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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-17. アニスとシズアは公爵と面会する

執事が扉を叩く。

アニスとシズアは、控えの間に迎えに来た執事によって、この扉まで連れてこられた。

侍女のレーネは執事が来る前に去っており、執事とは顔を合わせていない。


「お約束のお二人を連れて参りました」


執事の様子からして、扉の向こう側には公爵がいるのだろう。自然と緊張感が高まる。


「入りなさい」


部屋の中から答えがあった。

執事が扉の取っ手を握り、奥の方へと押し開く。


「どうぞ、お入りください」


執事は開けた扉を押さえたまま、二人を中へと促した。

大人しく指示された通りに部屋の中へと足を踏み入れるアニスとシズア。


広い部屋だが人は少ない。二人から見た部屋の奥、大きな窓の手前に壮年の男性が一人、机を前にして座っている。

その脇に立つ男性が一人、入口の扉の両脇に兵士が二人。

脇に立つ男性も、年の頃は奥に座る男性と同じ程度に見える。


二人が部屋に入ると、執事は一礼して扉を閉めた。執事は部屋に入らないらしい。


部屋にはソファもあったが、勧められないうちは座れない。どうしたものかと扉の前で立ち尽くしてしまう。


「お前達は?」


奥に座る男性に声を掛けられハッとしたアニスは、アルバートから教えられていた礼儀作法を思い出し、立ったまま軽く頭を下げる。


「お初にお目にかかります。ザイアス子爵領の冒険者アニスにシズアと申します。本日は、公爵様に宛てられた書状を持参いたしました」


そうだった。言われなくても名乗って用向きを伝えないといけないのだった。


「うむ、良いだろう。ネルソン、書状を受け取ってくれるか」

「はっ」


奥に座る公爵の指示を受け、傍らに立っていた男性がアニスに歩み寄る。

アニスは、その男ネルソンに、アルバートより預かった書状を差し出した。


書状を受け取ったネルソンは、そのまま公爵の脇へと戻り、公爵に書状を手渡す。


ペーパーナイフで封を開け、取り出した紙に書かれた文面に目を通すと、公爵は顔を上げ、アニス達に視線を向けた。


「これの中身について、どの程度聞かされている?」

「アルバート様は第一王女殿下とお近づきになりたいとお考えで、公爵様におとりなしをお願いしたいと言われておりました。それがすべてです」


アニスは、アルバートから指示された通りに答える。

その指示を受けた時にはシズアも一緒であったこともあり、魔女に関した話題は一切含まれていない。


「そうか」


公爵は一言そう呟くと、少し間を置いた。


「となると、返答も書状とするのが良いのだろうな」


次の発言は、独り言か話し掛けているのか分からない物で、アニスは反応に困った。


「そうしていただけますと私達としても幸いです」


代わりに反応したのはシズア。


「うむ。未成年の冒険者と聞いておったが、なかなかしっかりしているな」

「畏れ入ります、公爵様。それで、あの」


丁寧に礼をして頭を下げたところから、上目遣いに相手を見詰める姿勢を取った。

あからさまにおねだりをしようとしている。

できればその目で自分を見て欲しいとアニスは思うが、今の目的は公爵と話すことだ。

公爵の気を引けなければ意味はない。


「何かあるのか?」


シズアに公爵が尋ねた。

貴族、中でも公爵ほど高位の人物には、中々平民から話題を振るのは難しい。しかし、問われれば別だ。


「あの、ザイアス子爵様の書状のお話とは別に、あと二つばかりお話させていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「手短ならば構わんが、何だ?今聞かせてみなさい」

「はい、一つは貧民街の治安維持について、もう一つは公爵様に宛てた別の御方からの書状についてのお話になります」


そこでシズアは再び上目遣いになる。

シズアは可愛い。とは言え、これはあざといとアニスでも思う。

まあ、これくらいのことで話が出来るのなら、安いものではある。


「貧民街か。あそこはならず者達が幅を利かせている地区だな。彼らを何とかしたいと言うことか?」

「ならず者達と言われているのはコーモン一家のことでしょうか?」


「ああ、そんな名前だったかな?」

「あの人達とは話をしてみました。昔は荒れていたようですけど、最近は矯正したみたいで」


「矯正させられたのだろう?彼らがゴッドマムと呼ぶ者に」

「大変失礼しました。良くご存知なのですね」


シズアが胸に手を当て、頭を下げて畏まる。

そんなシズアを公爵がにこやかに眺めていた。

これって気に入られてるってことかな、とアニスは思う。


「貧民街のことは亡き父上も気にされておったしな。情報収集は欠かしておらん。あそこの様子を把握しているからこそ敢えて放置しておるのだ。でなければ、とうの昔に兵隊を送り込んで制圧しておっただろうな」

「公爵様のご思慮に感謝を。その上でのお願いになるのですが、今の貧民街の状況を公爵様に追認いただけないかと」


「何のためにだ?」

「あの地区に神殿を復活させたいのですが、神官達は憲兵が立ち入れないところには戻れないとのことで。でも、公爵様がコーモン一家の活動を認めてくだされば、神官達を説得できるように思うのです」


「そうか、神殿か」


それだけ呟くと、公爵は目線を下げた。その目は何も見ておらず、考え事をしているように見えた。

少ししてシズアに目を向けたものの、公爵の表情は冴えないままだ。


「事情は理解するが、(だく)とは言えん。理由はお前になら分かるのではないか?」

「民衆の勝手を許すことになってしまうからでしょうか?」


「そうだ。一つでも例外を認めれば、我も我も後に続こうとする者が現れるのは想像に難くないよな?それ相応の理由付けがあれば兎も角も、だ。ネルソン、何か良い知恵は無い物かな?」


公爵は傍らに控える腹心に顔を向けた。

だが話を振られたネルソンも困ったような顔をしている。


「そうですね。公爵家の立場では動き難い案件に思います。しかし、考えてみるに、この一件は神殿の神官達が言い出していること。彼らが納得できる説明が用意できれば、解決できそうに思います。彼らと話し合って、どこかで折り合いが付けられないものか探ってみるのは如何でしょうか」


「それもそうだな。ただ、それとて公爵家として動く訳にはいかぬ話だな」


と、意味ありげな視線をシズアに向ける。

シズアは再び胸に手を当て、軽く頭を下げた。


「公爵様の御心のままに。私達が神殿に赴きたいと存じます」


そう宣言するとシズアは顔を上げ、真っ直ぐに公爵の目を見る。


「それに当たり、一つお願いがあるのですが」

「何だ、言ってみよ」


「私達は神殿の中に知人がおりません。どなたかご紹介に(あずか)ることはできますでしょうか」

「ふむ、そうだな」


公爵は顎に手を当て、考える。


「紹介だけなら差し支えあるまい。そうだ、娘のティファーニアを頼るが良い。ザナウス神の巫女だ。お前達の力になってくれるだろう。紹介状を用意するから持って行け」

「ありがとうございます」


シズアは今度はもう少し深く頭を下げた。


ティファーニアの名は、アニスがザナウス神から聞かされてもいた。

公爵の娘だから、名前が出てくるだろうことは予想の内だ。

そうでなければこちらから名前を出すことも考えていたが、そうせずに済んで助かったと言える。


「では、貧民街の件はそれで良いな。後は、もう一通の書状だったか?」

「はい」


話の流れでシズアが答えつつ、アニスに目配りをした。

アニスは懐から書状を出し、公爵に見えるように両手で差し出した。


「これにございます」


一通目の書状と同じく、ネルソンがアニスから書状を受け取り、公爵のところへと運ぶ。

公爵は書状の裏側の差出人の名を読み、眉をぴくりと動かした。


「ん?ラターニアだと?お前達、ラターニアと面識があるのか?」

「はい、まだ知り合ったばかりですけど」


正直に答えるアニス。

だがそれでも腑に落ちないようで、公爵は首を傾げながら封を切り、手紙を取り出した。

そして書かれた文面に目を通し、ウーンと唸るともう一度目を通す。それからファイアと唱えて掌の上に火の玉を出し、読んだ手紙を燃やしてしまった。


「クロード様、どうかなされましたか?」


いつもと違うものを感じたか、ネルソンが問い掛ける。

だが、公爵はそれには答えなかった。


「ネルソン。昼はあの御方との会食だったな?」

「はい、そうですが?」


ネルソンは公爵の意図を測りかねたような返事をする。


「この二人の席を追加するように手配してくれ」

「は?」


口に出してから、ネルソンは間抜けな反応をしたことに気付き、取り繕うように姿勢を正した。


「い、いえ、失礼いたしました。早速手配いたします」


言うが早いかネルソンは部屋から出て行った。

公爵は話に付いて行けていない二人を見やる。


「お前達には昼食を共にして貰うぞ」

「はい」

「あのう」


直ぐに返答したアニスに対し、シズアは物言いたげな目線で公爵を見ていた。


「何か問題があるのか?」


眉を(ひそ)める公爵に対し、首を横にするシズア。


「いえ、そうではなくて、できればドレスに着替えたいのですけど?」


まさかここでドレスのことを持ち出すとはアニスはまったく想像しておらず、どれだけシズアが城でのドレスの着用に憧れていたのかに気付かされたのだった。


アニスは服装には無頓着ですが、シズアはそうではないようですね。

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