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84話 「ハーレム」 その3

「貴女。 千花」

「セ、センパイ」


「……ゆいのようにいろいろと着飾るのが好きなのね」

「え」


「彼、普段から気になった服があると唐突に変身するものだから……もっとも見ただけの服装は作りが甘いから正面だけだったりするのだけど」


「あー、ゆいくんそういうのしてましたね」

「ええ。 彼みたいに目にした服をコピーする魔法なんて普通ではないからもちろん無理だけれど、着た服装を変身で一瞬に出すこともできるのだし。 そうでしょう?」

「…………………………………………はいそうですさっすがさっちゃんセンパイ!!!」


赤くなった顔から汗を垂らしながら「ばれちゃったらしょうがないですねー」と、まるで何かに気がつかれなかったのを隠しているようにひたすら沙月を褒め称える千花。


……まあ、これで躍起になってあたしに触ってきたりしなくなるでしょ、と暴いたのに罪悪感を覚えていただいふくも尻尾を下ろ――そうとして。


「……美希?」

「ちょっとならいいん、だよね?」

「……少しだけよ」


その隙を狙っていた美希がだいふくの尻尾に縋り付いていてモフり始める。


「……ほぁぁぁ……やっぱり良いなぁ……猫さんとも犬さんともちがう感じぃ…………狐さんとかならこうなるかもだけど狐さんには触れないし……はぁぁぁ……」


「…………良いなぁ美希ちゃん」

「そこまでのものかしらね」


千花への追求は沙月の発想で終わり、だいふくは尻尾を提供して難を逃れたように見え。


元々そこまで気になっていなかった沙月はため息をつきながら座り直し、まだ戻って来ないゆいのことを考えながら本を開く。


「さっちゃん先輩毎日だいふくとも一緒なのにもふらないんですか――……幸せですよぉ――……」

「本人が嫌がっているものをという趣味は無いと言ったでしょう」

「センパイ、少しなら良いって言われてたじゃないですかー。 ……権利って譲渡できないんですか?」

「まただいふくが隠してくれているでしょう秘密を話されるわよ。 あるでしょう、長い付き合いの貴女ならひとつやふたつ」


「10や20はあるわね」

「だいふくちゃんサマ!」

「……言うつもりは無いわよ。 あたしだって……って言うか美希、いい加減におしまいよ」


「あれ、だいふく尻尾ヤじゃなかったっけ?」

「ゆい……もう食べて来たの?」

「ううん、まだ焼けないからこっちで待ってなさいって」


「そう。 ……貴方の魔法で作った衣装、どのくらいになるのだったかしら」

「!! 今変身しながら試してみる!!」

「いえ、何も今……はぁ。 結局いつも通りではないの」


充満してくる焼き菓子の匂いから逃れるようにしてきたゆいが、触発されて次々と変身して着替えていく。


魔法少女衣装の次は沙月のセーターとスカート、それから思い出せる限りの服装に。


それに対してときにはボタンの位置や服の構造について沙月からダメ出しを出され、いつの間にか千花と美希も加わってのファッションショー。


だいふくは、自分への関心が逸れて安心しつつ……今は忘れられているがそのうちにまた「それ」について訊ねられる運命を知り、静かに部屋の隅へともそもそ逃げていくのだった。


♂(+♀)


「あっちは盛り上がっているわねぇ。 なにかおもしろいことあったのかしらー?」

「ゆいくんが楽しんでる気配がします」

「みどりちゃんってすごいわー」


一方で台所に残っていたゆいの姉とみどり。

クッキーの焼き加減のためにというのとできあがったらゆいに知らせるためにという理由で2人して立ち話が続いていた。


「……ところでさっきのですけど」

「うん、ゆいくんの奥さん『たち』の序列ねぇ」


急に吹っ飛んだ話題になるが、2人は特に意識する様子も無く無邪気な様子で続ける。


「みどりちゃんにとっても大切よねぇ。 将来設計のために」

「はい……そろそろ形だけでも考えておかないとって思って」

「自分がいちばんじゃないハーレムのためにがんばるみどりちゃん……健気すぎるわー」

「あぅ……お姉さん、ハグ苦しいです」


「ごめんなさい? ……でもまずはみんなの意識よねぇ。 ゆいくんを好きになる段階は終わってるけど、その先からだもの」

「はい。 まず少しずつハーレムも良いものだって刷り込まないと」

「難しいけど……沙月ちゃんがこっち側に来てくれたら」

「沙月さんには正妻さんになってもらえば簡単かと。 案外そういうのを許容すると見ました。 良くも悪くも浮世離れしていますので」


「良いのー? みどりちゃんは沙月ちゃんより前からゆいくんのこと」

「結果が全てですから。 ゆいくん、間違いなくこれからも増やしていくでしょうし」

「完全に平等って言うのは……ダメねぇ」

「私たちが女である以上無理ですね」


物騒な話は穏やかに進んで行く。

ゆいのファッションショーとだいふくの尻尾で無邪気に盛り上がる反対側とは真逆に。


「今の順番的には沙月さん。 続いては女にされた……あ、これはまだ秘密のままなんだっけ。 とにかく次がだいふくで、その次が意識し出した美希さんと千花さん。 まだ日が浅いですから誰が正妻さんと言うトップに……ああ、お姉さんというのもありですか」

「私? 私は別に良いかしら。 私はゆいくんが楽しそうだったら何でもいいんだし、もしそうなっても……お姉ちゃんだから、枠外よー?」


「最初から諦めなくても。 世間体なんて『この世界で最初に男子で魔法少女になった』っていうのと『別の世界の魔法を扱える』っていうのと『誰も倒せなかった魔王クラスを3回も倒した』っていうのでどうとでもなりますし。 うるさければ異世界と交流できる『可能性がある』って言えば大人は目の色変えるでしょうし」


「みどりちゃん黒ーい」

「性格ですから」


だから血が繋がっていようとなんとかなると力説するみどり。

……そう勧めているのが一見していちばんに彼を好きだというのが一層に不気味さを強調する。


「でもゆいくん、あっちの世界で一緒になろうねー、って子がいたって言ってたからどうかなぁ」

「む。 異世界の魔法を扱えたどころかあちらから魔物が来た……かも知れない時点で絶対に無いとは言えませんね。 するとゆいくんのお嫁さん序列はそれまでに固めないと」


「ゆいくんが覚えてないくらいだけどそのことは覚えてるわー。 ゆいくんにその気は無くても初恋とかだったりすると……ひょっとするわよー?」

「なるほど。 当時2年生くらいだから本当に女の子にしか見えなかったはずのゆいくんと……というお相手だったら簡単には諦めませんか。 ましてや世界を救った英雄ですし」


「女の執念って言うのはみどりちゃんがよーく知ってそうだもん。 ハーレム計画がんばってね?」

「はい。 ……あ、ところでクッキーは良いんですか?」


「え。 ……あっ」


慌ててオーブンを開けるゆいの姉。


……彼女を眺めながら何かを飛ばすみどり。


『そういうことだから。 だいふくが女の子になっちゃった件は私からはばらさないから対価としてだいふくも考えておいてね』


「…………………………………………みどり……」


「ん? そう言えば遅いわねぇみどりちゃん」

「お姉さんと話し込んでるのかな……見てくる?」


「僕、見に行く!」

「早く食べたいだけね……ってゆい、いくら何でも水着では危ないから普段着に……」


何十着目の服装としてパレオの水着という責めた格好……もちろん股のところは年相応に膨らんでしまっているが気にもせず……のまま走り出してしまった彼を止めようと沙月が急ぐ。


そうして密かに進むゆいという少年の周りの少女……と精霊による争い。

たとえ男の方が何も思わなくとも女はそういう訳にはいかない。


彼次第ではそういったものもねじ伏せられるだろうが、肝心の彼はただの女装が好きなだけの小学4年生な10歳。

まだまだ春は遠い様子だった。

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