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獣と共に夢の中  作者:
奏(そう)
38/60

二日目3

奏は、神を追いかけて言った。

「神さん!」

神は、振り返った。

「…部屋へ入ってから話そう。」

誰に聞かれるか分からない。

それは奏も分かっていたので黙って頷いて、一緒に神の部屋へと入って行った。

そこは、奏の部屋と大差なかったが、角部屋のせいかベッドの頭の方にも窓があって、幾分明るかった。

神は、どっかりと窓際の椅子へと腰かけて、言った。

「全く、疲れてしようがない。心にもない事を言うのは面倒だ。だが、私は真占い師。そう言い聞かせて、もし私が村人ならとなり切って話した。」

奏は、渋い顔をした。

「でしょうね。聞いていて冷や冷やしましたよ。」

神は、窓の外を見ながら言った。

「こういうのは積み重ねが物を言うのだ。後々真を決め打たせるためにも、初日からしっかり真らしく振る舞わねばならない。後のフォローは頼んだぞ。なに、今少々不利な動きになっても、取り返せるだけの信頼を勝ち得てみせる。」

奏は、後は丸投げなんだもんなあと思いながら、言った。

「グレーの克己と良樹に発言内容の助言をしておきますか。」

神は、頷いて手を振った。

「頼む。早々に真占い師が分かっただけでも良かった。今夜の襲撃先も決まったしな。」

奏が、目を丸くする。

「え、誰です?」

神は、はあ?と呆れたように奏を見た。

「帆波。護衛が入るとは思えない位置だし、噛めたら狂人、噛めなかったら狐だ。念のため、司に狩人との繋がりを付けさせた。もし護衛成功が出てもそれがどこだったのか何となく分かる。司は素直で考えが驚くほど顔に出るからな。それで狩人位置も把握できるというものだ。」

そんな風に考えてああ提案したのか。

奏は、感心していたが、それより良樹と克己だ。今夜のグレー吊りからは逃れてもらわなければならない。

「ちょっと、部屋へ行って来ます。誰も出て来てないでしょう、狩人が司に接触するのを見たい狼だと疑われるのも面倒だし。素早く行って、話して来ます。」

神は、伸びをしながら大きなあくびをして奏に手を振った。

「頼んだ。私は昼寝でもするかな。思ったより時間が掛かって退屈だ。」

そりゃ人狼ゲームを実時間でプレイするとなったらそうでしょうよ。

奏は思いながら、神の部屋を出て、辺りを気にしながらそっと三階へと向かったのだった。


奏が良樹と克己に、誰に見咎められることもなく会って話して来た帰り、部屋から出ると神が希の部屋から出て来るのに行き合った。

驚いて駆け寄り、思わず声を落として言った。

「何してるんです、こんな所で。誰かに見られたらどうするんですか。」

神は、答えた。

「構わない。希の、体の様子を見に来たのだ。あの時は死んで間がない状態だったが、どうだろうと思ってな。」

奏は、顔をしかめた。

「どうでしたか?硬直して来る頃ですよね。」

神は、顔を険しくした。

「…来い。確認してみろ。」

言われて、死体を何度も確認するのは気が退けたが、奏は仕方なく希の部屋へと入った。

中では、不必要にシンとしていて落ち着かなかった。

神がじっと見ている中で、奏がそっと希に寄って行くと、希は青い顔をしていたが、特にパッと見は変化はなかった。

「失礼しますよ。」

奏は声を掛けてから希の上着をめくり上げ、背中を見た。

全く、何の変化もなかった。

「…まだ死にたてほやほや?」

固まってもいない。

神は、頷いた。

「死んでいるが、死んでいない。死んでいれば起こる変化が何もない。いつまで経っても、常温で放置されているのにこの状態だ。」

奏は、愕然とした。

こんな死体は見た事がない…と思う。

だが、当然だという声が、どこか頭の片隅から聴こえて来るような気もした。

「…薬品ですかね。どうした事か、こんなことが可能だと言う記憶があるような無いような…。」

神は、眉を寄せたまま奏を見た。

「君も?私もそうなのだ。どうも、知っているような…いないような。だが、その薄っすらと浮かぶ記憶の中で、私はこれを蘇生出来て当然だと思っているのだ。」

奏は、神を見上げた。

「記憶はありませんけど、二人ともそう思っているということは、そうかもしれませんね。とにかく、それなら確かに死んではいるけど、蘇生される可能性があるということです。これは、仮死状態ということでしょう。」

神は、頷いて戸口へと歩き出した。

「こんなことをしでかすのだから、それなりの頭脳がこのゲームの裏に隠れているのだろう。興味が湧いた…何としてもこのゲームに勝ち残って、その相手と話しがしてみたいものだ。」

神は、言って部屋を出た。

奏もそれについて部屋を出て、扉を閉めて、階下へと無言で歩いて行く神の後を追ったのだった。


しばらくリビングで、考え込む神の側で黙って奏も考えていた。

生きて帰れる方法がある。だが、それが確実に分からない以上、油断することも出来ない。

奏はそう思っていたが、考え込んでいるうちに、気が付くと回りには、他の人達も集まって来て、話していた。

司が、占い先を決めて来たが、たった一人ずつの振り分けで、狼の噛み合わせの事を何も考えていない。

狼陣営としては有難い限りだったが、例によって神がそれを村目線で指摘して、話し合いでグレーからもう一人ずつ、指定される事になった。

偶然にも神に良樹が振り分けられていたので、恐らく他に誰を振り分けられても神は良樹を占った事にするのだろうが、それでもこの発言はとても白かった。

一応、皆がパニックになって来て、もしゲームが続けられないなどという事があってはならないので、神は希の状態を確かめて来た事実も皆に伝えていた。

少し希望を持ったようだったが、希の死を目の当たりにしたにしては、皆不自然に元気過ぎた。

無理をして平静を装っているようにも見えて、これが爆発してノーゲームなどになったら、皆殺しになどなるのではと、奏はそれを案じていた。

神が食事をするとリビングを出て行ったので、奏は準備しないとと慌てて後を追って、キッチンへと向かったのだった。


食事を摂って外へと出て来ると、皆が集まって来ているところだった。

外は薄暗くなって来ていて、司は皆が集まるのを待って、何やら険しい顔をしていた。

ボードには、先に占いの指定先と、グレーの名前が書いてあった。

今晩は、そのグレー達から話を聞いて、吊り先と占い先に振り分ける人を決める予定だった。

グレーの所に名前がある者達は、皆緊張気味にしていた。

そうして全員が椅子に揃ったのを見て、司は言った。

「じゃあ、夜の話し合いを始めます。あの、ホワイトボードを見てください。」

グレーの位置に、由佳、弘、里美、克己、征由、早苗と名前が書いてあった。

全員がそれを注視する中、司は続けた。

「今夜は、この六人から話を聞きたいと思います。占い師の神さんから、占い指定先は二つ欲しいと言われたので、更に四人をこの中から指定先に振り分け、残った二人を吊り先に指定します。では、番号が若い順からお願いします。由佳さん。」

皆の視線が、黙って由佳の方を向いた。

由佳は、青い顔をしながらも、緊張気味に顔を上げて、言った。

「あの…今のところ、占い結果以外はよく分からないんです。霊能者は二人だし、二人だけしか出ていないから、きっと二人共真霊能者だろうなと思います。」

白だが、浅い。

奏は思った。昨日、司をじっと見ていたのは知っているので、司が共有者である以上、恐らく相方はこの由佳だろう。

だが、これでは長く潜伏するのは無理そうだった。

司は、顔をしかめて言った。

「占い師は?どう思う?誰か真占い師かとか、誰が怪しいとか。」

思った通り、司は由佳を庇うように促した。由佳は占い師達へと視線を移した。

神はじっと探るような目で見ているし、渚も帆波も真顔でニコリともせずに見つめている。亨も、まるで値踏みするような目で由佳を見ていた。

由佳は、慌てて視線を反らすと、下を向いて、言った。

「まだ結果だけなので分かりません。でも、真霊能者だと思う玲史さんに白を出している神さんは真なのかなと思っています。他の人は、まだ分からないです。」

これ以上話すと余計にまずい事になるぞ。

奏が思って見ていると、司もそう思ったのか、弘を見た。

「ええっと、じゃあ次、弘。」

弘は、見るからにガッツリとした体形の、体力勝負の仕事をしていたらしい二十代ぐらいの男だった。

弘は、答えた。

「そうだな。オレは、逆に神さんはあんまりにも頭が良過ぎるように思って、警戒しちまってる感じだな。だけど疑ってるとかじゃなくて、真なら良いなって、そんな気持ちだ。それに、霊能者はまだ二人とも妄信してるわけじゃねぇ。何しろ、狂人でも白が出るしな。希って子が霊能者でも占い師でもなかったって証明できることは何もねぇし、疑って行こうとは思ってるよ。いっそ人狼が噛んでくれたら分かりやすいのにとも思うぐらいだ。実際に仮死状態になるのに、本人たちには腹が立つ考え方かもしれねぇがな。早いとこ呪殺を出して、真証明して欲しいと思うよ。」

神を警戒するのは、良い村人だった。議論が誘導されるのではと危機感を持っているという事で、恐らく弘はしっかり自分で考えて答えを出す事が出来る男なのだろう。

良い印象を持ったようで、司は、頷いた。

「また、他にあったら後で話してくれ。次は、里美さん。」

里美は、首の辺りを見たら分かるが、若く見せているだけで、実際は30代に届く辺りの歳だろうと奏には分かった。

その里美は言った。

「私も、まだ何も分からないんですけど、霊能者は二人共真だと信じたいな、と思ってます。ただ、征由さんが話していた、美奈子さんの疑う要素が気になってます。確かに、村人が勝利した後の人外の様子を気にしていたのは、私も気が付いていておかしいなって思ったので。占い師は…神さんがとっても頼りになるし、昼に吊り先の話になった時、自分も投票対象になるのに占い師から吊ろうと言ったのが真っぽいなって思いました。二分の一って言ったらそうだし、確かに囲いとか発生していたらグレーから人外が吊れる可能性は低いと思うし…神さんの提案は、村のためを思っての事なんだなって思ったから。」

由佳よりはマシな考えだな。

奏が思っていると、司は心持ち困ったように次を促した。もしかしたら、由佳より怪しい村人が居ないと焦っているのかもしれない。

「じゃあ、次、克己。」

克己は、頷いて口を開いた。

「オレは、さっき占い師の相互占いの話が出た時の事を考えて、占い師の中には狐は居ないんじゃないかって思い出してるんだ。というのも、神さんは占い師から吊ろうと言い出したし、帆波さんと渚さんは両方とも占い師の相互占いが良いんじゃないかって言い出してるし。亨さんの意見が聞けてないけど、狐だったら黙っていられないだろう。占い師の中には、占われることが死活問題の役職は含まれていない、と考えるのが普通かなって。とすると、潜伏してる事になるけど、グレーの中に二狐とすると、二人の真占い師に当たる確率も高い。とすると、もしかして霊能者に狐が出てる可能性もあるのかもって…その時は、どっちかが真で、希さんが霊能者だったって事になるんだけどね。玲史は真目の高い神さんに占われてるから、もしどっちかが狐だったとしたら、美奈子さんかなってのが、とりあえずの推理だな。とはいえ、確証はないし、状況だけ見ての推理だから、分からない。オレが考えるに、占い師には狼と狂人が混じってるんじゃないかなって思うけどね。」

一応考えているように見えるから、こんな風に言ってみたらどうか、と奏が言ったそのままを、克己は綺麗に自分の言葉で言っている。

案外に、克己は優秀かもしれなかった。

司は、ふむふむ、と聞いていたが、頷いて言った。

「じゃあ、次々行こう。征由は?」

征由が、口を開いた。

「美奈子さんが怪しいのは引き続き思ってる。占い師は、女子達二人が、まだお互いに相方かも分からないのに、リビングで昼間っから楽し気に話しているのがおかしいと思った。希さんが死んでるのも見ているし、相手は嘘の占い師で、自分の命を狙ってるかもしれないのに、おかしな話だなと思った。つまり、女子二人は占い師ではなく、自分が敵ではないと思わせるために仲良く努めてるんじゃないかって。真占い師は、神さんと亨さんかなとか、見ていて思ったな。狐の話が出ていたが、確かに霊能に出ててもおかしくないかもしれない。占い師の方は、オレが疑ってる二人がお互いに占うとか言ってるから、狐が混じってないだろうと今は思った。それから、ここまで話して来た中じゃ、由佳さんがあまりにもお粗末だなと思ったな。他はそれぞれ、オレと同じ考えの箇所がどこかにあったから、共感できるかなと思った。今は以上だ。」

あちこち疑うのは、自分から疑いを反らしたい役職のような気もするなあ。

奏は、思って聞いていた。結構よく話すし、あちこち攻撃して目立つ行動をしているので、一見何の役職も無さそうだが、それを逆手にとっているようにも感じる。

怖いから攻撃する、という心理だ。

司は、気付いていないようだった。

「じゃあ最後、早苗さん。」

早苗は、ふんわりとしたボブヘアの一般受けするような女性だった。その見た目に違わず、おっとりとした口調で言った。

「私は…みんな、疑いたくはないけど、でも、占い師の中では神さんを信じたいなあと思っています。私には何も分からないけど、先に先にいろいろみんなの必要な情報を揃えてくれたり、さっきも誰かが言っていたけど、自分も投票対象に上がるのに、二分の一の確率で人外に当たるからって考え方がもう、村利がありますよね?他の三人については、お話ししてないので分かりませんが、征由さんが話してらっしゃるのを聞いて、確かに敵か味方かも分からないのに、占い師自称同士で仲良くしてるのもおかしいなって思いました。だって、怖いですよね?偽の占い師だったら。それとも、相手を探ろうとして、油断させようとああして仲良くしてたのかな…?」

敵を作りたくない…これは、征由とはまた逆だな。これも防御だ。

奏は思って見ていたが、神が口を開いた。

「…とりあえず、一通り話を聞いたところで、私の感想を言おう。」司が、ビクッと神を見ると、神は続けた。「恐らく皆が思っていると思うが、このままでは由佳さんが吊り対象の一人だろう。あまりにも思考が稚拙過ぎる。だが、敢えて言うが、今夜は由佳さんではないな。」

司もだが、奏も驚いて神を見た。征由が言った。

「え?一番怪しい奴を吊るんじゃないのか。」

神は、頷いた。

「その通りだ。だが、昼間に司が指定先を話していたので、吊り先のグレー達は分かっていた。ここで、こうして皆の前で話す必要がある事を。人外は、吊られるのが怖かったはずだ。己が白ならそこまで構えないが、人外ならバレるのではと恐ろしいものなのだ。だから、しっかり準備して来るはずだと私は思う。それなりに話が出来ないと、立ちどころに吊られるからだ。つまり、あそこまでお粗末な事しか言えなかった由佳さんは、人外ではないと私は考える。」

こっちは良樹にも克己にも知恵を授けてあるもんな。

奏は思った。

司は、幾分ホッとした顔で頷こうとする。やはり由佳が相方なのだと、奏はそれを見て悟った。

良樹が言った。

「え、じゃあ由佳さんは外すって事ですか?」

神は、良樹を見た。

「人外を吊るのなら外そうとは思うな。」

司が、眉を寄せて聞いた。

「人外以外を吊るのはおかしくないですか?」

神は、司を見て真面目な顔で答えた。

「生きて居ても何の役にも立たない村人なら、吊っても良いと思っている。あまりにも愚かだと、最後まで残ったら面倒になるからな。人狼にスケープゴート位置にされる可能性がある。ならば、初日に吊るのは順当な判断だと思う。なので、私は村が彼女を吊ると決めたのなら、それに従うつもりだ。恐らく白だと思っていても。」

司は、あからさまにまずい、という顔をした。

「あの…では、占い先に指定しましょう。」司は、何とか考えた。「グレーから脱していたら、スケープゴート位置にされずに済むんじゃないですか。」

神は、怪訝な顔をしながら司を見て、答えた。

「…ま、君がそう決めたならそれでも良い。だが、無駄占いだとは思うがな。」

司は、皆の視線を気にしたが、皆、どうして由佳を吊り位置にしないのだろう、と思っているように見えた。

奏は、バレバレなのに村人には、由佳が相方だと分からないのか、と逆に驚いてそれを見ていた。

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