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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-15. アニスとシズアは相談を持ち掛ける

「さて、腹も満たされたことだし、荒くれ者らのところに向かうのにゃ」


食堂から出たところでキョーカが気勢を上げる。


「で、その人達は何処にいるの?」


「ここにゃ」

「ん?食堂?」


キョーカの指の先にあるのは、今お昼を食べていた食堂。

どう言うこと?とアニスは首を傾げる。


「やつらの事務所はこの建物の三階にゃ。ほら、見るにゃ。三階の窓に『コーモン一家』と書いてあるにゃ」

「あ、ほんとだ」


建物を見上げてみるとキョーカの言葉通り、地上から三列目の窓に「コーモン一家」とある。


「では、早速行くにゃ」


キョーカは食堂の扉の脇の通路を入っていく。そこには階段があり、上り切ると廊下に出た。その廊下を歩いて上って来た階段の背後に回り込むと、三階へと続く階段があり、それを上っていく。


そして三階にも廊下があり、幾つか扉が並んでいたが、階段を上った目の前にある「コーモン一家」と書かれた扉をキョーカは躊躇せずに開いたのだった。


「おい、コーモン様、いるかにゃ。客人を連れて来たにゃ」


キョーカはコーモン一家の事務所に入るやいなや、部屋の奥の方に向けて声を張り上げた。


「そんなに大声出さずとも聞こえておりますぞ。それと(わし)の名は、コーモンではなくミックニーですぞ」


部屋の奥から返事があった。

声の主はと見てみると、白髪をオールバックにし、あごひげを長く伸ばした老人が大きな机に肘をたてて座っていた。

机の両脇には、がたいの良い青年が二人立ち、(にら)みを利かせている。


その空間は、普通の人間なら近付きたくない雰囲気を醸していたが、キョーカはまったく気にすることなくそちらへと向かう。


「固いことを言うものではないにゃ。母様からはコーモンって呼んでたと聞いているにゃ」

「前にも言ったと思いますが、それはゴッドマムだからこそですぞ。お前さんは顔はそっくりなれど、猫耳を付けていたり、にゃーにゃーと鳴いていたり、ゴッドマムとは全然違いますぞな。ゴッドマムは本当に風格があったのですぞ」


腕に力拳を作りながら、力説するミックニー。


「ワシだって母様と同じくらい強いし、風格もあるにゃ。それが分からないとはコーモン様も耄碌(もうろく)してきているにゃ」

「姉様。それはきっとコーモン様の思い出が美化されまくっているからではないかとスイは推察するのです」


「ふん、昔の思い出に浸って現実が分からなくなったのなら、もはや引退どきなのにゃ。とっとと後進にその席を譲れば良いにゃ」

「儂を愚弄するつもりかな?まったく、誰を相手にしているか分かっておらぬとは。カーク、スッケサーン、懲らしめておやりなさい」


「はいっ」


ミックニーの両脇に立っていた二人がキョーカ達に掴み掛かる。

だが、キョーカ達の反応は早かった。


スイは向かってきたカークの腕を握り、ヒラリと身を(かわ)しながら後ろへと回り込み、カークの後ろ膝を突いて立て膝にさせると腕をねじ曲げて押さえ付けた。


キョーカもスッケサーンの腕を握り、こちらはそのままスッケサーンを一回転させて背中から床に落とし、そこで握った腕を捻ることで相手をうつ伏せにして押さえ付けた。


どちらもあっという間の出来事だ。


「まったく、しばらく顔を出していなかったら、ワシらの強さを忘れてしまったのかにゃ?それとも客人の前ではしゃぎたかっただけかにゃ?」


スッケサーンを組み伏せながら、詰まらなさそうな表情でミックニーを見るキョーカ。


「全然スイ達の敵ではないのです。特訓が必要なのです。何ならスイが稽古をつけてあげるのです」

「いや、そこはお構い無く…」


身動きできないカークが、情けない声を上げる。


「で、コーモン様、どうするにゃ?年寄りをいたぶるのは趣味ではないが、望むなら相手をしても良いにゃ」

「いや、もう勘弁してくれまいか。儂のことはコーモンと呼んでくれて良いですぞ」


先程の覇気はどこへやら、ミックニーはあっさり負けを認めてしまった。


「何だもう終わりかにゃ。詰まらんにゃ」

「姉様、ここには喧嘩しに来たのではないと思うのです」


「え?あっ、そーだったにゃ。アニス達の用事で来たにゃ。アニスにシズア、こっちに来るにゃ」


キョーカはスッケサーンの手を離し、アニス達を手招きする。

それに応じて前に出る二人。


「儂に何ぞ用があるのですかな?」

「貧民街の荒くれ者達を纏めてるって聞いたんだけど」


キョーカとスイに簡単にあしらわれているのを見て、本当に纏められているのか半信半疑ではあったが、アニスは話し始めた。


「ああ、そうですぞ。もっとも、儂達が大きな顔をしていられるのはゴッドマムのおかげではありますが」

「ゴッドマムって、キョーカのお母さんのことだよね?何があったの?」


「あの当時、この辺りは本当に荒んでおったのです。強盗殺人やら人身売買やら、何でもありの時代でしたぞ。それをゴッドマムとビッグシスターは二人で一掃してしまわれました。そうした後、儂達は真っ当な道を歩き始め、今に至ったのでありますぞ」

「それからは何も悪事を働いてないってこと?」


「いえ、そうでもありませぬが、無関係の一般人、特に貧民街の住人を巻き込むことはご法度(はっと)となり、治安は随分と改善されたのですぞ。その代わりに儂達の実入りは減りましたので、人材派遣や屋台、食品加工に飲食業などに手を広げ、商売で稼ぐようになりましたな。その後、商売の方はミトハーン商会として分離し、こちらの組織とは独立に運営しておるのです」


机の上で肘を突きながら、ミックニーはドヤ顔で説明した。

一度は先代キョーカに潰されかけたが、商売で上手く立て直せたことが自慢なのだろう。


そんなミックニーの話を、アニスは感心しながら聞いていたが、シズアは違ったようだ。


「あのう。ミトハーン商会って、誰が命名したのです?」


シズアは怪訝な表情で尋ねた。


「儂ですが、何かありましたかな?儂の家名であるミトハーンをそのまま使ったものですぞ」

「えっ、そうなの?そんな偶然もあるのかぁ」


「ん?偶然?何がですかな?」

「あっ、いえ、こちらの話です」


ミックニー・ミトハーンと言う人物は最初からいた。


その人物をコーモンと呼び始めたのは先代キョーカ。だから、組織の名前もコーモン一家になった。

それから、カークって、多分、食堂のベティの息子だ。顔形に似ているところがある。その彼の名付け親は先代キョーカ。


なので、シズアはスッケサーンの名付けの経緯が凄く気になった。

だが、これ以上確かめたものかどうか。


そんな風にシズアが躊躇(ちゅうちょ)して黙っていると、アニスが本来の話を切り出した。


「ねぇ、一つ聞いても良い?」

「何ですかな?」


「私達、神官の人達に、放棄された南の神殿に戻って来てってお願いしようと考えてるんだけど、どう思う?」

「そうですな。神官方が戻ってくれば病人を治療して貰えるでしょうし、神殿学校が開かれるでしょうから、良いことだと思いますぞ」


「だったら協力して欲しいんだけど。神官達は、貧民街に憲兵が入って来られないから、こっちに来たくないって言ってるんだって。だから憲兵が入れるようにしたいんだけど?」


アニスは控え目に相談事を持ち出したのだが、ミックニーは首を横に振った。


「この街に、憲兵を入れることはできませんな。憲兵は貴族の味方ですぞ。ここの住人と儂達との関係性が良くなっているのは儂達が憲兵を入れないことも大きな理由でもあり、住人達の期待に背くことはできんのです」


「まったく駄目?」

「駄目ですな」


「ちっとも駄目?」

「妥協はできませんな」


「全然駄目?」

「交渉の余地もないですな」


「そかー」


アニスは応援を求めてシズアを見る。

だが、シズアにもアイディアは無く、首を横に振った。


「一度、公爵様とも話をしてみようよ。何か案を思い付けるかも知れないから」

「そだね。分かった」


力づくで言うことを聞かせたとしても、コーモン一家と住人の間に溝ができてしまっては問題だ。アニスは一旦、引き下がることにした。



* * *



コーモン一家の事務所を後にし、キョーカ達とも別れた後、街中を歩きながらシズアは考えていた。


これまでにキョーカ達と話した内容、それにシズアの前世の記憶を合わせると、キョーカ達が何者であるのか、朧気ながら分かってきたような気がした。が、もし想像の通りなら、彼女達は秘密主義者だ。アニスが知れば、アニスに危険が及ぶ可能性がある。

だからシズアは、そのことは心の中にしまっておくつもりだった。


一方のアニス。

シズアが何かを気付いているような感じがする。

だが、それが魔女に関わることだとすれば、下手に話をすることで(かえ)ってシズアに情報を与えてしまいかねず、そうなるとシズアが危険に晒されてしまうことになる。


そのため、シズアに言いたくても言えず、聞きたいことが聞けないアニスの心の中はモヤモヤしたまま、もどかしい想いが渦巻いていた。


シズアの前世の話は、いつか出てくるだろうと思います。


さて、すみません。次回、金曜日の更新は難しいと思います。加えて、週末は都合により更新できません。そのため、早くて日曜日夜、遅いと月曜日夜の更新になろうかと思います。


まあ、元々不定期更新なのですが、ここのところのペースと変わりますので、予めお知らせしておきます。

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