42話 創痍とキスと
この辺りのパート。
心を清らかにしてご堪能ください。
いかがわしい部分は、どこにもありません。
気のせいです。
「みどりちゃん!? ちかちゃん、みどりちゃんがっ!」
「酷い血の量…………け、けど、魔物がすぐそこまで!」
「あ、大丈夫です。 別に魔物のせいでついた血ではないので」
血まみれというビジュアルに対してあっけないほどの声で、美希と千花は固まる。
「え」
「……え?」
「それより」
謎の黒い空間から落ちてきた――ように見えるみどり。
夕方まで巡回でかなりの戦闘をし、もう眠っている時間。
しかし、だいふくから事態を知らされていたはずなのに、彼女は普段着のまま。
よく着ている、黒いシャツにクリーム色のスカート、赤い靴――それも全てひとつひとつが高級なものという格好で、結界に入って来たのに魔法少女姿になっていない。
……そうしてあちらこちらが破れていて服に血がにじんでいるのが美希たちには映っていて、動くと少し顔をしかめるが平気だと言い。
よいしょ、と――どう見ても血だまりの足元を引きずって振り返り、まだ開いている黒い空間に両腕を突っ込み……。
「ち、ちょちょっ!? それ、なんか危ない気がするわよ!? 離れた方が」
「で、でも、みどりちゃんそこから出てきた、よ……? え、えっと……?」
「……あ、そんなところに引っかかってた。 ……寝相、悪いんだから。 知ってるけど」
そうしてずるんと出てきたのは、もうひとりの――。
「……え? ゆい君まで!?」
「ゆっ、ゆいくんも血だらけ」
どさりとみどりの上に被さるようにして落ちてきたのは目を閉じている、ゆい。
ゆいの方もまた、普段着――今日は白いシャツに黒いスカートと、みどりの逆……ではなく、みどりがその逆を選んでいるのだが、ともかく同じように着替えておらず、くったりとしている。
「…………す――……す――……」
「ゆいくん。 ……起きて。 ほら、分かるでしょ? ゆいくんが話してくれた――――――が、すぐそばにいるよ?」
「ん」
ぴょこんとサイドテールを弾ませ体を起こしたゆいが「あ、みどりちゃん。 おはよ」と寝起きの声をかけ「おはよう」とみどりが返す。
何と言うことは無いというように。
「……あのー、ゆい君? みどりちゃん? ……おーい、熱々なのお姉さん大好物だけど、ふたりだけの世界に入ってないで出て来てー」
「いつもだったら見てたいけど今は、その……ピンチだから、ねっ!?」
「あ、ちかと美希。 おはよ」
「んっ……」
みどりに体重を掛けつつ起き上がった彼は、普段通りの――千花や美希が見たことのない、寝起きでとろけたような表情をした彼は、そう挨拶をしつつきょろきょろと辺りを探り。
「――――――――――――ほんとだ、いる」
ぱあっと――冷風が吹き荒れる夜空の中、鋭い桜色に包まれた次の瞬間「魔法少女」が、獲物を「彼」の背丈よりも高く伸ばして立っていた。
「……あのときも、そうだった。 変身できて楽しくってよく見なかったけど……やっぱり、あれだったんだね。 通りですっごく懐かしかったんだ」
「や、だから魔物が……ふたりは自分で歩ける!? 走れる!? 私は沙月先輩を」
「う、うんっ! だいふく、ちゃんとだっこしたから」
「でも、ダメだよ」
じわり、と、彼の髪が美しい桃色から――毛先が、黒くにじむ。
「さっさとかえらなきゃ。 君たちは地球に存在しちゃいけないんだから」
そんなことを、ぼそりと告げる彼の声にも、顔にも……目にも、感情は映っていなかった。
♂(+♀)
「……ぷはぁ……♥」
静かな夜空の下、小学校の屋上で、少女のため息が漏れる。
「もっと。 もっと、ゆいくん……んっ♥」
そうせがんだ少女の唇に、少年の唇が重なる。
餌を求める小鳥のように――愛を求める女のように、少女は求める。
「……んぅっ………………んっ♥」
「……………………………………」
水分の混じった音と、声。
僅かな蛍光灯に照らされているのは対になっている少年と少女。
白いシャツに黒いスカートというシンプルな服装の上に、既に桃色に輝いている尻尾のような左右の髪の毛と腰まで流れる髪の毛。
黒いシャツにクリーム色のスカート、同じく魔力で深い緑色に輝く、癖のある髪の毛が――覆いかぶさるようにした桃色の髪にまとわりついている。
ふたりの小学生が、普段通っている小学校の屋上に入り込み……膝をついて座り両手を絡ませ、唇を合わせていた。
「……ん♥ ……ゆいくん、これくらい」
「んー、あとちょっとで分かりそう。 もっかいいい?」
「……………………………………うん、来て。 来て、ゆいくん。 私の奥まで、もっと。 ね?」
「うん、じゃ、あと1回だけ。 ……今みたいに苦しくなったらちゃんと言ってよ? みどりちゃん、いくら言っても聞かないんだから」
「……………………うん♥」
そうして数分ほど唇を合わせ続け、ぴくぴくと体が動きつつも我慢する少女と、真剣に少女の口内に舌を入れ続ける少年。
「ぷは。 ……………………おわった」
「おっと」
離した唇から糸を引きながら、とさりと少年に体重を掛ける少女、みどり。
彼女の表情は――少年にはまだ理解できない物だった。
「どうだった? みどりちゃん。 今度はちゃんと調節できた気がするんだけど」
「――――――――――――はーっ…………♥」
「みどりちゃん?」
「…………ぅん……これなら、だいじょうぶ……って、思う……んうっ!?」
ぐいっとみどりの肩を掴んで起き上がらせ、じぃっと彼女の瞳を覗き込むゆい。
「……ゆいくんが、その気になってくれ」
「キスで魔力上げるのってやっぱり難しいよねー。 みんなくすぐったくって今のみどりちゃんみたいになっちゃうし」
「……………………これもまた、いい。 ……うん、そうだね。 女の子は、敏感で、くすぐったがり、だから」
「そっかー。 僕は前からあげる側だからそんなことないけど。 あ、でも、べろの先っぽはぴりぴりするかなー。 なんでだろ。 アメ食べ過ぎたときみたいになるのかな?」
「……………………………………そう、かも、ね? くす……」
「この前のさっちゃんには悪かったかなぁ。 ほら、みどりちゃんとこうして練習する前だったから、けっこー力任せに思いっきり出しちゃってた。 魔力、どばーって。 なんとなくさっちゃんなら大丈夫そうって思ってたし。 ちがってたけど」
「……無理やり……力任せ……たくさん、注ぎ込んで…………ふふ……」
「あのときのさっちゃんも体じゅうくすぐったくなっちゃってたもんね。 走ってるみたいにはーはーしてたし顔も真っ赤になって汗だくだったし。 あ、ところでみどりちゃんまたひとり言」
「ゆいくんの気のせい」
「僕の気のせいかぁ」
「うん、気のせいだよ」
「そっか。 空耳かぁ」
よくみどりちゃんから空耳聞こえるなぁと言いながら立ち上がって周りを見渡していた彼に、ようやく足腰が立つようになったみどりがしなだれかかる。
「けど、これでみんな長時間戦えるね! 僕があげればいくらでも戦える!」
「うん……魔法少女さんたちや沙月先輩が、戦って。 魔力が足りなくなってきたらゆいくんからキスしてもらって……いっぱい、お腹に溜めて……♥」
「ちゃあんとゆーっくりのろのろ入れられるようになったからもう大丈夫だよね! 今の半分くらいのスピードだったらみどりちゃんもくすぐったすぎなくて済むでしょ?」
「♥ …………うん、そうだね。 そのくらいなら、ちょっと休めば平気」
「もー、みどりちゃん甘えんぼさんなんだから。 けどありがとー、協力してくれて」
「いいの。 ゆいくんのためだから。 …………あ、そうそう。 沙月先輩相手なら、今のスピードで注いであげても良いと思う。 魔女さんだし ……ふふ」
「そう? ならそうする。 じゃ、行こっか」
「……うん。 あ、でも、途中はどうするの」
「途中? ……あ、そっか。 魔物、あっちこっち。 ……魔法少女さんたちも疲れてるね」
「…………早速、試さない? 練習は、大事だよ。 男の子のゆいくんだから、ホンバン前の練習を。 ――――――――――――ね?」
「みどりちゃん……」
「どうしましたか千花先輩。 私はただ、ゆいくんの練習台になっただけです。 あ、最初の場面に戻るのにもう少しかかりますね」
「どうしてみどりちゃんって、……その。 お空を見上げて、話しかけるの」