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82話 「ハーレム」 その4

「…………………………………………」

「ふむ」

「…………………………………………」


しゃくしゃくしゃくしゃくとゆいの咀嚼の音だけが響く居間。


今日はそういう気分なのか姉とお揃いでサイドテールにしているため微妙にバランスの悪そうな髪を気にもせず、ひたすらにできたてのおやつを無心に頬張っている彼を兄が眺める。


兄と弟の団欒。

姉と妹にしか見えないその時間。


ふむ、本気で反応が無くなっているな……どうやら今日はなかなかに会心の出来のようだ。


姉と同じように、いや、姉よりも菓子作りの上手な彼が手作りで作ったばかりのそれの匂いが充満する。


エプロンを着けたままの彼――その下が水着なのは「男のロマン」と自分からしていること。


エプロンで体の正面が隠れているため裸に見えるし腰は細いしどうしても男性の隠せない背中も長い髪で隠れるために、彼を知らない人間が――不運にも宅配で出てこられた配達員などが見ると危ない格好をした女性にしか見えない格好。


もちろん男でも危ない格好には違いないが女に見える方がインパクトはケタ違いだ。


できあがるまではゆいがまとわりついてその格好を羨ましがっていたものだが、1口食べてからというものはハムスターのように口を動かすしかないらしく、静かなひとときが流れている。


……女同士の話が一段落ついたら運ばせるか。


ゆいの注意を引くための菓子作りをしていた彼は、沙月の部屋に集まって数十分の、妹を含めた少女たちのことを思う。


……女には女の世界があるものだ。


ましてやゆいも「私」と同じように数人の女性を侍らせるわけだから当然に女の側で意見をすりあわせる必要があるだろう。


ゆいはまだ小学生だからさすがに刺されたりはしないだろうが……上手く行かないようなら「私」の彼女「たち」にも手伝ってもらうとするか。


関係性からして年上が多いから彼女たちが飲み込んでくれる部分も多いだろうが、それでも女はとかく話し合うのが好きな生物。


要のみどりが正妻を譲るから刃物沙汰……いや、魔法を扱えるから命がけの戦いになることは無いと思うが、そのような時間は必要だな。


しゃくしゃくしゃくしゃくと咀嚼している妹のような弟を眺めながら、姉のような兄は――現代の価値観でハーレムを築く方法は女性の側を大切にすることだと。


彼は、過去に何度か遭った修羅場を思い返して懐かしんでいた。


♂(+♀)


「ハーレム会議の真っ最中です」

「みどりちゃん……言い方が」

「でも間違っていませんよね?」

「………………………………」


秒針の音が響く室内。


沙月の部屋には少女たちが――誰が言い出したわけでもなく、沙月のベッドに円卓を組むように正座していた。


「最大の敵は異世界で将来を誓い合ったと推測できる方たちです。 ……あっちの時間の流れが同じなら沙月さんよりも少し年上程度。 危険ですね」


座長は当然のようにみどり。

ゆいの部屋から当たり前のように持って来た彼の上着を羽織って話す。


「ゆいくん自身はほとんど覚えていないみたいです。 でも夢では……もう顔も曖昧にはなっていますけど頻繁に思い出しています。 細かいところが分からない上に数人いたとしか分からないのが大問題です。 せめて属性でも分かれば対策できるんですけど」


「た、対策……」

「………………」


誰の顔を見るでもなく沙月の部屋の特徴をひとつひとつ食い入るように探しているのは美希と千花。


「ゆいくんも細かいこと気にしない性格だもんねー。 その子たちの服装とか髪型は覚えていても他はなんにもってさすがゆいくん」

「そこが良いんです」

「そうねぇ。 ただ、今のところは異世界との交流手段なんて無いわけだし、その子たちだって新しい恋を」


「……見つけます? 世界を救った英雄なんですよ、ゆいくんは。 あっちの世界的には。 しかも彼女たちのゆいくんへの接し方からして明らかに年下の男の子に好意を抱いていました。 人としての……つまりはショタコンと断定して良いはずです。 そんなゆいくんと別れたのはゆいくんを帰すためです。 ……打算抜きでも何年かかってもあっちの魔法で追いかけて来る可能性は」


「……うん、そうねぇ。 1回でもゆいくんを呼び出せたんだからもういちどできないなんて無いわねぇ。 ゆいがあっちからこっちに戻って来たんだからあっちから来ることだってってことかしらぁ?」

「女の情念のしつこさはよく知っていますから」


みどりの対面に座って頻繁に発言しているのはゆいの姉。


「この前話しました私の魔法……あ、秘密ですからね? ……で記憶は探しているんです。 ゆいくんの当時見聞きしたものを」

「みどりちゃんも不思議なことができるのねぇ」


「けど、これは私が扱えるだけで使えるわけじゃないのでピンポイントには。 ですので1年かけても彼女たちの顔を把握するまでにはたどり着いていません」

「大変ねぇ――……」


「……毎晩ゆいの記憶を覗くなんて悪趣」

「だいふく?」

「何でもないわ」

「そう」


犬とうさぎのキメラな着ぐるみをフードまで被ってみどりの横に座らせられているのはだいふく。


……だいふくも大切な会議に参加させられていた。


「でもー、ゆいの年頃での2、3年くらい前って……女の子ならまだしもゆいくんみたいな男の子なら覚えてないのが普通だと思うわぁ。 今は考えなくても良いんじゃないの? こっちには私を除いても4人もお嫁さん候補がいるわけなんだし」


「だっ、だからみどりちゃん、私たちはっ!」

「そ、そうだよ……わたしたち、別にゆいくん」


「それはそうなんですけど」


か弱く絞り出した魔法少女たちの主張は無かったことにされて姉の発言だけへの回答。


「ゆいくんが中学生くらいになって『男の子』になって私たちとくっついた後だったら心配しなくても良いんですけどね、小さいころの想い人っていうアドバンテージのこと。 ……やっぱり意識はしていなくても初恋だって思っておいた方が良さそうなので」


「………………………………何故私はここに居るのかしら」

「? 沙月さんを正妻さんにするかどうかの会議ですよ?」


「面白い遊びをしているみたいね。 お邪魔したら悪いから」

「魔女の方を紹介しているページに年下の男の子が趣味って載せておきましょうか。 写真も動画も沢山ありますよ?」

「…………………………………………はぁ……貴女って……」


……ゆいの姉にハグをされて連行されてきて今も捕まり続けているのは沙月。

彼女もまた逃げられなかった様子だ。


「そもそもゆいのことを……その、好きなのは貴女たちでしょう。 私たちを巻き込まないで欲しいわね」


「? 何を言っているんでしょうお姉さん」

「沙月ちゃんははずかしがりやさんだからー」

「…………悪乗りは止めてくださいませんか」


「でもおもしろそうだものー。 お兄ちゃんもハーレム作ってるし私は理解あるわよ?」

「いえ、そうではなく」


「そう言えばお兄さんもそう……でしたね」

「ゆい君自身も強烈だけどご家族もよねぇ」


そこまで標的になっていなさそうなのを察したのか千花と美希が少しだけ元気になるが……そんな彼女たちにもみどりと姉の視線は注がれている。


「でも良いんですか?」

「もちろんに決まって」


「もし。 あくまで仮定ということにします。 沙月さんがゆいくんのことを好きだって気づいて」

「そんなことは」


「もし、ですよ。 ……もしそうなったとして、既にゆいくんの傍には何人も女の子がいて楽しそうにしていて。 そうですね、ゆいくんが沙月さん好みに育ったとしておきましょう」

「…………………………………………」


「そのときになってやっぱりゆいくんと……っていうのは無理って分かりますよね? 私たちはゆいくんといることを選んで、みんなで分け合うって決めて時間が経って……そこに割り込もうとする方が居たら」


「ゆい自身が良いよって言ってくれても、いえ、絶対に言うわねぇあの子なら。 だけど女の子って嫉妬の感情がすごいから。 沙月ちゃんも少しなら分かるでしょう?」

「お姉さんまで……」


「だから私たちはただ、良い機会だからってこうしておはなししようってしてるんです。 ゆいくんがお兄さんのところに行っちゃってて、けどゆいくんのこと好きなみなさんが集まってるっていう……それでいて『まだ』大丈夫だけど来ちゃったら負けちゃう異世界の想い人たちが来る前のこのタイミングのうちに」

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