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56話 みどり→ゆい←沙月in夢withだいふく

「せっかくのテリトリーですし、真っ暗だと嫌ですよね? 今変えますね」


みどりが腕をかざした瞬間に明るくなり――真っ暗だったそこは、つい先ほど夢の中で出てきていた光景。

黒く爛れた大地――既に緑の芽がそこここに頭を覗かせている丘陵と、その先に崩れかけた石造りの施設。


「これは、先ほどの」

「ゆいくんが見てきた風景です。 私としては暗くてじめじめしたところの方が心地良いんですけど、沙月さんはこっちの方が良いと思いまして」

「……そう」


ふと気がついて腕を上げてみる。

……沙月のパジャマの袖が視界に入る。


「先ほどまでとは違って、私の体に」

「ゆいくんの意識とは切り離しましたから」

「……良く分からないけれど、今は良いわ」


そう言えば目の前のみどりは寝巻きではなく普段着なのね、と、関係のないことが頭をよぎる。


「目は醒めましたか」

「……ええ、はっきりと。 それで? ここが私の夢でないことだけは理解できるのだけど。 知らないことが鮮明すぎるし、こうして思考できるし」

「さすがは魔女さん。 ええと確か『ルナ』」

「その二つ名を呼ぶのは止めて」

「かっこいいのに」


ゆいくんはベタ褒めでしたよ? 妬いちゃうくらいに……とつぶやく。


「……そろそろ教えてくれるのよね。 これのこと」

「とは言いましても、今言った通りです。 思ったよりも疑ったり否定されなくて楽ですけど」

「あのときにもゆいの記憶を視たし……何より私自身も魔法を扱うもの。 幻惑魔法にも耐性があるから」


「なるほど、あのときのゆいくんを注ぎ込まれたキスのおかげで」

「分からないのだけど、その表現は止めて頂戴」

「……仕方ありませんね」


「で。 これは幻覚系の魔法でないのは分かっているの。 だから今、私が貴女と会話を――私の夢の中の貴女ではなく――している前提で尋ねるわ」

「このときのためにどうやって説明するかって考えていたんですけど……いえ、無駄になって楽なんですけど。 あ、ゆいくん、そっちに行っちゃダメ」


「……その」


沙月はみどりの視線の先の物体に目を落とす。


そこには……デフォルメされたゆいが何人も転がっていた。

ただでさえ低い身長がさらに低く、30センチくらいになっていて。


甲高い声でお互いに何事かを話しながら転がったり歩いたり、抱き合ったり髪を梳かし合ったり、ポニーテールにしてみたりお団子にしてみたりしている。


「…………貴女が作ったの?」

「いえ、あれは夢を見ているゆいくんたちです。 ほとんど意識はないんですけど、ああして遊んでいるんです。 ちなみに沙月さんが入っていたのは、今転んだゆいくんです」

「………………………………………………そう」


最近立て続けに理解の追いつかない現象に悩まされている気のする沙月は、ふとだいふくの疲れ切った顔を思い浮かべる。


口元だけが笑うみどりが体毛で毛玉を作って楽しそうにしている傍らの……だいふくを。


「……みどり」

「何でしょう」

「だいふくをいじめるのは止しなさい」

「大丈夫です。 同じくらいやられ返しているので」

「そういう問題ではないわ」

「愛があれば良いと思います」

「愛は双方向でないと行けないと思うわ」

「双方向だと思っているんですけど……まだまだ足りないですか」


「……目に余るようなら、ゆいに頼むわよ」

「分かりました、抑えます」


そんな彼女たちの会話が夢の中のゆいにも届いたのか、その辺りにぽっとだいふく……のデフォルメされた姿が現れ、一斉に集まってきたゆいに囲まれてもみくちゃにされる。


「……現実と一緒ね」

「ゆいくん、かわいいもの好きですから」


「それで」

「はい。 まず、ここは深層心理という場所……人の無意識に近い場所です。 起きているときは意識、寝ているときは無意識……夢を見ているとき、ぼーっとしているとき、何かに夢中になっているときにも無意識に近くなります。 そう言った知識はありますか」


「ええ」

「それにプラスで精霊と魔法少女の感覚共有、テレパシー。 今は沙月さんもだいふくと契約しているんですよね。 それも加わっています。 夢の中で本当に会っている、と、ひと言で言えばそういうことです。 ちなみに今ゆいくんタワーに埋もれただいふくも、意識のほんの一部ですね」

「夢の中で……」


「以心伝心って言ったらゆいくんも理解してくれました。 細かいことよりそっちの方が早いって思って」

「でしょうね」

「まあ、普通のテレパスですと感覚までは無理なんですけど……それは良いです」


みどりが、だいふくを囲む会からあぶれて泣きべそをかいていたゆい(小)のひとりを抱きかかえる。


「ゆいくん、かわいいよ。 ……うん、かわいい」


そうささやかれた彼のひとりは途端に笑顔になり、みどりの……顔面に張り付く。


「………………………………………………」

「……苦しくはないの?」

「ゆいくんのおまたが顔に張り付いているので」

「止めなさい」

「ゆいくんのおち」

「止めなさい」

「えー」


「そもそもゆいは男子でしょう。 嫌ではないの?」

「好きな男の子のをほおばりたいというのは女の子の普通の気持ちでは?」

「んなっ!? そんな汚いことどうしてするの!?」


慌ててゆい(小)を引っぺがして思わず遠投してしまう沙月。


「あっ……」


途端にだいふく(小)が投げ出され、歓声を上げながら思い思いの髪型とスカートをはためかせながら他のゆい(小)たちが走って追って行く。


だいふく(小)は……ほっとしたようなさみしそうな顔をした後、光の粒になって消えた。


「夢ですから特に意識しなければ痛みとかはありません。 あ、でも、悪夢とかですと痛みがそのまま感じられるので止めないとですけどね」

「……そう」


放物線を描いて落ちた先でデフォルメゆいたちが……色とりどりのパンツを出しながらバウンドするのを見てわずかにほっとする。


「なるほど。 沙月さんも嗜虐趣味が」

「よく分からないけれどちがうと思うわ」

「残念です。 私のだいふくへの気持ちと同じだと思いましたのに」

「……理解できないけれど、抑えなさい。 まだ小学生でしょう」


「というわけで、私たちは見えないところの深層心理というもので繋がっているというおはなしでした」

「無理矢理話を戻さないで。 ……だいふくの気持ちが分かってきたわ」

「ゆいくんがかわいい男の娘ということですね」

「イントネーションが違う気がするわ」


貴女ってそういう人だったのね、とため息を吐く沙月を嬉しそうに眺めるみどりの視線に戸惑いつつ、先を促す。


「それで、ここから他の方には秘密にして欲しいんです」

「……良いわ。 ゆいのこともあるのだし」

「ありがとうございます。 それで、これ、実は私が『前から』使える魔法のひとつなんです。 ゆいくんしか、知りません」


「……良いけれど。 精霊と契約する前から魔法を使えていたらしいのは千花たちから聞いていたもの」

「あら、そうでしたか」

「ええ。 変身後に走って振り切ろうとしたら普通に着いて来られて困ったと」

「ちょうど沙月さんがゆいくんにやつあたりしたときの話ですね」

「……そのことは反省しているわ」


ゆいとの初対面のことを思い出して顔が赤くなる――夢の中なのに――沙月。

……ついでにその後、ゆいに思い切りキスをされた感覚も思い出させられる。


「同じタイミングで眠ると……いえ、レム睡眠の時間帯が重なっているとこういうこともできるんです。 お互いの、これまでの記憶。 何を見て聞いて感じてきたか……それが、心からその人に許している範囲でだだ漏れになる。 私が夢で繋がる魔法は、大体そういうものみたいです」


「……と言うことは、ゆいは私にも」

「はい。 私以外には細かく話さなかった異世界というものを教えても良いって。 たぶん起きているときに聞いても教えてくれる程度には。 ……ただ、ゆいくんは口下手ですので夢の方が正確です」

「……でしょうね」


「あ。 ただひとつだけこれには欠点があるんです」

「欠点?」

「はい。 この魔法、繋げた人同士で同じくらいになるんです」

「同じくらい? …………………………………………まさか!?」


「すごいですね先輩、一瞬でそこまで。 はい、『お互いに同じくらいまで心の中が筒抜け』になるんです」

「今すぐ目を覚ましたいのだけどどうしたらいいかしら!?」


家族へも話しにくい内容までここまではっきりと……と気づき、血の気が昇ったり降りたりするのを感じながらみどりの両肩を掴んで急かせる沙月。


「大丈夫です。 先輩がゆいくんの中を丹念に調べているあいだ、ゆいくんも同じくらいの時間同じくらい沙月さんの中をじっくり見ていましたから」

「……あぁ……」


力が抜け、見るともなくデフォルメゆいたちを見ている沙月。


――この表現で反応しないって、沙月さん、美希さんよりも初心なんですね。


口には出さなかったが、みどりの瞳は――だいふくに見せるようなものになっていた。


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