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59話 異常事態:それぞれの

「……厄介ね」


沙月が見上げる空は鳥形の魔物に埋め尽くされている。

普通の鳥でさえ群れとなると威圧感があるのに、それが魔物になっている。


三次元の空間において人が対応しにくい上方と言うのは不利。

実際、魔王との戦いでは大半の魔女の攻撃でさえまともに通らなかった。


「この辺りくらいまでなら……ええ。 突出した力を持つものがいなければ私たち抜きでも対処できるでしょう、けれど」


二度あることは三度ある。

みどりが心配してゆいを引き留めるほどのこと。


以前、彼女は言っていた。

心配だけれど止めない、と。

なのに今回は止めている。


……夢であれだけ変な調子だったけれど、もしかしたら不安のせいだったのかもしれないわね。

あの子だって……精霊を通さない魔法だなんて聞いたこともないし、何故それを自在に扱えているのかなどは気になりはする。


でも、彼女も変身せずに人を超えた身体能力を発揮できるはず。

それでも、彼女が出撃しないで引き留める方を選択したということは。


「……あの子、どれだけのことができるの。 この光景を見たとしたって、発生源なんて普通は分からないのに」


北。


北へ急ぐようにと言っていた。

しかしそこに何があるのかと言うのは今考えることではなく、ただ従うのみ。


「……あ、あのっ。 天童沙月……さん。 魔女の。 この前から町で見たって子が」

「貴女たち、大きな怪我はない?」

「はっ、はいっ! さっきの魔物たちに囲まれちゃって、どうしようもなくなっててっ!」

「そう。 私は別の方面へ行くから同じミスをしないようにしなさい。 貴女たちを失いたくないから」


前回この町に魔王が来たとき、かなりの数の精霊が魔法少女たちの身代わりになった……とだいふくが落ち込んでいたのを目にしていた沙月は軽い治癒魔法をかけてやると、真っ黒な空の先の北を目指した。


♂(+♀)


少し離れた場所。


「急に雨と風、出てきたね。 ちかちゃん」

「ええ……まずいわね。 戦いにくくなりそう」


インカムで町じゅうの魔法少女たちの司令塔になりながら遊撃をしている千花と、いつものように彼女をサポートする形の美希。


明るい黄色と静かな銀色の魔力のペアは、テンポ良く敵を捌いていく。


「わたし、大きい魔物ってあの魔王って言うのとその赤ちゃんしか」

「私だってそうよ? ……だからどうしても嫌な想像しかできないけど……今はとにかくっ! 魔女さんたちが押し返してくれるまで、私たちが遅滞戦っ!」


「さ、さっき、近くの地域にいた魔法少女さんたちから、さっちゃん先輩って」

「うん、居たみたいね。 やっぱりすごい人なんだなぁ、さっちゃんセンパイ」


やっぱり「さっちゃん」って言いやすいし可愛いよね、と言い合いながら踊るように戦うふたり。

彼女たちは二度の修羅場を経験し、――ゆいのキスを経験していたため他の魔法を使う者よりも数段上手に戦えていた。


キスの件については本人たちに自覚は無いようだったが。


「でも……やっぱり面倒になってるわ、ねっ! 前までは人を見つけたらそのまま突撃してくるだけだったのに、今じゃぜんぜん違うっ!」

「うん、ゲームのモンスターとかのモーションが変わってるみたい……。 強くなるほどに戦力差があると来てくれ、ない」


「うーん……私、ゲームはあんまりだからなぁ……」

「……ちかちゃんのやってるパズルゲームとか、上のステージだと面倒でしょ?」

「あ、それなら分かるかも」


そのおかげで以前のように物量で押される場面は減りつつあるが、逆に隙を突いての攻撃や波状攻撃、突撃しながら遠距離攻撃などこれまでにない動きをしている魔物たち。


今のところは沙月ほどでないにせよ体力を消耗せず無傷で――急にスマホのアラームで起こされたと思ったら緊急招集、とあって慌てて出てきてそのまま戦い続けている千花と美希は、まだそうして会話をする余裕がある様子だ。


「それに、あのときとあのときに比べたら」

「魔王さんとお子さんに比べたら、ねっ!」


倒したのはゆい君/くんだけど、と言いながら魔法少女たちは踊る。


「けど……倒した感覚が薄いのは不気味なのよね――……なんでだろ?」

「さ、さあ……けど、楽に越したことは」


「――千花! 美希!」


「だいふくちゃん!!」

「だいふく…………っ」


駆け寄ってきたのは金色の魔力を振りまいている、だいふく。

他の魔法少女たちの世話をしていたからか全然姿を見せなかった精霊は。


「巻島君、美希君。 遅くなって済まなかった」

「渡辺さんまで……」


普段通りの格好――だが、明らかに汚れが目立つスーツとスニーカー姿で走ってきた渡辺と行動していた。


「本部も、対応が遅れたんだ。 それで人間側も精霊側も反応が……ようやく目処が立って現場に来られたよ」

「ごめんなさいね、ひと言でも話せていたら良かったんだけど……今はどこに向かっているの?」

「うん、次はね――」


魔法少女と精霊と元魔法使いは、魔法少女たちが移動していた先へ動きながら話を続ける。


「まず、あの子たち……ゆいとみどりはまだ寝ているわ。 この前とは違ってちゃんと寝ている感覚が分かるから」

「ゆい君が勝手に、みどり君も手伝っちゃってた件だね。 あれには本当に困ったから良かったよ。 ……いや、この状況だと」


「どちらが良いのか分からないわね。 あのふたりはかなりの戦力になるわ。 特にゆいは……いえ。 でも、長丁場になりそうなときのための」

「交代要員にした方が良いかも、ね。 今回は魔女の人たちも来ているし、また彼が特別に必要って言う展開にならないことを祈っているけど」


「あ、あの。 渡辺さん。 それ……」

「うん? これかい? ……ああ、美希君には初めて見せるのかな」


時折襲ってくる魔物へ拳を振るっていた渡辺は、ネクタイをしていないシャツの首元のボタンをひとつ外している。


少年、あるいは青年まで魔法使いだったという彼に、かつての力はない。

魔法少女も魔法使いも、そのほとんどは20代のうちに戦えなくなっていくからだ。


しかし完全に使えなくなったわけではないらしく、今も彼は淡くてただ発光しているだけながらも魔力の光を纏っていて……何十分走り続けてもバテない程度には平気そうだった。


「かなり落ちているけどね……だいふくに魔力を分けてもらい続けたら自衛くらいはできるよ。 …………何日かあとの筋肉痛が今から怖いけどね」

「? 明日の……じゃないんですか?」

「……20を過ぎると、だんだん筋肉痛が遅れてやってくるようになるんだ……特にお酒とかを呑むとね」

「あんな毒、どうして人間は自分から飲むの?」

「うーん……ストレスが多いからかなぁ……」


弛緩した空気。

緩み切ったわけではなく、きちんと周囲を把握しつつの情報交換。


現役の魔法少女たちも元魔法使いも――一般人からは外れた存在だ。


「でも、ゆいくん寝てるんだ」

「ええ。 昨日の今日だし……できたら、起こしてくれなかったって駄々こねるようにしてあげたいわね」

「そうねー、ゆい君のアレって危なっかしいから」


「今回の魔物がどれだけの規模になるのか分からないからなんとも言えないねぇ。 ……うん。 本当に強い個体が出てきたら起こさないわけには行かないんだけどね。 嫌な役目だけど、僕も一般の人たちを守らなきゃ行けない公務員だしさ」


「………………………………………………」


「あ、あの。 それで、今どうなってるんです、か? みんな、何が起きてるのか不安みたいで」

「あ、そーですよ渡辺さんっ! 適当な理由と状況でごまかしながら指示してるんですから! せめて私たちくらいには教えてくれてたってー」


「ごめんごめん。 実はね、上の意見が真っ二つなんだ」

「大人の都合ー」

「ごめんって」


「魔物があふれているの。 魔力が変に湧き出ている場所があるわ。 ……それは、ここからだと北の方にある山の中。 だから被害はこの町だけじゃないわ、となりの3つくらいの町もよ」


「……そんなに」

「魔物って、普通はそんなことに」


「ならないね。 なるときにはこの前のここみたいに災害ってことにしないと収拾がつかない。 ……今回もするはず、だったんだけど」

「人と精霊の長老たちがモタモタしているあいだに手遅れよ。 もう町は魔物であふれてる。 ――今さら逃げなさいって言ったところで逆効果。 そんなことをしたら」


「真っ暗な町の中で何万人も……守れない、です」

「無理ね――……集団パニックってこわいから」


「でしょう? だから仕方なく人間を起こさないって方針にようやく決まって、あたしたちもこうして出てこられたの」

「本当に、魔女って言う戦力が何人も来てくれていて助かったよ。 ……そういえば沙月君は一緒じゃないんだね?」


「沙月センパイですか? ……あ、そうだ、自分で判断して動くって言ってました」

「何人もの魔法少女の人たちを助けてるって、その人たちから連絡が……」


「そうか。 彼女もプロだからね、それなら任せておけば良いのかな?」

「ええ、彼女なら無茶をせず立ち回れるはずよ。 ……でも、さっきからやけに遠ざかっているような……町の外側で大量発生しているのかしら」


あくまで町を守る。

その前提で行動している彼女たちは――沙月がその場所向かっているとは思いもしなかった。

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