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48話 ゆいの夢と決着と告白

あとは走馬灯のように。


ゆいの見聞きした場面は細切れに……そのほとんどが見たこともない魔物だろう存在との戦い、転がる人々、顔ぶれがほぼ同じ何人かの魔法少女らしき存在。


もっとも服装的にはやはり映画に出て来そうな、中世の魔法使い……ああ、女性のね……というイメージだけれど。


彼の視線のほとんどは……戦闘中は恐らく私たちと同じような感じ、普段のものも女性相手でも……顔や手しか見ていないわね。

まあ、これがもっと幼いころの体験だとしたらそれで普通だろうけれど。


……何故か頻繁にその人たちと入浴している場面が出てくるのがものすごく気にはなるけれど。

いえ、ゆいが悪いのではなく……どちらかと言えば年上にもかかわらず、子供とは言え男子と風呂に入るその人たちの方が。


また急に変わって――ぼろぼろの格好になってはいるものの、これまでとは違って明るくなった空の下、明るい顔をしている……同僚と呼べばいいのかしら、そのひとり。


ゆい(幼)に向かってしゃがみ込みながら話しかけて来る。


「……私たち、もう大丈夫なの。 ゆい様のおかげで――助かったの。 今までありがとう、ゆい様――ううん、ゆい君」

「あ、やっと様付け取れた。 窮屈だったんだよねー」

「あはは、ごめんなさい。 この世界のルールなの……最後だし、私たち以外誰も聞いてないしで今は破っちゃってるけど」


「あ、ルール違反! ……けど、変なルールだし」

「うん、だから今だけ。 お別れの前の、今だけこっそり。 ……内緒よ?」

「うん!」


ちらちらと映る――ゆいにとっては見慣れた人たちでしょう人たちは泣いているように見えるけれど……あれはきっと、嬉し涙なのでしょう。


「本当は、したくないの。 でも、ゆい君のその力。 ……封印、させてね」

「えー!? かわいくなれない!!」

「ゆい君はそのままでも、とってもかわいい。 お風呂入るまでだーれも信じなかったくらい。 きっと、もっと大きくなっても」

「…………………………………………………………ぶー」


「だから、封印。 その力、あなたの命を縮める力はもうおしまい。 もう、それ以上代償を払う必要は無いの。 だってあなたの世界は安全だし、あなたがいなくてもちゃんと明日が来る。 んでしょ?」

「…………………………………………………………うん」


――――――――――――――――――――――――待って。


今、この人は何と。


「……でも、きっとゆい君が本気で使おうとしたら使えちゃうし、いざってい言うときに使えなかったら、きっと後悔する。 だから、どうしても必要なときはしょうがないけど……それ以外は使えないように、記憶ごと封印、させてもらえるかな」

「……みんなのこと、忘れちゃう?」


「ちょっとはそうかも。 私たち、そこまで細かくできないから」

「……………………………………みんながそれで、安心、するなら」

「……最後まで優しいんだね、ゆい君」


少しのあいだ目元が暗くなり、顔に柔らかいものが押し当てられて漂ってくる香水。

こ、この人、ゆいのことを抱きしめて……し、しかも、胸、ゆいが注目していなかったけれど、私よりもずっと……!


「いいよ。 ちょっとでもみんなのこと覚えてるんだったら」

「ありがとう。 ――じゃあ、操作するね。 でも、その力、必要なときに使えるようにも――――――――――――」


♂(+♀)


…………………………………………………………。


長い夢を見ていた感覚。

けれど、私が見聞きしたものは間違いなく私の記憶に残っている。


……それに、ここは。


重いまぶたを開くと……ああ、この感覚は久しぶりの魔力切れね。

それで眠ってしまっていたのかしら。


「…………あ! さっちゃん! さっちゃん先輩……あわわ、沙月先輩目を覚ました……よ!」


耳元から美希の……明るめの声。

……少なくとも、ある程度の安全圏に移るくらいのことはできたみたいね。


…………………………………………………………体も頭も重い。


「本当? 良かった……沙月が要だもの。 あの子の同僚たちも来るけれど、攻撃の中心は沙月だし」


だいふくの声も聞こえるわね。


……あら、そう言えば夢の中の人たちの名前、一切出てこなかったのは記憶操作の影響で……?


「あ、ゆい。 ちょっと、待ちなさい」


ゆい。


……丁度良いわ、聞きたいことができたから。


「――沙月先輩」


重いまぶたを持ち上げるとみどりの……いつもの仏頂面。


「寝ているあいだに黙って使ってごめんなさい。 けど」


体に力が入らない重い感覚――の中に、この前のように熱いものがお腹の奥から頭までを貫いているような、まだ理解できない感覚。


それが、みどりに手を握られて少しして……すっと引いて行く。


…………何回目だから分かる。

これは、ゆいの魔力。


何故かとても感覚が敏感になって――昔に高熱を出したときのようになるけれど、今はどうでもいいわ。


「……良くなってきましたか」

「ええ、ありがとう。 ところでゆい、あの子は」

「あ。 ……こんなに早く起きちゃうんだったら後でにしておけば良かった」

「? みどり、貴女は何を」


珍しく失敗したという表情をしている彼女の視線を追うと――――――――――――――空に浮く、巨大な魔物。


魔王。


全身の毛穴が開き血の気が引く感覚と同時に、擦り込んできた臨戦態勢で体の自由が利くようになる。


みどりを――血まみれだったし、きっと彼女も撤退戦をサポートしてくれたのでしょう――後ろに庇って変身する。

今すぐに全力で、最低でもこの子たちを逃そうとした。


けれど、私の目に映ったのは――魔王の下にいる、ゆいだった。


「――――――――――――――ゆい!?」

「大丈夫です、沙月先輩」

「でもっ!!」


「ごめんね」


離れているはずの彼から、声が聞こえる。


「あのとき気がついてあげられたら、2回も痛い思いさせなくてよかったのにね。 君たちも、したくてそれ、してるわけじゃないんでしょ? あっちの悪いのたちみたいに」


いかにもな魔法少女――ピンク色と白と赤という、魔法少女が集まれば溶け込む色合いと必要以上に多いリボンやフリルをはためかせた彼という魔法少女が、伸び縮みする不思議な武器を片手に歩いている。


「君が食いしんぼだったなんて。 まさかこっちにもいるだなんて、知らなかったから。 ……もっと前に知ってたら、さっちゃんたちがヒドい目に遭う前に君たちごと楽にしてあげられたはずなのにね。 ごめんね、遅くなって」


声の中に泣きそうな調子が混じりながらも、ゆいは歩き続ける。


――私はそれを見て、動かなければならないのに動けない。

ただ、何故か――彼を見ることしかできない。


どうして。


「もうちょっとなじまないといけないのかなぁ。 全部忘れちゃってたから時間かかるかも。 ……けど、大丈夫」


居合いをするような姿勢を取った彼は、ふう、と息を吐くとロッドを――彼の身長くらいから……どのくらいかしら。

3階建てのビルくらい……に見える、余りにもアンバランスな長さにまで伸ばし。


「ちゃんとめがみさまのところに連れて行ってあげるから。 還してあげるから。 ――――――――――――――5年分。 めがみさま」


5年分。


その言葉を聴いて背筋に冷たい汗が流れる。


先ほどの夢の中の会話と、彼の不自然な魔力――そして、だいふくからも聞いていた『戦闘の際に溜め込んでいた魔力を月単位で放出できるみたい』という情報。


――もしそれが、溜め込んでいたわけではなく。

これからのものを使っているのだとしたら――。


5年。


たった10歳の子が、その人生の半分の時間を――――――――――――。


「じゃあね、ばいばい。 食いしんぼさん」


彼がまぶしい桜色に包まれて飛翔してあっという間に雲の中に吸い込まれる。

――――ように見えた次の瞬間、魔王の子供のはずの雲そのものが消し飛ぶ。


あっけなく……弱い魔物を、私が力を込めないで投げたダガーで葬るように。

空のペットボトルを踏みつぶすように。


一切の抵抗も無く、だいふくたち精霊も国の上層部も、そのために新しい法律を作ってまで準備を始めていたそれを――彼は、たったの一撃…………、いえ。


『5年分』を消費して、退治した。


空を覆っていた結界が、風船が弾けるようにして解けて――遠くから明るい日差し。

朝日が昇っている、雲のない空が広がっていた。


「…………………………………………………………」


のろのろと腕時計を見ると……確かに、もう朝の時間。

と言うことは結局何かの原因であの人たちが間に合わなくて。


ひと晩中――私が魔力切れで倒れた後の時間は、ゆいが戦闘を引き受けて?


――――――――――――――――知らない感覚が、腹部から昇ってくる。

もし、彼が私の想像通りのことをしていたのなら……それができたのなら。


そう思うだけで脚が震え、歯の根元がじくじくと痛み、頭から血が抜けて目眩がするほど。


「………………………………沙月先輩」


後ろから聞こえたみどりの声に、時間を掛けて振り返る。


私は見た。


みどりの、彼女の目も……悲しいという感情を抱いているのが。

普段はゆい以外のことでほとんど表情も動かさない小学生。


そんな彼女の目と、私の目が、ぴたりと合う。


「……………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………」


――――――――――――――嫌な予感は、確信に変わった。


「沙月先輩と私、通じたの。 ゆいくんが好きで好きでたまらない気持ちで」

「勝手なことを言わないの」

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