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87話 「ハーレム」 その6

「……そもそもハーレムって漫画の話でしょ。 なんで貴女たちがしようとしているのよ」

「あれ、だいふくちゃん。 漫画読むんだ」

「最近ゆいくんの読みかけとか一緒にテレビとか。 ねー?」


だいふくが人でないからこその素朴な疑問。

少しでも時間を稼げばもしかしたらゆいが入ってきて有耶無耶に、という企みからの言葉でもあった。


「だって人間もあたしたちみたいに男と女のペアなんでしょ。 だからおはなしの中だけのことだって思っていたわ」

「そうねぇ、一般的にはそうなっているわねー」

「あと、姉と弟がケッコンってできないのも知っているわ」

「おおっぴらにはできないわねぇ。 だいじょうぶ、秘密にするから」

「それって行けないことだと理解しているのね?」


「……そう言えばゆいくんのお姉さんが自然に入って来てる」

「美希ちゃーん、気づくの遅すぎ」

「もしかして家庭の事情とかっていうのでお姉さんとゆいくんは血が繋がってなかったり……!」

「美希ちゃーん、失礼だと思うわよ?」


「血が繋がっているから良いんじゃない、背徳感があって」

「お姉さんがヤバいヒトだった……」

「はいとくかん……!!」


みどりと仲が良いと思っていたけれど……同類だったのね。

最初からかみどりのせいかは分からないけれど。


もはや逃げ場など無い。

それを分かってしまった沙月は、そっとだいふくに寄り添う。


「もちろんきょうだい3人そろって血のつながりはあるから安心してー?」

「あ、いや、お姉さんはお母さんそっくりですしゆいくんもそうですし疑いませんけど」

「……それもいいですよね!」

「美希ちゃん……私も諦めようかしら……」


……この子たち、お姉様も含めてゆいやみどりの幻惑魔法か何かにでも掛かっていないのかしらね、本当に。


確かにゆいは可愛らしい顔立ちよ。


美希から「男の娘」と言うものについての怒濤のアドレス添付が来たから目を通してみたけれど、確かにそのような男性……男子が好きな人ならたまらないのは頭でなら理解できるわ。


けれど、彼はまだ10歳よ?

青年どころか少年でしょう。

男らしさというものが無いわ。


……………………………………………………。


……戦闘においては同僚だけでなく先輩方よりも頼りになるし、それに。


「沙月センパーイ、戻って来てくださーい」

「……失礼、会話の内容で頭が痛くなったの」


「それは大変です。 ゆいくんに看病を」

「貴女がしてもらった方が良さそうよ?」

「頼めばいつでもしてくれるので今は良いです」

「………………………………………………そう」


この場の元凶その1が喜々としているのを見てやはり無理だと悟る沙月。


「……………………………………………………」

「……………………………………………………」


だいふくと視線が数秒合って、互いに逸らす。


「血の繋がった姉の貴女が血の繋がった弟を男の子として好きで、それを公言するどころか他の子も加わりなさいと言うだなんておかしいって思わないのかしら」


「まぁねー、おかしいとは思ってるわぁ。 ゆいが気持ち悪いとか、…………気持ち悪いとか」

「お姉さん、お口直しにゆいくんのシャツです」

「……すぅ――……うん、ありがとうみどりちゃん。 気持ち悪いとか言われちゃったら諦めるわ。 普通じゃないっていうのも分かってるから」


「……それ、ゆいくんのシャツなんですか?」

「どうしてそれが私の部屋にあるのかしらね」

「もちろんゆいくんに頼みました。 私のと交換で」

「……小学生だものね、身長もむしろゆいが負けているし女装をしているのだから平気よね……」


「ゆいくん、あれでも男の子だから汗の匂いは女の子とは違うのよー」

「知っていますよ、だって私毎日――……何でも無いわ」

「ほう……沙月センパイも」

「そうでは無いとだけ言っておくわ」


みどりがどこかから取り出したゆいのシャツを抱きしめながら話す姉に、反射で反応しかけて千花の興味を引くところだった沙月は……みどりから乗っかられて抱きしめられていた状態だっただいふくを静かに引き寄せる。


「……………………………………………………」

「……………………………………………………」


分かる者同士の視線が交わされるが、他の人間には気がつかれなかった。


「すう――……まぁねー、私もそれ分かっているからただ好きなだけー。 けど私、女の子がやさぐれた感じになってお互いをいじめ合うっていうドロドロな関係よりは、ハーレムっていう分かりやすい感じに仲良くしてもらいたいだけなの。 だってそうじゃない? 中学生の子でも男の子の取り合いになってお友だちだったのが壊れちゃう子とか見て来たもの――……」


「その趣旨があったのなら先に言ってくださいお姉様」

「ごめんねー、ちょーっとみどりちゃんに悪ノリしちゃった」


「私は真剣ですよ?」

「貴女はそうでしょうね」


「……なんだか強引だったから不思議だったけれど、そういうこと。 そうよね、あたしみたいな精霊とゆいとをっておかしな」

「異種恋愛とかだいふく好きそう」

「みどり。 勝手な妄想をしないで頂戴」


「えー、だって昔から定番じゃない。 人と妖精とか別の生きものとのそういう関係」

「……少なくともあたしが学んできた人の生態には無かったわね」


みどりから解放されて強気になったらしいだいふくが、沙月の腕の中で吠えるも静かに返される。


「とにかく。 本気で困っているのだから止めてもらえないかしら。 みどり、お姉様。 特にみどり」

「沙月ちゃんを押すのもこの辺までかしらねー」

「完全に怒らせる前に抑えておきましょう。 まずは外堀からです」


「私の前で言って良いことなのかしら?」

「本当に怒らせたいわけじゃありませんから」

「みどりちゃん、ちゃんと考えていてえらいわー」

「偉くなどありません」


ふぅっ、と残念そうなため息がひとつ。


「とりあえず今日の会合では、恥ずかしがって本当のことを言えないらしい沙月さん、言い逃れは許さないけど沙月さんに取られたからまた今度なだいふく、ついでに私たちに乗っかっておふたりの気持ちについてを忘れてもらおうってしている千花さんと美希さん」


「……静かにしてたのにぃ」

「忘れててほしかった……」


「あとはお姉様と私で6人の後宮というものですね」

「んー、そっちだとなんか雰囲気変わらない?」

「意味合いはおんなじですけど……なんだか女の戦いが起こりそうです」

「でしょー? 全員平等って言うハーレムの方が良いかもー」


「どうでもいいところでどうでもいいことを議論しないでください」

「もー、沙月ちゃんもマジメさんなんだからー。 けど、ゆいはまだまだ子供だからこういうのには……あと何年も早いわねぇ。 男の子って高校生になっても男の子だから」


「女子は早熟ですから。 うちのクラスでも三角関係が2組居ますし。 ゆいくんはもちろん知りませんけど」

「……小学生の三角関係!」

「しかも、ま、まだ4年生だよ、ね」


「その子たちバレンタインにチョコ、ゆいくんに渡しに来てた子たちなんですけどね。 今年の冬に。 女は怖いですよ?」

「うわ」

「4年生なのに……」


「そういうものです。 むしろ沙月さんみたいな人が超のつく少数派です」

「少数派で良かったわ」


「……ゆいくん、こ、告白とかされてるの……?」

「たくさんです。 だってまだ私の年齢では脚が速くて元気な男子はモテますから。 おしゃれの話題で盛り上がりますし」


「去年も10人以上女の子と、おんなじくらいに男の子が来てたわねー」

「……ゆいは男の子だったって、あたし思うんだけど」

「男の娘よだいふくちゃーん。 でもしょうがないわー、ゆいくんって女の子よりかわいいから!」


「あの、お姉さん? ゆいくん、本当にクラスの同級生たちをねじ曲げてません?」

「ゆいくんかわいいからしょうがないわー」

「一理ありますね」

「ちかちゃん!?」


本当にこれ以上の追求をしない様子のみどりたちに安心したのか、ゆいたちのクラスの恋愛模様に興味も話題も移った精霊を含む少女たちの秘密の会話。


それが皿いっぱいの菓子を運んできた彼に終わらせられるのは、もう数分先のこと。


……兄の真似をして魔法で水着エプロンに挑戦してしまった、ついでにポニーテールにしているゆいが乱入してくるまでのつかの間の平和だった。

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