二日目昼から夕方
司は、一人になっていた方が良いと思ったので、自分の部屋で引き籠って、部屋の机に入っていた、メモ帳を使ってまず、名簿を書き写し、それから、今日分かった役職CO一覧と、占い結果を書き綴って行った。
そうして見てみると、占い師四人とその結果四つ、そして霊能者で、玲史が占い先と霊能者で被っているので、村人目線で10人がグレーとして残る事になった。
そのグレー位置は、由佳、弘、里見、光一、良樹、克己、亜子、征由、早苗、昴だった。
ここから、占い位置を指定する。
誰が怪しいと言われても、まだ話していない者も居て、全く分からなかった。
幾分村っぽいと思ったのは、征由だった。よく回りを見ていたし、美奈子への指摘なども感心して聞いていた。
キッチンで話していた感じでは、良樹も克己も白っぽかったし、光一も昨日は三階のリーダーのような役目を負わされて、今朝は頑張って皆を起こして点呼を取っていた。
そうなって来ると残るのは、由佳は共有者の相方なので、亜子、弘、里見、早苗、昴の五人だった。
…この中から、狩人が出てくれたら。
司は、思っていた。
他の、白っぽいと思っている場所を占ってもらい、この五人のうち、狩人でない者を吊る。
そうしたら、少し盤面が詰まって来るのではないだろうか。
占い師は、今の所やはり、発言がしっかり聴こえる神が最有力の真占い師だった。
とはいえ、弁の立つ人狼や、狐という可能性もあるので、まだ完全に信用するつもりはなかった。だが、白先の玲史が霊能者に出ていることもあって、占い結果は信じられそうだった。
狼が、初日から囲ってその相手に霊能者として出てもらうとか考えづらかったし、何より霊能者は二人で、COも二人だった。
希がその少ない可能性で霊能者で無かった限り、二人は真霊能者だと思われた。
部屋へ籠るために、昼ご飯も部屋へと持って来て一人で食べていた司だったが、一人きりで食事をするのは味気ない。
あれだけの人数が居るのに、自分だけのけ者にされている気分だった。
金時計は、時刻は16時前だと知らせている。
結構な時間、部屋に籠っていた司は、もう諦めて下へ行こうか、と思ってふと扉の方を見ると、扉の下に、何やら名刺のようなものが落ちているのが目に入った。
…あんなの落ちてたっけ。
司は、不審に思ってそれに近付いて拾い上げると、その紙には、こう書いてあった。
『狩人CO20番昴 初日守り先 1番神』
司は、目を丸くした。いつからあったのか知らないが、狩人は直接言うにはリスクあると考えて、司の扉の下から、紙を差し入れて来ていたのだ。
昴…グレーの位置!
司は、満足して頷いた。
だったら、占い先に入れよう。神さんは議論誘導して守れとか言っていたけど、オレには無理だし。
司は、嬉々としてメモに書き始めた。
神→良樹
渚→光一
帆波→昴
亨→亜子
弘、里見、早苗、由佳、克己、征由は、グレーで提出しようと思っていた。由佳は最悪、共有者CO出来るだろうし、話をして黒い場所が吊られる事になると思うのだが、由佳自身が頑張れば、いくらなんでも初日に指定されるほど、黒くなりようがないと思ったのだ。
これで占い先が出来たと、司は足取りも軽く、階下へと降りて行ったのだった。
リビングでは、神が窓際で何かを考え込んでいて、他はちりじりに座っていた。
皆、一見和やかな様子なのだが、どこか緊張感があるようにも見える。
時々見せる笑顔が、どうも不自然で作ったように見えるのだ。
気にしてもしようがないので、司は幾分気安い良樹達が居るソファへ向かい、そこに座った。
克己が、言った。
「どうだ?分かったか。」
司は、頷いた。
「うん、分かった。だから、占い先も決めて来たよ。話し合いの時に言おうと思って。」
わらわらと、あちこちから人が集まって来る。
女子達は固まって座っていたのだが、皆がこちらを向いていた。
「決まったの?占い先。どこ?」
美奈子が言う。
司は、答えた。
「だから話し合いの時に言おうと思ってる。そっちは何か話してたのか?」
皆が顔を見合せていたが、帆波が言った。
「狐が潜伏していたら難しいなって。普通に考えたら占い師に一人は出てるんじゃって言ってたの。」
渚が頷く。
「占い師の相互占いも良いんじゃないかなって言ってたのよ。黒なら吊れるし、狐なら溶けるでしょ?真占い師の特定も出来て一石二鳥じゃない。」
そう言われてみたらそうなのだが。
司が自分の決めて来た占い先に少し自信がなくなっていると、良樹が言った。
「それはちょっと早いかもな。まだグレーが多すぎるんだし、今日はグレーから占って残りのグレーから吊って、色を見て行くのが良いんじゃないか。真占い師が生きてるうちに、出来るだけグレーは狭めた方が良いと思うけどな。」
征由も、それには頷いた。
「狂人ばっか出てたらどうするんでぇ。占い師はまだ良いと思うぞ。もしかしたらお前らの中に狐が居て、占われたくないから占い師同士とか言ってるんじゃねぇのか。」
女子達は、困惑した顔をした。
「そんなはず…でも、確かに混じってるかも知れないわね。」
美奈子が言う。
由佳も、渋い顔で頷いた。
「確かにね。占い師COしてる二人が相互占いを推してるしなあ…二人が本物だとは限らないもんね。」
渚と帆波は、ムッとした顔をした。
「そりゃみんなから見たらまだ信じられないかもしれないけど、占い師なのよ!」
渚が、プッと頬を膨らませて横を向いた。
そこへ、いつの間にか側まで来ていた神が割り込んだ。
「占い師同士は初日はしなくていいと私も思う。何よりグレーを狭めていきたい。結果次第で私も相方の占い師が分かるかもと期待しているんだ。」
司は、ホッとしたように言った。
「良かった、オレ、グレーから占い先を決めて来てて。」
神は、眉を上げた。
「もう決まっているなら教えてくれないか。」
美奈子に言われた時はムッとしたが、神に言われると言わなきゃならないような気になって、司は急いでメモ帳を取り出した。
「神さんには良樹、渚さんには光一、帆波さんには昴、亨さんには亜子さんでどうかなって。吊り先は弘、里見、早苗、由佳、克己、征由の中から選ぶかなと思ってます。」
神は、眉を寄せた。
「噛み合わせ対策がされていない。一人しか指定しなかったら、狼が真占い師を特定されないために、狐らしい所を噛みに来るかもしれないぞ。もう四人、グレーから指定して残った二人から吊るのが順当なんじゃないか。」
奏が、頷いた。
「確かにその通りですね。でも、今日吊りたいほど怪しい人が分からないですけど…グレーに話してもらいます?」
神は、頷く。
「それが良いだろうな。何しろ全く分からないし、仮死状態とはいえ一度死ぬのは気持ちの良いものではないからな。」
仮死状態?
皆が驚いた顔をする。司が、言った。
「あの、神さんは希さんが仮死状態だと?」
神は、頷いてため息をついた。
「君たちはもう寄り付きもしないが、私はさっき希さんの部屋へ行って来たのだ。確かに死んでいれば、時間が経てば必ずその、遺体に変化が現れる。何の処理もされないまま、空調の利いた部屋に放置されているのだから、尚のことな。だが、希さんには全く変化が無かった。顔色は確かに悪いし、呼吸も止まって心拍も確認出来ないが、いったいどうやったのか、全く変化がない。いつまでも、死にたてほやほやの状態なのだ。私の知らない何かが、希さんの中で起こっていると言うことだ。」
良樹が、希望の光を見たような顔をして、言った。
「じゃあ、希さんは死んでない?」
神は、それには首を振った。
「いや、医学的には死んでいる。瞳孔も反応がない。だが、変化がない。つまりは、考えられない事が起こっているので、蘇る事もあり得ると私は思った。計器も何も無いここでは、私に言えるのはそれだけだ。」
死んでいるけど死んでいない。
つまりは、生き返る可能性があるのだ。
希の死は、皆にはショックだったものの、記憶も無く知らない人だったので、皆悲しんでいる様子はなかった。
だが、あれが自分の身に起こると思うと、やはり平常心でいようと思っていても、怖くて仕方がなかった。
だが、生き返る希望があるのなら、最後まで勝つために戦う気力も湧いて来る。
司は、言った。
「じゃあ、生き返る方に賭けましょう。みんなだって、普通にしてるけど怖かったはずだし、まだ実感が湧いてないだけなんだと思うし。今夜の投票で、何が起こるか分からないけど、生き返ると思ったら、死んだって希望はあるよね。」
良樹が、ため息をついた。
「まあ、みんなが普通にしてるから、自分だけ怖いと言ってたら逆に吊られるんじゃないかって普通のふりしてたけど、確かに怖かった。今夜目の前で誰か死んだら、耐えられないかもなって思ってたぐらいだ。だから、今の話はありがたいよ。」
それは皆も同じなようで、一様に黙り込む。
ここで一人騒いだら、人外だと言われて吊られそうな雰囲気だったからだ。
怖くても、普通を装うより他なかった。
「ま、全ては6時から話し合いで決めよう。」神は言った。「今はとにかく、今聞いた事も合わせて思考を整理し、話し合いで白を証明出来るように準備するのだ。私は食事でもしておくよ。」
そうして、キッチンの方へと歩いて言った。
司は、そんな神の後ろ姿を見ながら、本当に味方だったら良いのに、と心の底から思っていた。