三日目昼の会議
「神さんに占って欲しかったんだけどよー。昨日神さんが疑わしいような事を言ったのも、もしオレが指定先に入ったら占ってくれるかなって思ったからだったんだ。でも、神さんからは良樹の方が怪しかったのかもな。」
神は、それに答えた。
「占い師に喧嘩を売るようなことを言う奴は大概白だし、怪しければ君は吊り位置で良いと思って、ちょいちょい議論に入って来ていて疑われていない良樹の方を占っておこうと思ったのだ。村利がある占い先だと思うが。」
弘は、苦笑した。
「いや、批判してるんじゃなくて、オレの要望ってだけだ。そうだな、オレが昨日入れた先は亜子さんだった。どうしてそこへ入れたかって言うと、人外が怯えているように見えたからだ。それに、亜子さんは弁明していたが、顔色が悪くなったのは希さんが死んだ直後じゃなくて、司が占い指定先を明かした後だったようにオレには見えた。占いが怖い、黒か、もしくは狐なんじゃと思ったわけだ。ちなみに今も怪しいと思ってるぞ?今朝は顔色も良いんだが、もしかしたら占われなかったからじゃないかって。」
皆が、亜子の方を見る。亜子は、椅子の上で縮こまっていた。
「そんな!違うわ、だって、今夜は占われるかもしれないじゃない!それなのにこうして、普通にしていられるわ。大分ショックから立ち直って来たからよ!」
司が、うーんと考えるような顔をした。
「もしかしたら、真占い師が消えたとか、知ってる狐か狼かもしれませんよね。帆波さんが真だったとして。」
奏が、首を振った。
「だったら、人外がそれを特定出来たのはなぜだと思う?昨日の結果を見ただけでは、例え人外でも真占い師の特定は難しい。狼目線で、白が二つ仲間に当たっていなきゃならないんだぞ?それはあり得ない。狐目線だと尚更だ。偽が一人分かったとしても、真が確実に分かる情報は昨日の時点では無かったと思うんだけどな。」
司は、顔をしかめた。確かにそうなのだ。
弘は、肩をすくめた。
「オレには分からねぇ。とはいえ、光一が亜子さんに入れてたんだよなあ。だから、光一が黒なら亜子さんは狐かなってのが、オレの見方だけどね。オレが思ってるのはそれぐらいだ。」
司は、弘の考えが結構深いなと思った。亜子の事を疑っている理由がしっかりあるのだ。司が光一に入れた時の理由より、もしかしたらしっかりしているかもしれなかった。
司は、次に克己を見た。
「克己は?何かあるか。」
克己は、答えた。
「オレは、昨日征由に入れた。理由は、オレが真かなって思ってる神さんの意見を取り入れたから。確かに光一もうるさいなとは思ったけど、人って気が弱いとああなるのかもしれないし、確証がないから。オレが征由に入れてなかったら、多分亜子さんに入れてたと思うよ。全く発言が伸びてないし、光一なら生きてたら今頃いくらか落ち着いて発言もしてるだろうと思えたけど、亜子さんは全く駄目そうだったからね。村人でも、役に立たずに後でスケープゴート位置にされるぐらいなら吊っとけって思った。現に今日だって亜子さんはこんなだろ?全く自分から発言しようともしてないしな。そんなわけで、オレの中での優先順位が人外のどっちでもおかしくない征由か、役に立たない村人なのか人外なのか分からない亜子さん、その次が議論を乱した光一って感じだったんだ。ただなあ、捨て票かもしれないが、征由が亜子さんに入れてるんだよなあ。この二人は、人外だとしても別陣営って事なのかな。」
奏は、言った。
「昨日の投票はあまりアテにならないとオレは思ってるんだ。だって、グレーゾーンが広くてどこでも危なげなく投票出来たから。光一は吊られたけど、亜子さんは結果的に吊られてないからね。自分の白のために、味方に入れておこうと思うなら昨日が一番良い機会だったと思う。これから、絞られて来て黒に投票していたら白要素になって行くかなとは思うけど。光一が黒だったなら、アクシデントで吊られたとしたら合点がいくなあと思ってる。」
司は、征由を見た。
「何か言いたそうだな?」
征由は、頷いた。
「オレが怪しい怪しいって、神さんに踊らされてるんじゃないのかって思うね。オレから見たらまだ真占い師が確定していない神さんを信じてその言う通りにするなんて、同陣営だと知ってる狼同士なんじゃないかって疑うよ。だから今の発言で神さんと克己が繋がってると思う。克己を吊って色を見れば、神さんの真贋も分かって来るんじゃねぇか。」
神が言った。
「私から見たらそんなもの、繋がりとは思えないがな。私が克己に白を出しているなら分かるが、私を真に見るのは村人の勝手だ。だったら私を信じている村人は、皆黒いということだな?君は疑っているようだが。」
征由は、神を睨んだ。
「勝手かなんか知らんが、オレからはそう見えるんだっての。オレにこうして擦り付けようと、あんたが帆波さんを噛んだじゃねぇのか。」
神は、ふふんと鼻を鳴らした。
「良い切り返しだが、私が狼なんだとして帆波さんを噛んで何の益があるのだ。これで村は占い師決め打ちの際にそう迷わずに済むではないか?狂人だったとして、だったら狼はどうやってそれを知ったのだ。昨日の時点で私が白を出していたのは玲史だが、彼が黒だと?ということは、玲史は狼なのに白を打たれた上霊能を騙って出て来て、霊能決め打ちされるかもしれない結果騙りをしたというのか。狼なら、とりあえず結果は合わせておいて偽が紛れているかいないか分からないように立ち回る方が吊られずに済むだろう。どちらが真かという議論にもならなかったはずだ。それに、私が狂人ならば占い先は自分が狼だと思っている場所を囲いに行くため、そして狐を占わないため自分で決める。私は皆に決めさせてから残った所を指定先に選んだ。狂人の行動ではない。つまり村目線、私が狼か狂人だという材料は今のところ無い。君の説は通らないと思うがな。」
奏が、割り込んだ。
「神さん、そのくらいで。まだ亜子さんの話を聞かなければならないし。あなたと征由が敵対関係っぽいなあとは思いますし、何も分かっていない意地になっている村人同士にも見えます。いずれにしろ、征由を吊って色を見たらあなたの位置も分かりそうだとは思いますね。」
神は、言った。
「征由は残しても良いぞ?」それには、奏もだが征由も驚いた顔をする。神は続けた。「もし狼ならば誰か一人は狐を消し切るまで飼っておかねばならないからだ。いずれにしろ、明日は絶対に誰かから黒が出るだろう。ここまでグレーが詰まっているし、白が出ている所も占い範囲に入って来るしな。征由は占って、狐なら死ぬし狼なら黒が出る。貴重な吊り縄を、もし狐だったら消費するのはもったいないしな。」
司は、驚いたように神を見た。
「征由が、狐の可能性もあると?でも…昨日帆波さんを噛んだのは、黒を出させないためだって。だから征由と昴が疑われる事になっているんでは?」
神は、司を見た。
「それが、狼の戦略かもしれないからだ。発言力が強い私が疑っている先を疑い位置に上がるように仕向けたら、そこへ吊り縄を消費することも出来るし、もしかしたら狼は、征由を狐だと思っているかもしれない。征由も言っていたように、あからさま過ぎるからな。噛みが不自然過ぎるのだ。なので、私は占いで結果を出して、黒なら飼えば良いし、他を吊ってグレーを減らして行っても良いかと思っている。」
良樹が、言った。
「だったら、もう一人の昴の事はどう思ってるんですか?征由ばかりですよね。」
神は、それにも答えた。
「征由が真の私に突っかかって来るから、私目線おかしいと疑うだけだ。私だって確信はない。昴は、昨日からの発言を聞いていても白い。村の事を考えている。現時点で昴を吊ろうとは思わないし、恐らく村全体がそういう印象ではないか?帆波さんを噛めばこうなる事は狼にも分かっていたはずなのだ。直後は私も想定外の事に混乱したし、真っ直ぐ考えて黒結果を恐れたからだと思ったが、今いろいろ発言を聞きながらよくよく考えてみると、その可能性もあるなと思って来たのだ。だったら占ってしまえば良いと思った。グレーで怪しい位置は、他に居る。」
征由は、さすがに黙っていた。
これ以上話すと自分の心象が悪くなると思ったようだ。
神相手に、突っかかって行くのだから大したものだが、それでも村人だったらそこまで頑なになるかとも思うので、判断がつかなかった。
奏が、ため息をついてまた割り込んだ。
「だから、もうそっちは良いですよ。亜子さんの話が聞きたいんですってば。みんな、神さんに話を振り過ぎなんですよ。ちょっとは自分の頭で考えて判断するようにしないと。後で人のせいにせず、自分の投票には責任を持って。基本的な事だ。」と、亜子を見た。「じゃあ亜子さん、お待たせしたね。でもこれだけいろいろな意見を聞いたら考えることも出来ただろう。聞かせてもらって良いかな?」
亜子は、出来ればこのまま無限に神に話して欲しかったような顔をしたが、皆の視線がこちらを向いたので、意見を言わないわけにはいかず、おずおずと口を開いた。




