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獣と共に夢の中  作者:
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洋館

先頭を歩く神が、時々立ち止っては廊下の壁に配置されてある、照明のスイッチを入れながら、皆の足元を気にして進んで行った。

思っていたほどおどろおどろしい事は無く、廊下も綺麗に手入れされていて、照明さえあれば特に怯えるような場所ではないようだ。

赤い見るからに高価そうな絨毯が敷き詰められてあって、その上を緊張気味に進んで行くと、先頭の神がスイッチを付けた場所に、広々としたホールが広がっていて、左手に大きな広い階段、右手に大きな玄関扉が見えて来た。

司は、集団の中ほどを歩いていたのだが、今は夜のようなので、ここがどこなのか分かっても、ここから出るのはやめた方がいいのではないかと思った。

知らない土地で、夜中に下手に歩き回る方が危ないと思ったからだった。

まして、自分達の記憶は曖昧で、自分すら何者なのか分からない。

そんな自分達で、ここを出て歩いて行くのは無謀な気がしていた。

そんな司の気持ちも知らず、神が玄関の扉に両手をかけて、グイと引いた。

それでも開かなかったので、仕方なく押してみるものの、扉はびくともしなかった。

「…鍵かなんかですか?」

奏が寄って行って、扉を調べてみた。

だが、見た感じ鍵らしい金具を縦にしても横にしても、玄関扉はびくともしなかった。

「…開かないな。」神は、皆を振り返った。「どうも、私達はここへ閉じ込められているらしい。」

8人居る女子達が、皆一斉に顔を強張らせた。

監禁されているという事実が、一気に押し寄せて来て固まってしまったらしい。

司は、言った。

「どちらにしろ、夜に出て行くのは危ないですし、さっきの部屋へ引き返して、考えましょうか。もし、長い事ここへ閉じ込められるのなら、食べ物も探さなければならないし。」

(そう)は、頷いた。

「そうだね。とりあえず、取り乱しても何も変わらないから。一度あの部屋へ戻って、考えよう。」

女子達は顔を見合わせていたが、今はどうしたら良いかなど、誰にも分からなかった。

なので、それに素直に従って、先ほどのリビングらしい場所へと戻って行った。

帰りは、もう照明がついているので、来る時ほど構える事もなかった。


リビングへと戻って来ると、暖炉の上に吊り下がっているテレビが、青い色のテストパターンのようなものを表示して、着いていた。

それを見た一同がビクッとする中、神一人が眉を寄せてズカズカとそれに寄って行き、じっと見上げた。

そして、皆を振り返った。

「…端に小さく、投票時使用と書いてある。」

皆が驚いておずおずと近付いて行くと、確かに右下に白い小さな文字で、「投票時使用」と書いてあった。

「何の投票でしょうか。」胸に、4玲史(れいじ)と書いていある学生っぽい男が言った。「選挙でもするんですかね。」

そんなはずはないが、投票というとそれしか確かに思い当たらない。

皆が困惑して顔を見合わせていると、いきなり機械的な女声がした。

『それぞれの番号の椅子へと座ってください。』

全員が、突然の声にギクリと反応して、構えた。

しかし、モニターには何も映っていないし、ただ声だけがそちら側から流れていた。

『それぞれの番号の椅子へ座ってください。』

どう聞いても、機械が話しているような感じだ。

打ち込んだ文字をパソコンなどに話させる、そんなソフトを使っているような感じのイントネーションだった。

「どうしてこんな所に我々は居る?どうなっているんだ。」

神がモニターに向けて言うが、テレビからはまた、同じ音声が流れた。

『それぞれの番号の椅子へと座ってください。』

奏が、諦めたように言った。

「座りましょう。そうしないと、何も分からないんでしょう。」と、傍の椅子の背を覗き込んだ。「これは3だな。オレは2だから、ここだ。」

あの、円形に並べられてある椅子の背には、確かに小さく飾り文字で番号が刻まれてあった。

皆は顔を見合わせたが、神が頷いたのを見て、全員がバラバラと自分の番号を確認しては、座って行った。

全員が椅子へと収まると、女声は言った。

『皆様はお忘れでございますが、契約により、こちらで人狼ゲームをして頂きます。勝利陣営には賞金一千万円と、記憶をお返し致します。記憶を消してあるのは、個々人の職業によって能力差が生じる不公平を、参加者の数人からご指摘を受けたからです。あくまでも、素の頭脳戦で戦い、勝利したいと皆様ご承諾の上でのことですので、あらかじめご了承ください。』

7番の、弘という男が言った。

「オレ達が、こんなゲームに参加するって決めたって事か?記憶を消して?」

確かに、一千万円は魅力的だが。

皆が困惑したまま顔を見合わせていると、女声はそんな弘の声など無かったように、続けた。

『では、役職の配布を行います。今回は20人役職多め村、人狼4、狂人2、占い師2、霊能者2、狩人1、共有者2、妖狐2、村人5です。皆様は、腕輪のカバーを開いて、中の液晶をご覧ください。20秒間、役職が表示されます。人狼、共有者、妖狐には仲間の名前も表示されます。』

「え、ちょっと待って…!」

隣りの女子の声が聴こえる。

司は、自分の腕輪を上げて、言った。

「こうして、開くんだ。さっき偶然開けてみた。」

隣りの、由佳という女子は、少し微笑んで、頷いた。

「ありがとう。」

そうして、司は自分の役職が表示されるのを見た。

『共有者 5由佳』

と、書いてあった。

これは、自分が共有者で、相方が今僅かな言葉を交わした、隣りの由佳だという事になる。

だが、人狼ゲームをすると言うのなら、ここで見てしまっては相方の命にも関わるだろう。

なので、司は視線を交わしたいのは山々だったが、そちらを見なかった。

皆がそれぞれ、自分の腕輪に表示された役職を確認したところで、女声が続けた。

『占い師初日お告げあり、つまり、白結果が知らされます。狩人の連続ガード無し、人狼の初日襲撃有り。つまり、初日…つまり、今夜から人狼の襲撃があります。狩人も、本日から守り先を決められます。詳しくは、各部屋に備え付けられてある、ルールブックをご参照ください。』

各部屋ってどこだろう。

司は思ったが、どうせ質問してもあちらは一方的に話すだけだろうからと、黙っていた。

思った通り、女声は続けた。

『これより、二階の部屋へと上がって頂きます。二階には、1番から10番までのお部屋が10室、三階には11番から20番までのお部屋が10室ございます。ご自分の番号の部屋へと入って頂き、こちらが決めた時間通りに行動してください。守れられない場合は追放となります。』

追放とは何だろう。帰れるんだろうか。

司が思って顔を上げると、皆が同じ事を思ったのか、次の説明を待ってじっとテレビを見上げていた。

だが、期待に反して追放の説明はなく、女声は時間の説明をし始めた。

『22時に部屋へ戻ってください。施錠されて入れなくなります。23時に村役職のかたは腕輪に対象の番号をテンキーで入力し、最後に0を三回入力して下さい。結果が表示されます。0時になりましたら、人狼のかたの部屋が解錠され、外へ出ることが出来ます。4時まで役職行使の時間ですので、それまでに腕輪に襲撃対象番号を入力し、0を三回入力してください。4時から再び人狼の部屋も施錠され、翌朝6時に、全員の部屋が一斉に解錠されます。そして、夜まで自由時間となり、夜20時に、こちらで投票となります。毎日一人が追放対象となり、脱落致します。時間を守れないかたは、全て追放となります。』

美奈子が、黙っていられなかったのか、呟くように言った。

「…追放されたら、どうなるのかしら…。」

皆が知りたい事だった。

しかし、女声は答えずに、淡々と説明を続けた。

『お食事は、リビングの隣りのキッチンの冷蔵庫などにたくさんご準備しておりますので、何を食べてくださっても結構です。全てにおいて、ルール違反がありましたら全て追放対象となりますので、ご了承ください。追放となった方は、全てが終わるまで遺体は部屋に安置されます。追放、または襲撃後12時間で部屋は施錠され、誰も入れなくなります。調べる事がある場合は、この間にお調べください。勝利陣営は、皆等しく戻って参りますのでご安心ください。』

遺体?!

「え…遺体?!死ぬって事?!」

美奈子が、金切り声を上げる。

女声は、これには答えなかったが、淡々と続けた。

『それでは、これでご説明を終わります。本日から人狼の襲撃、役職行使がございますので、お忘れなくお部屋へ帰ってから作業をなさってください。今ご説明した事は、お部屋のルールブックに記載されておりますので、ご一読ください。本日は初日でお時間が過ぎておりますので、特別に、23時施錠となります。お部屋の服などはご自由にお使いください。では、勝利を目指して頑張ってください。改めまして、この度はこのゲームにご参加くださいまして、ありがとうございます。全ては、皆様とのご契約通りに進めております。ご決断に感謝致しますと共に、皆様のご多幸をお祈りいたします。』

言っている事の割には、声が無機質で全く感謝など伝わってこなかった。

司は、記憶のあった時の自分が、いったいどうしてこんなゲームに参加しようなどと思ったのかと、項垂れた。

遺体と言った…もしかして、本当に死ぬのでは。

しかし、そう悩んでいる暇もなく、神がいち早く立ち上がって、言った。

「自己紹介をしておこうと思ったのに、この時間では無理だ。」言われて見ると、もう金時計は22時半を指していた。神は続けた。「皆、キッチンへ行って何か飲み物と、食べ物を持って急いで自分の部屋へと上がるんだ。あの言い方では、ルールを違えたら殺されるかもしれない。私はこんなゲームなどに毛ほどにも興味はなかったが、事実かどうかは置いておいて記憶のあった自分がいったい何を思ってこれに参加したいと思ったのか興味はある。とりあえず、皆が生き残るのが先決だ。さあ、急げ。全ては明日の朝にしよう。今夜は、部屋へ帰って役職は役職行使をし、ルールブックとやらを読んで、明日からに備えよう。それからどうするのか決めて行けば良い。ぼうっとしていたら、施錠されて追放になる。急ごう。」

言われて、皆が弾かれたように椅子から立ち上がった。

まだ三十分あるが、追放が処刑かもしれないと思うと、居ても立っても居られなかったのだ。

20人は、急いで神についてキッチンへと駆け込んで行ったのだった。

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