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68話 ゆい君が魔法少女になれた瞬間

「じゃあ、ゆい君とみどりちゃんの攻撃はここで使うので良いんですね? 渡辺さん」

「うん。 あれ以上の攻撃だとどうせ隠しきれないだろうしね。 だったらふたりがここで使わないと行けなかった、って言うことにした方が良さそうだから」


「……おー?」

「使っていいんだって」

「やった!!」


さすがに減っていた魔物もあふれてきて魔法少女たちに接敵してくる。

町と同じように、どこからか――ここでは恐らくクレーターの中心だと想像されている――湧いてくる魔物。


まだ片手間な勢力のそれらを叩きつつ、この場でゆいたちに『最初の一撃』で早々に決着をつかせようという話にまとまりつつある。


「でも町も応援行けたら行くんだよね!」

「ん、まあ、そうだね。 その余力があれば。 精霊たちの魔法で町の人たちが眠っている以上、戦ってくれている人たちもかなり制限されてるし」


自分の「あっちの魔法」での無茶がバレて以来こそこそとしか魔法を使ったりできなかったゆいは、それはもう目を輝かせてロッドを振り回す。


「みどりちゃんと中心まで飛んで一気にやっつけちゃって、この辺の残りの魔物も倒しちゃって、ぱってみどりちゃんの魔法で――あっ」

「あ、ゆいくん、もうバレてるから平気だよ」

「そうなんだ」


「……ゆい君のウソの基準って?」

「ま、まあ、そこまで……大事なことだったね……わりと……」


「どっちにしろ支給のスマホのGPSでそのうち気がつかれていただろうから、むしろ先に気づけて良かったよ。 ……じゃないと庇うものも……ね?」

「そうね。 町の中だけならともかく外に出ちゃったんだから言い逃れなんてできないものね」


ゆいと沙月はロッドと短刀または鞭、千花と美希とみどりは魔力で。

……だいふくは単純な結界のようなもので触れた魔物を消し、渡辺は。


「……やっぱり元魔法使いだから」

「うん、男にとっての武器は剣だね。 半分くらいの魔法使いはこんな感じの……ゲームで良く出てくる剣を作っちゃうねぇ」

「…………かっこいい……!! 僕もほしい……!」

「うんうん、ゆい君も感性はこっち側だ。 やっぱり男は剣だよね」


身長より長い剣を軽々と振り回すスタイルだった。


「渡辺さんにも少年時代があったんですねぇ」

「それはそうだよ。 千花君たちが……小学生になるくらいのときだからね」

「リアルすぎる」

「じゅ、10年って意外と長い……ですね」


ブランクはあるけどあぶれた魔物程度なら自衛できるから、と、先ほどと同じようにあくまでだいふくと後方支援に徹するらしい渡辺の生成した剣は「男の娘」であっても「男子」なゆいの視線を引きつけている。


「……むー。 ゆいくん、ほら」

「あ、みどりちゃんごめんごめん」


「あーいうところは年相応なんだけどねぇみどりちゃん」

「今日1日だけで本性を知り尽くしてしまったわね」

「け、けど、逆に考えたらわたしたちに隠さないくらい仲良く……?」


ゆいとみどりの一撃で――最初はみどりのそれで、足りなさそうならゆいのそれ、という順番で試すことになった戦場は、動き出す。


「ゆい君? 『じゅうたん』やそれに似たものを使ったりしないで、純粋なだいふくとの契約の力で。 地球の精霊たちと繋がった人が使える魔法を使える。 間違いないね?」


「はいっ!」


「うん、なら後は実際の状況に合わせて千花君の判断でやって来て。 戦いが終わったあとのことは僕たちがなんとかするから」

「今から頭が痛いわ……けど」


「10年と2ヶ月分の魔力を……それも、ゆいの膨大なそれが手つかずのままなのよね。 正直過剰だとは思うわ」

「でも、多分私の方はそこまでじゃないと思うので」


黄、蒼、桜、銀に緑の光が一斉にえぐれた山肌を駆け下り始める。

掛かっている飛行魔法で宙には浮いていたが……舞台が山脈とあって、千花を先頭にした彼女たちには山の真下へ駆け下りているようにしか感じられない規模。


「でもさ。 山ごとむしっちゃうくらいの魔物なんてとんでもないわよね。 こういうのがたくさん出てきたら大変そう」

「う、うん」


♂(+♀)


「これ以上近づいたら危険でしょうか? 沙月センパイ」

「そうね……どの道、この先は」


すり鉢状の地面にぽっかりと空く穴。


暗いながらも魔力という「濃いほど明るく光る」性質のおかげで辺りは黒い明るさという奇妙な状態の中、空と同じ昏さのそこは……魔物たちが来たという異世界へでも通じていそうな不気味さを放っていた。


「私たちが立ち入って良い場所ではないわ」

「な、なんか足が震えるこわさ……ですね」

「魔王という魔物と対峙したときよりも、ずっとね。 本能的に危険を察知しているのね」


沙月でさえ腹が冷えるような感覚を覚えるくらいだ。

妙に魔力がみなぎっている千花と美希なら怖いを越えているだろう。


しかし、ゆいとみどりはけろりとした表情のまま。


「あー、あっちであったあった。 やっかいな中ボスくらいの」

「……これで中ボスなんだ」

「うん。 あっちってフィールド違うくらい魔物強いし」


懐かしいなぁ、とロッドの先でつんつんと魔力の層をつついているゆい。


「……それならさっさと済ませてしまいましょう。 ここへ向かってくる間無視してきた魔物が少しずつ近づいてきているわ」

「あ、はーい」

「沙月さん、真面目です」

「こんな場面で不真面目なのはあなたたちくらいよ……」


「『最初の一撃』って、この我慢してる感じのをうーんって絞って思いっきり出す感じ?」

「ゆいくん、あとでその台詞もう1回お願いできる?」

「? いいけど」


「そうね、普通なら精霊と契約して扱えるようになった魔力を止めきれず……だから、制御できてしまっているあなたたちは違うのね」


「おおう……さっちゃんセンパイ動じない」

「何を動じるのかしら、千花」

「いーえ、なんにも。 でも、高校生でってのは……」


みどりの言葉に変な顔をしている千花と、千花の顔を見て学習している美希を放っておいて……沙月はゆいとみどりの後ろに立ち、それぞれの肩を支える。


「さっちゃん?」


「後ろのことは気にせず、全力で行きなさい。 あなたたちは特殊だから大丈夫かもしれないけれど、『最初の一撃』で魔力を使い切ったら眠ってしまうことがほとんど。 ――そうなっても私があなたたちを支えておいて、町まできちんと運んであげるから」


「沙月さん……先輩みたいです」

「先輩でしょう?」


「うん、さっちゃんって戦い慣れてるからあっちでも活躍できそうだもんね!」

「そう、厳しい戦いの世界でもその評価なら嬉しいわね。 …………準備は良いかしら」


みどりが差し出した手がゆいに絡みつき、目を合わせたふたりは――だいふくと契約してから抱え込んでいたそれを放出し始める。


「トイレ我慢してる感じだった」というゆいと「到達しそうなのを我慢続けるように命令されてる感じ」という不思議な言葉で表すみどりの魔力が髪へ昇って行き、桜色と深緑が満月よりもずっと明るくなって行く。


「さっちゃん」

「何」

「倒せたらお説教手加減して?」

「……無事に戻ったらね」


ぽそりと振り向いて――沙月が初めて見るような、彼の不安そうな目にそっと答え。


「……やっと良いんだ……ぎりぎりまで溜まっててあふれそうになってて、いっちゃえば楽になるのにゆいくんと一緒になるためにずぅっと我慢し続けてきて……でも、やっと……もうちょっと後になってたら私、頭の中まで」


「良いから集中しなさい」

「……沙月さんは、もう少し本を読みましょう」

「? 普段から読んでいるわよ?」

「実用書だけじゃなくて文学、とくに恋愛ものを……いえ、それもまた染め上げる喜びが」


「みどりちゃん、そろそろいい?」

「あ、うん。 合わせる準備できたよ」


ゆいのロッドから、みどりの手のひらから、ふたりの色が漏れ出す。


「ゆい。 貴方がなりたかった魔法少女、その戦い。 存分に暴れなさい」

「うん! 手加減しないで、怒られない力をぜーんぶ、」


揃って腕を振り上げた途端にふたりを中心にそれぞれの魔力の光がドーム状に広がって行き。


この光は、あのときヘリから見たときの……と思い出す沙月は、全体重でふたりから発せられる魔力の重圧に耐えながら深く目をつぶった。


桜と梅と深緑が螺旋を描きながらえぐれた山間部を埋めて行き、一瞬で山脈を覆い尽くす。

その灯りは――魔力の素質が多少でもある存在なら数百キロ先に居てもはっきりと見えるものだった。


――――――――――――そうして消し飛ばされた地中の、奥深く。


ぴしり、とひびが入った繭のような物体が投げ飛ばされ――叩きつけられた先で、その中身が孵ってしまった。


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