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27話 乙女の秘密と、蚊帳の外な原因のゆい

沙月ちゃんは、少しばかり「くすぐったく」なっているだけ。

ただそれだけのはずです。

「……どうしたのふたりとも? ねえねえ、ちかちゃん、だいふく? 何の話してるの……?」


「わっ!? な、何でもないのよ美希ちゃん何でもないの!! あのねあのね、私ね……そう! おととい帰ってからちょーっと具合悪くって! だから魔法で回復をーって変身したときのこと話してたのよ!! ねえ!!」


「……バカ。 言ってるのと同じじゃないの……はぁ、せっかく配慮してああげたのに。 ………………けど、美希がそっちの方面で純粋で、良かったわね? 本当に分かっていないみたいで……けれど、これからはちゃんと切りなさいよ……っていうか、変身しながらって貴女……」


目の前の……ゆいに敵対していた少女がいきなり口づけを――それも熱烈なものをされた衝撃でぼうっとしていた美希だが、急なひそひそ声に興味をそそられて寄ってきて……話している内容をヒミツにしたかったのか、慌てながらごまかす千花。


何を誤魔化したのか……この場では千花自身とだいふく、相変わらずの聴力で聞いていたみどりだけが知っている。


「お家で、変身してたの? わたしとおんなじだね」

「そ、そー! ダサくないかって確認してたの!!」


「……そう言うことで良いけど。 で、千花? あれを見てもまだ助けないつもり?」

「え?」


「~~~~~~っ、そ、こ……はっ!」

「ふーん。 この辺もくすぐったいの」


「じゃ、ここは?」

「ひゃあっ!? や、止めて、……やめて、ちょうだぃいっ!?」


「………………………………おもしろい」


天童沙月が体じゅうに注ぎ込まれた……溢れるぎりぎりにまで注ぎ込まれたゆいの魔力によって、体の中の至る所にゆいという存在があるかのような錯覚を……文字どおりの前身、脳と体の細胞全てで覚えてしまい、くすぐったい、を遙かに超える感覚で動けなくなっているのをいいことに、子ども同士のくすぐり合いっことは違う反応を見せる姿を面白がり、あちらをつつき、こちらをつつきとしているゆい。


……その感覚を知ること自体が初めてな沙月は、ただゆいのいたずらに耐えることしかできず、軽く手で払うとすぐに別の場所を指や手のひらでつついたり触ったり撫でたりされている。


それを見た千花は――「それ」を知っている彼女は、同じ少女としての同情を覚え、先ほどまでの敵意はどこかへと飛んで行き、早く助けなければという使命に駆られた。


――「そういう声」を上げてしまう前に。


「分かった、あれ、どう見ても……だし、可哀想だもん。 …………で、だいふくちゃん? お願いだから、ぜーったいにヒミツにしておいてね? ほんとに」

「言うわけ無いじゃないの、そんなこと。 あたし、そんなにいじわるに見える? これだって、知らんぷりしてあげるつもりだったんだから」


とん、と千花の背中を押しながら美希の気を引きつけるだいふく。

この場で沙月を救うことができるのは、千花とだいふくだけだった。


沙月という少女の、乙女は……彼女たちに掛かっていた。


ゆいと沙月の、一方的なやりとりを見ながら頭の上にはてなを浮かべ続けている美希の目線をなんとか外へと引き剥がし、相変わらずに恍惚として不気味な笑顔を浮かべているみどりを……見なかったことにして。


「……ね、ゆい君ゆい君? ちょっと止めてあげて……ね?」

「あ! ちか! いっしょに遊ぶ? なんかおもしろいよ?」


「や、遊ぶんじゃなくて……そう! それは嫌なことなの、だから止めてあげないと可哀想だよ?」

「え、そうなの? 昔こういう感じになってる子に、もっと触ってって」


「それ……いや、とりあえず忘れてあげて。 で、この人にするの、止めてあげて?」

「えー、なんでさー」


あ、この子、ほんっとに分かってないんだ……そりゃそうだよね、小4の男子だもんね……と思いつつ、そっとゆいの手をつかみ、でまかせにしては上出来な言い訳を思いつく。


「……あ、そう! そうなの! ゆい君ゆい君っ、正座してしびれたことあるでしょ?」

「うん。 つい最近」


「なら分かるでしょ? あのしびれる感じって……今のこの子みたいになるでしょ? だから、その……この子、全身が……そう! ゆいの魔力でしびれちゃってるの! それって、ものすごく辛いことだと思わない?」


「思う」


「分かった!? なら、優しーくその手、離してあげよ? ほ、ほら、あっちにみどりちゃんが待ってるわよ?」

「え? あ、ほんとだ、みどりちゃんまーたヘンな顔してる。 おーい」


……単純で、あと聞き分けも良い子で助かったわ。


そうため息をつきつつ、千花は……年下の少年に、それもそういう意図も一切に無しに「そういう状態」にさせられてしまった沙月に近づき――顔を真っ赤にして両目じりからは熱い涙が流れており、息は荒くなっており……知っていれば分かってしまうその状態に、深く深く同情した。


「………………………………ふっ、ふっ……ぁ、の」

「落ち着いてからで良いですよ。 それ、時間が経てば少しは楽になりますから。 ……ああ、もうさっきのことは」


「…………し、らな、い……の」

「え?」


「わたし……しら、ない…………これぇ、な、んな、の?」

「……美希ちゃんと一緒。 それは……つらいですよねぇ」


自分の足元で汗だくとなり髪も乱れてしまっている少女……魔女、沙月。


彼女の初めてのその感覚が、よりにもよって年下の男子からのものだとは……と思うと、言葉にできない何かの感覚が自分からも出てきて戸惑う千花だったが、今の彼女の使命は沙月の昂ぶりが収まるまでそばにいてやり、また興味を持って近づいてくるかもしれないゆいや、ついでに来そうな美希を近づけないことだと理解している。


だから、ちらちらと周りを警戒しつつ――何故かみどりはじぃーっとこちらを見て、かすかな笑顔を見せているが――千花は、沙月を守ろうと決意した。


彼女なりに守ろうとはした。

……が、まさか急所を抉る攻撃が言葉から来てしまうとは思わなかった。


「さっきは……、さっきは、ほんとうに、ごめんなさい」

「いいですって。 ですから今はしゃべらない方が……」


「でも。 ゆいくんって」


と、みどりが。

明らかにこちらに聞かせる意図を持ちつつ、目線をちかたちに向けながら言ってしまう。


「いったい何人の女の子とキスしたら、あんなに上手になれるの?」


キス。


その単語に、沙月がぴくっと反応してしまう。

耳を、向けてしまう。


にや、と笑みを深めつつ、同時に顔も赤くしつつ、ゆいの両手を握りしめながら……わざと聞こえる程度に声を大きくしながら言う。


その両手はもちろん、指を1本1本ゆいのそれに絡めての、熱いもので。


「ゆいくん、去年私に初めてしたときも、とっても上手だったよね。 で、何人くらい?」


「……え? ちょ、みどりちゃん!? なんでこのタイミングで!? ちょっと、待って」

「んー。 何人だろ。 覚えてないや」


上を向きながら……ごまかすわけでもなく、真剣に思い出しながら……それでも何人、ではなく何百人だったか数えられないために覚えていない、と口にするゆい。


「とりあえずー、お母さんとお父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんでしょ? で、あとはあっちで会った人たちとも何回かでー、一緒に戦った仲間の人たちとはいつもだったしー。 ……んー、だいたいみんなとかなー。 何人かはやっぱ分かんないや」


「なんびゃく!?」

「美希! ほ、ほら、あたしと魔物の警戒をっ」


「家族とキスするのは当たり前でしょー?」

「うん、そうだね。 家族とは、当たり前」


「でしょ? で、こっちの人たちは恥ずかしがり屋さんだけど、あっちだと魔力交換しなきゃ行けなかったし、足りない人に余ってる分をーって、みんなしてたよ? 男の人とか女の人とか、ちっちゃい子とかおじいさんおばあさんとか関係なく」

「ふうん……それって、今みたいに?」


「んーん。 今みたいなのは急いでたくさんあげなきゃなとき。 普段はほんのちょっとだけだよ」

「へぇ――……。 そっか。 たくさん魔力もらわなきゃなときは、してくれるんだ」


「? うん、みどりちゃんがして欲しいなら」

「………………………………覚えた、からね」


ふたりの会話を聞かされているその場の全員は思う。


――ゆいの言う「あっち」は、とんでもなく乱れた場所なんだと。


もっとも、美希や……ようやくに立ち直りつつある沙月は、「あっち」というのは欧米というところなのかと思っていただけだった。


だから、外国は恐ろしいところなのだと無意識に思うのだった。


「でも、ゆいくん。 そんなにキスが上手だったら将来もてもてだね。 だって、あんなに気持ちいいんだもん、たくさんの女の子たちからしてちょうだい、って頼まれるよ」


「別にお姉ちゃんとかとのあいさつとか、あとは魔力使い切っちゃって危ない子とか以外とはするつもりないんだけどなぁ」

「見境無いわけじゃないもんね。 うん、私は知ってる」


すう、と、ひと呼吸おいて。


「――――――――――――――ゆいくんは、そういう男の子なんだって」


しん、となる場。


美希は、相変わらずに外国ってすごいところだなぁ……と思っており。


だいふくは、みどりだけは敵に回しちゃいけないっていうか、できればあたしとじゃなく別の子と契約してくれないかしら……けど、ゆいとペアだから無理よねぇ、と深くため息をつき。


千花は……絶対わざとよ、この子、絶対わざとこの話題を私たちの前でしてる……と、末恐ろしい数歳下の少女を見つめて。


「あの……」

「……はい」


「あの子。 あの、桃色の子」

「…………………………はい」


あれだけあからさまなら……まぁ、分かっちゃうよね、と……哀れみを込めながら答える。


せめてもの気持ちとして、膝をつきながらしゃがみ、視線を合わせながら。


「…………………………………………………………、男の、子、な、の? 私が、接吻をされたのは……男、なの? 初めて、が? ファースト、……が? ……今、みたいな、強引、な、の?」


「…………………………………………………………そう言うこと、です。 ……その、何て言うか……済みません、先輩。 うちの後輩が」


「…………………………………………………………………………………………………………」

「…………………………………………………………………………………………………………」


しばしのあいだ放心状態でいた沙月は……千花に向け、突然に笑顔を見せたと思った矢先に。


「……っととと! って、センパイごめんなさいそんな状態でぎゅって触っちゃって、…………って、先輩!? 先輩! 目、開けてください先輩!! どうしようだいふくちゃん、この先輩気を失っちゃった!!」


「……あれ? そんなに多かった? だいふくに教えてもらったからそこまでじゃなかったはずだけど」

「疲れてたんだよ、きっと。 うん……そう。 きっと、…………ね? そうでしょ? だいふく……♥」


「………………………………………………………………………………………………ええと」


変な空気が流れる路地裏。

そこここに先ほどの戦闘の跡が残るその場は、気絶した少女とそれを支える少女、何が起きたのか分からない少女と全てを知っている少女と精霊。


――知る気もない少年のいる空間だった。


と、急に路地の先が騒がしくなると同時に魔法少女に支給されるスマホからアラームが鳴る。


びくっとしつつも両手が開いていた美希が、恐る恐るそれを取ると……一気に泣きそうな顔になる。


「……ねぇだいふく大変なの! ま、魔物が近くで出たみたいでっ! わ、いきなり出てきた! ねぇちかちゃんどうしたらいいのっ!? あ、ちかちゃんさっきの子気絶しちゃったの!? え? じゃ、これどうしたらいいのー!?」


「え! 魔物来たの!? やった、僕の初陣だー!」

「よかったね、ゆいくん。 ちょうどよかったね。 ほら、あんなにいっぱい敵がいるよ? ……ふふ」


「あ、ちょ、ゆいくん勝手に行っちゃダメ……って、この場合誰が指揮を執ったらいいのだいふく! ……ねぇ、だいふくぅ……ぐす、どうしよ、怖いよちかちゃん……」


「あ、ごめ、今私動けない……っていうか美希ちゃんっ、ゆい君はきっと大丈夫だろうけどそっちそっち! 今なんかすんごい数の魔物が美希ちゃんの後ろから来てるぅぅぅ!!!」

「え。 ……ど、どうしよ、どうしよ……」


「…………………………………………………………………………………………………………」


ゆいは目の前の魔物たちをばたばたとなぎ倒して喜び、好き勝手に飛び回り。


美希は……少しは経験を積んだものの、やはり後方支援型の攻撃方法と性格が相まって、いきなり間合いに入って来た魔物に恐れを成して千花へと助けを求めるも行動不能。


みどりは……何故かゆいと同じ速さで走り回り、魔物に襲われないぎりぎりをひらひらと躱しながら、その度にゆいの手で助けてもらうというアクロバティックな動きをしていて。


「…………………………………………………………………………………………………………」


だいふくは――手元を肉球から人のそれに変え、首から掛けていたポシェットを漁り、スマホ――渡辺から与えられた、ロックも何も無く、ただ目立つ大きさのアイコンをタップすれば彼に直通となるそれを触り、数秒待ち。


「……渡辺。 あたし。 ちょっと大変だから、来て。 直ぐに来て。 何があっても今すぐに駆けつけて。 理由? どうでもいいでしょ。 直ぐ来て。 じゃないとこの子たち大変だから。 ……うん。 なんかもう……えっと。 どうしようもないのよ」


逆に冷静となり、千花に沙月を抱き上げさせつつ、渡辺が来るまでどうしましょ、と考えるのだった。

メインヒロインがつんつんしてキスされたところでプロローグはおしまい。

しばらくは男の娘と男の娘の餌食もといヒロインになる子たちのひと幕です。

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