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40話 結界内にて

「ゆいくんのいないところで、みなさんが露払いをしてくれていたみたいね」

「結果的にはそうだけど……みどりちゃん、本当ゆい君しか見てないのねぇ」


「ありがとうございます」

「や、褒めてないよ??」

「……………………??」

「恋は盲目……なのかな」


吹き荒れる魔力は次第に凍てつき、冷たい風にちらちらと白い欠片が混じるようになりつつある。


今はまだ、だいふくが抑えていられるため周りへの影響が少ないが、やがてその影響は外へ漏れ出すという。


「――だから、余裕のある今のうちに少しでも勢いを削ぎたいのよ。 沙月?」

「ええ、孵化したものと退治するための準備運動程度に狩りに行くわ」


シャラッと短刀を形成し、腕や腰、脚のホルスターに収めていく沙月。


「センパイ、便利ですねー、それ。 あ、だからその格好なんですか?」

「そうね、きっと無意識でこうなったのね。 いろいろな資料を漁ったし」


「でも、ネットで見たさっちゃん先輩のゴシックロリータもなかなかに」

「美希。 忘れなさい。 ……忘れて、お願い」

「えー、かわいかったのにーちっちゃいころのセンパイ」


それなりの時間、結界の中とは言え体を休めて会話をしていたからか、美希と千花はある程度の元気と魔力を取り戻したと見え……普段はまじまじとは見ない沙月の魔女衣装を観察しに出てきていた。


「ふたりだって、かなり特徴的な服装でしょう、変身時の」

「やー、私はあまり目立ちたくなかったのでがんばりました」

「わ、わたしはちかちゃんから聞いてて……ちょっと派手ですけど」


寒いためか、いつの間にかトレンチコートを生成して羽織っている、短いプリーツスカート……つまりは秋冬に駅で見かけるような女子高生もとい女子中学生の格好の千花と、いろいろと装飾がついていて普段着としては派手な部類ながらも、おどおどとした雰囲気で……かろうじて一般人に見られるだろう美希。


ここにいる3人とも、普通の魔法少女の面影は無かった。


「千花、美希。 貴女たち、まだ戦えるかしら。 これだけの連戦の後で悪いのだけど」

「いいよ、だいふくちゃん。 だいふくちゃんだってがんばってるもの、ちょっと元気になった分は私たちが! ね、美希ちゃん」

「う、うん……が、がんばるっ」


「ありがとう。 片付いたら1、2週間のお休みを入れるよう渡辺に言っておくから。 ……なら、沙月。 あなたはこの子たちの負担になりそうな魔物を優先してお願い。 あなたたちは沙月が倒さなかった魔物をお願いできるかしら」


「うんっ、がんばりますっ」

「ち、ちかちゃんと一緒なら……」


手元におたまとフライパンを生成した千花と、その後ろに張り付く美希。


「私たちはいつも通りでいいのよね、だいふくちゃん」

「ええ。 千花が前に出て美希が状況把握と指示、遠距離攻撃。 普段通りで問題……無いのよね?」

「勿論。 美希と千花の実力は知っているから問題ないわ」


「ありがとう。 ならあたしは千花の傍で結界を維持しながら他の子たちと連携してるから。 沙月、手に負えなくなる兆候があったら伝えて。 他の子たちを応援に呼ぶから」


「けれど、同僚の魔女たちが到着するまでで良いのよね」

「そうね。 あくまで魔法少女の子に任せられる範囲で」

「了解よ」


次の突風とともに魔物が十数体ほど現れる。


先ほどまでは沙月ひとりで退治していたそれを、いくらかは見逃す形にして魔法少女たちに回す。


「……今のところっ! まだまだ弱いわ、ねっ! ……ふぅっ、もちろん沙月センパイが選別してくれてるからなんですけど」

「はわ、はわ……」


「……いい機会だし、2、3時間したらゆいとみどりも呼ぶわ。 みどりは魔力の扱いが素人とは思えないくらい上手だし、ゆいも普段全力を出せていないみたいでストレスが溜まっているみたいだし。 ひと眠りしたら呼んで、全力を出してもらいましょう」


「……ゆいくんに、ストレス? いつも楽しそうにしてる……よ?」

「いくら明るく見えても……男の子でも、ストレスは感じるの。 たぶんあの子の場合は男の子らしく全力を出し切れないことね」

「ほぇ――……」


ゆいくん、あんなに笑顔なのにねー、と首をかしげる美希。


「……疲れているはずだけれど大丈夫かしら。 あの子たち、小学生でしょう?」

「戦闘自体は千花と美希ほど激しくなかったし、あの子たち早く寝るみたいだから平気でしょ」


「……そう。 けれど、できたら私たちだけで片づけたいわね。 子供にまでこんな戦い、させたくないもの」


「………………………………………………………………………………ほー」

「………………………………………………………………………………はわ」

「………………………………………………………………………………何よ」


「さっちゃんセンパイ、最近いっつもゆい君のこと気にしていますよねー? おやおやー? 天才魔女様は魔法少女君にお熱ですかぁー?」

「!? ばっ、馬鹿を言わないで!!」


「あー♪ ムキになってますねぇ、これはアヤシイ」

「ち、ちかちゃん……今戦闘中だよぉ」

「だーいじょうぶ、ちゃんと周り見てるから」


「そうではなくっ!」

「でも行けませんよー、泥棒猫さんになっちゃうのは。 彼にはみどりちゃんっていう彼女さんがいるんですからー♪」


「ちっ、違うったら! ま、毎日一緒だから……危なっかしいから見守っているだけで! 年下の家族みたいなものでっ!」


「顔真っ赤にして年下のカゾク。 ……昼ドラ展開、大好物ですっ」

「……さ、さっちゃん先輩……年下趣味、ですか?」


「だから違うって! ……あーもうっ、千花は茶化すようなことを言わない! 美希も変な誤解……と言うかさっちゃんは止めなさいと!!」


「…………これだけ元気ならここは大丈夫ね。 なら、あたしは……」


空間を斬るような風と音と冷気、波状攻撃を思わせる魔物の襲来。

……そんなものは、少女たちの「恋バナ」の前にはついでのものになっていた。


♂(+♀)


「……キリが無いわね」

「さっきまで以上ですよぉさっちゃんセンパイ」

「いっ、いっぱいいっぱいですさっちゃん先輩」

「だからそれは……今は良いわ」


最初は余裕で……それこそ「恋バナ」の会話の方が多かった彼女たちも、ほんの数十分で疲労の色が濃い。

今ではひと息ついたかと思えばおかわりがいくらでも湧いてくる始末。


夕方から連戦どころでない美希や千花も、着いてからずっと主力をさばいている沙月も……周囲と話しっきりのだいふくも、体は重く。


「だいふく。 これ、町じゅうの魔物まで来ていないかしら」

「ええ……これでも大分、削ってくれているみたいなんだけど」

「結界に引き寄せられて来るのは良いことなのだけれど……一般の人への被害が出ないし。 けれど、この後へ余力を残せるかしら」


ちゃり、ちゃりっと地面に落ちた短刀を拾って回る沙月。


「それ、いちいち集めるんですか?」

「いえ、普段は魔力で再構成するだけ。 でも……今は無駄遣いしない方が良さそうだから」

「な、なるほど……です」


まあ、いざという時の切り札は幾つかあるから、少し節約しているだけだけれど……と、付け加えて。


「貴女たちは……もう、休んでいなさい。 何かあって脱出するときに動けなければ困るから。 ね?」

「ふぁーい……」


「で、でもっ。 さっきから少しずつ減ってきました……よね? 魔物」

「そうね。 ここの外でもだから、ようやくかしら」


「…………本命のがまだ、残っているけれど」

「それは……沙月と魔女の子たちに任せるわ」


ふわりと、黒いコートが千花たちに乗せられる。


「私の衣装の一部よ。 私は動き続けて暑いくらいだし、それで温まっていなさい」


「……さっちゃんセンパイ……!」

「さっちゃん先輩っ」


「だからさっちゃんは止めなさい」


いつものようなやり取りをしている少女たちを見つつ、だいふくは精霊にしかできない仕事を黙々と続けながら、ひとり悩む。


……そろそろゆいたちを呼んでもいい頃合いかしら、と思って連絡を……と思ったのだけれど、どうしてか通じないのよね。


みどりとは通じ、……ちゃったから、彼を起こしてもらうようたのんだけれど、後が怖……じゃなくて、何かおかしなことがあるわけでもないわ。


けれど、どうしてゆいとだけ。


――普通はよっぽど深い眠りについていない限り、てれぱしーで確実に契約した子に声が届くはずなのだけれど、と。


「ま、暢気な子だし、何かに熱中すると周りが聞こえなくなるタイプだし、思い込みも激しい子だし。 こういうときのために、あたしもすまほをっ、……!?」


ざっ、と、だいふくの視線がブレる。


疲れかしら、と思いながら開いた視界は、一面の花。


――――――――――――――桜の木が、桜の花びらの絨毯の中に無数に立っている。


一切に音の無い空間。

ただただ、桜色と……所々に混じった梅色と、青い空で覆われた空間。


その中にひとり、誰かが立っている。


それは、桜と梅と、染められていない白……アクセサリーは似合わない漆黒を付けた、ある少女に見える幼い姿。


「――――――――――――――だいふくちゃん? だいふくちゃん、大丈夫?」

「え……」


「……だいふく。 他の精霊と交代したらどうかしら。 考えてみたらあなた、昼からずっと働きづめよね」


「……………………………………………………平気よ」

「そ、そう? た、大変だったらいつでも言ってね?」


「ありがと。 ………………………………………………」


だいふくの様子が普段に戻り、明らかにほっとした様子の少女たち。

美希からさりげなくモフられているのも気にせず、だいふくは今の光景を反芻する。


――――――――――――――綺麗。

綺麗なところだったわ。


けれど、綺麗「過ぎる」場所だった。

混じり気を許さない顔をしながら、よく見ればあちらこちらが昏い場所。


歪なまま、時間が止まったような。


………………………………………………………………………………。


「……ゆい。 今のは、ゆい。 貴方の、心の中――」

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