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22話 「魔法少女」の初任務・前

好きにさせておくと好きな方向にしか進まないゆい君。

しかし手綱は……すでにがっしりと。

楽しそうな声で続けるゆいは、少女たちにとって信じがたいことしか口にしない。


「えっとー、スカートはいたり髪の毛長かったりするけど男ですっ! あ、トイレとかももちろん男の方だし、プールも」


「え、ええとね? ゆい君。 楽しそうなところ悪いんだけどー、お母さんからのーってのはもう聞いたよ? ねえ、美希ちゃん」

「う、うん……その、ゆいくんが魔法少女になった日、に」


「あれ、そうだっけ」


ポケットに常備している母親からの言いつけを律儀に取り出そうと変身を解こうとしていたところで、年上の少女たちに止められるゆい。


「………………………………………………そだっけ? みどりちゃん」

「……え? あ、私はそのときいなかった、から。 けど、そうなんじゃない?」


「そだっけ。覚えてないや。 えっと、こういうときの自己紹介ってこのあと何言えばいいの? 好きな教科とか? クラスじゃないから余ってる給食はー、とか言っても意味ないし」


「そこは、ほら。 今日から魔法少女なんだから、魔法少女としての抱負でいいんじゃないかな、ゆい君。 魔法少女の先輩たちが目の前にいるんだしさ」

「あ、そっか渡辺先生」


「……渡辺さん、先生……あ、確かに、こんな感じで疲れてる先生いるね」

「なんか、似合いそう……しょっちゅう教頭先生にいじめられてそうな?」


唐突に先生呼びを始めるゆいと、しっくりくる、と、はしゃぎだしそうになる千花と美希を両手で……止めようとしたが、諦めたのかため息をつくしがない公務員。


「……まあ、好きに呼んでくれてもいいよ。 特にゆい君はセンスで生きているみたいな子だし、その方がいいだろう。 うん。 ……あと一応、僕はその教頭先生みたいなポジションだからね? 一応は」


「魔法少女……魔法少女としての目標。 ……なら、魔物をやっつけることです! がんばります!!」


「あらー、実にやる気あふれる新人さんって感じねぇ」

「元気、だね、ほんと」

「うんうん、威勢が良くて結構だ。 このあたりは男の子だね。 ……うん、つい忘れちゃいそうになるけど君は男の子だったね……」


「――――――――――――――――――――1匹残らず、この地球上から、消すんだ」


みどりとだいふくの耳だけが捉えられるようなつぶやきで、ひとりと1匹の耳がぴく、と動く。


「………………………………………………………………………………………………」

「………………………………………………………………………………………………」


その一瞬だけ、ゆいの目が濁っていたのは……みどりだけが捉えていた。


「――じゃ、次はみどりちゃん?」

「――、あ、うん。 そう、だね」


と、ぱっと表情が切り替わり、元に戻ったゆいの腕を取りつつみどりが前に出る。


「……一ノ倉みどり、です。 ゆいくんと、去年から同じクラスです。 私はまだ契約していませんけど、近い内にそうして私も魔法少女になる予定……らしいです。 ゆいくんと一緒に、よろしくお願いします」


ほとんど変化のない表情にほんの少しの笑顔だけを添えての簡単なあいさつとともにぺこりと頭を下げるみどり。


「……お、おー。 お嬢様ーな服と合わさって、なんか年上みたいな印象だね、素敵っ。 ……あったときから聞きたかったんだけど、その髪留め雑誌で見たことあるような気がするんだけど……?」

「ね。 その服、町で普通に売ってるのとかじゃないもんね……」


「みどりちゃん、いつもおしゃれだよね! 目立たないのばかりだからもったいないなー」

「……………………………………分かる人にだけ、分かってもらえたら。 あ、先輩方にも……明るいときに、お見せしましょう、か?」


「みどりちゃんが良いなら嬉しいな! でも、ゆい君はもう少しだけみどりちゃんを見習ったら良いかもよー? 今みたいな感じのって年上の受けがいいし」


「だって、千花が言ったんじゃん、気楽にしていいーって。 あと、千花お母さんだし」

「……ええっと、それ、誰から。 ……………………美希ちゃーん?」


「し……知らないよ?」

「でも美希、千花がお母さんみたいだってこの前ー」

「……美希ちゃ――ん?」

「へ、変なことは言ってないもんっ」


「はいはい、今からパトロールだから続きは後でね、千花君」


あ、先生みたい……とゆいが見つめる中、始まりそうだった姦しい会話を打ち切る渡辺。


「僕は別に起こったりしないけど、できたらパトロール中は気をつけようね」

「はーいっ!」

「うん、さすがは小学生、素直で良い返事だね。 後はもう少し声抑えようか」

「は――いっ!!」


「よし、……おっと、最後は精霊、じゃない、だいふくにもお願いしようかな」


「――――――――――――――――え。 あ、あたしも?」


「うん、儀式みたいなものだし、そもそも君がその姿でいるのもだいふくっていう固有の名前が付いたのもゆい君と契約してからじゃないか。 実質初対面だよ」

「……何かヘンな理屈。 けど、いいわ」


こっそりと自己紹介の輪から外れようとしていただいふくが渡辺に連れ戻され、4人の前に押し出された。


「わぁー、やっぱりかわいいっ。 あとでまたいっぱいなでなでさせ」

「嫌」


「だいふくちゃんひどいっ!?」


「……わ、わたしも少しだけ、さ…………触りたい……な……?」

「美希ならいいわ」


「なんで!? なんで私はダメなのだいふくちゃん!?」

「千花はいつまでも触り続けて離してくれないから。 ……あと、その呼び方」


「私はダメでもゆい君は良いの? ゆい君、いつもだいふくちゃんのこと触るんでしょ?」


「……ゆいはこう見えて手つきが繊細だし、髪の毛と毛皮梳かしてくれるし、それが気持ち良」

「塵」

「……なんでもない」


ぼそ、と、一瞬でだいふくを抱きしめるように背後に立っていたみどりに戦慄するだいふく。


するりと逃げるように前に出ただいふくは、今度は美希に抱きつかれて……モフられる。


「……はぁ。 だいふくのしっぽ、ふわふわだ――…………」

「あ!! 美希ちゃん! 抜け駆けしてズルいーズルいー!」


ついでに千花も加わり……みんな元気だねぇ、と苦笑する渡辺。


「…………はぁ、いいわ。 あ、美希。 そして千花? ……あんまり触っていると、その感覚まとめて共有してあげるからね? 自分の体にない部位を撫で繰り回される感覚、耐えられるものなら耐えてごらんなさい?」


「うっ!? ……触るだけにします」

「……顔、うずめるだけにする、ね」


「それでいいわ。 ……で、あたしは「だいふく」になっちゃった精霊。 今のところ他の子も含めて10人くらいと直接に契約してるわね。 基本的はパトロール中の子のすぐそばにいるわ。 ……そろそろゆいのお守りもなくなるでしょうし、ようやく元通りね」


「えー!? だいふく、家から出てっちゃうのー!?」

「ええ。 だって、…………いえ、言わないでおくわ」


「?」


ちら、とだいふくの視線はみどりに行きかけ……背筋に何かが走る感覚のする目をしていると直感しただいふくは、無理やり目線を戻す。


「……っ。 やっぱ、尻尾くすぐったくなってきたから消すわ」


「え? しっぽだけ消せるのだいふく……って、あ――……残念」

「……消えちゃった。 …………ぐす」


大型犬の尻尾のような毛の量で、ゆいに梳かされてさらにふわふわとなっていてほのかに温かいそれが消えてしまったことで、美希がぺちゃりと地面に叩きつけられた。


「……あ、そっか。 その着ぐるみ、魔法で作ってるんだもんね。 簡単に変えたりできるんだ。 すごーい、だいふくちゃん」

「ええ。 貴女たちを変身させてあげるのより簡単よ」


「しっぽ……うう、ううっ……」

「泣くほどかい……? 美希君」


「今度、僕もだいふくのマネしよーっと」

「じゃあ、私も。 同じ格好をした3人で……ふふ」


良からぬ波動を感じただいふくの着ぐるみから……さらさらと、毛が抜け落ちていった。

「なんでだいふくちゃんって、みどりちゃん苦手っぽいの?」

「あ、確かにそういえば……そう。 みどりちゃん、いい子なのに」


「………………………………………………良い、子…………?」

「毟」

「みどりちゃん、だいふくのこと好きすぎー」


「……子供は毎日楽しそうでいいねぇ……」

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