六日目の夜
奏が神に追いつくと、神は、息をついて奏を見た。
「…終わりだな。こうなるようにと初日から努めたが、いざそうなってみると何やら虚しいものだ。」
奏は、神が怒っているというより、悲しんでいるような感じを受けた。
「神さん…でも、わけの分からない状況からは、解放されますから。」
神は、頷いてそのまま、何も言わずに部屋へと入って行ってしまった。
それが、何かを期待してこの場に来た神が、結局それを得られることがなくて、失望しているのは痛いほど分かった。
恐らく、神はここに金のためではなく、知的な好奇心を満たすために来たのではないか。
奏は、そんな風に思った。自分の知識の限りを尽くして戦い、ハラハラさせられながら危機を切り抜けていくような、そんな刺激を求めていたのでは…。
どちらにしろそれを知る術は今はなく、奏自身も脱力するような感じがした。
昼も過ぎてずっと部屋に籠っていた神だったが、夕方も近くなって来た時、奏の部屋へと訪ねて来た。
「奏、恐らくあの占い師と霊能者が司を困らせているかもしれない。下へ行って、暴れていたら助けてやれ。ついでに、議論で困っているようなら少し、サポートしてやるがいい。どうせ、いくら敵に塩を送っても、あの敵なら恐れる事もないからな。」
奏は、頷いて立ち上がった。
「神さんは来ないんですか?」
神は、首を振った。
「私はもういい。何を言っても揺るがないようだしな。君が行け。」
奏は、すっかりやる気を失くしてしまっている神を置いて、階下へと降りて行った。
すると、昴と渚が言い合っていた。
「あの時、話し合えるような状況だった?無理だよね、だってみんなで話し合ってるんだから。弘も入れてたし、由佳さんも入れてた。この二人は狐じゃないし、偶然一緒の場所を疑っただけだった。だから、確証がないんだよね。確証がある情報が欲しいんだ。他に何かある?」
渚は、言った。
「占って黒を二つ見付けているからよ!玲史さんはその黒を信じて味方してるから明らかに怪しい!真じゃないと思う!」
何を言ってるんだ、それじゃあ相手が納得しないだろうが。
「そうじゃないだろ?」後ろから声を掛けると、皆が驚いて振り返った。奏は続けた。「君目線では、玲史は破綻しているから美奈子を真だと思うと主張しなければいけない盤面だ。君の黒はオレ、神さん、オレは帆波さんの白だから噛まれた帆波さんは狂人だ。だとしたら相方は亨さんしかいないから、亨さんが出した色は全て正しいとみる。つまり、克己も狼だ。君目線で残り最低でも三狼が残っていると分かったので、後二狼しか居ないと主張する玲史は偽なのだ。何故にそれに気付かない?オレ達を貶めることばかり考えているから、せっかく見えているものが見えなくなっているのでは?それとも、そこまで追いきれていないのか。」
それが、事実に基づいた考えだ。
司は、奏を見て言った。
「どうしたんだ?何か話す事があるのか。」
奏は、首を振った。
「いいや。下で暴れてる奴が居たら何とかしろと神さんに言われて、見に降りて来たんだよ。そしたら、渚さんが君ら相手に暴れてたから、割り込んだのさ。昴が欲しいのは、こんな感じの答えだったんだろ?」
昴は、頷いて言った。
「僕も、それに渚さんの話を聞いていてやっと気付いたから他人のことは言えないけど、真占い師ならどうしてそれに気付かないんだろうって思って聞いてたんだ。でも、渚さんの答えは玲史が神さんを信じてるから怪しいって、抽象的なものだった。悪いけど、渚さんの言う事は信用出来ないな。考慮はするけど…とてもじゃないが、絶対に神さんを吊ろうという理由にはならなかったよ。」
司が、まだ何か言い返そうとする渚を遮って、言った。
「今夜は、神さんと永二のどちらかを吊る事になった。神さんが、それでいいって言うから。この二人を投票対象にして、どちらかを吊るよ。村に判断を委ねよう。だから君達は、村人に響くように話してくれたら良いと思うよ。」
だが、生き残っている村人と言うと、神、奏、克己は渚目線狼なので説得しようがなく、玲史も狼か狂人か分からないが敵陣営だ。
となると、司、永二、良樹、美奈子、昴の五人しか説得出来る者が居らず、この内の美奈子と永二は渚の味方だが、司と昴は渚を信じて居らず、残った良樹も村人なのか狼なのか分からない位置だ。
何しろ、神の白なのだ。玲史が狼なら良樹は白だろうが、もし狂人だったらどうしようもない。
渚は、激昂して言った。
「そんな!確定村人のあなた達が私を信じていないのに、私が説得する相手って良樹さんしか居ないじゃないの!」
良樹は、わざと困惑したような顔をした。
「いや、オレはまだどっちに入れるか決めてないぞ?」良樹は顔をしかめて言った。「何しろオレには、昴や司みたいに深くまで分かってないもんな。渚さんが今言った投票先のことも、言われてみたらそうだなあと思って聞いてた。でも、司と昴が白証明に使うのがとか言ってたら、それもそうかなあって思うし。意見が出たら流されるって神さんに叱られたけど、オレは元々あんまり考えが深くない方だから、言われたらそうかって思ってしまうんだよな。どうしようもないよ。」
どっちつかずになれ、と言われた通りに演じている。
渚は、良樹を見た。
「そんな頼りない事を言わないで。あなたが村人ならよく考えてよ。私は間違った事を言ってないはずよ?確かに黒の数がおかしいから玲史さんは偽だと分かるはずなのに、気付かなかったのはバカだったと思うわ。でも、本当にそうなの!昨日は克己さんを吊りたくないなんて言って悪かったわ。だって神さんが吊りたいとか言うから。でも今日は克己さんでもいいのよ。だって黒なんだもの。神さんを吊れないって言うなら、克己さんにしない?あなた達だって狂人だと思うなら吊れるでしょ?明日また結果が出るから、それを見て決めましょう。後4縄なのよ。お互い悪くないはずだわ。そっちは狂人、狼、狼で吊れる可能性があるんでしょ?こっちはもう後がないから、どうしても今日は黒を吊らなきゃならないの!」
司は、昴を見た。
二人の間で何か、考えがあるようだったが、それは奏には分からない。だが、今の会話で考えると、間に合うのか、パワープレイにならないかと考えていると思うと分かる。
「…待ってくれ、同数だったらどうなる?」司は、言った。「投票だよ。同数の時は?」
奏は、やはりパワープレイを案じてるんだなと答えた。
「再投票だよ。それでも同数の場合はランダムで一人追放される。ルールブックに書いてあった。」
ランダム。
つまり運任せになるのだ。
「神さん目線で良樹が狂人ってあり得たか?」
司が昴に言うと、昴は顔をしかめた。
「…どうだろう。神さん目線じゃ渚さんで一人確定してるけど、克己は占ってないから分からないんだよね。でも克己が黒だったら、永二と二人人狼が見付かって終わりのはずだ。狂人位置は亨さん目線美奈子さんってことになる。どっちかが狐で、どっちかが狂人かな。でも、人狼が狂人を庇うのはおかしいから、克己はどこまでも狂人だろうけどね。だから、良樹が狂人なのはあり得ないよ。」
司は、ホッとした。だったら半パワープレイにはならないか。
ここはちゃんと頭の中で整理させないといけない。
「神さん目線で、美奈子さんが真ではないと思ったのはどうしてだ?」
奏は、司に言った。
司は、困惑しながら答えた。
「それは…神さん目線では、グレーは奏と克己しか居ないから。美奈子さんが真なら、そもそも狼ではないし、奏と克己が狼でも永二と合わせて三狼で四狼居る目線の美奈子さんとは合わないんだ。」
奏は、頷いた。
「そうだね。だから神さんの目線じゃ残りの狼は永二と美奈子さん。もしくは克己ということになるよね。だから、今夜克己を吊っても何の問題もないと思うよ。そもそも神さんは昨日から克己を吊っておく事を勧めていたのに、それを拒否したのは渚さんだ。渚さんが吊れと言うなら、それでいいんじゃないか?」
昴は、首を振った。
「ダメだよ!」驚いて昴を見ると、昴は続けた。「この状況って狼と狂人が話し合えてるよね。狼から完全に狂人が透けてるんだから。僕は今夜噛まれるんだ。明日からの議論に参加出来ないし、もう誰も守れない!明日は絶対司だよ!犠牲が増えるだけだ、真っ直ぐに狼だけを吊って行かないと!」
司は、明らかに迷っていた。
奏は、言った。
「確定村人がぶれたらまずいぞ?司と昴で、しっかり話し合って決めたらいい。オレ達はそれに従うし、克己でもいいと思っているよ。」
そうして、奏はそこを出て行った。
司は、苦悩の顔でそこに残された。




