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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-13. アニスとシズアは支援の状況を聞く

アニス達は、旧南の神殿内の一室のソファに座っていた。

二人の隣にはスイが座り、キョーカは後ろに立っている。


キョーカ達には、ここまでの案内と支援者達への紹介を頼んでいた。

依頼料代わりに泥棒騒ぎの背景について分かったことや推測を話し、今後の計画を伝えたところ、快く支援者達への取り次ぎ役を引き受けてくれた。


支援者達の組織は、ネクティ・ハーペルと言うらしい。直訳すれば、明日への希望。

そのネクティ・ハーペルの代表者であるコナー・ボブスレーが、アニスの向かい側に座っていた。

コナーはそろそろ老年に差し掛かろうというところか、白髪交じりで老眼鏡を掛けた男性である。年の割りには腹も出ず、スマートな身体付きをしていた。


「ようこそいらっしゃいました。今日は我々の活動内容をお知りになられたいとか」

「はい、困られていることなどお聞きしたくて」


応じたのはシズアだ。

そのシズアを見て、コナーは困った顔をした。


「お話するのは構わないのですが、少々難しい内容になるかも知れません」


シズアがまだ幼く見えるからだろう。予想された反応ではある。

冒険者は実力がすべての世界であるし、剣技や魔法に優れたところがあれば、年若いながらも一人前の冒険者になり得る。

しかし、商売の世界はそうではない。未成年者は大抵見習いだ。仕事について覚なければならないことだらけであり、商売の話をして理解できるとは思われていない。


「ご心配には及ばないと思いますよ。私は商会の事業開発室長をやらせていただいておりますので」


シズアはコナーの前のテーブルの上に、自分の名刺を置いた。

名刺には、商会名やシズアの名前に加え、商会の商業ギルドの登録番号、それにシズアの肩書きとして、「副会長」と並べて「事業開発室長」の文字が記されている。


「コッペル姉妹商会ですか。聞いたことがありませんね」

「ええ、そうでしょうね。北のザイアス子爵領が本拠地ですから。それに、今年の夏に立ち上げたばかりです。でも既に五十万ガル以上の売上を記録しました。そのことは、商業ギルドでも確認して貰えます」


もっとも、その売上の大半は魔動二輪車のもので、一般には販売していないのだが実績には変わりない。

そして、商業ギルド経由の取引額は、商会が許可すれば開示される。真っ当な商会はきちんと情報公開して信頼を得るべきとのシズアの主張により、商会の半年単位での取引総額については開示するよう設定してある。


「ほほう、立ち上げたばかりなのにそれなりの実績をお持ちとは。どうやら私の見立て違いのようで大変失礼しました。では、お話させていただきたいと思います」

「お願いします」


シズアは眼鏡のつるを持ち、眼鏡の位置を直す仕草をした。

眼鏡によって、少しでも年上に見せたかったようだが、コナーに影響を与えたかと言えば疑問の余地がある。

アニスにしてみても、眼鏡はシズアの可愛さを増すアイテムにしか捉えておらず、眼鏡をすれば年上に見えると考えているのはシズアだけかも知れない。


「我々ネクティ・ハーペルでやっているのは、炊き出しなど食糧の支援と、教育関係のお手伝いになります。教育と言っても、読み書きを教える程度ですが」

「それをずっとここでやられているのですね」


「ええ、私も幼い頃、ここに住んでいたことがありまして。私の場合、縁あって商人に拾っていただき身を立てることができました。しかし、誰もが必ずしもそうした幸運に恵まれる訳でもありませんから、少しでもお手伝いができればと思いまして」

「とても立派なことと思いますけど、いつまでも続けられるものでもありませんよね?」


こうした活動は、それを引っ張る人物がいなくなれば、立ち消えてしまうもの。シズアの発言は、それを指摘したものだ。

問われたコナーも異論はないようで、頷きながら口を開いた。


「私が動ける限りは続けたいとは思います。ただ、今のままでは状況を好転させるのが難しいのも確かです。もっと大きな力がないと――」

「公爵様のことですか?」


シズアは口を濁したコナーの意を()もうと具体名を挙げてみる。


「そうですね。公爵様もですが、実は公爵様には陰ながら支援をいただいているのです」

「それって、金銭的な?」


もしかして、先代の公爵の隠し金貨のことを指しているのか。

まさかとは思うが。


「いえ、直接的にお金をいただいているのはありません。実は、お城で備蓄している食材の中で、古くなったものを格安で譲ってくださっているのです。お蔭で食糧はある程度は何とかなっています。課題なのは教育とか病気などで、そこは本来、神殿の領域なのですが」

「あー、ここは放棄されたのでしたね」


「そうなのです。私が生まれる前に疫病が流行ったことがあり、そのときのことと聞いています。神殿に患者を集めて治療に努めていたものの、治癒魔法もポーションもなかなか効かない病気で、多くの死人が出たそうです。でも、一番の問題はそれからで、神殿内での死者がゾンビになって歩き回り始めると言う事件が起きたのです。それで、ここは呪われていると放棄されてしまいました」

「ゾンビが呪いのせい?」


首を傾げてシズアは隣の姉を見る。


「アニー、どう思う?」

「ん?死体を動かす闇魔法はあったと思うけど、それかなぁ。でも、それもずっと魔法を発動しておかなければならなかった筈だから、いつまでも長続きするものじゃないよね」


「それは少し違うにゃ」


キョーカが話に割り込んできた。


「死体操作の魔法は闇属性の上位魔法になる深淵魔法だにゃ。それに、その魔法は魔石に刻んで設置魔法にもできるにゃ。ただ、魔法の範囲外では動かなくなるし、設置魔法は調べればあるかどうかは分かるにゃ」


「スイ達は魔法は見えませんが、何かあれば感じることができるので、お役に立てると思うのです。それにもっと確実な方法もあるのです」

「確実な方法って?」


姉の言葉を補足したスイに問い掛けるアニス。


「ハデュロス神に尋ねるのです。神殿のことを神が分からない訳がないのです」

「それもそか。でも、ハデュロス神の巫女を連れてこないだね」


アニスの指摘はその通りだが、パルナムの神殿にはハデュロス神の巫女も何人かいるだろうし、その内の誰か一人を連れて来るくらいなら何とかなりそうに思える。


「では、まず私達で確認してみて、それから神官達に相談しにいきましょうか?」


シズアが話をまとめようとするが、コナーの浮かない表情のままだ。


「皆さんのお言葉は有難いのですが、問題はそれだけではないのです。以前、ここに戻ってきていただけるよう、神官達にお願いに行ったことがあるのですが、彼らはゾンビ事件のことに加えて、治安についても懸念されていまして」


治安。また新しい話だ。

まあ、アニス達がここに来るにも用心のためにキョーカ達に案内して貰ったくらいだし、神殿側の心配も分からなくはない。


「治安は憲兵、引いては公爵様の領域ですね」

「はい、ですが憲兵はこの地区には入ってこようとはしないのです。と言うのも、貧民街では憲兵に反目している組織が幅を利かせていまして」


「それは犯罪者組織、つまり悪い奴らってことですか?」

「それがそうとも言い切れませんのでして」


コナーの歯切れが悪い。

シズアは意味が分からず、ちょこんと首を傾げた。

アニスはシズアのそんな様子が可愛いと見とれている。


誰も口を開かないので、コナーは仕方なさそうに話を続けた。


「彼らは荒くれ者の集まりですが、人の道に外れることをよしとせず、弱者の味方を掲げています」

「弱者の味方?」


「はい。例えば、貴族と平民の間で何かいざこざがあったとして、憲兵はどちらの言葉を信じると思われますか?」

「普通には両者の言い分を聞いて、正しい方を見極めないといけないと思いますけど、そうはなくて、貴族の言い分を取ると言うことですか?」


「過去、そうしたことが貧民街で起きたのです。それ以降、貧民街の住人達は憲兵を嫌い、荒くれ者達と協力して憲兵の立ち入りを禁ずるようになりました。そして、憲兵が立ち入れない地域には、神官達は入りたくないと言われまして」

「厄介な話ですね」


話を理解したシズアは溜息を吐いた。


「ワシの耳には、神官達は単にここに来たくないがために、言い訳を並べているだけのように聞こえるにゃ」


キョーカが割りとまともな感想を漏らす。


「彼らが今いる神殿を本気で呪えば、皆ここに来ると思うのです」


割りと物騒なことを言うスイ。


シズアはそんなことはできないだろうと冗談交じりの話として聞いていたが、アニスはキョーカ達なら本気でやりかねないと心配になっていた。


本気で呪うと一人称で言っているところに、アニスはスイの本気を感じたようです。


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