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獣と共に夢の中  作者:
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二日目の夜

暗くなって来て、そういえば今は、秋なのか春なのか、それぐらいの事も分からない事実に気がついた。

空気感と温度、庭から見える景色を合わせると、どうやら秋のような気がするが、どちらにしろ午後6時前で、辺りはもう薄暗くなって来ていた。

早めの夕食を皆それぞれで済ませ、皆ペットボトルのお茶や水を持って、パラパラとそれぞれの席に座り始める。

司は、緊張気味にホワイトボードの前に立って、それを見ていた。

ボードには、先に占いの指定先と、グレーの名前を書いておいた。

今晩は、そのグレー達から話を聞いて、吊り先と占い先に振り分ける人を決める予定だった。

グレーの所に名前がある者達は、共有者の相方の由佳でさえ、緊張気味にしていた。

由佳には共有者という切り札があるものの、それをこんな序盤で明かしてしまっては、トラップにもならない。

偽の占い師が由佳を占って、黒と出したら偽だと分かるので、それを共有トラップというのだ。

司が出て場を取り仕切る事にホッとしていたようだったが、由佳も村人から見てグレーの一人に外ならず、安穏とはしていられない事実に、やっと気づいたのかもしれない。

そうして全員が椅子に揃ったのを見て、司は言った。

「じゃあ、夜の話し合いを始めます。あの、ホワイトボードを見てください。」

グレーの位置に、由佳、弘、里美、克己、征由、早苗と名前が書いてあった。

全員がそれを注視する中、司は続けた。

「今夜は、この六人から話を聞きたいと思います。占い師の神さんから、占い指定先は二つ欲しいと言われたので、更に四人をこの中から指定先に振り分け、残った二人を吊り先に指定します。では、番号が若い順からお願いします。由佳さん。」

皆の視線が、黙って由佳の方を向いた。

由佳は、青い顔をしながらも、緊張気味に顔を上げて、言った。

「あの…今のところ、占い結果以外はよく分からないんです。霊能者は二人だし、二人だけしか出ていないから、きっと二人共真霊能者だろうなと思います。」

司は、何も考えて来なかったのかな、と顔をしかめて言った。

「占い師は?どう思う?誰か真占い師かとか、誰が怪しいとか。」

助け船を出すと、由佳は占い師達へと視線を移した。

神はじっと探るような目で見ているし、渚も帆波も真顔でニコリともせずに見つめている。亨も、まるで値踏みするような目で由佳を見ていた。

由佳は、慌てて視線を反らすと、下を向いて、言った。

「まだ結果だけなので分かりません。でも、真霊能者だと思う玲史さんに白を出している神さんは真なのかなと思っています。他の人は、まだ分からないです。」

これ以上話させても、逆におかしなことになるかもしれない。

司は思って、他の人の話を聞いたらまた、いろいろ思考も動くかなと考えて、早めに次に行く事にした。

「ええっと、じゃあ次、弘。」

弘は、見るからにガッツリとした体形の、体力勝負の仕事をしていたらしい二十代ぐらいの男だった。

弘は、答えた。

「そうだな。オレは、逆に神さんはあんまりにも頭が良過ぎるように思って、警戒しちまってる感じだな。だけど疑ってるとかじゃなくて、真なら良いなって、そんな気持ちだ。それに、霊能者はまだ二人とも妄信してるわけじゃねぇ。何しろ、狂人でも白が出るしな。希って子が霊能者でも占い師でもなかったって証明できることは何もねぇし、疑って行こうとは思ってるよ。いっそ人狼が噛んでくれたら分かりやすいのにとも思うぐらいだ。実際に仮死状態になるのに、本人たちには腹が立つ考え方かもしれねぇがな。早いとこ呪殺を出して、真証明して欲しいと思うよ。」

ふーん、弘はいろいろ考えている感じが伝わって来る。

それが正解かどうかは分からないが、考えているという印象を皆に与える事には成功していた。

何より弘は、全員の懐疑的な視線にも、全く怯む様子はなかった。そこに、後ろめたい事がない村人であると感じるのは、恐らく司だけではないはずだった。

司は、頷いた。

「また、他にあったら後で話してくれ。次は、里美さん。」

里美は、黒髪でそれを日本人形のように切り揃えた、今時には珍しい古風な印象がある可愛らしい女子だった。

10代ぐらいにも見ようと思えば見えるが、視線などでもう少し年上だろうな、と感じていた。

その里美は、言った。

「私も、まだ何も分からないんですけど、霊能者は二人共真だと信じたいな、と思ってます。ただ、征由さんが話していた、美奈子さんの疑う要素が気になってます。確かに、村人が勝利した後の人外の様子を気にしていたのは、私も気が付いていておかしいなって思ったので。占い師は…神さんがとっても頼りになるし、昼に吊り先の話になった時、自分も投票対象になるのに占い師から吊ろうと言ったのが真っぽいなって思いました。二分の一って言ったらそうだし、確かに囲いとか発生していたらグレーから人外が吊れる可能性は低いと思うし…神さんの提案は、村のためを思っての事なんだなって思ったから。」

幼そうな見た目とは裏腹に、しっかりとした口調で話した。里美は黙って頭の中でいろいろ考えていたらしかった。

…まずいな、今のところ、由佳が一番心許ない。

司は、心の中で舌打ちした。このままだと、由佳が残ってしまう気がする。

だが、今は言えないので、仕方なく次へと促した。

「じゃあ、次、克己。」

克己は、頷いて口を開いた。

「オレは、さっき占い師の相互占いの話が出た時の事を考えて、占い師の中には狐は居ないんじゃないかって思い出してるんだ。というのも、神さんは占い師から吊ろうと言い出したし、帆波さんと渚さんは両方とも占い師の相互占いが良いんじゃないかって言い出してるし。亨さんの意見が聞けてないけど、狐だったら黙っていられないだろう。占い師の中には、占われることが死活問題の役職は含まれていない、と考えるのが普通かなって。とすると、潜伏してる事になるけど、グレーの中に二狐とすると、二人の真占い師に当たる確率も高い。とすると、もしかして霊能者に狐が出てる可能性もあるのかもって…その時は、どっちかが真で、希さんが霊能者だったって事になるんだけどね。玲史は真目の高い神さんに占われてるから、もしどっちかが狐だったとしたら、美奈子さんかなってのが、とりあえずの推理だな。とはいえ、確証はないし、状況だけ見ての推理だから、分からない。オレが考えるに、占い師には狼と狂人が混じってるんじゃないかなって思うけどね。」

司は、ふむふむ、と聞いていた。占い師同士で占いたいと言い出すという事は、少なくともそれで死なないと分かっていると思われた。

狐がそれをしたら、何のために占い師に出て来たのか分からないので、おかしいのは確かだ。

それにしても、美奈子が狐という可能性は、確かにあるかも、とは思った。

霊能者が一人の時は、大概がローラーと言って全て吊られてしまうが、この村では二人居るので、決め打たれる可能性がある。

そこへ出たのかもしれない。

司は、頷いて言った。

「じゃあ、次々行こう。征由は?」

征由が、口を開いた。

「美奈子さんが怪しいのは引き続き思ってる。占い師は、女子達二人が、まだお互いに相方かも分からないのに、リビングで昼間っから楽し気に話しているのがおかしいと思った。希さんが死んでるのも見ているし、相手は嘘の占い師で、自分の命を狙ってるかもしれないのに、おかしな話だなと思った。つまり、女子二人は占い師ではなく、自分が敵ではないと思わせるために仲良く努めてるんじゃないかって。真占い師は、神さんと亨さんかなとか、見ていて思ったな。狐の話が出ていたが、確かに霊能に出ててもおかしくないかもしれない。占い師の方は、オレが疑ってる二人がお互いに占うとか言ってるから、狐が混じってないだろうと今は思った。それから、ここまで話して来た中じゃ、由佳さんがあまりにもお粗末だなと思ったな。他はそれぞれ、オレと同じ考えの箇所がどこかにあったから、共感できるかなと思った。今は以上だ。」

司は、相変わらずあちこち疑ってるんだなあと思いながら、次を見た。

「じゃあ最後、早苗さん。」

早苗は、ふんわりとしたボブヘアの可愛らしい子だ。その見た目に違わず、おっとりとした口調で言った。

「私は…みんな、疑いたくはないけど、でも、占い師の中では神さんを信じたいなあと思っています。私には何も分からないけど、先に先にいろいろみんなの必要な情報を揃えてくれたり、さっきも誰かが言っていたけど、自分も投票対象に上がるのに、二分の一の確率で人外に当たるからって考え方がもう、村利がありますよね?他の三人については、お話ししてないので分かりませんが、征由さんが話してらっしゃるのを聞いて、確かに敵か味方かも分からないのに、占い師自称同士で仲良くしてるのもおかしいなって思いました。だって、怖いですよね?偽の占い師だったら。それとも、相手を探ろうとして、油断させようとああして仲良くしてたのかな…?」

早苗も結構考えてるみたいだ。

司は、思った。少なくとも、いろいろ発言量を稼げている。

もう一度、由佳に話を振ろうかと思っていると、神が口を開いた。

「…とりあえず、一通り話を聞いたところで、私の感想を言おう。」司が、ビクッと神を見ると、神は続けた。「恐らく皆が思っていると思うが、このままでは由佳さんが吊り対象の一人だろう。あまりにも思考が稚拙過ぎる。だが、敢えて言うが、今夜は由佳さんではないな。」

司もだが、皆も驚いて神を見た。征由が言った。

「え?一番怪しい奴を吊るんじゃないのか。」

神は、頷いた。

「その通りだ。だが、昼間に司が指定先を話していたので、吊り先のグレー達は分かっていた。ここで、こうして皆の前で話す必要がある事を。人外は、吊られるのが怖かったはずだ。己が白ならそこまで構えないが、人外ならバレるのではと恐ろしいものなのだ。だから、しっかり準備して来るはずだと私は思う。それなりに話が出来ないと、立ちどころに吊られるからだ。つまり、あそこまでお粗末な事しか言えなかった由佳さんは、人外ではないと私は考える。」

司は、幾分ホッとして頷こうとすると、良樹が言った。

「え、じゃあ由佳さんは外すって事ですか?」

神は、良樹を見た。

「人外を吊るのなら外そうとは思うな。」

司が、眉を寄せて聞いた。

「人外以外を吊るのはおかしくないですか?」

神は、司を見て真面目な顔で答えた。

「生きて居ても何の役にも立たない村人なら、吊っても良いと思っている。あまりにも愚かだと、最後まで残ったら面倒になるからな。人狼にスケープゴート位置にされる可能性がある。ならば、初日に吊るのは順当な判断だと思う。なので、私は村が彼女を吊ると決めたのなら、それに従うつもりだ。恐らく白だと思っていても。」

司は、まずい、と思って言った。

「あの…では、占い先に指定しましょう。」司は、何とか考えた。「グレーから脱していたら、スケープゴート位置にされずに済むんじゃないですか。」

神は、怪訝な顔をしながら司を見て、答えた。

「…ま、君がそう決めたならそれでも良い。だが、無駄占いだとは思うがな。」

司は、皆の視線を気にしたが、皆、どうして由佳を吊り位置にしないのだろう、と思っているように見えた。

どうやって庇ったら良いのか分からない様子なのに、由佳は自分の事を言われているのにも関わらず、全くこちらを見ておらず、下を向いて目を合わせない。

司は、もうとりあえず吊られなくても、頑張れないなら噛まれてくれないか、と思い始めていた。


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