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47話 ゆいの、夢

ゆいくんの過去。

そのごく一部を、沙月ちゃん視点です。

私の中に、何かが流れ込んで来る。


これは、何。


……………………………………。


――――――これは、ゆいの。


彼の――記憶?


「異世界より召喚されし幼き神。 畏れ多くも御身を身共らの生きる世界に招いてしまったことをまずはお許したもれ」


目の前にたくさんの……私はろくに通わなかったけれど、多分体育館ほどの広さよね……空間の下に、人が、這いつくばっている。


その広さの――映画などで目にするような巨大なシャンデリアが吊されている石造りの豪華な壁、綺麗な絵が幾つもはめ込まれている天井と床は木製。


強い陽の光と何十本の巨大なロウソクでまぶしいくらいのそこに……たくさんの、人たち。

みんな、これも映画で見たことのあるような豪華な服装をしているわ。


詳しくはないけれどヴィクトリア時代と言うのが浮かんでくる感じね。

私は歴史に全く造詣が無いからただの印象だけれど。


――そんな豪華な空間と服装が、どう見ても視界の下で平伏している。


…………これは、一体。


「お気に召さなければ身共らを御身の供物として――」

「ねえ」


いちばん近いところで……土下座みたいな格好をしている人に目線が下がって、耳から幼い声が聞こえる。


……これ。

ずいぶんと高いし舌っ足らずだけれど。

最近すっかり聞き慣れてしまった、彼の。


「演劇の練習?」

「身共らに取りましては現で」

「……どこの言葉なのかな、ぜんぜん分かんない。 時代劇? ごめんね」


……私ならおおよその文脈は分かりそうだけれど、確かに小学生――しかも今よりもっと前なら分からないでしょうね、あの子には。


「――貴方の発言から翻訳を調整致しました。 こちらでいかがでしょうか」

「あ、分かる! すごい!」

「恐縮でございます」

「きょうしゅく?」

「……ありがとうございます」


……そうよね、今のゆいでも恐縮なんて語彙は分からないでしょうし。


「でもなんで土下座してるの? 悪いことしたの?」

「それは貴方を無断で異世界より連れ出した我らが」

「あ、そんなこと。 どうでもいいけどそれ、痛くない? フツーにしたら?」

「とんでもございません、貴方と我々とでは位階が」

「話しにくい」

「……こちらの方が失礼とあれば、失礼を承知で……」


…………………………………………………………。


なんだか……その、申し訳ない気分になって来るわね。

これを見ている私の方が。


恐らくは100を超えるでしょう人数が、男女問わず土下座から一斉に立て膝の姿勢になる様は奇妙を通り越して恐怖を覚えるけれど……声の調子からゆい(幼)が喜んでいるように感じるわ。


ついでに映る顔はどれも洋画そのもの。

映画のセットに入っているみたいな感覚ね。


…………………………………………………………。


…………………………………………………………?


そこから話が続いているみたいなのだけれど……声がぼやけてよく聞こえない。

ついでに早送りだったり、話してくれている人の顔から頻繁に他の人たちの顔とか服のレースやアクセサリーに視線が向いている?


……なるほどね、今でも気まぐれな彼のこと。

おおかた興味の薄れた話を聞いているときの彼の状態ということ。


…………これからは、もっと彼の様子に気をつけながら話をしないと聞き流され……って、何を考えているのかしら私。


そんなことを気にする必要は、……あら、綺麗なブローチ。


「これ、何?」

「こちらは貴方が魔力を効率的に運用するための兵器でございます」

「……魔法少女のステッキとかみたいな?」

「申し訳ありません、その概念を存じ上げません」

「?」

「……まほうしょうじょのすてっきと言うものは、我らの世界にはございません」

「あ、無いんだ。 つまんないね」


ゆ、ゆい(幼)っ!

そんな失礼なことを……って思うけれど、これ、彼の過去よね。


こんなに難しい言い回しとか目に映っている物の精密さとか、彼が夢で見るにはできすぎているもの。


「……じゃ、僕変身できるの!? かわいく!?」

「貴方の意志に従う……デバイスとなりますので、如何様……どのようにも」

「わーい!! ありがと!!」

「ですので、どのような対価も差し出します故我らの」

「悪いやつ倒すんだよね! いいよ!! やったげる!」

「――――――――――――――――――――――――有り難き、幸せ。 望外のっ、……人類の、残された希望……っ」


…………………………………………………………。


何と言うか、その。

手に取って綺麗なブローチを光にかざして喜んでいる様子のゆい(幼)と、視界にちらちらと映っている――本気の涙を流している、恐らくは高い身分の大人たち。


あまりにも空気が違いすぎるのだけれど……ま、まあ、ゆいのことだし、なによりゆい(幼)だから。


…………………………………………………………で、その。


この変な夢、いつになったら醒めるのかしら……あら、また少し時間が飛んだのね、別の部屋になっているわ。


ええとそれはいいのだけれど。

………………………………。


どうして年頃の女性ばかりが映っているの。

しかも誰もが美しい――高校生から大学生の歳の。


何、ハニートラップ?


彼がそんな物に絆されるとでも――――――――――――ではなくて、彼はまだ子供だから意味はないわね、ええ。


この前も私の裸を見てもぜんぜん気にした風でなかったわけだし、心配する必要は無いの。

ええ、今はそんなことは……。


「はっじめましてーすごい神さま!」

「神さま? 僕はゆいだよ? さっきの人たちも、それ、いっくら言っても聞いてくれなくって」

「あ、そう呼ばれるの嫌ですか? もしかして」

「うん。 名前の方がいい」


「……そっかー、これでもずいぶん砕けた感じにして不敬で処される覚悟だったんだけどなぁ」

「???」

「……えっと、このしゃべり方の方がいいのね? 怒ったりしないのね? ……そう、ならみんな。 いざとなったら私が引き受けるから――」


目の前の……高校生、つまりは私と同じ年頃の雰囲気の人。

よく見るとひたいにうっすらと汗がにじんでいるし、今話しかけてきている人以外の手や脚が震えたりしている。


…………………………………………………………。


『神様』。


今、この子、そう呼ばれて――。


「じゃあ私の名前は■■■■■■。 ■■■■って呼んで?」

「■■■■!」

「そーそー、貴方……じゃなくって、ゆい様の次に偉いの」


さっとまた切り替わったと思ったら……何よこれ!?

なんでこの人たち裸になってゆいを囲んでいるのよ!?


や、やっぱりハニー……では無いわね、ええ。

この人たち、どう見ても不意打ちって様子だし。


ええ。


この前私がしていたでしょう表情に似ているもの……。


「え〝。 ……え、えっと……ゆい様って、お、男の子……!?」

「……男の子の裸、初めて見ました…………」

「聞いてたよりちっちゃいんだね?」

「そ、それは男の人に言っちゃダメなんだって!!」


「? ちっちゃくないとおちんちん、女の子のパンツからはみ出しちゃわない?」


そんな声が耳元から聞こえると――ああ。

私の視線もそうやって吸い寄せられていて。


ゆい、一応知ってはいたのね……なんとも思っていないみたいなのが救いだけれど。


……今度は一気に風景が変わったわね。


目の前にいるのは、今裸になっていた人のひとり。

……片手が、肩から無くなっている。

服が、ぼろぼろ。


笑顔の欠片もない。


周りにはぴくりとも動かない人たち。

いえ、人たちだった物、かもしれない。


「ゆい様」

「貴方は、私たちの世界の存在ではありません。 上はいろいろ言ってくるでしょうけど――私は、貴方にこれ以上戦ってほしく、ありません」

「命まで掛ける必要なんて……全滅が確定した今、もう、無いんです」

「だから、お城に戻ってください。 転移魔方陣、実は1回だけ、使えます」

「話は……私と同じように思っている人たちに、通してありますから」

「だから、逃げて」

「その人たちを使えば、ゆい様は貴方の世界に戻れます」

「今ならまだ、そこまでの影響もなく」


途切れ途切れに、言い含めるように。

ゆい(幼)が全文を聞き取れるように、真っ直ぐに目を見て。


遠くで爆発音。


雷のような光が、視界の端に映る。


空は煙で覆われていて。


それでいて――周りに映っている、横になっているような人たちからの声は、一切に無くて。


…………………………………………………………。


……ゆい。


「やだ」

「ゆい様」


……あなたは。


「僕は、やだ」

「だって、正義の味方って言うの――最後まで、絶対に諦めないんだもん」

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