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30話 天童沙月、再び(忘れられてはいません)


「やー、でもほんと。 お世辞じゃなくてすごいですよね、お兄さん。 歩く人みんなが振り返って見てますもん。 女の私としても……目の保養になるくらいです」

「保養……? なにそれ、ちかちゃん」


「有り難う。 今度ふたりにも軽い化粧の手ほどきなどもしてあげよう。 それだけでも君たちの美しさを引き立て」

「あ、恥ずかしくなっちゃうからその辺で。 ゆい君に頼んじゃいますよー?」


そんな話を続けながら、魔法少女たち・精霊と一緒にゆいの家への道を進めるゆいの兄。

その一行は……ひとりの美女と5人の美少女が姦しくしているようにしか見えないもの。


だがその内訳は――純粋な乙女がふたり、無性がひとり、内面が変な方向へ行っているものの歴とした乙女?がひとり、……そして女装している男子がふたりというものだ。


だから時折勇気のある輩が声をかけてくるが……もちろんゆいの兄に対して、だが……自然な調子で断り、ついでに両手で輩の手を握りしめ、どうしても想い人が……という演技をし、追い払うどころか余計に魅了して「彼」の印象を相手に焼き付ける。


――罪深いとはこのことね、と、人間の複雑さを目の当たりにしているだいふくは思うのだった。


「……あの」

「ふむ、どうしたかね? 島内嬢」


「…………興味だけなんです、けど。 ……お兄さんの……ええと、女の人の格好していないときの顔とか見てみたり――……ごめんなさい」


「いや? 私は別に隠しているわけじゃ無いからね。 性同一性障害などでもなく、ただただ美しい女性の姿をするのが好きなだけだから気にしなくともいいよ」

「そう言い切れるってすごいですね……」


「それが私だからな。 父もゆいも同じだしな」

「ねー」


「うむ。 だが、日常的に髪は男としての骨格を隠すように伸ばしているし、服装もこれだから、男らしい姿は…………む、待っていろ。 確か去年の学園祭の催しで、「男装」の種目で出たものがあったな。 うむ、……これだ」


と、スマホを……スクロールし続けること1分近くしてようやくに少女たちの前に画面が出され、ちかと美希、こっそりとだいふくがそれをのぞき込む。


……そこには、中性的な「王子様」と言った様子の――某女性だけの劇団での男役のような「男性」の姿があった。


「このときのためだけに髪を切ることはできなかったのでね。 オールバックでこのような形になったのだ」


「わ――……すごい。 これがお兄さんの素顔……に、近い感じの」

「…………素敵……です。 はわ。 あ、ありがとうございますっ」


「巻島嬢よ。 その感情が、目の保養というやつだよ?」

「……うん、分かった。 そっか……でも、格好良いな」


「男の姿を褒められるのもまた嬉しいことだ、有り難う。 精霊嬢の感想は如何かな?」

「………………………………………………普段とそんなに変わらないじゃない」


「あー、お兄ちゃん、だいふくたちは……えっと、内面? 魔力……じゃなくて、魂で人を見分けてるらしいから」

「ふむ、この程度の小細工では通用しないということか。 私ももっと精進せねばな」


もう充分過ぎるくらいだと思うけど……とは、少女たちが同時に思うところだった。


「………………………………………………♥」


少しずつ染められていく少女たちと精霊を、後ろから……ゆいの後ろから、こっそりと観察して愉しそうにしているみどり。


彼女は近い未来を楽しみにしつつも今の感触、ゆいと繋いでいる手の1本1本の柔らかさと温かさを味わいながら……無表情に戻っても心を弾ませていた。


♂(+♀)


「うーん……じゃ、ここはリーダーの……えと、顔を立てて? って言うんだっけ? ……で、パフェ食べ放題でいいよ?」

「ゆい君、男の子なのに甘いものも全然いけるよね……ああ、まあ、男の人でも甘党さんはいるし……だし、そもそも私たち女子にとって、ニンニク系はちょっとだしねぇ。  あと、甘いものじゃないとすぐにお腹いっぱいになっちゃうしー」


「しょーがないなー。 けど、女の子の意見を優先させるのがいい男の秘訣だってお兄ちゃんから教えてもらった、……………………って、あ!!!!」


さて、そろそろゆいの家が見えてくるかという頃合いになって、後日の打ち上げ……渡辺から強引にむしり取った「ゆいとみどりが魔法少女になった記念」なるご褒美でどの店に行くかという話題で盛り上がっていた一行だったが、突然に大声を出したゆいが突然に走り出したことで話が途切れる。


「……あ。 みどりちゃんみどりちゃん、いつも思うんだけどゆい君のあんな感じの叫び声とか、手、振りほどいて走り出すのとか」


「その一瞬前にゆいくんの体に力が入るので分かりますし平気です」


「……す、すごいね、みどりちゃん……いつも……」

「うむ。 みどり嬢は去年以来の付き合いだからな」


「いきなり耳元で……耳がキーンって痛いったら………………もうっ」


……と言うような会話も耳に届かず、ゆいは無意識で脚に魔力を込めつつ、かと言って他人にぶつからない程度に走って行き、お目当ての人物の真ん前まで来て……ふう、と息をつくとじっと見上げる。


「さっちゃん! さっちゃんだ!! あ、この後のお仕事はさっちゃんなんだね!! がんばって!!!」

「……だからいつも言っているでしょう……いきなりに人の前に走ってきて大声上げるの止めてって。 私、そう言うの苦手なのよ……って言っても、無駄なのよねぇ…………はぁ」


下から来るきらきらとした視線を避けるように横を向き、軽く前髪をかき上げるさっちゃん、こと天童沙月。


さつき、だから、さっちゃん……の様子だ。


「あなたたちが……いつもの巡回だったのね。 ご苦労様。 けれど、魔法少女というものは本来もっとお淑やかにすべきだし、そんなに人の注目を引いてはいけないの」


「? けど、さっちゃんって歩いてるだけで男の人も女の人も見てるよ? お兄ちゃんほどじゃないけど」

「……あなたのお兄さんは……ええと、尋常ではないから……、ではなくて」


ぎゅむ、と、ゆいのほっぺたを両手で押さえる沙月。


「ふぁひ、さっひゃん」


「…………………………………………あのね。 なんっかいも言っているのだけど、もういちど改めて言うわ。 私は、てんどう、さつき。 さつき、なの。  さっちゃんだなんて名前ではないわ。 あなたより幾つも歳が上なのよ、もっと敬いなさい」


「ふぇほ、さっひゃんっへ」


「毎日言っているでしょう、いい加減に覚えなさい。 そもそもあなたは私より年下なのだから、あとは魔女に対する魔法少女なのだから、変な呼び方などせずに相応の敬意というものを」

「……ふぅ、追いついたぁ……あ、天童先輩、お疲れさま……じゃない、これからお疲れさまです?」


「千花。 あなたからもこの子に言ってやって頂戴。 この子、あなたの直属の後輩なのでしょう? なら」

「あのー。 ごめんなさいなんですけど、ゆい君のことですから……たぶん無理です」


「……………………分かっているわ。 分かっているのだけど……いくらなんでも馴れ馴れし過ぎる呼び方だし、なによりこれを……万が一にでも私の知り合いにでも聞かれたら」


「……うむ。 今日も沙月嬢はゆいと仲良くしてくれているようだな。 いつも弟が世話になっている」

「これのどこが仲が良いように見えるのですか? 月本のお兄様。 年相応のマナーというものの教育が足りないように見受けられますが」


ゆいを追ってきた順に、千花、兄、だいふく、そして美希が沙月を囲むようにして集まる。


……みどりは誰に気が付かれるよりも前に沙月の横に立ち、ほっぺたを押されてリスのようにしているゆいの顔をスマホに収めていたが。


「はっはっは。 いいかね沙月嬢、本当にそう思っているのであればそうしてムキにならない方が良いよ? 好きの反対は嫌いではなく無関心だからな。 そうして毎回強く反応していると、好きなのだと誤解されてしまうぞ? ああ、君がそうであれば」


「からかわないでください、大学生が高校生を。 ……あと、本人たる私が嫌がっているのですから、その保護者たるお兄様はこれを止める義務が……」


ひとりの美女と5人の美少女の輪に加わったのは、ひとりの美少女。

天童沙月――つい先日にゆいたちを強襲した魔女だ。


表情を作っていない普段はとっつきにくいという印象を持たせる氷のような瞳に、きちんと撫でつけられたストレートの長髪。


私服として着ているのは、彼女の年齢にしては大人びている印象の……彼女の好きなブランドを店員に勧められるがままに揃えたもの。


背伸びした高校生と言うよりは童顔の大学生とでも受け取れる彼女は――喧嘩をしている相手のゆいの兄、そしてゆいの住む月本家から出て来た。


つまり、彼女、天童沙月は――月本ゆいと同居しているのだった。


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[良い点] いつも楽しく読ませていただいています [気になる点] 30話のタイトルが深月になっています
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