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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五A章 アニスとシズア、公都パルナムで戯れる
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5a-10. アニスは神の昔話を聞かされる

招かれざる客ではあるものの、ザナウス神はこの世界の神々の一柱。


『あのう、ここは神殿ではないのですけど』


一応、遠慮がちに苦言を呈するアニス。


神は神殿の大きな像のあるところに降りてくる。だからこそ、そうした神殿に神の巫女を配置する。

そうアニスは聞かされていた。

だがここは貴族の屋敷の一室であり、神殿ではない。


『ん?我らと話をするのに、神殿でなければならない決まりはないぞ。そもそも、人と我らの交流の当初は神殿なぞ無かったことは説明の必要もあるまい?』


まぁ確かに、神の存在を知らなければ、神殿を作ろうと考える筈もない。


『じゃあ、どうやって人は神のことを知ったの?』


アニスは素朴な疑問をぶつけてみる。


『我らと人を結び付けたのは精霊だ。精霊が人に興味を持ち、人の言葉を学び、人と話すようになった。それによって魔法と魔法を司る神のことが人々にも伝えられた。それから神の像が作られるようになり、更にその像を(まつ)るための神殿が建てられていった』

『ふーん、そか。だったら最初は精霊契約した人が神と話していたってこと?』


『いや、そうではない。精霊契約には、神との結び付きを強める効果はないのだ。持って生まれた得意属性が基本すべて。その得意属性の中でも、魔力眼持ちは神に声が届き易かった。なので最初期は神の巫女と言えば魔力眼持ちだったのだ。そしてそれ故に、今でも魔力眼持ちの巫女が、神の巫女の中でも最上位とされている』


ザナウス神の話は、アニスにとっては初めて聞くものばかりだ。

この手の歴史は、神殿学校に行けば教えて貰えたかも知れないが、神から直接聞かされた者はそうはいないだろう。


『声の届き易さには個人差があるの?』

『そうさな。人によっても変わるし、同じ人間でも場所によって変わる。神の像を前に祈れば、祈りの声は大きくなり、神殿であれば尚更な。なれば神の巫女は神殿に集められ、神殿でのみ神の声が聞こえるとの話になっていったのだ』


なるほど、神殿もまったく無意味ではないのだ。


『だが、それは人間達の間での話だ。我らの有り様は変わらない。だから、神殿ではなくとも我は汝の呼び掛けに応じた。汝の声はよく聞こえる故にな』


有難い話である。

どこであっても祈れば神に通じるなんて、普通であれば他者に誇れるものだ。

だが、アニスにはアニスの都合がある。


『だとしても、祈りに応じるのは本気で呼び掛けたときだけにして貰えると嬉しいのだけどね』

『そう言ってくれるな。我だって場は弁えておるつもりだぞ。先日、パルナムの西神殿での祈りには応じなかったであろう?』


振り返ってみると確かにそうだ。

ラウラ達に西神殿に連れていかれた時にも神の像の前で祈りを捧げている。あそこには人が沢山いたから、神が降りたとなるとちょっとした騒ぎになっていただろう。


『でも、ここにも他人がいるんだけどね』

『そうだが、王国側の人間ばかりだ。神殿に入ることにはなるまいよ』

『どう言うこと?』


アニスはザナウス神の言葉の意味が掴めずにいた。


『国の為政者と神殿とは必ずしも同じ考えで動いているとは限らんのだ。まあ、最近の王国内はそれぼど仲が悪くもなかだろうが、それでも汝を神殿に渡したいとは考えまい。適当に誤魔化せば何とかなると思うぞ』

『えええー』


ラウラ達相手にどう適当に誤魔化せと言うのだろうか。


『せめてマルレイア神なら良かったんだけどな』

『な、汝は我よりあ奴の方が良いと言うのか?』


ザナウス神の声に落胆の色が混じっている。


『好き嫌いの話でじゃなくて、私は水属性しか使えないことにしてるからってこと』


何故自分はザナウス神に気を配っているのかと思いながらも、勘違いを正そうとするアニス。


『何だ、そんなことなら、単に相性が良かったからと言っておけば良かろう』

『え?得意属性とは関係ないってことで良いの?』

『良いのではないか?何にでも例外は存在するものだ』


とても軽い感じで回答が来た。

アニスにとっては大切なことだが、神からすれば些末なことらしい。


『だったらまあ、例外ってことにしてみるけど』


アニスは最早諦めの境地に至っていた。


『それで何のために出てきたの?』

『それは汝が呼んだからだが?確か、神の像を動かして良いかだったか?』


『え?その話?』


確かに祈りの際に、そう念じていたのではあるが。


『我を呼んでおいて何を言っておる。答は、そうだな、神の像は銅像だけに、どうぞう(銅像)ご自由に、だ』

『は?』


まさか、その駄洒落を言いたかっただけ?


神の巫女にされてしまうかどうかの状況に追い込まれた代償が、たったそれだけだとすると、まったく割りに合わない。


『他にお告げとかは無いの?』

『無いな。汝は何か我に尋ねたいことでもあるのか?』


質問を返されて、ハタと考える。


『そだね。次の王様になるのは誰か、とか?』

『その問いには答えられん。神でも未来のことは分からんからな。それに未来が決まってしまっていたら、詰まらんだろう?』


『まぁ、そか。だったら、お祈りしても、神と話さないで済む方法とかは?』

『汝は我と話したくないと言うのか』


ザナウス神の声が半泣きになった。


『そうじゃないけど、こっちの都合もあるし』

『だから我も時と場所は選んでおると言っておろうが。ともかく、それ程言うのなら教えてやらんでもないが、あまり乱用してくれるなよ』


『うん、分かった。で、どうするの?』


アニスが問うと、ザナウス神の溜息が聞こえて来た。


『そうだな。祈りの最初に「これは祈りの練習です」を二度繰り返すが良い。そしたら我から話し掛けるのは差し控えよう』

『それだけ?』


『不満か?』

『ううん、全然。ありがとう』


祈り方を変えるのでなければ、アニスの声は届いてしまう筈だ。だから祈りの最初に定型句を付けろと言われたのだろうが、何だかザナウス神に気を遣わせてしまったようで、申し訳ない気分になる。


『では、我はそろそろ去るとするか』

『うん、またね』


アニスは別れを告げるが、少ししても神の気配は消えずに残っている。


『済まない、一つ言い忘れたことがある』

『何?』


『このパルナムにいる間に何か相談したいことができたら、ティファーニアを頼れ』

『ティファーニアって、ここの神殿にいるって言ってた神の巫女のこと?』


『ああ、そうだ。では、今度こそさらばだ』


唐突に神の気配が消えた。

最後の一言は、お告げだったのだろうか。

今の時点ではどんな相談をしたものか思い付くこともないので、取り敢えず頭の隅に入れておくだけにする。


それにしても、これからどうしよう。

後ろの様子は、魔女の力の眼で大まかには分かっている。

だからずっと背中を見せたままにしたいが、実際にはそうはいかない。


アニスは祈りの姿勢を解くと、立ち上がって後ろに向き直る。


見ると、執事のエリックが、涙を流しながら跪いて熱心に祈りを捧げていた。

他の人達はエリックの周囲に立ち、呆然としながらアニスとエリックを交互に見ている。


参ったなと思うアニス。


エリックが魔力眼持ちであることは、最初に会った時から分かっていた。

アニスの祈りにザナウス神が答えた時、エリックはアニスを包む神の気配に気付いたのだろう。

それが神の気配であることをエリックが知らなければ誤魔化すこともできたのだろうが、残念ながら知っていたらしい。


そして、エリックがそれを伝えたから周りの人達にも分かってしまった。


この状況で、どうしたものかとアニスは考えるが、良い案を思い付けない。


ええい、ここは神の言葉を信じて正直に言ってしまおう。アニスは腹を括った。

まずは、と皆に向けて笑顔を作り、それから口を開く。


「神の像、動かしても良いって。どうぞぅ、だそうだけど」


アニスは駄洒落も混ぜてお茶目な雰囲気を演出してみたのだが、誰の目も笑っていなかった。


冗談が滑るといたたまれない気持ちになりますよね。

アニスもそんな感じです。

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