四日目朝の会議
「はあ~あ、バレたら仕方がない。オレが人狼だよ。」全員が、仰天した顔をした。克己は笑った。「敢えて言おう。狐は処理されたが、もう一匹が残ってるぞ。それ以上は言わない。オレだって仲間の命が懸かってるんだからな。占い師の真贋も言わない。亨が真でオレに黒を出したのか、それとも偽で誤爆したのかも言わない。残りの人狼が何人居るのかも言わない。せいぜい頑張ってくれ。」
司は、身を乗り出して言った。
「吊られる前に何でも良いから残してくれよ!村人の方が圧倒的に多いんだぞ!」
克己は、グッと険しい顔をすると、言った。
「あのな。少ないったってオレ達だって狂人も合わせて6人居るんだ。全員の命を背負って、人狼だって必死なんだよ。狐に独り勝ちなんかされたら面倒だし、少しは村にも頑張ってもらわないとな。全部吊っちまったら狐にやられるぞ。もしかしたら偽の白結果の中に、狐が紛れてしまってるかもしれないからな。真らしい占い師に、占いまくらせろ。」
人狼だって必死。
司は、グッと唇を噛んだ。それはそうだろうが、こっちだって多くの村人の命を背負ってるんだ。
「…今日はお前を吊る。いいな?」
司が言うと、昴が言った。
「…それはまずいんじゃないか。」司が昴をキッと睨むと、昴は怯む事無く言った。「黒が確定している人は飼っておくのがいいんだよ。何しろ、まだ狐が残ってるんだからね。今処理されたのが確定しているのは、早苗さんか征由のどちらかの狐だ。後何人人狼が残ってるのか分からないけど…玲史が真なら二人、美奈子さんが真なら四人。美奈子さんを真に見るなら克己を吊っても大丈夫だけど、もし玲史が真なら明日以降、絶対に黒を吊らないように、占いながら狐を探して吊って行く事になる。それに、克己を生かしておけば残りの狼の位置も分かりやすくなる。普段は対立していても、投票は絶対にそっちに入れないからね。克己が避ける先を吊って行けるじゃないか。」
司が戸惑っていると、克己がまた笑った。
「オレが入れるのは狐っぽいところだ。必ずしもそうじゃないぞ。」
言われてみたらそうだ。
昴は、顔をしかめた。
渚が、割り込んだ。
「黒が出てて本人が狼だって言ってるのに、吊らないなんておかしいわ!とっとと吊って、占って黒を探してそこを飼えばいいんじゃないの?まだ三人居るのよ、亨さんが本物なら心強いわ。」
神が、息をついた。
「…不本意ながら、私も渚さんと同意見だ。」渚が驚いた顔をする。神は続けた。「美奈子さんの真を、私はまだ切っていないからだ。村の安全を最優先に考えたら、黒は吊っておくべきだ。それが安定進行だろう。何しろ、美奈子さんが真だった場合、まだ狼は四人も居るのだ。この場面での確定黒は有難い。確実に黒が一つ減る。後々、美奈子さんが真だったと分かった時点で取り返しの付かない事になるのを避けたいのだ。」
司は、頷く。
克己が、言った。
「好きにしてくれ。オレがこれ以上はしゃべる事はないから、飯でも持って部屋へ籠る。投票時間前に降りて来る。村の事は、村人が決めてくれ。」
そう言い置くと、克己は立ち上がってキッチンの方へと歩いて行った。
全員が苦々し気にその背を見送った後、弘が言った。
「…で?亨さんが出した結果はとりあえず、本当だったことが分かった。誤爆の可能性はあるがな。それから、渚さんと神さんのどちらかで呪殺が出てる。みんなはどっちが呪殺だったと思う?」
司が、眉を寄せた。
「それは…神さんが言う通りに、噛み合わせて来たってのも考えられるし…。」
弘は、ため息をついた。
「ああ、言い方が悪かった。そっちから考えて分からないんだったら、早苗さんと征由、どっちが狐だったと思う?」
奏が、言った。
「そう考えたら…征由の昨日の様子はどうだった?」
良樹が言った。
「最後の方は諦めてるみたいな感じだったよな。占われるっていうのにそう悲壮感もなくて。亜子さんとは別陣営っぽかった。亜子さんが狼だったら狐だって可能性もあるかもしれないけど、亜子さんが狐だったらあり得ないほどやり合ってたな。庇う様子も無かったし。亜子さんが村人だったら…分からない。」
里美が言った。
「亜子さんは白だろうが黒だろうが人外だったと私は思うの。だから、ラインは昨日の投票で見えないかしら?それで、亜子さんの色も、征由さん色も分かるかも。」
奏が、言った。
「征由に投票してるのは、3永二、5由佳さん、8渚さん、15亜子さん、19早苗さん。ちなみに確定黒の克己は昨日、亜子さんに入れてる。」
神が、奏を見た。
「普通に考えたら亜子さんは人外だとしたら白という事か?だが…」
奏は、頷く。
「グレーの狼は、怪しまれるわけには行きませんからね。あれだけ怪しまれていたら、皆の票が一人別の所へ入れた所で変わらないのは分かっていたはずです。むしろ、白証明のために仲間へ入れたかもしれません。そういう局面でした。」
神は、黙って頷いた。司が言った。
「でも、どうして克己は今日、COしたんでしょう。占われるのは、昨日の指定で分かっていたはずではないですか?」
神が言った。
「まだ亨が自分にどう結果を出すのか分からなかったからではないかと思う。もし占いを逃れたら、白証明に使える事をストックしていたのだろう。もし黒を出されたら、COして攪乱しろと他の人狼と話し合っていたのではないか。狼が自分の投票先を、洗われないとは思っていないはず。」
司は、神を見上げた。
「それは、知っていてということですか?」
神は、頷いた。
「そう。利用しようと考えたのかもしれない。亜子さんに入れている克己が確定狼になることで、亜子さんは白だったと思わせる思惑があるように思えてならないのだ。黒を出されても、偽者が混じっている占い師のうちに一人なのだから踏ん張ればそれなりの白は証明出来たはずだったのだ。だが、出て来た…まだまだ、狼の数に余裕があると思わせるためか…?」
神は、話しながら考えているようだった。
奏が、言った。
「まだ考えがまとまっていないのなら、先に渚さんに。今、どう考えてますか?」
渚は、話を振られて戸惑った顔をしたが、言った。
「…本音を言うと、私にも亜子さんが黒なのか白なのか、分からないの。昨日は、みんなに責められているし、私が怪しんでいる神さんが、明らかに怪しい征由さんを庇っているようだったし、亨さんだって亜子さんで良いみたいな事を言うしで、納得できなかったのよ。でも、こうやって結果を見てみると、亜子さんは黒だったのかなって…。美奈子さんの真は、私目線では薄くなって来たわ。まだ真があるって神さんが庇うのもあるけど…結果を、例え一瞬でも騙るなんて。やっぱり信用できないわ。」
奏は、顔をしかめた。
「矛盾してますね。神さんが怪しい、その神さんが庇っているから美奈子さんが怪しい。それに美奈子さんは結果騙りをしているから、と。それで、今日は亨さんが黒を出した克己を吊りたいんですよね?亨さんも結果を騙ってたのに。」
渚は、改めて言われてみて、自分でもおかしいと思ったのか、首を振った。
「いえ、でもその後、神さんが克己さんを吊りたいとか言い出したから…そもそも、克己さんは黒だったじゃない。確定黒だわ。亨さんの結果は間違ってないんだもの。」
司は、横から言った。
「狂人が誤爆した恐れもあるんだよ?それでも、君が神さんより亨さんを信じるのはどうして?そもそも、今日は呪殺が出ているけど、君は真っ先に神さんと敵対するようなことを言ったよね。でも、神さんは可能性を広げて考えていた。もし、狼が征由の方を噛み合わせて来ていて、神さんが呪殺を出していたらどうするんだ?君が神さんを完全に敵だと認定する根拠はなんだ?」
皆が、じっと渚の返答を待っている。
亨の誤爆は、結果が何とでも言えるのだから充分あり得た。だが、呪殺は簡単には出ない。どっちが出した呪殺なのか、村目線も分からないし、占い師目線も分からないはずだった。占い師が二人居るこの村では、相手も真である可能性があり、頭から理由もなく疑うのはおかしいのだ。
昴が、怪訝な顔をしながら、渚を見て言った。
「もしかして、まだ自分に突っかかって来るから黒とか、そんな理論?それとも、他に何か理由があるなら教えて欲しい。呪殺だとしてもさ、征由は白だったわけだろ?神さんが黒なら、征由が狐とか分かってないはずだから、吊られるなら放って置けば良かったよね。もし狐ならラッキーだし。でも、庇ったわけだ。狼が狐を庇う必要はないしね。いや何より、神さんはみんなにほとんど信用されている状態だから、どこも庇う必要なんてないんだよね。狼だったら、白を片っ端から吊って行けばいいわけだからさ。君目線、白人外かもしれないけど、黒はあり得ないんじゃない?なんてオレは思うんだけどなあ。理由が聞きたいよね。」
里美が、渚が答える前に割り込んだ。
「待って、冷静になって。話がずれてるわ。それは後で聞きましょう。それより、弘さんが言ってた、征由さんと早苗さんの、どっちが狐だったかって事よ。征由さんは、昨日確かに段々白っぽくなってたように思うの。早苗さんはどう?私は全く色が見えてないんだけど。」
良樹が、うーんと唸った。
「早苗さんなあ。グレーじゃなかったから、発言も聞けてないし会話にも入って来なかっただろう。ただ渚さんの白ってだけだ。潜伏してた狐ってんなら、確かにそうだな。ラッキーで白を出されたから、しばらく安泰だって黙ってたなら分かる。征由と比べたら、数段狐っぽい感じだな。亜子さんが黒なら、征由は狐があり得るかもだけど、白なら対立しててあり得ないし、つまりは美奈子さんの結果が合ってるなら早苗さんが狐だったかも?って感じかな。」
司は、訳が分からなくなっていた。
亜子さんが黒なら征由が狐…?いや、そうとも言えない。
亜子さんが白でも、村人なら征由の狐もあり得るのだ。
「…白でも亜子さんが村人だったら征由の狐はあり得るよ。敵陣営だからね。だから一概にそうとは言い切れないと思う。ただ…状況的に、オレは潜伏臭がしてた早苗さんが狐はあり得た気がする。征由の、吊られても良いから亜子さんは吊れって最後の諦めた感じ、二匹しか居ない狐でああなるかな?村だった気がするんだ。それで、こうして呪殺先に見えるように噛んで来た。本当は、別の占い師が呪殺を出すとは思ってなかったんじゃないかな。でも、思いも掛けず呪殺が出たから、主張しないとって。」
渚が、急いで言った。
「それって、私が征由さんを襲撃したと言いたいの?早苗さんは私の白先よ。村人なんだから噛まれて当然だわ。私が呪殺して、あっちが噛まれたの。だから神さんが怪しいのよ!大体、どうしてグレーの昴さんを占わずに早苗さんを占ったのよ。おかしいじゃないの。私を落とし入れようとしてるとしか考えられないわ!」
神は、言った。
「君がそんな感じだからだ。君も言ったように、皆昴と片白の早苗さんなら、私が昨日昴を占うと思っただろう。噛み合わせるなら、そっちの方が自然だ。だが、狼にはその余裕がなかった。だから征由を噛んだ。呪殺を装えるからだ。そうして真を取らねばならなかったのではないか。…だとすると、私目線では玲史が真でなければ難しい。なぜなら、私のグレーの中に狼らしい者が居ない。美奈子さんが真だとするならまだ、克己の他に三匹だろう。役職者の中に、狼が確実に居るのだ。多くて二匹…だが、占い師に狼が二匹は居ないだろう。玲史は白だし、狼ではない。なので美奈子さんが真だとあり得なくなる。美奈子さん真だと、渚さんが狼、亨が狂人でその白の中と、弘、昴の中にまだ二狼だ。あり得ぬ事ではないが…。」
奏が、横から言った。
「亨さんの白は永二、里美さんでしたね。そこに弘と昴…確かにこの中に二狼は、居なさそうではありますが、昨日から話していない永二と、今日になって結構議論に参加している里美さんはあり得るかもしれませんよ。」
神は、奏を見た。
「奏、なぜその可能性を追う?亨が真なら帆波さんは偽だったということになるから、君もグレーになる。美奈子さんが偽だとなったら、亨の真も追えるから君も疑い先に入る。だからなのか?」
奏は、眉を寄せた。
「オレが黒で渚さんの事をこんなにずっと攻撃するのはおかしくないですか?玲史が真なら後二狼です。一人は克己、役職者の中に一狼。狐と狂人だとしてグレーに一狼です。これまでの事を考えてください。」
司は、混乱していた。
神は奏まで疑い始めている。
初日から議論に積極的に参加して神に寄り添っていた奏は、確かにラストウルフとして心強い相手だ。奏なら渚の偽置きを見越して別行動をして対立を演出して、生き残る事もやってのけそうだった。
「…ちょっと混乱してきた。」弘が、司の代わりに言った。「分からねぇ。整理させてくれ。」
司は頷いて、ホワイトボードに向き合った。




