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メリークリスマスが言えない
「来年も来ようね」
そう言ったのに。
二人で乾杯したじゃないか。
港が見えるレストランは、去年と変わらない輝きを放っていた。
ボー。
イブの恋人達を祝福するかのような、港からのFOGHORN。
「メリー・クリスマス」
あの夜の君の声が聞こえる。
…君は思い出すのだろうか。
持て余した時間。あてもなく街を彷徨う。
「メリー・クリスマス」
もう一度言いたい。
街は恋人達の特別な時間で満たされていた。
ハア…。
僕もあの中にいたのに…。
帰らない時間。
「キャッ」
「あっ、すみません。」
「あ、いえ、こちらこそ」
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
よほど急いでいたのか、その女性は一礼すると走っていった。
ん?
頬に冷たい感触。
見上げると白い雪が舞い降りていた。




