二日目4
微妙な空気の中で、司は由佳を見た。
「じゃあ由佳さん、トップバッターだったし不利だったと思うから、もう一度話を聞こう。どうだった?」
由佳は、さすがに村人でも無駄だと言われて焦ったのか、それでもムッとしたような顔をしながら言った。
「私はちゃんと考えてます!でも、ゲームに慣れてなくて何を疑ったら良いのかが分からなかっただけで。」
征由が言った。
「怪しいんだよ、今度はそうやって自己弁護が最初に来てる事から。神さんには悪いが、オレは黒か狐だと思う。吊るべきだ。そうしたら色が見えて、庇ってる神さんの色も分かるだろうしな。」
皆が、うんうんと首を振っている。
なんで分からないのかなー。
奏が思って見ていると、神が、フフ、と鼻で笑った。
征由は、ムッとした顔をした。
「なんだよ、腹立つな。言いたい事があるなら言えよ。」
すると、由佳が叫んだ。
「私が!司さんの…、」
もう、出るのか。
司が慌てて遮ろうとしたが、先に神が言った。
「相方の共有者だろう?」
皆が、息を飲む。
由佳は、驚いた顔で神を見た。
「え…どうして…?」
神は、クックと笑った。
「分からないはずはないではないか。いくら村人でも、自分が吊られるかもと思ったら必死に考えてくるはずなのだ。だが、君には緊張感がない。無さすぎる。ということは、吊られない決定的な何かを持っているということだ。最初狩人かもと思ったが、それなら役職を明かせばその夜襲撃を受けるのだから安穏とはしていられない。つまり、残りの役職は共有者。司の庇い方を見て確信していた。だから今日ではないと言ったのだ。私が言わなかったのは、隠していたいと司から感じ取れたから。だが、君が出ようとしているのを見て、ならばその方がと思った。己の役職に甘えて真剣に向き合えないのなら、他の村人を守るために君には噛み位置になってもらう方が良い。狩人も、君と司なら司を守るだろう。まあ、狼も役に立たない村人より、思考が伸びる村人を噛むだろうがな。」
由佳は、愕然としていた。
征由は、ムッツリと黙り込む。
司は、もう出てしまったかと顔をしかめながら、仕方なく頷いた。
「…はい。共有者の相方は由佳さんです。占い先に指定していなかったのは、無駄な占いになってしまうからです。偽っぽい所に配置する手もあったけど…白だったら、無駄でしかないし。議論で生き残ってくれるかなと思っていて。」
バレた事がショックなようだったが、奏に見えていたのだから神にだって見えて当然だった。
良樹が、言った。
「そんなに見えてるんなら、怪しい位置は?神さんならいろいろ見えてるんじゃないですか。村に開示するべきです。」
なかなかやるな。
奏が思って見ていると、神は、良樹を見た。
「私は、狐は一人がアグレッシブで、一人は寡黙位置だと思っている。寡黙位置は直に占いで処理出来るが、アグレッシブな方は面倒だ。人外だと、特に狐は仲間が少ないので、どうしても保身しようと攻撃的になるか回りの顔色を見て意見を合わせるかのどちらかだ。狼は仲間が多いのでこの限りではない。一人一人、別々の意見を出して戦わせる方が後々有利に働くだろう。なので特定しづらいが、この中では私が思うに、狼でも狐でもおかしくはない位置だと思ったのは、征由だ。」
征由が、神を睨んだ。
「オレはあんたの事も疑ってるけどな。だったらオレを占ったらどうだ?」
神は、答えた。
「私に占われても良いというパフォーマンスにしか見えないな。とはいえ、それを決めるのは司だ。疑わしい所を吊り先にするか占い先にするか、司はどう思う?」
司は、顔をしかめた。
恐らく村人目線では征由は怪しくないのかもしれないが、狼から見たら、仲間でもないのにあちこち攻撃しまくって自分を防御している征由は、どこまでも怪しかった。最初は狂人が狼を探しているのか、代わりに吊られようとしているのか探っていたが、あっちこっち攻撃しまくって、その中に狼が居るリスクを考えている行動には見えない。
どうも、自分以外なら誰でも良いという風に見えて来るのだ。
だが、由佳が共有だと分からなかったぐらいなので、そう頭は切れるようには見えなかった。
司は、征由を怪しく思えないらしく、暗い顔をした。
「…オレは、真目が高い神さんに真っ向から疑いの意見をぶつける征由は、白く見えます。だから、吊るより占い先に指定した方が良いかなって。」
神は、すんなりと頷いた。
「ではそれで。つまり君は、残りの弘、里美さん、克己、早苗さんの四人から吊り先を決めるということだな。」
言われて、司は四人を代わる代わる見た。
そう言われてしまうと、確かにこの四人の中にこれという怪しい人が居ない。
「…みんなそんなに怪しい所がありませんでした。」司は正直に言った。「みんな白かもとか、思ってしまっていて。」
神は、ため息をついた。
「だが、ルールブックによるとどうしても一人吊らねばならないのだ。君が、他の者より情報を持っている立場なのだから、しっかり考えて決めねばならない。私はそれに従うつもりだ。」
司は、唸った。
誰を誰に振り分けたら良いのか、本当に分からないのだろう。
奏が、見かねて助け船を出した。
「だったら、グレーだけど君が占い先に指定した人達にも、話を聞いたらどうかな?」奏は、努めて穏やかに言った。「みんなが見えている景色は違うと思うんだ。だから、みんなの意見を聞いて、初日白先とかも聞いて、最後は役職者にも聞いて、最終的に決めたら良いよ。まだ時間はあるんだ。」
時計は、午後7時に迫っている。
8時まで、後一時間と少しだった。
司は、気を取り直して顔を上げた。
「じゃあ、白先の人の話を聞いて行きます。良樹さん、今どう考えていますか?」
良樹は、特に構えもせず、すらすらと答えた。
「オレは、占い師は亨さんと神さんの二人が真目高いと思ってるよ。根拠は、神さんは村に有利な事を考えている感じひしひし感じられるし、亨さんは、視線かな。黙って他の人の話を聞いてるんだけど、一々しっかり人外を探してるような真剣さがあるんだ。もしかしたら、占い先に振り分けられた人が二人になったら、どっちを占って結果を出すのか、めっちゃ考えてる気がするんだ。対して、渚さんと帆波さんの二人は、きょろきょろしているだけで、あまり真剣さを感じない。もしこの二人の中に真占い師が居るんなら、もっとしっかりして欲しいと思うな。グレーはなあ、今聞いただけじゃあ分からなかった。最初、オレには由佳さんが共有者だと分からなかったから、文句なしに由佳さんだろと思ってたんだけど、他は似たり寄ったりだったろ?後になるほど、前に発言した人の意見を上手い事混ぜて言えるので、無理に怪しいと言うなら発言後半の人の方が怪しいかもしれないな。弘なんかは最初に発言してるから、自分の考えしかないだろうし、落ち着いてたし、最白かなって思う。」
良樹は、あれだけ自信がないと言っていたのに、奏が与えた知識以上に、自分で議論の中で言えそうな事を考えて言っていた。奏は、案外に良樹も使えるのかもしれない、と心強く思った。
司は、次に光一を見た。
「じゃあ、光一。君は?」
光一は、少しビクと肩を震わせた。
奏は、それを見て思った…これは、精神的に追い詰められている時の状態だ。
思った通り、光一は考察ではなく自分の心情を吐露し始めた。
「オレは…朝から、動揺しっぱなしなんだよ。だって、当然生きてるもんだと思って入ってった部屋の中で、人が死んでたんだ。信じられなくて、めっちゃ動揺してるのに、みんな平気そうで…仮死状態だって神さんは言うが、本当にそうなのかも分からないじゃないか。オレは人として、みんなと違うんじゃないかって怖いんだ。なんだってみんな、そんなに普通に議論なんかしてるんだよ!怖くないのか。もしかしたら、今夜にでも襲撃されるかもしれないのに!オレは怖くて仕方がないんだ!」
まずい。
奏は、思った。
全員が、恐らく同じように思っていたはずだが、押さえつけているのを感じていたのだ。
人が目の前で死体になっていて、それが自分の身にも起こるかもしれない恐怖は、尋常ではないはずだ。
だが、ここでは皆が皆、落ち着いた神や、奏の様子を見て、もし騒いだら怪しいと吊られるような雰囲気になると、必死に考えないようにしていたのだろう。
それが、空元気のように不自然に感じていた、空気の正体だった。
だが、一人がこんなことを言い出してしまったら、我も我もと堰を切ったように溢れて来るのが、ヒトの弱いところなのだ。
思った通り、美奈子が叫び出した。
「嫌よ!私だって死にたくない!」
途端に、急に皆は顔をしかめて落ち着きが無くなった。
聞いてしまったばっかりに、押し殺していた恐怖が湧き上がって来てしまい、もはやパニックのようだった。
それまで、じっと座っていた女子達は、嗚咽を漏らして泣くものや、美奈子のように喚き出す者と、もはや議論など出来そうな様子ではない。
突然の事に、男性達も中にも、下を向いてじっと険しい顔をしている者も居た。
司も、何とかしなければと思うようだが、自分自身も恐怖を押さえていたのだろう、それが湧き上がるのを必死に押えるぐらいしか出来ないようで、おろおろしていた。
自分が収めるしかないのか、と奏が口を開こうとすると、鋭い声が言った。
「落ち着け。」決して叫んでいるわけではないが、よく通る低い声で場は一瞬にしてシンとなった。「泣き叫んで死なずに済むなら私もそうしている。ここからの脱出の方法を誰より探したのは、理不尽に死にたくないと思ったからだ。私は、誰よりも生に執着している。だが、結論は勝たねばここから出られない。つまり、命の危機から逃れる事が出来ないのだ。生きたいのなら、冷静に考えて議論し、人外を見つけて吊るしかない。村にとって必要だと思われて狩人の護衛を勝ち取らねばならない。君達は、どうしてそれが分からないのだ。そもそも、ゲームを放棄したら追放だとルールブックに書いてあっただろう。恐怖に耐えられないのなら、ルール違反を犯してさっさと死んでくれないか。私は勝利して、ここから無事に出たいのだ。」
…凄い。この人の声は、説得力だけでなく人の心にダイレクトに響く何かがある。
奏が思っていると、皆我に返って現状を思い出したのか、静かになった。
もう7時を過ぎていて、投票までの時間も少ない。
神の言う通り、死にたくないのなら、戦うしかないのを思い出したようだった。
奏は、静まり返った中で、言った。
「…じゃあ、考え方変えないと!」と、司を見た。「光一の考えは分かった。この様子だと、推理も出来てないだろう。みんな、こんな様子じゃまともに考えられない。一旦休憩して…もう、グレー全ての中から、皆に自由投票させよう。それで、吊られた人の色を見て、その色次第で投票した人の色も分かるかもしれないじゃないか。で、残った中から占い師に振り分けるんだ。」
司は、驚いた顔をした。
「え、オレが先に振り分けてた人達もみんな?!」
奏は、首を振った。
「いや、それはそのままが良かったらそのままでもいい。そこだけ、後で決めよう。とにかく、みんなに落ち着く時間を与えよう。急がないと、もう7時過ぎてるんだ。10分だけ休憩して、みんな本気で気持ちを整えて。勝つしか生きて帰る方法が無いんだ。とにかく、みんな自分の命のために気を引き締めよう。」
グレー投票になった方が、初日だから身内切りとか浅はかな考えの狐が居たら、分かりやすいしいいんだよね。
奏は思っていたが、司は、頷いて皆を見た。
「…じゃあ、10分だけ。休憩して、グレーの人は自由に話せるようにして。それを聞いて、みんなそれぞれ好きな場所へ投票しよう。」
ぐったりして椅子から動かない女子も居たが、それでも何人かは、キッチンの方へと歩いて行く。
コーヒーでも取りに行ったのかもしれない。
奏は、とにかく狐の場所が知りたいと、皆に正気になってしっかり戦って欲しいと思っていた。
恐怖にパニックになっているヒトなど、何をするのか想定も出来ない。
冷静になって考えれば考えるほど、頭がハッキリして来て恐らくこちらが想定した動きをしてくれるだろうから。




