四日目投票
それから、渚も何も話さなくなり、何かを考え込んでいるようだった。
司は、言った。
「…不思議だったんだ。どうして渚さんがそんなに亜子さんを庇った事を主張するのかって。亜子さんは、村目線で本当に人外っぽかった。でも、白人外なのか黒人外なのか、それとも村利の無い村人だったのかは、霊能の真が確定していない中分からない。でも…狼なら、亜子さんが白か黒かは分かったはずなんだ。もしかして亜子さんは白で、それを知っている狼が、自分の白証明のために庇っていたのだとしたら…?次の日、人外が何色を出すかなんて狼には分からなかった。なぜなら、霊能に出ているのが白人外だから。でも、あれだけ村の印象が黒かったのだから白を出すだろう、そうしたら真も白を出すから、白確して一気に自分が白くなると。そうしたら、思いもかけず白黒になった。村目線では分からなくなって、狼の思う通りにならなかった、って事なんじゃ。それでも占い結果も出て詰まって来たら、霊能の真贋も分かって来るだろう。そうなった時、亜子さんが白だと分かったら、一気に庇っていた自分が白くなると…つまり、狼の壮大な伏線なんじゃ?」
ほう、玲史が偽だって事か。
奏が思っていると、神は、片方の眉を上げた。
「つまり、君は霊能は玲史が狂人、美奈子さんが真なのではと言うのだな?そして、渚さんが狼だと。」
司は、顔をしかめながらも、頷いた。
「はい。だって…渚さんがあまりに亜子さんの事を引き合いに出して来るから。白だったって、まるで知ってるかのようだなって。どうしてだろうって今、ずっと考えていて、もしかしてって思ったんです。」
良樹が、怪訝な顔をしながら、司を見た。
「今さら玲史が狂人か?とはいえ、美奈子さんはまだ真でもおかしくはないからな。亨さんと克己のどちらかが黒だろうから…多分亨さんだろうけど、そこを吊ったら美奈子さん目線も少し余裕が出るんじゃ。その間まだ占えるし、大丈夫だな。」
良樹は、克己を庇っている。今夜吊らずに済むならそうしたいと思っているのだ。
同じ狼なので、やはり庇いたい気持ちになるのだろう。
美奈子は、びくびくしながら皆を見た。
「私を真だと分かってくれるなら嬉しいけど…私目線、まだこの中に狼が四人も居るの。なのに吊り縄が六つ。克己さんが狂人でしょう?確実に吊って行かないと、村人を一人でも吊ったらアウトだし、狐は必ず呪殺してもらわないと…。ただ、亜子さんがもし狐だったら、早苗さんで呪殺されてるからもう、狐は居ないんだろうなって。狼だけ、どうしても先に吊らないといけないわ。」
美奈子は、皆がやっと自分の話を聞いてくれるようになったと少し戸惑っているようだったが、しっかりと話した。思えば、ここ数日まともに美奈子の話を聞いていなかった。
今の言い方だと、早苗が狐と言っているので、美奈子も神が真だと思っているのだろう。
「まだ分からないから。」昴が、言った。「美奈子さん真視点で黒を狙いつつ呪殺を狙わないと。とにかく、今夜と明日は確実に人外が吊れるんだ。占い師には、生き残って頑張ってもらわないとね。」
そこで、またあの機械的な女声が割り込んだ。
『投票10分前です。』
来たか。
もう、このいきなりの声にも慣れて来ていた。
「克己と亨は?」
神が、眉を寄せる。
そう言えば、あの二人が降りて来ない。
「投票はどこからでも出来るんじゃなかったですか。」奏は、むっつりと言った。「もしかしたら、部屋で打ち込もうって思ってるんじゃ。」
そこへ、克己が入って来た。
皆がそちらを見る中、克己は落ち着いた様子で椅子へと座った。
「投票はするさ。無投票で死ぬなんて嫌だしな。」
司が、無表情に頷いた。
「何が言い残す事はないか?もしかしたら、今夜は君かもしれないんだぞ。」
克己は、肩を竦めた。
「何を言ってもどうせ人外の言葉だってまともに聞かないんだろ?オレはいい、仲間を信じてるからな。お前達は仲間を信じられてるか?疑ってばっかだったら負けるぞ?」
司は、返す言葉が無いのか黙り込んだ。
『投票10秒前です。9、8』
奏は、テンキーを見つめた。亨が吊れるなら亨を吊っておこう。克己はいつでも吊れるし。
『投票してください。』
皆が、一斉に腕輪に入力している。
『投票が終わりました。結果を表示致します。』
1(神)→17
2(奏)→17
3(永二)→17
4(玲史)→17
5(由佳)→14
6(司)→17
7(弘)→17
8(渚)→14
10(里美)→14
13(良樹)→17
14(克己)→14
16(美奈子)→17
17(亨)→14
20(昴)→17
…亨が、克己に、克己は自分に入れている。
どこまでも狂人っぽく動いてくれるらしい。
そして、17が大きく表示された。
『№17が追放されます。』
シン、と静まり返る。
亨は確かに投票していたが、しかしここには居なかった。
全く何の動きもないまま数分が過ぎ、また声が言った。
『№17は、追放されました。夜時間に備えてください。』
…亨は死んだのか。
司は、助けを求めるように神を見た。その神が、狼などとは思ってもいないのだ。
神は、誰にともなく言った。
「…三階まで見に行くべきか。それとも、その必要はないか。」
昴が、息をついて首を振った。
「無いと思います。だって、きっと死んでいるから。部屋で倒れているでしょう。今夜、主催者の奴らが掃除の時に何かするんだろうし。また死体を確認なんて、もううんざりなんです。とにかく、今夜の色が重要ですから、お願いします。」
神は、頷いて司を見た。
「司。それで、相互占いで良いんだな?」
司は、投票した後はいつもなのだが、疲れた目を神に向けた。
「はい。お願いします。じゃあ、今夜はもう解散で。明日、また会いましょう。」
疲れ切った様子の司は、重い足取りでキッチンの方へと向かった。
奏は、神を見た。
「神さん、一応見て来ますか。万が一という事がありますし。」
神は、頷いて立ち上がった。
「ああ。見て来るか。」
二人は、17号室を目指して三階へと向かった。
亨は、ベッドで横になったまま死んでいた。覚悟していたのだろう。
そう思うと、亨を吊らざるを得なかったことが悔やまれた。これが渚なら、ここまで罪悪感は感じなかっただろう。
しっかり考察して、貪欲に呪殺を出そうと頑張っていた、亨だったので残念だった。
奏が、複雑な気持ちで亨にシーツをかけていると、神が言った。
「こうなって来ると、君も一応、私を疑うような素振りをしておいた方がいいな。占い師は後二人。決め打ちしなければならない時も来るが、このまま綺麗に勝利出来るとも限らない。克己が露出しているし、いつまでも狂人と誤魔化しておけるほど村は愚かではないだろう。どちらにしろ明日は克己吊りを推して、玲史に白を出させよう。もちろん、克己以外で落ち着きそうなら最短で勝利出来るだろうし、そちらを積極的に吊るが、あくまでも私達は克己吊りを推して行く。そうすることで、後々こちらの真目が上がるだろう。あれだけ愚かな真占い師なのだ、自ら墓穴を掘ってくれるだろうが、用心するに越した事は無いからな。」
奏は、腕を組んで頷いた。
「どっちにでも転べるようにってことですね。オレにも黒が出る頃ですし。」
神は、頷き返した。
「その通りだ。それでなくても初日から君は私寄りの動きをして来てくれたが、少し齟齬をきたしているような、そんな感じで裏で上手くやってくれないか。私も今日の議論の最中、君に疑いを向けるようなことを言って、少し伏線を張っておいたのだ。今夜は私に黒が出るだろうが、渚のあの様子では素直に私を占うのか分からないからな。君を占って黒、とか言い出すかもしれないし。いつでも切れるように村に意見の相違を見せておいても良いかもしれない。」
奏は、頷いた。
「はい。やってみます。まあ、いけそうですけどね。自爆してくれそうにも思います。黒を出されたところで、誰も信じないでしょうし。露出している克己を利用して、上手くやりましょう。」
神は、奏に頷いて、そうして二人で、部屋へと向かって階段を降りて行った。
すると、一階から上がって来る司と会った。
神と奏は、司に亨の様子を話してから、一緒に部屋へと歩き出した。
「君も少し休んだ方がいい。まだ縄に余裕がある…克己が狼COしたことで、どちらかに確実に人外が居る事が分かったんだし。オレも今日は早めに休むよ。明日からが正念場だ。占い師の立ち位置がはっきりしてくるからな。」
司は、歩きながら言った。
「両方が真か、神さんだけかってことか?」
神は、スッと奏に視線を流してから、先に自分の部屋へと向かって行った。
それを見た奏は、今、司に何か言っておけ、という事だなと判断して、神が部屋へと入るのを見てから、立ち止って言った。
「いいや。どっちが真なのかって事さ。」司は驚いている。奏は続けた。「そろそろ神さんの事も疑って行かなきゃならない。ここまで詰まって来ると、どっちかが破綻するかもしれないだろう。村負けにならないためにも、しっかり精査して行かないと…みんな、頭から神さんを信用し過ぎているしね。狼も居るのに、誰も異論を挟まないじゃないか。ちょっと不自然だなって思い始めてるんだ。オレから見ると、渚さんの方が味方の居ない真占い師のようにも見えて来るんだよな。狼だったら、初日から誰かが庇うと思うし。それも全く無かっただろう?」
初日、疑われたのは帆波と渚だった。村が総意でそんな感じで、誰も庇おうとはしなかった。まだ初日だからというのもあったかも知れないが、渚が狼だったら、もう一人疑われている帆波を噛むだろうか。
司に、わざと考えさせようと奏は言ったのだ。
「でも…言動はどう見ても神さんが真だし、渚さんは引き続き怪しい。皆が信じていた亨さんだって吊られたわけだし…。」
しかしそれが、亨に投票が集中すると思ってのことで、狂人を装っている狼だとしたら…?
「…でも、明日は克己は吊られる…。」
その行動の意味はなんだろう。
もしかして、吊り縄を消費させるための、狼の罠だったとしたら…?
奏は、司が混乱して来たのを見て、内心ほくそ笑みながら、言った。
「…だからね、分からない。オレだってまだ、神さんが真だと思っているよ。でも、あり得ない事ではないんだって、考えに入れておかなきゃならないんだ。君も、ちゃんと考えて判断するんだよ。」
これで神さんが言う通りに少しはオレが、神さんを疑う気持ちもあるんだって思ったかな。
奏は、そう思いながら部屋へと入った。
今夜、司が眠れないだろうことは、奏には分かっていた。




