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37話 異変・前編

ゆい君の周りに、少しばかりの変化。

「……それにしても、久しぶりだよね、ゆいくん、みどりちゃん。 えっと、わたしたち確か……ゆい君たちの研修をお手伝いしてから……かな、この格好で会うって。 ほら、この服装って普段はしないし、交代のときとか遊びに行くときとかも普通の服だもんね。 そう考えたら……んと。 4人とも変身してて、あ、だいふくがその姿なのもゆいくんたちとのときだけだもんね……5人とも魔法の格好してるの、ほんと、久しぶりだよ」


「だねぇ……ま、私はこのカッコにしてるから、ランニングしてるフリとかすればあんまり見られないけど……美希ちゃんもみどりちゃんも、特にゆい君も……えっと。 コスプレさんってことで写真撮られちゃうカッコだし」


あー、契約する前によーく考えといてよかったー、と言う千花と、かわいいのにね……と、少々以上に残念そうな美希。

魔法少女の存在が公になっているとは言え、普段目にすることはないだけに、うっかりその姿で表に出てしまうと苦労することになる。


個人が気軽に写真を撮り、すぐに拡散される時代の魔法少女事情は世知辛い。


「え? みんな、お家の中とかで変身しないの? 僕はみどりちゃんと遊ぶときとかいつもだよ? かわいいもん。 ねっ」

「うん……ゆいくんの所で、だけです。 お姉さんたちに見られるくらいなら平気ですし。 変身、しているだけで魔力使うらしいですけど、戦うのに比べたら、ですし。 あと、変身して戻ると……汗とか、ぜんぶ綺麗になりますし」


繋いだままの手がゆいによって持ち上げられ、ぶんぶんと振られ始める。

……どうもご機嫌になって来た様子のゆいを見て、ほんの少しだけ口元が緩むみどり。


…………あの感じだと、今夜は大丈夫そうね。

気が付かれないように、ふぅ、とため息を吐き出すだいふく。


なにせ、みどりの気まぐれやご機嫌ななめの感情は、みんなだいふくが被るのだ。

だいふくは常在戦場に慣れ切っていた。


「あ、それそれっ! 魔力も使わないのに便利だよねっ、変身解いたときの綺麗になるの! 私、眠かったりめんどくさかったり急いでるとき、おふろとか歯みがきとかの代わりに変身しちゃうもん」


「歯みがき!? そんなことできるの! ちかー、それほんと!? みどりちゃんみどりちゃん!!」


「……ゆいくん、ダメ。 仕上げにするならまだしも、ちゃんと磨かないと。 お母さんが知っちゃったら」

「やっぱりマジメにやる!! ズルはいけないよね、ズルはっ!!」


……みどりったら、ゆいがあれだけ好きでも甘やかすってほどじゃないのよね。

何と言うか……同い年でもお世話焼きなお姉さん、って感覚なのかしら。


……もっとも、いつもパスをこじ開けて通してくる感情、どう考えても普通の「好き」じゃない気がするけど……と思いつつ、みどりの脅威が消えたことを確認して気が楽になり、室外機からきゅむっと飛び降りるだいふく。


「ねぇ、千花。 そう言うの、他の子にも教えちゃダメよ? ほとんどの子は何年かで魔法、使えなくなっちゃうもの。 それに慣れちゃったら後が大変よ? ……ま、あなたたちは大丈夫でしょうけど、人にとって歯みがきって大切らしいからしといた方が良いわ。 おふろは……遅番とかならしょうがないけど」


うーん、と、手足と……着ぐるみのはずなのに後ろにぴんとなる耳と尻尾。


ポシェットまでが浮かんでいるのを見るに、だいふくの身につけているように見えるその全ては、ぬいぐるみのときと同じく魔力で構成した肉体の一部となっている様子。


「えー? みんなしてるって言ってたのにぃ。 美希ちゃんだってしてるって。 ねえ?」

「わ、わたし!? ……えっと、それってすっごく疲れちゃったら使ってもいいよね? ってときの話の流れだったんだけど……」


「そうだっけ?」

「そうだよぉ……もう、ちかちゃんのせいでっ」

「あー。 反省してまーすっ」


そうして雑談が盛り上がり始めていたころ、千花と美希のスマホからアラームが……巡回の引き継ぎが完了し、これから見回るようにと促すメッセージが流れる。


「ごめんなさい、忘れていました。 こちらが今日の情報です、……はい、送りました」

「ありがとー、みどりちゃんは細かく付けてくれるからほんと楽よー? ……けど、やっぱ」


「はい……他の魔法少女の人たちと交代のときに話したりしましたけど、魔物、最近急に増えました、ね」

「増えたねー。 お小遣いは増えるし、たまにはひやっとすることも無いと張り合い以前に感覚鈍っちゃうから、一時的ならいいんだけど」


「……ちかちゃんがまじめ」

「美希ちゃんって辛辣よね、ときどき」


「そ、そう?」

「自覚が無いってとこが……や、黒いってわけじゃないけどさ」


「ええと、千花さん?」

「ごめんごめん、待たせちゃってたんだもんね。 ふたりはもう帰っても」


「ええと、です。 ご存じでしょうけど、今日、私たち、2時間だけで10体に襲われたので……だいたい10分に1回のペースでした。 暗くなると警戒だけで疲れるでしょうし、先輩に言うのは失礼ですけど、お気を付けて」


……みどりって、ゆいが絡まなければまともで模範的な子よね。

なのにいつもは、とだいふくが考えた瞬間。


「………………………………………………………………………………………………」

「!? ……なっ、なんでもないわっ」

「………………………………………………………………………………、そう……」


みどりからの、だいふくだけにしか届かない指向性の感情が届けられ、きゅっと尻尾が丸くなる。

……やっぱりこの子、ほんっと怖いわ……と、一気に元気がなくなりへにゃりとなるだいふく。


「僕としては少ないけどなー。 前に比べたら多くなってきてくれて嬉しいけど。 それに、ぽつぽつ湧いてくる感じだから、戦ったら休んでの繰り返しでしょ? そこまでじゃなくない? なくなくなくない?」


「……女の子は疲れちゃうの。 ゆいくんは女の子よりもかわいいけど」

「えへへー」


「ほんとに仲良しなことで。 ……けど、いろいろ変よね。 魔物が急に増えてきたのも、ついでのゆい君の無尽蔵な感じの体力も。 ま、そこは男の子だから……あ、いや、でも」

「ゆいくんって、同学年の子の中でも幼な、……小さいほうだし、小学校のころって、女の子と大差ないはずだよね」


「うーん。 ま、いっか。 そもそも男の子なのに魔法少女になれちゃってるし、魔王だっけ? あれ倒せちゃった時点で普通じゃないんだし。 ……さー、この後は美希ちゃんの探知で魔物狩りねー」

「そうだね。 じゃあ、ゆいくん、みどりちゃん。 今日はお家まで送ってあげられなくってごめんね? 気をつけてね?」


「ありがとー美希、ちかもがんばってねー。 けど、へーきへーき! 前に千花が教えてくれたみたいに、お家までこのまま飛んでいくからっ! ね、みどりちゃんっ」

「う、うん……魔力は大丈夫だろうし、きちんと電柱と電線に気をつけたらいいけど、できたら」


「んじゃ、まったねーっ! ばいばーいっ」


みどりの同意が得られていないのに、いつものことだと……ぐっと腰を下ろしたかと思うと桜色の魔力を展開して飛翔し――すぐに姿が見えなくなってしまったゆい。


「え。 ……ゆいくん、今日は楽しかったからか元気すぎ……ごめんなさい、先輩方。 私も失礼します。 ……ゆいくん、待ってっ」


深い緑の魔力を纏い、ゆいに続いて……慌てて跳び、みどりもすぐに姿が見えなくなる。


「あの子たちは、もうっ。 ……ちーかー? 悪いこと教えちゃ駄目よ? あの子、ゆいって真っ直ぐすぎて困るんだから」

「だいふくちゃんこわーい。 飛んで帰るのって楽なのになー」


「……あんなにかわいいけど、ゆいくんは小学生の男の子だもん。 男の子って、ほら。 教室とかでホウキで戦ったりして遊んだりするし……元気、余っちゃってるんじゃない、かな?」

「それについて行けてるみどりちゃんは……やー、さすがだねぇ、恋の力って」


「恋、ねぇ……。 あれが……?」


「? どうしたの、だいふく」

「………………何でも無いわ」


「けど、この前違うって言ってたよ? みどりちゃんの好きは、恋じゃない、って」


「照れ隠しじゃないのー? みどりちゃんってば、学校とかじゃ……私たちの前でも初めはそうだったように、完全に無表情であんまおしゃべりとかしないって言ってたしっ。 でもさ、いっつもみどりちゃんの方から手、繋いでるし、いつも目でゆい君のこと追ってるし? きっと学校でもゆい君本人以外にはバレバレなんじゃないのー?」


「そ、そう、かな? ……けど、いいなぁ。 小学生で、あんなに一途な恋できるなんて」


「一途………………………………?」


「……またまたどうしたの、だいふく」

「…………………………何でもないわ」


「だいふく、普段のカッコがぬいぐるみじゃなくて……んーと、もふもふになってからなーんか変なときあるよね?」

「ほっといて頂戴」


「ほら、そういうとこ。 ……あ、けどさ、聞いて聞いて! 最近気が付いたんだけど、沙月さん、ここのところ色っぽい感じしない? もしかしてこの町で恋とか」


「……………………………………おしゃべり、そこまでよ」

「だね、だいふく」

「およ。 お出ましかぁ。 このまま恋バナしてたかったのに……おのれ魔物どもめ!」


姦しい話題で盛り上がろうとしていた少女たちは、間が悪いとがっかりし……一瞬で気持ちを切り替え、戦いの準備に入る。


「いきなり2体ね。 担当のエリアの中じゃ近い方だから……ん。 弱そうな方からひとつずつ、確実にが良さそうね」


「んー、だねぇ。 前衛後衛ペアだから離れちゃまずいもんね。 了解っ」

「今日も大変そう……ちかちゃん、がんばろ。 だいふくも、気をつけて」


♂(+♀)


天童沙月は困惑していた。


深夜となり、受け持ちのエリア――魔法少女たちが通常割り当てられるそれの5倍程度の広さだ――の中心、ちょうど千花と美希が居たからと、引き継ぎがてらに二言三言交わそうと思い近づいてきた。


……の、だが。


「わー、ちょうちょー。 おはなばたけもいーっぱーい」

「た、……たーすかった……ありがとうございます、ほんと……ありがとうございます、沙月先輩……」


そこには……明らかに魔力を消耗してぐったりとしている千花と。


「つぎのまものさんどっこかなー、どっこかなー。 あー、さっちゃんせんぱーいだー、こんばんわーい」


「……この惨状は、…………、何?」


ふらふらとしながら意味不明な話し方で意味不明な会話にならない会話をし始め……たかと思ったら突如、キリッとした顔つきとなり近くの電柱に向かってボクサーのような構えを取る、美希。


沙月は……この町に来て以降、ゆい関連以外で初めて本気の困惑というものを覚えていた。

「陰でそう呼んでいるのね……そう」

「ち、違いますっ!」

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