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ピ・ア・ス
「よほど気に入ってるんだね、そのピアス」
彼は二本目のたばこに火をつけると、優しい眼差しでそう言った。
「そうよ。似合ってるでしょ?」
彼女は振り返ると微笑みながらピアスのついた耳たぶを左人差指で軽く弾いてみせた。
彼は無言のままだった。
彼女は残りのピアスを今度は彼に向けてつけた。
彼は相も変わらず無言のままだった。
スーッと煙を深く吸い込み、フーっと細く長く吐き出す。
「じゃあ、俺も浴びてこようかな」
彼は微かな笑みを残し、たばこを揉み消した。
シャワーの落ちる音、水の弾ける音が聞こえる。
カーテン越しのガラスの向こうは、もう、夜の終わりを告げていた。
そうよ。私はずっとこのピアスをつけるの。
だって、あなたにもらったものだから。
あなたが…、
あなたが私を思い出してくれるまで。