1話 この街のこと(1)
三春は早速久志と夜の大通りを歩いていた。
久志は誰にでも分け隔てなく話をするタイプであり、田舎から出てきた都会知識皆無の三春に対して何の嫌悪感も抱かずに意気揚々と街の案内をしてくれた。
腹が減れば無数に点在する店を紹介してもらい、腹が膨れれば次はショッピングモールに足を踏み入れてみたりと、本当に計画性無しでぶらぶらと歩き回っていた。
「凄いや……!この街にいるだけでなんでも揃いそう!」
「そりゃ北国でナンバーワンの都市だからな!どんな田舎者でもこの街に来たら主人公になれるのよ」
久志は人差し指も立てながらこの街の説明を始めた。
主人公になれるというワードを聞いた三春は思わずその言葉の意味に食いつく。
「主人公になれるってどういう事!なんかそういうイベントがあるの?」
「ん?あぁ違う違う。この街にモブとして埋もれる奴は存在しない。だから全員が主人公になる街って事なんだよ」
久志は急に大幅で歩き出したかと思えば、道の真ん中で三春と向かい合う形に視線を変え、腕を大袈裟に開いて説明を続けていく。
「この街はな!市民Aも市民Bも犬も猫も少年少女有象無象……全てが主役となって動いてる街なんだよ!」
「おぉ……!」
「お前も高校時代は冴えない男であっただろう東堂 三春よ。だが安心しろ!この街に足を踏み入れた以上普通に留まる事なんてこの街が許さない!いや俺が許さないね!」
さらっと三春をディスるような言い方に加えて早速お前呼びが始まっているが、三春は街の紹介に心を奪われてそんな事は気にも留めていない。
それを良い事に久志はさらに調子を上げていく。
「お前はこの街で市民Aを卒業するんだ!」
「おぉ……!!!凄いや!!!でも僕なんかにそんな事できるのかな……」
三春は急に塩らしい表情を浮かべるが、すぐさま久志が言葉でその表情を打ち消す。
「できるかできないかなんてお前次第だ!それにな!できるできないじゃ無い。やるんだよ!」
久志は三春の肩に手を置き、手を置いた逆の手でガッツポーズを作って何処かの熱血テニス選手の様なポーズを取っている。
「うん……うん!僕頑張るよ!」
しかし三春はそんな久志の言葉に心の底から感銘を受けて必死に頷いている。
道の真ん中で繰り広げられる二人のやりとりを周りの人達は「何だこいつら……?」という目で見ながら綺麗に二人を避けて歩いていた。
× ×