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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第一章 アニスとシズア、決心する
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1-10. アニスとシズアは邪魔して欲しくない

二人はアニスがフォレストボアの一頭目を狩った場所からさらに北へと歩を進める。

途中で、牧草地の柵が左方向へと離れていった。そこから北には岩場があって、牧草地には向かないためだ。

岩場は牧草地の柵ほど森の近くではないため、森との間には草原が広がり野生の草食動物の良い餌場になっていた。


「ここにいそうだね」


シズアが期待の声を上げるが。


「でも、見えない」


直ぐに冷めた口調になる。


「まあ、この辺りは人が通るからね。もう少し向こうに行けば、きっといるよ」


アニスは楽観的に応じた。


二人が歩いている岩場と森に挟まれた草原は結構北に長い。今ここで見付からなくても暫く歩いていれば一頭や二頭はきっといる。そうアニスは考えていた。

実際、牧草地の北東の端から離れて北へ上がって十分も歩かないうちに、岩場の近くで休んでいるフォレストボアが視界に入ってきた。


「アニー、いたよ」

「うん、そうだね。それに兎とかもいる」


兎に限らず、小動物が草原の中を動いているのがちらほらと見える。

岩場の斜面からそっと吹き降ろすそよ風に草の葉を揺らし、動物たちがゆったりしている様は、非常に長閑(のどか)だ。


「シズ、いつ肉食の魔獣が来るかも分からないから気を付けてよ」


アニスはこうしたのんびりとした光景が見えていても、危険な存在によって瞬く間に一変してしまうことを知っているので、緊張感を持つようにとシズアに注意を促す。


「うん、分かった。それで私行くから、アニーは後ろで見てて」

「良いよ」


先程アニスがそうしたように、シズアはゆっくりとフォレストボアに近付いていく。あまり離れ過ぎているといざという時に援護ができないので、シズアと一定の距離を置くようにしながらアニスも前へ出る。


シズアが止まる。

その位置で手を前に掲げたシズア。魔法を使おうとしているのだとアニスは見て取った。

もう少し標的に近付けそうだけどと考えながらも、余計な口出しはシズアの成長の妨げになると、アニスは黙って見守る。


シズアは小声で呪文を唱えているのか、アニスのところには何も聞こえてこない。

しかし、シズアの掌の先に現れた緑色の紋様が、魔法の種類を教えてくれた。


「ウィンドカッターだね」


妥当な判断だ。今シズアが使える風魔法の中で、一番攻撃力が高く制御もし易い。シズアの魔力量を以てすれば、フォレストボアを両断することすら可能だろうと思うのだが、如何せんシズアの熟練度が低く訓練ではそこまでの威力は出せていなかった。


シズアの魔力の使い方には無駄が多い。攻撃の威力が出ないのは、魔法の紋様に魔力を集められないからだ。紋様の周囲に沢山の魔力が広がっていて、効率重視のアニスから見ると勿体ないと思えてしまう。


それでもアニスの魔力を集中させるのと同じくらいの魔力がシズアの紋様に蓄えられている。当たり所が良ければ、一撃で倒せるかも知れない。

よーく狙ってね、とアニスは心の中で応援する。


「ウィンドカッター」


シズアの力ある言葉と共に風の刃が飛び出し、フォレストボアに斬りかかる。


「惜しい」


シズアが狙ったのは、フォレストボアの頭から首筋にかけての筈。でも当たったのは少し外れた肩の辺りだった。ただ、致命傷にはならなかったにせよ、左脚を引きずるようになり、動きを鈍らせることには成功した、筈だった。


「あらま」


フォレストボアがたどたどしく草原を逃げ惑い、シズアが後ろから追撃して倒す。アニスはそんな筋書きを描いていたのだが、予想が外れてフォレストボアは岩場の斜面を登ってしまった。


そしてシズアはと言えば、斜面の下からでは剣が届き難いため、フォレストボアと同じ高さにまで斜面を登ろうとしていた。

ここは魔法を使うところかなとアニスは思ったが、頑張っているシズアは可愛いから良いのだ。


さらにシズアがフォレストボアと同じ高さまで斜面を登ったところで、フォレストボアが斜面を下りてしまい、置いてきぼりを喰らったシズアの表情にもキュンとした。


流石にシズアも、そこから岩場の斜面を下りて追い掛けるより、魔法の方が早いと判断したようで、手を前に掲げているのが見える。

じきに魔法の紋様が現れるが、焦っているのか魔力の集まりが悪い。


「ウィンドカッター」


風の刃がフォレストボアに後ろから襲い掛かる。しかし、脚を一本引きずりながらも速足で歩いているフォレストボアのような動く標的を狙うのは、シズアにはまだ荷が重いようだった。風の刃はフォレストボアのお尻を掠め、小さな切り傷を作るにとどまる。


シズアはザザーっと半分くらい滑りながら岩場の斜面を下り、ウィンドアクセルの魔法を発動するとフォレストボア目掛けて駆け出した。

この様子だとフォレストボアが森に入る前に追い付けるかなと呑気に見物するアニス。だが、シズアがいきなり止まり、反転して後ろに下がり出したのを見て異変を感じ取った。


ガウッ。

森の中から出て来た大きな影が、森に向かっていたフォレストボア目掛けて襲い掛かる。その影は、フォレストボアの喉元に噛みついて持ち上げ、あっという間にフォレストボアを倒してしまった


「あれって、ホーンタイガー?」


そう、大きな影の正体はホーンタイガー。体中が黄色と黒の虎縞の模様で覆われ、頭には真っ直ぐ尖った角が生えているC級の魔獣。

しかし、何故ホーンタイガーがここに?アニスはライアスから、C級以上の魔獣は森の奥に生息していて、森の外れに来ることは殆ど無いと聞かされていた。


怪我をしていたフォレストボアの血の匂いが、風に流されて森の中に届いたから?

確かに今は丁度岩場の方から風が吹いていて、匂いが森の方へと拡がってはいる。ただ、それでも森の奥までは届かないだろう。元々ホーンタイガーが森の外れまで来ていたのだ。


アニスは考えながらもホーンタイガーから目を離さずにいた。

ホーンタイガーは、遠ざかったシズアよりも相対的に近くに立っているアニスを見ている。

仕留めたフォレストボアが横取りされることを警戒しているのか。

シズアがホーンタイガーから十分に離れた後、アニスの方へと遠回りに回り込んできているのを目の端で捉えながら、どう対峙したものかと思案した。


まずはこのまま逃げることを考える。

ホーンタイガーが見逃してくれるだろうか。相手は出て来たばかりで碌に動いてもいないので、まだまだ元気だ。一方、シズアはフォレストボアを狩ろうとして体力を使ってしまっている。アニスよりもシズアの方が逃げ遅れる可能性が大きく、そんな手段はアニスには取れない。

つまりは戦ってホーンタイガーを倒してしまうか、ある程度弱らせてから撤退するかのどちらかだ。


では戦うとしてどうする。

魔法攻撃なら、正面から水の弾を打ち込むくらいしかやりようがない。

いや、相手に見えている状態で水の弾を撃っても、避けられてしまうだろう。

アニスが剣で攻撃して相手の気を逸らせているときに、シズアに魔法を使って貰うくらいのことをしないと、魔法攻撃は当てられないように思える。


アニスにはまだ迷いがあったが、ホーンタイガーは待ってくれないようだった。アニスの方へと体重を移動しつつある。


「シズ、あまり近付き過ぎないで。ウィンドカッターの準備をお願いっ」


目線はホーンタイガーから離さずに、しかし声がシズアに届くように顔を半分くらい後ろに向けて叫ぶ。


「はいっ」


気合の入った返事を聞いたアニスは、右手に剣を持ち、左手を前に掲げる。


「ファイア」


アニスは火の玉を熱くない程度に前へ出し、そこで止めた。

獣は火を本能的に恐れる。それは魔獣であってもだ。


どうせ相手にぶつけたところで大したダメージは与えられない。アニスは攻撃としてではなく、相手への牽制(けんせい)のためにファイアを利用した。

その思惑通り、こちらに踏み出しつつあったホーンタイガーが少し後ろに下がり、腰を下ろす。こちらの動きを様子見する態勢に入った。


「ファイア」


魔法ファイアはそれほど長続きはしない。しかし、間断無く次のファイアを発動させることで、いつでも火を出せることを相手に印象付けておけば、相手はファイアを警戒しながら戦うことになる。


「ここまでは良いとして、次はどうしようかな」


実は先のことまで考えられていないアニスだった。


流石のアニスもC級魔獣相手では、慎重に行くしかなさそうです。


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