クリスマス・イブ
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア―。
急がなくっちゃ。
まもなくイブが終わる。
リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ―。
東京駅。
別のホームで発車のベルが鳴る。
聡はベルに振り向いた。
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア―。
そんなつもりじゃなかったのに。
些細なことからの喧嘩だった。
こんなに大きくするつもりはなかった。
なのに…。
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア―。
ごめん。
ごめんね。
街はこの日のためのイルミネーションに彩られ、愛し合う者達に華を添えていた。
ただ、今はその人混みがもどかしい。
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア―。
「キャッ」
「あっ、すみません。」
「あ、いえ、こちらこそ」
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
男の肩に激しくぶつかり、危うく転ぶところだった会話はそれで終わった。
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア―。
改札を抜け、ホームへ駆け込む。
ハア、ハア、ハア―。
………。
「そんな…」
赤いテールランプが目の前で遠ざかっていった。
張りつめた緊張が急速に解けていく。
終わりを意味する解放だった。
瞳が潤んだ。
「いさ」
振り返ると聡が立っていた。
「………」
聡は伊佐子の驚く顔を見て、照れ混じりの笑みを浮かべた。
「メリー・クリスマス」
涙で聡が歪んだ。
1993年。
イブは緩やかに過ぎようとしていた。