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獣と共に夢の中  作者:
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二日目投票

たった10分の休憩の後、全員が椅子へと戻って座っては居たが、喚いたり泣いたりしたために、話が出来るような状態ではなかった。

ただ、そこに座ってじっと下を向いて憔悴し切ってる感じで、男性の中でもむっつりと黙って口を開けそうにない者も居た。

司は、言った。

「もう、話し合える状態じゃない。全員、怪しいなら占い指定先でも良いから、ここと思う所に入れてくれ。残った人たちを、その後占い師達に振り分けて、占ってもらう事にする。どうせ、人外だって話し合える時間はないから。票を合わせる心配もないと思う。話したい人が居たら、投票まで話してくれ。多分、まだ話せてない人は話した方が良いと思う。」

だが、皆むっつりと黙っている。

そこまでじっと黙っていた、亨が言った。

「…ずっとみんなの様子を見ていたが、オレの相方は神さんかな。さっきのパニックの時も、渚さんと帆波さんの二人は、隣りの里美さんの介抱をしてたり、涙も出て無いのに泣くふりをしてるように見えた。みんなは疑ってるが、美奈子さんの叫びは心底取り乱してた。少なくとも、死にたくないとパニックになっていたのは本当で、議論を乱そうとしてああなったのではなかった。」

奏が、亨を首を傾げて見た。

「つまり、亨さんはさっきの騒ぎの時、わざと騒いでた人が居るって言うの?議論が進まないように。」

亨は、頷いた。

「ああ。そう見えた。」

渚が、反論した。

「わざとじゃないわ!みんなが泣きわめいたりしていたから、なだめようと逆に冷静になって、逆に抑える側になってたはずよ!そんな、演技で泣いたりしてないし。もらい泣きだってするじゃない。そんな難癖付けて来るなんて、亨さんが人外なんでしょう?!」

帆波も、頷いた。

「そうよ!昼の話し合いの時だってそうだったわ!私達が女だからって、簡単に貶めるとか思ってるんじゃないの?!おかしいわよ、私達は人外じゃないわ!」

神が、割り込んだ。

「感情的になったら、余計に反感をかうぞ。それより、君達の真贋は今必要ない。グレー達を吊る日なんだ。まだ吊り縄には余裕があるが、間違えないようにしたい。グレーに時間を与えるんだ。あと20分もないぞ。」

皆が、顔を見合わせる。

昴が、口を開いた。

「…じゃあ、占い指定に入ってるけど、グレーだから話す。」昴は、髪がサラサラの可愛らしい印象の男子だ。昴は続けた。「僕はね、初日から見て思ってたんだけど、ほら、役職割り当てられた時あるでしょ?あの時。実は僕も、司が共有者で出て来た時、相方は由佳さんだ、って知ってた。なぜなら、あの時液晶に出たんだろうけど、由佳さんが隣りの司をめっちゃ見てたから。司は、硬い顔をしてたけど、チラとも見なかった。他には目立った動きが無かったから、きっと、狐同士なのかなあ、それとも共有者かなあって思ってたんだ。でね、僕…多分、美奈子さんが偽物だと思う。」

皆、驚いた顔をする。

司は、昴にもバレていたのか、狩人で良かった、と思いながら、言った。

「それは何か理由があるのか?」

昴は、頷いた。

「うん。役職を引いてそうな動き感じに思ったのは、結構居たんだ。でも中には全く動じてない感じの人も居たよ。神さんなんか、素村かなあって思ってたぐらい。だってさあ、一瞬だけ見て、すぐ閉じたんだよ。人外だったら、仲間の確認しなきゃだろ?それが無かったしな。人外でも、占い師でもなんでもないって思うぐらい、顔色は変わらなかったもんね。でもね、顔色を変えた中に、希さんも居たんだ。」

それには、良樹も驚いた顔をした。

「え、希さんが、役職持ちだったんじゃないかって君は思うのか?」

昴は、こっくりと頷いた。

「うん。占い師なのか、霊能者なのかは分からないよ。狂人だったかもしれないし。でも、顔色が変わったから。で、美奈子さんって、いろいろ失言してるよね。人外はどうなる発言もそうだけど、さっきもさあ、光一の話を聞いて、いきなり叫び出して。本当に怖かったのかもしれないけど、僕達よりずっと年上そうなのに、それで火がついたみたいに伝染してって。僕、イライラしたんだ。だって、ここで話し合わないと、全員の話が聞けないじゃないか。どうやって人外を探すんだよ?そんな事も分からないのかって、軽蔑したね。それで、わざとかなって思って。だから、美奈子さんが霊能を乗っ取ったのかなって思ってた。」

可愛らしい顔だが、昴は辛辣な男のようだ。

まだ十代ぐらいに見えるが、実際は何歳なのか分からなかった。

「な…!」

美奈子は、自分は吊り先ではないと安心していたのか、ぐったりと椅子にもたれ掛かっていたのだが、ガバと起き上がって昴を、信じられないという顔で睨んだ。昴は、その顔を見て、うんざりしたように言った。

「ほら、そうやって。今日は吊られないって気を抜いてたんでしょ?普通はさあ、投票先を必死で考えるよ。自分が批判されたら起きて来られるんでしょ?憔悴してたのは演技?」

奏が、見兼ねて割り込んだ。

「ほら、煽らないんだ。今夜は役職者を吊るんじゃないから。でも、君が思ったよりよく見てて、考えてるのは分かったよ。他は…そうだな、亜子さんはどう?」

亜子は、ビクッと弾かれたように顔を上げた。こちらも、占い先に指定されているので気が緩んでいたのかもしれないが、だが、他の女子達に比べたら、格段に顔色が悪い。

そういえば、昼間から具合が悪そうだった。

「ごめん、具合悪い?」奏は、慌てて言った。「そういえば、昼間から顔色悪いよね。体調管理はしっかりしないと、生き残ってても辛くなるよ。全く話を聞いてないのが、後は亜子さんぐらいだなって思って声を掛けただけなんだ。」

亜子は、フルフルと生まれたての小鹿のように震えていたが、か細い声で、言った。

「はい…ずっと、具合悪くて。多分、人が死んだのを見たからかもしれません…。」

亜子は、栗色の髪のおとなしそうな子だった。二十代前半ぐらいだろうか。

司は、首を振った。

「いいよ。話した方が、亜子さんのためだろうって奏は声を掛けただけだと思うし。でも、ちょっとは意見を…」

そこまで言った時、いきなりパッと暖炉の上のテレビが点灯し、青い画面が表示されたかと思うと、機械的な声がした。

『投票、十分前です。』

そして、青い画面に白字で時間のカウントダウンが表示され始めた。

「え…こうやって投票時間が迫って来る感じか。」

神が、険しい顔でそれを見上げた。

「確か番号を入れて0を三回だったな。皆、間違えるなよ。1分以内に投票しろと書いてあった。投票しなければ追放だと。ぼうっとしている場合ではないぞ。」

言われて、皆緊張気味に腕輪を開いた。

だが、まだ十分前だ。

司は、腕輪を見つめて言った。

「とにかく…みんな、自分の考えで投票して。時間ギリギリまで、話したい人は話してくれたらいいから。」

だが、司自身はまだ迷っていた。目立つ行動をした人の番号が、くるくると頭の中で現れては消える。誰に投票すべきなのか、まだ分からなかった。

神に丸投げしたい気持ちだったが、神が怪しいと言ったのは征由だった。征由のことは、確かに他を批判してばかりな感じだったが、あんなに目立つ行動をする人外はいないと司には思えた。

なので、そうなって来ると…。

皆、黙り込んで同じように考え込んでいるようだった。

沈黙が続く中、ふと隣りの由佳が気になって見ると、由佳は口を真一文字に引き結んでテンキーを見ていた。

…相方が頼りにならない。

司は、絶望的な気持ちだった。ここに来ているのは皆、どうやら賞金目当てに自らこのゲームに志願したようなのに、こんな様子で本当に獲得出来ると思ったんだろうか。

どちらにしろ、記憶が全くないので、司には分からなかった。

『投票、1分前です。』

もう?!

司は、テンキーを睨んだ。もう、決めよう。こんなグレランになったのも、元はと言えば、議論を出来なくする発端になった発言をした、光一のせいだ。

だったら、これからは乱されないためにも、光一に入れよう。

『10秒前です。9、8…』

カウントダウンが始まる。

神でさえも緊張した面持ちでテンキーを見つめる中、遂にその時は来た。

『2、1、投票してください。』

全員が、あちこちでテンキーを押す。

『もう一度入力してください。』

あちこちで声が腕輪から流れている。

どうやら手が震えて、小さなキーを上手く打てないようだった。

司も、二度目でやっと『投票されました。』と言われてホッとしていると、焦った皆が必死に腕輪と格闘しているのが見えた。

何とか全員の腕輪が静かになった時、テレビの画面にパッと数字が現れた。

1(神)→18(征由)

2(奏)→18(征由)

3(永二)→11(光一)

4(玲史)→11(光一)

5(由佳)→15(亜子)

6(司)→11(光一)

7(弘)→15(亜子)

8(渚)→20(昴)

9(帆波)→20(昴)

10(里美)→11(光一)

11(光一)→15(亜子)

13(良樹)→11(光一)

14(克己)→18(征由)

15(亜子)→11(光一)

16(美奈子)→20(昴)

17(亨)→11(光一)

18(征由)→15(亜子)

19(早苗)→18(征由)

20(昴)→18(征由)

そして、大きく11が表示された。

『№11が追放されます。』

あくまでも、感情のない機械的な声がそう告げた。

「オレ?!なんでだよ!村人なのに!」

オレが入れた所…!

司は顔を上げられなかった。皆、同様に下を向いて光一と目を合わせない。

すると、その瞬間に光一は、ぐにゃりとその場に崩れてカーペットの上に倒れた。

「きゃーー!!」

光一の隣りの席の、里美が足元に倒れて来た光一に悲鳴を上げた。

皆が下を向いていた中、じっと顔を上げて様子を見ていた神が、無言で眉を寄せて立ち上がった。そして、光一に近付いて、スッとその首筋に指を当てる。

そして、息をついた。

「…脈が無い。恐らく死んだんだろう。」

司は、自分も投票したのにショックを受けた。

「え…!そんな一瞬で…?!何があったんですか?!」

神は、首を振った。

「分からない。何が起こるのか見ておかねばとじっと観察していたが、一瞬にして意識を失ったようだった。」と、光一の、開いたままの瞼をソッと閉じてやった。「本人も何が起こったのか認識していないだろう。苦しみはしないのだな、と少し安堵した。私だって、いつこうなるか分からないからな。」

今夜の襲撃…。

司は、息を飲んだ。神は、村を引っ張って行く原動力だ。人外にとって、議論で追い落とすのも難しそうな神が、襲われないはずがない。

今夜にでも、襲われてこうならないとは言えないのだ。

何しろ、司と狩人の昴しか知らないが、昨日神は守ってしまっていて、今夜守れないのだ。

一か八か噛んで来られたら、真占い師に限りなく近いのに、村は混乱するだろう。

「…とにかく、呪殺が起こった時のためにも、占い先を指定しておきましょう。」奏が言う。「光一の色は明日分かるはず。今夜は呪殺が出せそうな所を占って、一人でも真占い師を確定させなければ。」

光一をそのままにしてそれはさすがに出来なかったので、男性達で手分けして光一を持ち上げ、三階の光一の部屋へと運んだ。

自分達が殺したのだと言う負い目はあったが、それでも仮死状態なのだと言う神の言葉を信じて、前を向いて行くよりなかった。

何しろ自分達も、明日はこうなっているかもしれないのだ。


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