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TAXI
私はGeorgeの店の前に立っていた。
土曜の夜だからあなたがいそうで…。
サヨナラをした人なのに、
雨に濡れたせいかしら、逢いたくなるなんて、
「…弱いなぁ、アタシも」
あ…。
ガラスのドア越しに見慣れた背中。
思いがけずときめいた。
今夜だけでいい。
愛してほしい。
そばにいたい。
そんな衝動が溢れ出す。
私に気づいたマスターがあなたに目配せをしている。
お願い、振り向かないで…。
このドアを開けたら優しい声で、
「元気か?」
って訊かれたいから。
じゃないとアタシ…。
だって…、
あの日から遠ざかるほどに、あなたが大切な人になっていくの。




