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57話 ゆい←沙月←みどり

みどりによると、彼女の魔法――魔法少女のそれではない別なもの――のせいで沙月がゆいの夢の中に紛れ込んでしまい、いろいろと見てしまい。


その間おなじように沙月の夢の中――何を見ているのか、何を見ていたのかが全く分からないそれに入り込んでしまっていると聞いて慌てる沙月。


「いいからすぐっ、すぐこれっ! その魔法を解きなさい!!」

「無理です」

「今は冗談を言っている場合は!」


「いえ、別に沙月さんの真っ赤な顔とかうわずった声とかを聞いて嬉しかったり、ゆいくんがどんな夢をのぞき見て帰って来るのかとかはすごく楽しみですけど本当なんです。 私、これをコントロールしきれてはいないので、寝ているゆいくんを起こすこともできないんです」


「でも! 私のところに貴女が来て!」

「それは私たち3人が寝ているからです」

「っ!」

「方法もあるにはある……のですけど、今は使いません」

「何で!!」


みどりの変わらない深い緑のジト目にすがりながら……気がつけばぶんぶんと肩を前後に揺らしてしまっていて、みどりの首もがくがくと動いている。


「……御免なさい」

「夢の中ですので平気ですよ」

「…………、そう」


「けど、夢というのは過去の記憶から形成されているので、基本的には沙月さんの夢は沙月さんの記憶を元にしています。 その中で特に感情が動いた場面とかだと入りやすい印象ですね、私の魔法ですと。 あと、見られたくないって思うほどでもありますので……そうですね。 恥ずかしい経験とか……ゆいくん相手ですとお風呂とかお手洗いですか、そういう場面が元になっているほどに」


「どうにかならないのみどり!?」

「ご安心ください。 本当に、本気でゆいくんに見せなくないって思っているなら見ることはできません。 私だって、ほんの一部ですけどゆいくんには見せられませんし……ゆいくんの中にも、ちっちゃいブラックボックスがありますから」


「……ほっ」

「あ、でも、例えばゆいくんにお風呂に入って来られたりして裸体をくまなく観察されていたりしますと、心理的なハードルが下がりますので」

「みどり!!」

「もう手遅れですよ? と言っても、普通の夢の確率の方が高いですから」

「………………………………………………」


夢の中なのに息が荒くなっていて、顔にも汗をかいていて。

翻弄され切った沙月はうなじに風を通すように髪を仰ぎ……いつの間にかに背中に張り付いていたゆい(小)に慌てる。


「けど、先輩も悪いんですよ」

「私は何もしていない被害者よ……」


「いえ。 普段から私がゆいくんの夢に入っていたところに、今夜先輩が忍び込んできてしまった形ですので。 さっきの通り、心理的な距離が。 沙月さんにとって、ゆいくんは家族、あるいは恋愛的に好きな関係になって」

「ええ、ゆいは弟。 ……そうっ! ホームステイが心地よかったから!」


「義弟への愛ということで」

「みどり?」

「だって、いつもゆいくんのこと気にしていますし」


「それは……そうよ。 朝から、寝ているところに鍵を開けて入って来るし、帰ってきたらまた同じでしばらくダイニングで話したりしないと落ち着かないし……本当、手の掛かる年の離れた弟よ。 けれど、私はもう高校生だし、私の理想は私より頼りがいのあるおとなの人だし……ゆいなんかその真逆でしょう、子供でしかないし、感情と行動が同じだし、いつもいつも勝手に」


「同棲……羨ましいです。 ゆいくんと着せ替えっこしたりして女装を楽しんでいるあどけなさを堪能したいです、私も」

「すれば良いじゃない……貴女なら彼の家族も彼自身も喜ぶでしょう」

「せいぜいがお泊まりです。 私の両親、厳しいので」


「その本性は厳しい家庭の裏返しかしらね」

「酷いです、沙月さん。 私はただ気持ちに素直なだけなのに……あいかわらず顔を真っ赤にしながら絶対にゆいくんのこと好きだって認めない先輩と違って」

「だから!!」


ふたりの会話に興味を持ってしまったか、ちびゆいたちが足元に群がってきている。

脚に張り付いてきたりしているのを邪険にもできず、ひとりひとり丁寧に引っぺがすしかない沙月と、何もせずに埋もれていくみどり。


「貴女、このゆいたちを……と言うか増えすぎではないかしら!?」

「ゆいくんの夢ですから。 気ままな性格なのでたくさんいるみたいです」


中には女子用の水着を着ているちびゆいもいて……それに気がつけないほどの違和感の無さに驚く沙月。


……この歳の女子なら胸がなくても不自然ではないし、それに……その。

どうして股のところが膨れていないの……?


「早めに素直になった方が良いですよ、ってだけ伝えておきますね。 実は私、ゆいくんのこと嫌いでしたし。 去年まで」

「だからこれが、……って、え? 貴女に限ってそんなことは」


「ありますよ。 嫌いを通り越した憎い感じでした。 それこそ、この魔法を使ってゆいくんを悪夢に縛り付けて酷い目に遭わせようとしてたくらいです」


いきなり信じがたい告白をしてきたみどりにどう反応していいのか分からず、両手でつまんだゆいをそのまま落とす。


「……そういえばだいふく、こんな感じで感覚を……あ、なんかできそう」

「――――――――――――――っ!?」


足元のゆいたちを構うことなく蹴り飛ばしてとっさに短刀を構え、腰を低くしていたのに彼女が気づけたのは、そうなってからのこと。


夢の中なのに実体がある以上変身もできるらしい。


……それよりも、みどりから放たれたおぞましい感覚に息が荒くなってしまう。


「……なんなの、それは。 魔王と対峙したときよりもずっと」

「悪意の塊ですから。 それも、対人に特化した、です。 これは人を極限まで痛めつけたいという私の悪い本性。 本能。 ……ゆいくんは、これを抱えている私でも好きだって言ってくれましたけど、できるなら何にもできない普通の人になりたいくらいです」


ごめんなさい、とみどりが謝った途端にその悪寒は消え失せ、冷たい汗がそこかしこで伝う感覚が気持ち悪く感じる。


「……貴女、みどり。 本当に」

「はい、本当は私、魔女さんに対峙されるような心の持ち主なんです。 でも、ゆいくんが救ってくれたので。 ちょっとしたことでもすぐ悪くなるので普段は感情を動かないようにしています」


「表情が、ゆいと接しているとき以外で」

「無いのもそれですね。 学校とかでもこうならないように心を止めています。 例えるなら……ゲームのキャラクターを操作している感じにして。 もっとも、みなさんとは長く接しすぎたのでそれも難しいんですけど」


「……そう」


悪意を振りまいたみどりのことが心配になったのか、小さいゆいたちがわっと群がって行き、あっという間に埋め尽くされるみどりは……わずかながら、幸せそうな笑みを浮かべていた。


「それからいろいろあったので、今ではゆいくんのこと食べちゃいたいくらい大好きです」

「知っているわ。 ……その表現は何故だか恐ろしいわね」


「そうですか? でも、きっと近いうちに沙月さんも私の仲間に……ううん、美希さんも千花さんもだいふくもでしょうから、とりあえずは3人で爛れた関係でもしませんか。 そこからひとりひとり増やしていくんです」


「爛れた? ……ごめんなさい、私、魔女としての生活にしか興味が無くて文学的素養に欠けているのだけど、それはどういった」


「なるほど。 沙月さん、やっぱりそういう方面ではゆいくんよりちょっと上、程度なんですね。 私、千花さん、だいふく……だいぶ離れて美希さん、それからさらに離れて沙月さんと言う具合?」

「なんだか貶されているような気がするわ」

「いえいえ、それが好きだという男性もいますから。 ゆいくんも同じくらいですしお似合いですよ?」

「でも、疎い人同士が恋仲になってもまるで進展しないの。 だから私が物理的にひと肌脱いでお世話を」

「よく分からないけれど止めなさい」

「えー」

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