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獣と共に夢の中  作者:
奏(そう)
37/60

二日目2

誰も居ないキッチンの中で、神はあちこちの冷蔵庫やら戸棚やらを開いていたが、顔をしかめて、一つの缶を持って戻って来た。

「碌な物がない。どれも口にしようと思えない。数日ならこの、栄養ドリンクで大丈夫だ。栄養ゼリーもあったし、それで凌ぐ。」

奏は、慌てて言った。

「そんな!何も無いんですか?」と、慌てて冷蔵庫を見たが、結構な数の惣菜や、刺身などが並んでいて食べる物の数はコンビニより多そうだった。「え。あるじゃないですか。」

神は、面倒そうに言った。

「きちんと主菜副菜と並んでいないと食べる気にならないし、自分で準備するなど面倒だし、袋のパンも食べたくないし、冷凍庫の弁当もあんな冷凍された食物を解凍したものは嫌だ。これでいい。」

奏は、慌てて首を振った。

「駄目ですよ!何日掛かるか分からないのに、そんな物で毎日過ごして思考に問題が出ないとは思えません。オレが準備するので、しっかり食べてください!」

奏は、神からドリンク缶をひったくって、神を椅子へと座らせると、急いで頭の中になぜかある、栄養学の知識に従って、せっせと惣菜を選び、味噌汁を選んで温め、お湯を入れて食事を揃えた。

「…そんな面倒な事をしなくても良いのに。」

神はブツブツと言っていたが、奏は首を振った。

「陣営勝利が掛かってるです。神さんには万全の体制で向かってもらわないと。」と、きちんと考えて揃えた、和定食のような食事を準備して目の前に揃えた。「さあ、これならどうですか?」

神は、仕方なく箸を手に取った。

「まあ、これなら良い。電子レンジに入れるのさえ面倒だったから、こうして目の前に置かれていたら食べる。だが、冷凍は食べない。」

奏は、息をついた。

「分かりました。オレが準備しますんで、毎回しっかり食べてくださいよ。」

神は、頷いて、せっせと箸を動かし始めた。

奏は、それを見ながら思った以上に手が掛かる、と思いながらも、仕方ないと思っている自分も居て、神が以前から知っている人物で、ずっと世話をしていたのかもしれないとため息をついていた。


食事を済ませてリビングへと出て来ると、克己、良樹、征由の三人がキッチンへと向かってリビングの中を歩いて来るところだった。

「お。もう朝飯食ったのか?」

克己が言う。奏は、頷いた。

「うん。君達も食べて来たら?いろんなものがあったから、選び放題だし食べる物には困らないみたいだよ。」と、征由を見た。「君は征由だね。」

征由は、顔をしかめた。

「オレは名札付けて来てないのに何で分かる?」

奏は、驚いたような顔をした。

「え。だって名簿があったじゃないか。番号は昨日座っていた位置で知っているし、それぐらい覚えてるよ。」

克己は、苦笑した。

「へえへえ、あんたらは頭が良い奴らなんだな。で、ゲームはどうだ?やるしかなさそうか。」

それには、神が答えた。

「朝からいろいろ見て回ったが、逃げ出す場所はない。窓はアクリル板、しかも分厚い。あの厚さでは重さもあって破るのは無理だ。逃げるのは諦めるしかないと私は判断した。」

良樹が、ハア、とため息をついた。

「出られないのか。ま、仕方ないな。自分からこんなことに首を突っ込んだみたいだし、頑張るしかない。」

克己は、良樹の肩を叩いた。

「勝ったら賞金だぞ?気楽に行こう。しくじったら死ぬんだけどよ。」

征由が、吐き捨てるように言った。

「しくじらなくても襲撃されたら死ぬんだがな。」

そうして、キッチンへと向かって行った。

神と奏は、そんな三人を見送って、窓際のソファへとサッサと向かい、議論開始に備える事にしたのだった。


時間が近くなって来て、パラパラと準備を終えた者達が椅子へと移動して行く中、神と奏も指定された椅子へと向かった。

すると、慌てて駆け込んで来た早苗と、司が目に留まり、他の数人が座って揃ったところで、神は言った。

「始めに、話しておくことがある。」皆が、何事かと神を見る。神は続けた。「私は、今朝からあちこち調べて回って来たのだ。玄関扉、リビングの窓、自室の窓、自室のバスルームの上から行ける天井裏の中、思いつく場所は、全てな。」

皆は驚いたようで、息を飲む。

神は、続けた。

「玄関扉は、表面に見えている鍵の他に、恐らく大きな閂が扉の中にあって、それが閉じられているから開かないのだと思われる。リビングの窓は、厚さが10センチ、縦250センチ横360センチ…まあ、私の目算なので正確ではないかもしれないが、そのアクリル板の重量は、約1071キログラム。1トンを超えるのだ。その重量を、あの窓枠は支えているという事になり、それだけの強度があるのだ。そんな窓枠を壊せるとは思えないし、壊して倒れて来て下敷きにでもなったら大変な事になる。もちろん、割るのは無理だ。つまりは、窓からの脱出は出来ない。自室の窓も、小さいがやはりアクリル板がはまっていた。キッチンの着火するライターを持って行ってあぶってみたが、溶ける様子もない。それから、天井裏も出口はなかった。つまり、ここから我々を閉じ込めている誰かの意思以外で、出るのは無理だという事だ。」

皆が目を丸くした。奏は、深刻な顔をした。

「では、ゲームをしないと出られないということですね。」

神は、奏に頷いた。

「そういう事だ。つまり、我々はここから出るためには、ゲームを続行するより他、ないのだ。」

司は、混乱しながら言った。

「え、え、つまり、ええっと、神さんはいろいろ調べてくださって、無理だと思われたって事ですね?オレ達には、アクリル板と言われても、ピンと来ないんですけど…。」

神は、驚いた顔をした。

「そうなのか?皆計算できることではないのか。」と、奏を見た。「奏は、同じように計算して同じ数字を出していたので、間違いないなと皆に報告しているのだが。」

皆の顔を見ていると、どうやら他の者達には出来ないらしい。

だが自分と神は出来る。

という事は、自分達は他より頭が切れるような立場だったのだろうか。

奏がそう思っていると、良樹が言った。

「とにかく、無理だって事ですね。じゃあ、仕方ない。何も覚えてないけど、自分達で選んだことなら、最後までやるしかないんじゃないですか。勝てば帰れるんでしょう。」

それには、美奈子が眉を寄せて言った。

「じゃあ、負けたらどうなるの…?村人が多いから、確かにみんなの力を合わせたら帰れるかもしれないけど、人狼陣営と、妖狐陣営の8人は帰れないってこと?それについて、ルールブックに何か書いてあったかしら。」

それには、神が答えた。

「いいや。負けた陣営の事については、何も書いていなかった。つまり、負けたらそのままなのかもしれないし、こんなにあっさり我々の記憶を奪えるのだから、また記憶を奪ってどこかへ放り出されるのかもしれない。判断する材料がない。」

奏は、言った。

「じゃあ、悠長にしていられませんよ。話し合いをしましょう。あっちにホワイトボードがあったし、みんながみんな、全部覚えられるわけでもないと思うので、そこに書き出して行きましょうか。可視化出来た方が、理解が進みやすい。」

神は、頷いた。

「そう思うなら、そうしてくれたらいい。」

奏は、隣りの永二に頷き掛けて、一緒に窓際の方へと歩いて行った。

そこには、確かに壁にくっつけて立てられてある、ホワイトボードがあった。

それを、永二と二人でこちらへ引っ張って来た奏は、暖炉の前にそれを置いて、言った。

「じゃあ、ええっと、オレの提案ですけど。共有者が居たでしょう。確定村人なので、良かったら出て来てもらって、ここでホワイトボードに記入しながら司会をしてもらえませんか。オレも神さんも、永二もみんな、ここでは色が分からないグレー陣営でしょうし。」

慎重に役職を出して行かなければ噛み先にも困るし。

奏がそう思って提案すると、司が、ゴクリと唾を飲み込んでから、手を上げた。

「オレが、共有者です。相方には、潜伏してもらいます。」

奏は、頷いた。

「対抗したい人は居る?」誰も、手を上げない。奏はペンを差し出した。「じゃあ、君がここに。オレは席に戻るよ。」

司は、緊張しながら立ち上がった。皆の視線が痛いが、気にしないように必死に歩いて、奏からペンを受け取る。

そして、言った。

「あの、じゃあ役職を出しますか?」

神の方を見ている。どうやら神が頼りになると、皆無意識に感じているらしかった。

神は、頷いた。

「その方が良いだろうな。何から出す?」

司は、答えた。

「では、占い師、二人居るはずです。昨夜お告げもあったと思うので、占い師から出て来てください。」

すると、サッと神が手を上げた。

「私が占い師だ。」

司は思い切り驚いた顔をしたが、他にも手が上がっている。

「あの、私も。9番の、帆波です。」

隣り8番渚も言った。

「8番渚も占い師です。」

40代ぐらいの、落ち着いた雰囲気の17番亨も手を上げた。

「私が占い師だ。17番の(きょう)。」

司は、順番にホワイトボードに書いて行った。

「では、お告げ先をお願いします。」

「私からでいいか?」神は司に確認して、頷くのを見てから、言った。「私は4番玲史が白だと出た。」

昨夜言っていた通りだ。奏はなにげないふりをしながらそれを聞いていると、渚が、続けて言った。

「私は…残念ながら、今日襲撃された12番の希さんがお告げ先でした。」

帆波が、隣りで言う。

「私は、2番奏さんが白です。」

…オレが白。という事は君は偽だな。

奏は、思った。つまり、狼目線でもう、真占い師が確定した。

渚と、亨が真占い師だった。

亨が、言った。

「3番、永二が白。」

司は、狼が何を思ってそれを聞いているのかも知らずに、せっせとそれを記入して行った。

神→玲史〇

渚→希〇

帆波→奏〇

亨→永二〇

書き終わって、それを見て司は言った。

「四人の占い師が出ましたが、本物はこの中で二人だけで、後は狼陣営という事になります。つまり半分は間違いない結果ですが、半分は信じられない結果という事になりますね。」

奏は、頷いた。

「狐も居るから、狐が出ている可能性もあるよね。つまり、占われないために占い師に出て生き残りを図ってる狐も居る可能性があるってことだ。」

帆波がそうかもな。

奏は思いながら言った。

司は、頷いた。

「確かに可能性は高い。今日はどうします?グレーから吊りますか。」

永二が、言った。

「セオリー通りならそうだが、まだ村役職が居るしなあ。霊能はどうする?出すか?」

そう言うと、玲史が手を上げた。

「オレが霊能者。オレに白も出てるし、もう出ておくよ。噛まれても怖いし、COしてたら護衛が入るかもしれないしな。」

すると、慌てたように美奈子が手を上げた。

「私も!霊能者よ、出ないつもりだったのに。」

玲史が、ムッとしたように言った。

「だったら君は潜伏してたら良かったんじゃない?オレは出た方がいいと思ったから出たんだ。」

美奈子は、むっつりと黙った。

司は、それをホワイトボードに書き込んだ。

「ふーん霊能者も二人…でも、そういえば霊能者は二人居るから、これで確定かな?」

奏は、玲史が役職に出た事で、真でなければ良いのにと思いつつ、後でどちらかの真を落とすためにも、村に考えを落とした。

「希さんが霊能者じゃなければね。」奏は、言った。「まあ、初日にそんなに都合よく役職を抜かれるとは思えないし、考えてたらきりがないんだけど。」

狐では無かったけどね、死んだから。奏は思いつつ話し出す神を見た。

「それでも、可能性は残して考えた方がいい。」神が言った。「初日の襲撃が通っているんだからな。役職欠けも念頭に入れておくべきだろう。」

すると、征由が怪訝な目で美奈子を見ながら言った。

「オレはちょっと怪しいと思うけどな。」

司が、眉を上げた征由を見た。

「何か分かったか?」

征由は、頷いた。

「さっきだよ。神さんが話してた時、勝利陣営が帰れるって話をしてたら、美奈子さんは負けた方はどうなるんだと言っていただろう。人狼とか狐はどうなるんだって。村ならそんな心配しなくていいんじゃないかって、オレは怪しいと思ってたんでぇ。そしたら、役職に出たから、オレは偽だなって思って見てた。」

ふーん、目立つ発言だな。

奏は、思った。真霊能者が二人居る村で、二人しか出ていない役職を初日に積極的に叩くのは、村利のある事ではない。奏も神も役職欠けは匂わせたが、それでもどちらか片方を叩く事はしなかった。

征由は、村を混乱させたい役職であった可能性が浮上して来た。だが、狼では無いのは狼目線で分かっているので、狂人か、狐の可能性だった。

「じゃあ、征由は希さんが霊能者だったと思う?」

司が言うと、征由は首を傾げた。

「分からねぇ。だが、美奈子さんが偽ならそうなるだろうな。」

神が、言った。

「残り19名で吊り縄は9。人外は8。無駄な縄は使えないぞ。占いで狐を処理するとして、狂人を放って置いても4縄は絶対に必要だ。占えるのは最後まで生き残ればあと8回だが、それまで生き残れるとも思えない。一番良いのは、占い師の欠けが無い事に賭けて、二分の一で人外に当たる、占い師吊りにするのが正着かもしれないな。」

奏は、さすがに内心驚いた。初日から、吊られる危険を冒すのか。

そもそも、占い師の数が減ると最終吊られる可能性が上がるのだ。それを自ら提案するなんて、ハッキリ言って自殺行為だった。

亨が渋い顔をした。

「初日の結果だけで分かるのは、人外に当たっていた時の人外だけだろう。確かに二分の一かもしれないが、それで真占い師を吊ってしまったらどうするんだ。」

神は答えた。

「だが、グレーの中の狩人を吊ってしまうもの避けたいし、そもそもグレーこそ、何の要素も落ちていないので全く分からないぞ。では、占い先を司に指定させよう。そして、残った所を吊るという事でどうだ。」

亨は、渋々ながら頷いた。

「まあ…それなら良いが。本当は占い先は、自分で決めたかったんだがな。」

神は言った。

「それこそ、人外なら自分に都合の良い所を占おうとするだろうが。指定してもらった方が良いんだ。」と、司を見た。「司、狩人は誰か分からないが、このゲームは幸い、時間が余るほどある。狩人に、自分だけに明かしてくれるように言って、吊られないように自分が何とかしろ。占い先に入れるのも良し、吊られないように議論誘導するのも良し、君が守るんだ。それで行こう。」

村人にとって、有利な進行だな。

奏は、思って見ていた。どこまでも真占い師として振る舞うつもりらしい。

司は、驚いたように神を見た。

「え、それって大丈夫なんですか?ルール違反じゃないの?」

神は、首を振った。

「ルールブックには、どこにもそんな事は書いていなかった。つまり、狩人が共有者に密かに正体を明かしても問題ないという事だ。そもそも、これだけ時間があるのだから、それを利用しない手は無いのだ。」

奏は、ここは神の良いようにして行くしかないと、息をついた。

「では、占い師ではなく、共有者が指定した占い先以外のグレーを、今日吊るという事ですね?」と、皆に確認するように言った。「じゃあ、今はこれまでだ。だって、狩人が共有者に言いに行く時間を作らないといけないからね。で、司がそれを聞いて占い先と吊り先のグレーを決める。次は、夕方でいいんじゃないですか?人狼に見られてもいけないし、時間を長く取って話に行きやすいようにした方がいいし。」

ちょっと神さんに進め方を聞いておかなければならないし。

奏はそう思って言ったが、司は、焦ったように言った。

「じゃあ、それで。20時に投票なので、18時までに夕ご飯を済ませてここに集まってください。そこで、オレが考えて来た占い先を皆に振り分けて、吊り先をみんなで決めましょう。話してない人も居るし、吊り先のグレーに残った人には、一人一人話してもらう事になると思う。」

ああ、じゃあ克己と良樹にも何を言うのかある程度話しておかないと。

奏は、そう思いながら立ち上がった。

神も、部屋へ戻ろうと思ったのかリビングの扉へと歩き出す。

奏は、それを追って自分もリビングを急いで出て行ったのだった。

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