その5 ~インスト~
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその10まであります。本日6/14はその6までを投稿する予定です。明日6/15にその7からその10までを投稿します。
その4からその6までがゲームのインスト、その7から実際にゲームが始まります。
それでは最後までどうぞお楽しみくださいませ(^^♪
そういって、ワオンは先ほどのゲームが入っていた箱から、手のひらに収まるくらいの大きさの時計を取り出しました。もちろん本物の時計ではなく、それはおもちゃの時計で、針を自由に指で動かせるようになっています。ウリリンがじっとその時計を見つめました。
「なんだ、その時計? 12時じゃなくて10時までしかないじゃないか。それに針も一つだけだし」
「そうさ。これもゲームの大事なコンポーネントさ。この時計の名前は、『目覚めを告げる時計』っていうんだ。オオカミが目覚めるまでの時間を表している。ゲームの簡単な流れを説明すると、まずは君たち子ブタ村のプレイヤーたちが先にターンを重ねていくんだ。その間に家を建てていくってわけだね」
ワオンが目覚めを告げる時計の針を、くるくると指で回しました。
「だけど、建てる家は考えないといけないよ。そうしないと、この時計が10時を指したら、つまり、10ターンが経過したら、オオカミが目覚めてしまうんだ。つまり、おいら、オオカミプレイヤーのターンが回ってくるってことだよ」
「オオカミプレイヤーはなにをするんだ? 同じように家を建てるのか?」
ウリリンの言葉に、ワオンは首をふりました。
「いいや、オオカミプレイヤーは家は建てないよ。オオカミプレイヤーができることは二つ。一つ目は、この『オオカミトークン』を森か山に配置することさ」
ワオンが箱から、ギザギザの牙をむき出しにした、恐ろしいオオカミのコマを取り出しました。三人がブゥッとおびえたように鳴きます。
「そしてもう一つは、フィールドに配置したオオカミトークンを移動させることだよ。そして、ここからが重要なんだけど、オオカミトークンが移動した先に家があったら、オオカミトークンはその家を壊すことができるんだ」
「ひぇっ!」
思わずブーリンが声をあげます。しかし、ウリリンは考え深げな目でワオンを見て、そして質問しました。
「どんな家でも壊せるのか?」
「ううん、違うよ。オオカミトークンが壊せるのは、わらの家か木の家だけだ。レンガの家は壊せないよ。ちなみにさっき、子ブタ村のプレイヤー側とオオカミプレイヤーとの勝ち負けは、家の軒数で決めるっていったけど、子ブタ村のプレイヤー側はフィールドに残っている家の軒数が得点となるよ」
ワオンの説明を聞いて、ウリリンはなるほどとうなずきました。
「それじゃあオオカミトークンが壊した家は、カウントしないんだな」
「そうさ。あと、もう一つ大事なことがあって、君たち子ブタ村のプレイヤー側は、どの家も全部一軒が1点となるけど、おいら、つまりオオカミプレイヤーは、オオカミトークン1つが7点、そして壊した家一軒につき3点入るよ」
この説明には、さすがのウリリンもブーッと不満そうに鳴いてワオンをにらみつけました。ブーリンもカンカンになってワオンをどなりつけます。
「おいおい、7点はないだろう! わしらは一軒家を建てるごとに1点しか入らないってのに、なんでお前のオオカミトークンは7点も入るんだ! しかも家を壊すごとに3点だなんて、めちゃくちゃ多いしずるいぞ! さてはお前、わしらを食べようと思ってそんなずるいルールにしたな!」
「わわわ、ちょっと待って、落ち着いてよ! 別においらはズルしてるわけじゃないんだ。だって考えてみてよ、君たち子ブタ村のプレイヤー側は、三人の建物の合計が点数になるんだよ。しかも、最初に10ターン与えられるから、その間にどんどん家を建てられるからいいじゃないか。極端な話、君たちががんばれば、10ターンの間に10軒家を建てることだってできるよ。わらの家なら、1ターンに一軒建てられるんだからさ」
必死で弁明するワオンを、ブーリンはまだにらみつけていましたが、ウリリンは冷静な口調でたずねました。
「それで、このゲームの終わりはいつになるんだ? まさか、ずっとオオカミトークンが動き回って、おれたちの建てた家を壊しまくるなんてことはしないよな?」
「もちろんだよ。このゲームの終わりは、おおまかにいって二つある。一つ目は、オオカミプレイヤーがオオカミトークンを3つ出したときだ。3つ目のオオカミトークンが出た瞬間に、ゲームは終わるよ。そして、もう一つの終わりは、フィールド上の森と山が、建物で埋まるか荒れ地になるかして、全部使われてしまったときさ。あ、ちなみに荒れ地っていうのは、オオカミトークンが出現した森や山のタイル、もしくはオオカミトークンが壊した家のあったタイルのことをいうよ」
荒れ地と聞いて、ウリリンが鋭い目でワオンを見たので、ワオンがあわてて説明をつけくわえました。ウリリンはまたしばらく考えこんでいましたが、ここでプリンがなるほどと声をあげたのです。
「つまりぼくたちは、オオカミが目覚める前に、森や山に家を建てて、オオカミトークンが出ないようにすればいいってことですね?」
プリンの言葉に、ブーリンがおおっと声をあげましたが、ウリリンはまだ考えこんで黙っています。
「もちろんそうだよ。でも、さっきもいった通り、君たちに最初与えられるターンは10ターンだけだ。その間に森と山を全部埋めることはできないだろうから、あとはいろいろ作戦を考えて、がんばっておいらに勝ってね」
「いや、あんたに勝つだけじゃだめだぜ! わしは常に一番にならなくちゃ気がすまないんだ。だからあんたに勝ったあと、プリンとウリリンにも勝って一番になる! そうするためには、どんどん建物を建てて点数を稼がないといけないぜ!」
ブーリンが気合の入った声でいいましたが、ウリリンがあきれたように反論します。
「なにいってるんだよ、ブーリン兄ちゃん。おれたちで勝負する前に、まずはあいつに勝たなくっちゃ食われちまうんだぜ。だから、くれぐれもおれの足を引っ張るようなことはしないでくれよ」
「なんだとっ!」
ケンカしそうになる二人を、ワオンはあわてて止めました。
「待って待って、ケンカしないでよ! そんなけんかしてたら、ホントに君たち負けちゃうよ」
「……もう、ワオンさんが止めたら、それこそ良いオオカミみたいになっちゃうでしょ」
見かねたルージュが小声でツッコみます。ですがワオンは頭をぽりぽりかいて、恥ずかしそうに笑うのでした。
「でもさ、ほら、おいらもせっかくならみんなに仲良くゲームしてほしいって思うからさ」
「もう……。ま、それが今回の目的でもあるわけだし、別にいいけどね。それに、ブーリン君がいったように、どんどん建物を建てるのも大事よ」
ルージュの言葉に、ウリリンは目をぱちくりさせました。
「ルージュちゃん、どうして?」
「だって、オオカミプレイヤーはオオカミトークンを倒されない限り、最低21点は保証されているってことでしょう? つまり、あなたたち子ブタ村のプレイヤー側は、22軒以上家を建てないと負けちゃうってことよ。だからターン数がかからない、わらの家をたくさん建てることも大事だわ」
ルージュがちらっとブーリンを見ました。そのくりっとしたひとみに見られて、ブーリンはもう舞い上がってしまいます。ブーッとなんともうれしそうに鳴いて、それから得意げにウリリンにいいます。
「ほら、聞いたか? やっぱりルージュちゃんはわしのほうが正しいっていってるじゃないか。お前も少しはワシを見習って、仕事の手際をよくするようにするんだな」
ですが、ウリリンはブーリンの言葉は無視して、首をかしげてルージュにたずねました。
「オオカミトークンを倒されない限りっていったよね? それって、いったいどういうこと? オオカミトークンを倒す手段があるの?」
「うふふ、もちろん倒す手段はあるわ。それじゃあワオンさんの代わりに、わたしがそれを説明するわね」