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86話 「ハーレム」 その5

「あとだいふくも私たちの仲間で良いんだよね」


唐突にみどりが手元にだいふくの腕を引き寄せてつぶやく。


「…………え? だいふくちゃん?」

「…………………………………………」


そっと追及の手が沙月からだいふくへと転換されたらしい。

それを敏感に察知しただいふくの瞳から光が消えた。


「えっと……な、仲間って」

「だいふくもゆいくんのこと。 好きになっちゃって……ある意味先越されちゃったけど、ゆいくんと一緒に居たい女の子としてです」


「いえ、あたしは」

「だいふくちゃーん? あの内容で違うって言うのはお姉ちゃんとしては違うかしらって思うのー。 ゆいくんへの責任、おねがいね? 一応だいふくちゃんの方が年上みたいだしー」


「…………………………………………」


だいふくは着ぐるみにくるまっている……小学校低学年くらいの金髪の少女に見えるようだが、仮の姿。


本当は体を持たない精霊という存在――という知識があるからこそ、事情を今から知る沙月や千花や美希は首をかしげる。


「……何を言っているのよみどり、お姉様も。 だいふくは」


安心するも言っている意味が分からずに訊ねてしまう沙月。

だってだいふくは……と見るも下を向いたままで顔つきは分からず。


「どうするの? だいふくから話しても良いけど」

「…………………………………………言えるわけないでしょ」

「そう。 なら私たちから説明するね」

「説明なら任せなさーい♪」

「…………………………………………」


へにゃりと力なく垂れている尻尾に美希の手が伸びる。


……そうして触られ始めても気にする素振りもなく、顔へうさ耳フードを引っ張って隠そうとしているのが「それ」が合っているのだと言ってしまっている形だ。


「……上手く飲み込めないのだけれど、だいふくが嫌がっているのなら」

「ゆいくんと1歩どころか先に行っちゃったって聞いても?」

「……………………………………………………どう言うこと」


沙月のトーンが露骨に下がり「ひっ」と縮こまるだいふく。


「抜け駆け。 したんだもんね、だいふく。 セツメイしなきゃだよね? わざとじゃないから怒ってはいないけど、けじめは必要」

「……そもそも精霊ちゃんたちって人を好きになることあるの?」

「そ、そうだね……そもそも精霊さんたち体ない別の生きものだし」


「そうなんですけどね。 ほら、ゆいくんは特別ですから」

「……ゆい君関係だったら何から何まで特別よねぇ」

「そうなのよ! 私の弟は特別なんだからー」


当事者(精霊)の落ち込みようとは逆にほんわかした空気が漂う。


「え、えっと。 確か精霊さんたちって性別ないって、前、だいふくが」

「ええ、そう聞いているわね。 一応男子を魔法使いにする精霊はどちらかというと男寄りの性格で魔法少女や魔女相手は……という違い程度はあると聞いているけれど」


「そこまでは合ってます。 ……ね」

「………………………………ええ」


だいふくの後ろに回りその肩に両手が乗せられ、フードの上にはうさ耳を描き分けるようにみどりの顔が乗っている。


どうやら逃げられないのは確定したようだ。


「ゆいくんの居ない間にって言うの、みどりちゃんなりの気遣いなのよー? ねー?」

「そういうことにしておきましょうか」

「みどりちゃん、絶対今お姉さんの言ったのに乗っかったでしょ……」


「でもだいふくのことはメインで取っておきます。 これで沙月さんも答えやすくなったでしょう? 沙月さんがゆいくんのこと好きって認めたらだいふくの秘密を教えます」


「……そこで私に戻るのね」

「まずは沙月さんに認めてもらわないと進められないので」


「……だいふくちゃんのことが気になるのでゆい君のこと大好きって宣言してくださいさっちゃんセンパイ!!」

「さっちゃん先輩……」

「貴女たちも安易に乗らないの」


沙月が頑なにゆいのことを認めないため、急にだいふくの事情という興味深すぎることへ話を逸らしてからの強引な話題修正。


……本当、どうして女子と言うのは色恋沙汰が好きなのかしらね。


だいふく以外の視線は好奇心と催促で満ちていて……だいふくの視線は被害者仲間を哀れむもの。


それを見回し――「だいふくのそれよりは良いのかしら」と、諦めの入る沙月。


……7歳も年下で女装趣味と言うことを考慮しなければ、確かに私たちの関係は深いものね。

話のネタにするにはこの上ないもの。


そう考えながらため息をつく沙月へ、じっとりとみどりの視線が注がれる。


「……や、恥ずかしいのは分かりますけどね、さっちゃんセンパイ。 けど、2回も公衆の面前であれだけのキスをしておいてなんにもないってのはちょっとムリなんじゃないかなーって。 ね、美希ちゃん」


「こんなこともあるんじゃないかって、編集してきました」

「……………………………………美希。 消したわよね?」


「先輩。 かんたんに言うと電子機器の情報は上書き処理なんです。 目の前で消して見せて『消したから安心して』って言うの、悪い大人の人にされても信用しちゃダメです……よ? あと、今どきはクラウドにもコピーされますし」


「良く分からないけれど、美希。 裏切ったわね」

「だって貴重なおねショタ成分だったので……」

「だからそれは何なの」


「そういうところが貴重なんです。 お互いに無知なおねショタ……ふふふふ……」

「美希ちゃんってけっこうディープよねー」

「や、ここまで行くと着いてけないですお姉さん」


沙月の目の前で取り出して沙月に取り上げられた美希のスマホ……を気にする様子もなく、メモリーカードを数枚取り出す美希。


この子、なんだか最初のころから変わったわね……と、待ち受け画面に沙月とゆいの先日のシーンが映っているのを見て「消しなさい」と突っ返す。


「だって尊いんですよ」

「尊いって言うのは分かるわ! センパイ、見てください!」

「貴女まで同じ画像を……すぐに消しなさい」


「小学生の男の娘に迫ってる高校生の先輩がかわいくて……」

「消しなさい」

「じゃあ認めたら消します。 ゆいくんのこと好きだって」


だいふくの可哀想な同胞を見る視線が沙月に突き刺さる。


「………………………………仮に、私が彼のことを」

「はっきりしませんねぇー? センパ……あ痛!?」

「調子に乗らない。 ……ゆいのことを、好いていたとして。 私だけでなく……ここに居る全員が」


「あ、私たちは違うのでー」

「違うのでー」

「――千花、美希。 一蓮托生よ」


「センパイゴスロリも似合ってますねけどムチで縛るってちょーっと愛が濃すぎるかなーって」

「に、逃げ……」


自分たちに累が及びそうになったのを敏感に察知した2人が脚に力を込めた瞬間に変身して拘束する……魔法少女時代の衣装な沙月。


「それでゆいくんをいじめるんですか?」

「ゆいくんが喜んで、やり過ぎじゃなければお姉さんはOKよ?」

「良く分からないけれど絶対に違います」


……今後はみどりだけでなくお姉様も警戒しないと行けないのかしら。


やけに協調性を醸し出す姉と同級生というインモラルな2人から距離を取りつつ、沙月はそう思った。

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