手で強い魔法は使えない。


であれば、剣の攻撃で多くのダメージを与えることを考えるのみ。

腹を決めたアニスは脚に魔力を集め、魔法の火が消えると同時に前へと駆け出す。

アニスの動きを見たホーンタイガーが腰を上げ、迎撃態勢に入った。


「それじゃあ、行きますか」


アニスは片目を閉じて、ホーンタイガーの鼻先に魔法の紋様を展開する。


「フラッシュ」


一瞬、眩い光が辺りを包む。アニスの側は開いていた片目が見えなくなったが、ホーンタイガーは両目ともの筈。アニスは閉じていた目を開くと、それまでとは走る向きを変え、右からホーンタイガーの脇に回り込もうとする。

ここでホーンタイガーが右前脚を出すことを期待したが、それは叶わず左前脚を出してきた。アニスはその前脚の爪を際どく(かわ)し、腕に魔力を蓄えながら剣を打ち下ろす。


ギャウッ。

剣に手応えを感じると同時に、ホーンタイガーの鳴き声が聞こえた。取り敢えずは成功だ。

そのまま追撃をと剣を構え直したものの、ホーンタイガーが痛い筈の左前脚をアニスの方に振り回してきたので、その目論見は叶わず、防戦に追われた。


「ウィンドカッター」


シズアの力ある言葉が辺りに響く。

ズシャっと風の刃がホーンタイガーを斬り付けた音がした。咄嗟にホーンタイガーがシズアの方を向いたので、アニスからは見えない右肩の辺りを強く斬られたのだろうと推測する。


「お前の相手はシズじゃない」


ホーンタイガーが自分から気を逸らせたのを良いことに、アニスは思い切り剣を振り回し、今度はホーンタイガーの左後ろ脚に剣を横殴りに叩き付ける。

剣は上手いこと相手の後ろ脚に傷を付けたが、結果的にはホーンタイガーを怒らせただけだった。もう少し下の脚の細い部分を攻撃して、腱を切ってしまえば良かったと考えても後の祭り、後悔先に立たずだ。


ホーンタイガーがアニスを正面に捉えるようにゆっくりと向きを変える。傷口から血を流し、脚を引きずるようにしていることから、それまでの攻撃がまったくの無駄ではなかったと知れたが、その気迫から体力はまだ十分に残っているように見受けられた。

シズアがウィンドカッターを飛ばしてくれるが、ホーンタイガーはそちらには見向きもしない。焦りのあまりシズアが魔力を十分に集められず、魔法の威力も落ちているのだろう。


「私のことなんて放置して、そこのフォレストボアを食べててくれて良いんだけどねぇ」


どのみち通じることのない軽口を叩きつつも、アニスは剣を構え、油断なくホーンタイガーの動きを観察する。

これまでの戦いから、ホーンタイガーは大きな動きをする時には、必ず事前に動かす部位に魔力を集めていた。きっと無意識なのだろうが、だからこそアニスには動きが予見できた。


アニスに襲い掛かる直前には後ろ脚に魔力を集める筈だ。そして次に左右どちらかの前脚に魔力を集めればそれが攻撃の来る方向だ。敢えてその方向に移動して攻撃を避けながら剣を打ち込むか、それとも反対側から斬り込むか。

アニスはそこまで臨機応変に自分が対応できるとは考えておらず、ホーンタイガーがどう動いて来ても、自分から見て右側、つまり相手の左側に狙いを定める。


そしてホーンタイガーが後ろ脚に魔力を集めて踏み切ろうとするのに合わせてアニスも前に出る。さあ、次に魔力を集めるのは右か左か。

アニスはホーンタイガーに近付きながら見極めようとする。

だが、相手はアニスの予想を裏切る動きに出た。


ホーンタイガーは両前脚とも持ち上げて、後ろ脚だけで仁王立ちになったのだ。


「えー、そう来ちゃうのかぁ」


全長がアニスの背よりも大きいホーンタイガーが立ち上がった姿は、とても大きく見えた。しかも、剣で攻撃を入れるには相手の懐の奥まで入り込まなければならず、危険を伴う。

だからと言って、ここで下がるのも中途半端で危ないことには違いが無い。

だとしたら、前に進むしかない。


アニスは脚に魔力を集中させて出来る限りの速さで走りながら、真っ直ぐにホーンタイガーを見据え、相手の体を流れる魔力の動きを見逃すまいと集中する。

さあ、どう来る?


ホーンタイガーの両肩と両ひざ、そして両前脚の足首に魔力が集まろうとしている。となると、両前脚同時にアニスに向けて打ち下ろそうと言うのだろう。ならば、左右どちらかに回避して剣を打ち込もう。回避に成功するかどうかはやってみないと分からないが。


「右か、左か」


どちらを取っても大きな差は無さそうではあるものの、できるだけ回避できる可能性の高い方を選ぼうと神経を研ぎ澄ませる。

その時、どうしてか森の側に回避した方が良さそうな気がした。

アニスはその直感を信じて、左方向に一回転。


その回転の最中、仰向けになったところでアニスの上を森の方からホーンタイガーに向けて飛び出す物を目撃する。


バウッ。

それはホーンタイガーの右肩に噛みつき、そのままの勢いでホーンタイガーを左へと倒した。


「え、あれって」


アニスは目撃したものが信じられず、だが今は呆けている時ではないと直ぐに起き上がり、剣を振り上げる。


「てあっ」


横に倒されて無防備になっていたホーンタイガーの右ひざに、思い切り剣を叩き付け、そのままホーンタイガーの後へと離脱する。これで右脚は使えなくなるだろう。


それにしても、ここに来てくれるなんて。

アニスの心は感謝の気持ちで一杯だった。

ホーンタイガーを横倒しにしてアニスを助けたそれ、(すなわ)ちグレイウルフの子供は、今もホーンタイガーの上半身に対して果敢に攻撃を仕掛けている。


さて、そろそろ終わりにしよう。


「ありがとう。もう大丈夫だから下がって」


アニスはシズアの方へ走りながら、グレイウルフの子供に向かって叫ぶ。あの子ならきっと分かってくれる。

そうアニスが信じた通り、グレイウルフの子供はホーンタイガーから距離を取った。


「ファイアトルネード」


ホーンタイガーを囲むように火の竜巻が燃え上がる。


「シズ、もっとこっちにきて魔法」


シズアは恐る恐る近付いて来る。


「もうそんなに動けない筈だから、シズの魔法で止めを刺して。できるよね?」

「う、うん」


シズアは自信なさげだ。先程アニスを救おうと放った魔法が相手に効かなかったことを気にしているのだろう。

でも、こんなところで自信を無くされても困る。私達はこれから冒険者になるのだから。


「良い、シズ?時間はあるから落ち着いて。大きく深呼吸して、集中するの。そうすれば出来るから」


シズアを安心させるようにアニスは微笑む。

その笑みを見たシズアは、決心したのか大きく頷いた。


「やってみる」


シズアが両手を前に掲げ、呪文を唱え始める。ウィンドカッターの呪文だ。

魔法の紋様が現れ、魔力を吸って輝きを増すが、まだ周囲には多くの魔力が漂っている。


「シズ、まだ撃たないで。あの火が消えそうになってホーンタイガーが見えたところで、狙いを定めて打つんだよ。それまではともかく魔力を放出して」


シズアは火の竜巻から目を離さず、ゆっくり首を縦に振った。


とは言え、これでは威力が足りなさそうにアニスには見えた。

どうしよう。変にアニスが手を出して、シズアが自信を無くしてしまうのは避けたい。

シズアの魔力を操作して魔法の紋様に集められれば良いが、流石のアニスもそんなことはできない。


でもこれだけの魔力があったら、もう一発魔法を撃てそうな気がする。

そうか、シズアの魔法にアニスの魔法を重ねて撃てば、シズアにバレずに威力を強化できるかも知れない。

そんなこと、これまで一度もやったことが無かったアニスだが、物は試しだ。


シズアと同じウィンドカッターにするか、いや、魔力を操作できない以上、最初から威力の大きい上級魔法を試してみたい。幸い、昨日までのシズアとの訓練の中で、シズアの魔力を使ってアニスが撃ってみた上級魔法がある。


アニスはシズアの後ろに立ち、シズアの魔力で魔法の紋様を描こうと試みる。すると、狙い通りに紋様が現れてくれた。

やった。後はシズアに合わせて撃てば良い。

アニスは火の竜巻とシズアの両方が見える位置から、両者を注意深く観察し始めた。


間もなく、火の竜巻が弱まり、ホーンタイガーの姿が現れて来た。

それを見たシズアの魔法の紋様が向きを少し変えたことで、シズアが狙いを定めたと分かり、アニスも自分の魔法の紋様も向きをそれに合わせる。


「ウィンドカッター」


シズアが叫ぶ。


その叫びに重ねるようにアニスは小さく呟いた。


「エアブレイド」


ほぼ同時に発動された二つの魔法は、アニスには正しく二重に見えたが、分からなければ一つの風の刃にしか見えなかっただろう。

それらはホーンタイガーの首元を大きく切り裂き、そしてホーンタイガーはこと切れた。


「やったね、シズ」

「う、うん」


自然と笑顔になったシズアを見て、これで少しでも自信を付けて貰えればとアニスは願うのだった。


流石、アニスは戦い慣れしていますね。


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