エピローグ
そうして、全員が賞金を現金で受け取って、無事にバスに乗ってその、屋敷から帰って行った。
帰りのバスの中で、恐らく全員が一度眠ることになるので、ここの場所を覚えている者は一人もいないだろう。
それに、時が経つにつれて、彰と要の事も、このゲームに参加したことも、記憶から消えて行くようにとハリーに暗示をかけてもらってあった。数日経てば、夢のように霞みが掛かって消えて行き、ハッキリとは思い出せなくなる。
これは、全て夢なのだ。
だが、現金を手にしたので、しばらくは実際に参加したのだと実感がないもののある程度は覚えてはいるだろう。
皆が帰った後、ヘリが来たので、彰は要と、ハリーと共にヘリへと乗り込んだ。
そして、自分達もいつもの居場所である、研究所へと戻って行ったのだった。
そうして、本当に仕事が溜まっていて忙しいことこの上なく、要もいろいろ忘れかけていた頃、ハリーが報告に来た。
「要。ジョンに報告しておいて欲しいんだが、君から言われた男の就職先が、無事決まった。あちらもそこそこ出来る男なので、助かると伝えて欲しいとのことだ。」
要は、亨のことか、と頷いた。
「良かった。じゃあ伝えておくよ。それで、追跡調査はどう?」
ハリーは、頷いた。
「そっちは無事に進んでいる。全員の記憶が薄れつつあるのは確認できている。亨という今回職場を斡旋した男も、ああして職場まで世話してもらっているにも関わらず、もうジョンの顔すら思い出せないような状態だ。上手く行っているという事だ。もう追跡は充分だろう。」
要は、満足げに頷いた。
「じゃあ、報告しておくよ。ありがとう、ハリー。」
ハリーは、笑って頷いた。
「ああ。次はもっと、私のセクションの実験が出来る催しにしてもらえたらと言っておいてくれ。」
要は頷いてハリーを見送ったが、しかしそうなるとまた、前のTRPGの時のように大掛かりになりそうなので、今は考えていなかった。
要は、同じ研究所に居ながらここ二週間ほど顔を見ていない、彰の執務室へと向かったのだった。
脇のインターフォンを押して、声を掛けた。
「彰さん?入りますよ。」
すると、声が返って来た。
「要か。入れ。」
ドアを開くと、彰は隣りに併設されている、自分の居住部屋の方に繋がる扉を後ろ手に閉めているところだった。
「あれ?お休み中でしたか。」
いつも、正面の机に座ってモニターを睨んでいるのに珍しい。
要がそう思っていると、彰は脇のソファに座って言った。
「やっと溜まりにたまった仕事を処理したところでな。少し寝て来ようかと思っていたところだったのだ。」
要は、自分もソファに座りかけていたが、また腰を浮かせた。
「え、じゃあ明日に出直しましょうか?」
彰は、首を振った。
「いや、いい。何か用だろう?」
要は、仕方なくまた座って、手短にすませようと言った。
「大したことじゃないんです。亨って居たでしょう?あのゲームの時の。職場が決まったそうです。そこそこ仕事が出来る人だったみたいで、助かったと伝えて欲しいと。」
彰は、頷いた。
「だろうな。手を見たら分かるのだ。あれは、真面目な職人の手だ。人間関係で職場を追われるのは気の毒だなと思ったのでな。」
要は、そんな所まで見てたのか、と思いながら続けた。
「それから、ゲームの参加者は順調に記憶も薄れて来ているようです。もう追跡は充分だろうと。」
彰は、また頷いた。
「そうか。ハリーはそつがないから、そこは心配していなかった。」と、大きなあくびをした。「他は?」
要は、首を振って立ち上がった。
「何も。すみません、お疲れなのに。」
彰は手を振った。
「だからいいと言っただろう。ここのところ、誰とも話していなかったので、私も少し話がしたかったのだ。あ、コーヒーを頼む。君も飲むと良い。」
要は、言われて長居しても良いのだろうかと思いながら、脇に設置してある彰専用のコーヒーメーカーへと歩いた。
これは、本当に彰専用で、彰が好む温度、好む濃さ、好む割合の砂糖とミルクしか、出ない仕様になっている。
ちなみに、彰はブラックではコーヒーを飲まない。意外にも、飲み物に関しては甘党だった。そして、猫舌で熱過ぎたら途端に飲まなかった。
必然的に同じ仕様のコーヒーを要も手にすることになり、それを持ってソファの所へ戻って来ると、彰はそれを受け取って、飲んだ。
「そろそろ豆を換えるか。同じ風味で飽きて来た。」
要は、言った。
「でも酸味が強いと嫌がりますよね。今のはブルーマウンテンですけど、少し前はコロンビアでしたっけ。キリマンジャロは一口飲んでやめましたよね。」
彰は、頷いた。
「名前はあまり分からないが、私が一番おいしいと思ったのはマンデリンだな。マンデリンに換えるように手配してくれないか。」
要は、ブルーマウンテンにミルクと砂糖がしっかり入って風味があまり分からないのではと思うコーヒーを飲みながら、頷いた。
「分かりました。」
それでも彰にとっては何かが違うのだろう。
彰は、ふう、と息をついた。
「ハリーからも多くの新しい薬品の人体への影響を調べる機会が欲しいと言って来ているし、確かに機会は与えねばと思うのだ。今回も、記憶を操作するのに使った薬は、私達に使ったもの以外は全て、新薬だった。後遺症もなくあっさり復活していたし、これから使えそうだなと思っているのだ。あと、例のTRPGの時に使った幻覚剤のような物があっただろう?あれの進化版も出来ているらしい。まああれは、私も経験したがかなり面白かった。君も一度経験してみたらどうだ。」
要は、苦笑した。あの時の彰の目は、完全に正気ではない色を湛えていて、皆心配したものだった。そこに存在しないものを見ていたからあんな目になっていたのは後に分かったが、その時は本当に、邪神に見えた。
彰は、邪神の役をやっていたのだ。
「オレは、邪神役は似合わないので。ハリーが作り出す脳内の怪物の、声をやるのがせいぜいですよ。」
彰は、息をついた。
「そうだな…またあの、神話とやらをやっても良いが、もう邪神の役をやるのは嫌だぞ。また美容班が大喜びして私の髪を毎日手入れしろとかうるさくなるのだろうが。」
要は、顔をしかめた。
「またあれをやるなら、一番楽なのはやっぱりニャルラトホテプを出す事なんですよ。いろいろ話して行動してくれるので、探索者を誘導するのに便利なんですよね。」
彰は、天井を仰いだ。
「そうかもしれないな。また、クリスに新しいシナリオを書かせろ。それの出来次第では、またやっても良い。ただ、あの邪神が出なくて良いならそっちのシナリオも書いて来てくれと。何本か書かせて、その中から興味深い物を選ぼう。」
要は、またTRPGか、と大掛かりになるのにうんざりしたが、今から準備しても恐らく三カ月から半年は準備に掛かるだろう。
それまでには、今やっている実験もひと段落しそうだし、まあいいか、と思って立ち上がった。
「では、クリスに話して来ますよ。じゃあ、彰さん。ゆっくり休んでください。」
彰は、立ち上がって自分の居室の方へと繋がる扉を開いた。
「ああ、おやすみ要。」
まだ夕方だけど。
要は思いながら、彰を見送った。
そして、彰が残して行ったコーヒーのカップを自分の物と一緒に片付けて、クリスの部屋へと向かって出て行ったのだった。
そうしてまた、何も知らない誰かを、非日常の世界へと迎える準備を、着々と進め始めたのだった。
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人狼 神、奏、良樹、克己
狂人 玲史、帆波
狐 征由、亜子
共有者 司、由佳
占い師 亨、渚
霊能者 希、美奈子
狩人 昴
村人 永二、里美、光一、弘、早苗




