ジュリアン
♪ジュニア あなたの笑顔は日ごとにそっと―
プリンセス・プリンセスの“ジュリアン”を君はいつもそう替えて歌っていた。
あの頃、僕はこの歌の歌詞も、君のこの行為の意味も理解しようとしなかった。
仲はよかった。
でも…、
僕にとって、君は遠い存在だった。
だから…、
傷つくのが怖くて自ら距離を置いていた。
FMから流れる“ジュリアン”に過去が重なる。
もう、10年も昔のこと。
自宅マンションのパーキング。
ギギッ。
「はぁ」
サイドブレーキを引き、シートに凭れると、一日の終わりを実感して息を吐く。
いつものこと。
しかし今日は別の意味が大半を占めていた。
過去への未練。
カチッ、カチッ。
気持ちを整えようとタバコに火を点けた。
フゥ。
こんなことで整理できはしない。
…いさ、君は今、なにをしてる?
“ジュリアン”。
この曲を君に贈るよ。
今の僕の気持ちなんだ。
プルルルルルルル―。
携帯の着信音。
誰だ?
「はい―」
「もしもし、ジュニ?」
え?
♪こんなせつない恋を私は忘れないでしょう
くだけそうな心をまっすぐに大切に
あなただけにかたむけていた
“ジュリアン”。
伊佐子の後ろで流れていた。