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僕のそばに
「どうした?」
「え? あぁ―」
「んーん、べつに…」
一瞬見せたその笑顔は、確かにあの頃のままだった。
でも…。
「―なんかあったのか?」
あきらかに無理してた。
「ふられちゃったの、アタシ」
僕の二度目の問いかけに、君は瞳を潤ませた。
そ、
「―そう…か」
君がどれほどあの男を愛してたか僕は知っている。
―こんな時、他の男なら優しい言葉や流行の台詞で、君をこの時だけでも、その涙から解き放すことができるのに…。
でも、いつも見つめてたんだ。
僕はずっと…。
だからこれからは、いつでも僕の隣に座ればいい。
寂しい時も、
悲しい時も…。
ピアノが奏でる“僕のそばに”のメロディー。
その中で、英明のグラスについた水滴が、静かに流れ落ちた。