五日目夕方
昼の会議の召集はなく、どうやら司は昴と話し合っているようだった。
昴のことはまだ皆に内緒にしていたが、狼陣営には分かっていたので、司は一人ではなく、絶対に昴の意見を聞いて、決めているはずだ。
奏は、朝昴と司が廊下で話していたことを神に話して、思惑通りに進んでいる事を知らせた。
神は、頷いたものの、あまり嬉しそうでもない。
恐らく、簡単に思い通りになる事に、手応えを感じられないようだった。
仕方がないので昼食には神の好みそうなものばかりを並べて、なんとか機嫌を取っていたが、このままでは神が、勢い自分が人狼だとかぶちまけてゲームを壊してしまいそうで、心配だった。
神にしてみれば、苦労して村を負かしたという達成感が欲しいようだったが、この村ではそれは望めそうにない。
どうしてこんな苦労をしなければならないのか、奏は自分のポジションに悩んだ。
とはいえ、もしかしたら克己が吊られるかも知れず、投げ出す事など出来なかった。
やっとの事で夕方になって、投票前の長い会議の召集があり、司は昼間、渚と話した事を説明した。
神、奏、永二、玲史、弘、里美、良樹、克己、昴の9人は黙ってそれを聞いていたが、渚の言う通りにするのが不満なのか、むっつりとしている。
司は、多分気付いているのだろうが、気にしていないように最後まで話した。
「…という事で、渚さんの指定先、奏、昴、里美さんの三人から吊るという事にしようとなった。神さんのグレーでもあるし、美奈子さん真ならここで黒が出ないとおかしいだろうと。」
神は、何を考えているのか分からない、無表情で言った。恐らく退屈だと感じているのだろうが、村には分からないだろう。
「ならばそれでいいのではないか?もしも美奈子さん真ならばだがな。渚さんの事だから、私の白の中から吊りたいとか言うのではないかと思ったが、そうではなかったのだな。」
昴が、言った。
「感情じゃないですか?僕がめっちゃ疑ってるから、それで候補に入れたんでしょうし。」
奏も、それに頷いた。
「結局、単体精査はあまりできないもんね。それに、神さんの白って言うなら渚さんも含めて全部だから、変に疑われるのも嫌だったんじゃない?玲史だろ、良樹。早苗さんは死んでるしね。玲史を入れたら美奈子さんが吊られるかもだし、良樹を入れたいけど自分もだとか言われたら面倒だとか、そんな単純な考えなんだろうね、多分。」
里美が、言った。
「どうしてそんなに落ち着いていられるの?吊り候補に上げられてるのよ?私は違うわ。だから吊られるのは嫌よ。候補に上げられたのって全員白いじゃない。美奈子さんは真じゃないわ。もうこの中にそんなに狼は居ないはず。きっと美奈子さんが狼で、玲史さんが真、渚さんが狂人、克己さん狂人なのよ!」
神が、言った。
「では、亨はなんだったと思うのだ。」
里美は、少し顔をしかめたが、言った。
「多分…狐。克己さんが狂人なら、そうなるでしょう?狐はもう全部消えてるんだわ。だから狼は焦っていて、狂人すらも残したいと必死なんじゃないかしら。私は、克己さんを吊るべきだと思う!確実に人外だって分かっているんだもの!」
神は、息をついた。
「私も克己で良いと思うが、村目線それで良いのか。あまりにいろいろと言いたくないが、克己が狂人ならば、玲史は真なので美奈子さんが狼というのが、私の目線だ。つまり、私の目線なだけで、君達の目線ではそうでない可能性があるのだ。もし私が偽なら、玲史が狼の可能性もあるのだぞ。そうしたら、結果は全て覆る。どうも、皆ある意見が出ると流され、また別の意見が出ると流される傾向がある。自分の頭でしっかり考えるのだ。そして、こうだと思うところを吊ると良い。村目線で渚さんの真を追えるのなら、渚さんが指定した中から吊ろう。もう真を切るなら別だがね。」
どうやら神は、あまりにも自分が疑われないので、自ら疑われる方向へ持って行こうとしているらしい。
外ならぬ神からその意見が出る事が逆に白いのだがわ誰もその意見を出さない以上、自分が出すよりなかったのだろう。
神がやる気を失うのはハッキリ言って困るので、昨夜から神に言われている通り、やはり疑うようなことを言っておこうと、奏は仕方なく口を開いた。
「神さんが言うのはおかしいかもしれないが、オレもそう思うんだ。」皆が、え?と奏を見る。奏は続けた。「村はあんまりにも神さんを妄信し過ぎているんだよ。もし神さんが真なら玲史が白だから限りなく真に近いよね。だから提案だけど、今日は渚さんの言う事を聞いてやろう。後で後悔はしたくない。オレだって、吊り位置に入るのは嫌だけど、仕方がない。グレーなんだしね。その代わり、明日は克己を吊ろう。神さんが吊りたいって言っている位置。それでどう?」
弘と昴は顔を見合わせて、そして、永二も渋々頷いた。
「…そうだな。吊り位置に入っているお前が言うならそうするか。」
弘が言うと、里美がとんでもないと激しく首を振った。
「そんな!みんな目線で渚さんは偽なんでしょ?!そんな奴の言う事を聞くって言うの?!確かに狼じゃなく狂人なんだから分かってないとは思うけど、無謀よ!私は嫌よ!明日吊るなら、今夜克己さんを吊るべきよ!人外なんだから!」
弘が、言った。
「だから君が吊られるとは限らないじゃないか。誰でも投票対象になるのは嫌だが、まず落ち着け!村ならしっかり弁明して吊られないようにしないと…、」
「私は村人よ!」里美は、立ち上がって叫んだ。「ずっと村のために話をして来たわ!人外が指定した先を吊ろうなんておかしい!私は嫌よ!」
そう言うと、里美はそこを飛び出して行った。
「里美さん!」
後ろから司が叫んだが、里美は振り返る事もなく、そのままそこを出て行ってしまった。
…より人外っぽく見えるのに。
奏は思った。狼目線では、亨に占われて白が出ている里美は狐ではなく村人なのだ。
それなのに、感情的になるだけで、これほどに人外に見える。
…投票まで一時間なのに。
これで、多くの票は里美に流れるだろう。いくら渚や美奈子が必死に別の者を吊ろうとしても、こうして会議で醜態を晒してしまうといとも簡単に票が集まってしまうのだ。
村人なら、もっと頑張って欲しかった。
奏は、狼ながらまともに議論しようとしている弘や昴、司が気の毒に思えてならなかった。
そのまま、神は黙って皆が話すのを聞いているだけになった。
恐らく面白くないので、興味がないのだ。
だが、村から見たら村の意見を尊重して黙っているように見えるはずだった。
奏も自然黙って時間を過ごしていると、カウントダウンしていたモニターの数字が0になった。
『投票してください。』
いつもの女声の案内が、いつも通り言う。
そうして、投票は始まった。
1(神)→10
2(奏)→10
3(永二)→10
4(玲史)→10
6(司)→10
7(弘)→10
8(渚)→2
10(里美)→2
13(良樹)→10
14(克己)→14
16(美奈子)→2
20(昴)→10
『№10が追放されます。』
…やっぱりな。
奏は思って見上げた。
そこに居ない里美の追放が決まった。
そうして、しばらくして、また機械的な声が言った。
『№10は追放されました。夜行動の準備をお願いします。』
司は、まだ残る投票結果を見上げながら言った。
「…合わせて来たのが、もし人外だったら…。」
神は、チラと投票を見て、頷く。
「かもしれんな。明日の霊能結果次第だ。」と、立ち上がった。「私は、噛み合わせられても嫌なので占う先は言わない。もう美奈子さん真は追わないつもりだ。もし彼女が真だったら、私目線でまだ人狼が里美さんで吊れていたとしても三狼居て、狂人が二人。明日はほぼパワープレイだ。そんなはずはないと信じたいしね。ではな。」
そう言い置くと、さっさと部屋へと帰って行った。
奏はそれを追い掛けて、まだ残って何か話している司達のことはもう気にすることなく、リビングを出たのだった。
村は何も知らなかったが、まだ狂人一人と狼四人が生き残ったまま、五日目の夜になっていたのだった。




